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アマーリエとシルヴァンが、世界の珍味お楽しみ中より時間を遡って、アルバン村を出たばかりの馬車の中のベルンに戻る。
リルとハルの足音と、馬車の車輪の回る規則的な音の中、頭を抱えてアマーリエに言われた最後の言葉に、悶々とするベルン。
それを見て流石に心配になった南の魔女が声をかける。
「ベルンー?どうしたのよぉ?」
「いや、リエすら全力で避けたいが避けられない、心強く生きねばならない転移魔法ってなんですか?」
ベルンに真顔で聞かれ、聞かれたことの意味が理解できず、表情が抜け落ちる南の魔女。
「ベルンさん、意味がまるっきりわかりません」
横で聞いていたファルがツッコミ、アルギスとネスキオが心配そうに頷く。三人ともベルンが非常に焦っていることだけは、痛いほどわかったので。
「……話を最初からぁ、聞かせてくれるぅ?」
南の魔女が再起動し、ベルンの肩を軽く叩き、落ち着かせつつ事情聴取を始めた。ベルンは、今朝の出来事を推測を交えずあるがまま語った。
「つまり、拠点に転移陣を作る許可をここの王様から取るって言ったら、芋っ娘が人生を諦めたような顔をしたっていうのねぇ。それぇ、よっぽどじゃない」
これまで、アマーリエは割と難儀に思えそうなことを、皆に苦労を分散することで問題を小さくしつつ、苦労の分だけ利益も生む方法でなんとかやり過ごしてきているのを、南の魔女もよく知っている。
そのアマーリエが全力尽くして避けられない、しかも人生諦めるとか大問題じゃないのと、南の魔女は冷や汗をたらりとこめかみに伝わせた。
「そうなんです!だから、理由を言わない分、恐怖が増すんですよ!」
「マリエッタぁ、転移陣、どういう設定にするつもりなのぉ?」
南の魔女は、慌てて魔法陣の製作者に確認を入れる。
「色々検討しましたよ。今できる最善にしたつもりなんですが、南の魔女様もご意見ください」
「ええ、もちろんよぉ」
常識人のマリエッタの設定に穴は無かった。
「使用者の固定、移動先の固定、移動人数の固定……まあ、魔力量の問題もあるから、誰もが使えないけどねぇ、よく考えられてるわぁ、マリエッタ。魔法ギルドと各国で取り決めたガイドラインにもあってるしぃ」
アマーリエが拉致された時に使われた魔法陣の検証を魔法ギルドが既に行い、ある程度の使用ガイドラインが、最近、各国にも既に通達されているのだ。野放図に転移魔法や魔法陣を使うことでもたらされる弊害があるからだ。
「ええ。うちの転移陣から軍隊を送れましたとか、犯罪者を送れましたとかなったら、大問題ですからね」
マリエッタの言葉に皆が同意する。結局、アマーリエが考える何が問題なのかわからず、首を傾げるベルンたち。
「んっもう!スッキリしないぃ!『芋っ娘』」
キレた南の魔女がアマーリエに念話を飛ばす。南の魔女は脳内での会話に、だんだん眉間に縦のシワがより始める。
「……はぁ」
「「「「南の魔女様?」」」」
深々と息を吐き出した南の魔女に、不安が募るベルンたち。
「あんたたちぃ、強く生きなさいねぇ?」
「「「「魔女様ぁっ!?」」」」
「あたしの口からもぉ、それしか言えないわぁ。口に出してぇ、本当になったら嫌だものぉ」
そう言って目を逸らす南の魔女を見て、ベルンの恐怖が嫌増す。
「よし!考えない!わからないことは考えないぞ!」
こうして、潜在意識にわからない恐怖を植えつけられたベルンたちは、街道筋で買い物をして、不安を発散することになるのであった。
さらに領都で、転移陣の正式な許可をもらった際に、ダールに達観した笑顔で、お互い頑張りましょうと肩をたたかれたベルン。その達観した笑顔に恐怖を覚えたのは、銀の鷹だけではない。
「怖い、怖すぎるんだけど?」
恐怖を隠すことなく表情に出した、領主。
「怖いんですね?ご領主様?」
「うん。リエのおやつ抜きとどっこいぐらいに怖い」
「……」
「どうして、リエもダールさんも理由を教えてくれないのかしら?」
「ダールのあんな笑顔、初めて見たんだよ?皆さんはありますか?」
「「「私たちだって、初めてですよ!」」」
ウィルヘルムの真顔に、さらに焦りを覚えながら応える銀の鷹たち。
「大丈夫ですよ。きっと、大奥様がなんとかしてくださるはずです。それでダメだった時は、諦めましょう、運命と」
嘘くさい笑顔で言い切った、ダールにウィルヘルムが内心で突っ込む。
「ダール?(嘘つけ!絶対、事態を諦めても、後でしっかりじわじわ相手には報復するじゃないか!)」
「大丈夫です、若旦那様、私たちへの(精神的)被害は少ない筈」
「そ、そうなの?」
「アルバン村が隠居村になりそうというだけの話です」
「?????」
盛大に疑問符を浮かべた銀の鷹たちは、領都にも拠点を作って、転移陣を作る許可を押し付けられ、便利になるからいいかと、拠点を作った。
「なんだか、いいようにダールさんに取り込まれた気がしないでもないが……」
「あの人は、味方なら心強いんだ。無理強いもしないしな。問題はない筈だ」
ダリウスの言葉に、ベルンが自分を納得させつつ返事をする。バルシュから王都までの街道は、なるべく早く通過した銀の鷹たち。アルギスたちは、南の魔女の転移魔法で一足先に、ファウランド王国の王都に到着して、王と謁見を済ませている。
そこで、アルギスが、帝都にも銀の鷹の拠点と転移陣の許可をすると話している。兄からも話をしておくように言われたからだ。
こうして、外堀を知らぬ間に埋められた銀の鷹は、王都に到着すると、それぞれが各ギルドや神殿に事務処理に行った先で、教育という名目の元、新人という名の監視を押し付けられることになる。
「まあ、そろそろ人を増やす予定だったからな」
各ギルドの思惑も見越して、ため息を吐きつつ受け入れる方向のベルン。その視線の先で、新人たちがファルとダフネとグレーゴールからお菓子を振る舞われ、チタパタしていた。
「一応、あいつらにも役目があるだろうから、ギルドの上層部も下手なのは預けんだろ。優秀なほうだと思うぞ。あとはこっちの対応次第だろ」
ダリウスが肩を竦めながらベルンに応え、内心でアマーリエ方式(胃袋鷲掴み)で行こうなどと考えている。
「拠点の転移陣の登録はどうするの?」
「それは、それぞれが個人で、転移陣がある場所の偉い人の許可をもらえたらでいいんじゃないか?」
マリエッタの質問に、ベルンが答える。
「そうね。うちだけの問題じゃないものね」
「それに、いろんなところを回って経験と実績を積み上げる必要もある。転移陣でポンポン飛び回ってたら、情報が偏るしな」
「そうね。実体験は大事だものね」
そんなこんなで、新人教育もあり、パーティーで転移陣を多用する機会がないことに気がついた銀の鷹たちであった。
「次はグリニアス帝国だが、新人はどうする?」
「アルギスさんが待ってるだろうし、皆つれて、転移魔法を使って、なるべく距離と時間を節約して、先に帝国の拠点を作っちゃいましょう」
「そうだな。帝都のアーロンさんの店も気になるしな」
ベルンとマリエッタの真面目な話に、ダリウスが私情を挟み込む。
「「ダリウス」」
「いや、バルシュの店も王都の店も、品揃えが違ってたんだ!」
「だからって、ソースを全部集めなくていいんだぞ?リエじゃあるまいし、アイテムボックスを食糧庫にしてどうするんだよ?」
「そうよ、ダリウス。あなた死ぬまでに全部食べきれないわよ?」
「皆で食うからいいんだ!人も増えたしな!それにベルン!お前はカレー粉を買ってたじゃないか!人の事言えないだろ」
「あれはリエに送ったぞ。俺じゃぁ、料理できんからな。うちはそこそこ料理できるの、グレゴールだけじゃないか」
アーロンの商会は、ウコンなしのカレー粉を早くも開発して売りに出しているのである。もちろん、自生するウコン探しと、ダンジョンから採集したウコンの栽培も取り掛かっている。大商会に隙はないのである。
「ぐっ。新人も料理を覚えれば無駄にならん」
「そりゃそうだけど」
「おい!ファル、グレゴール、お菓子を与えすぎ!お前らも、菓子を食いすぎるなよ!夕食が入らなくなるぞ!」
ファルとグレゴールが、新しいお菓子を取り出すのをめざとく見つけて叱るベルン。
「はーい、ベルンさん」
「ぶっ」
「なんだよ、マリエッタ?」
「な、なんでもないわよ(おかんが板についてきたと思っただけよ)。それで、王都の拠点の転移陣の許可はいつなの?」
「明後日、王宮に行くことになった」
「面子は?」
「新人以外だな。あいつらはまだレベルが低くて、登城許可がない」
「そうね。じゃあ、何が起こるかわからないけど、言われた通り、心を強く持って行きましょうか」
「……そうだな」
こうして気合を入れて、王城に行った銀の鷹だったが、王と王太子が直接会う事になったのに驚いたぐらいで、特に何もなかったため、肩透かしを喰らった気分で王都の拠点に戻ることになる。
「気さくな方だったな」
「ええ」
「なんの問題もなかったな」
「ああ」
「……けど、リエとダールさんの事だからなぁ」
「あの二人は、かなり先まで見通してるところがあるでしょ?」
「そうなんだよ。うおー、もやもやする!」
「どうして理由を教えてくれないのかしら?」
「さあな。二人とも思うところがあるんだろ」
マリエッタの疑問に、ダリウスが肩を竦めていう。アマーリエとダールの二人が理由を口にしないのは、言葉にして本当になったら怖いからというだけである。今の時点では、まだ推測だけだからだ。
そんなこんなで新人たちの胃袋を手懐けながら、ベルンたちは今度はグリニアス帝国に向かったのである。
帝国でも、わざわざ皇帝陛下と皇弟殿下、宰相補が直接出てきて、見知った顔の貴族対応に戸惑いつつも特に問題なく、拠点作りをする事になったベルンたち。
ただ、アルギスと皇帝から、客間もある方がいいと助言され、相応に広い場所も勧められたため、拠点として一番立派な場所になった。その分、場所を整えるのに時間をかける事になったのである。
で、その拠点にの完成祝いに、アルギスが訪れた。ごく普通の神官と冒険者風の騎士護衛つきで。
「……これか!」
漸く、アマーリエとダールの諦めの一端がわかったベルンであった。が、そうそれはまだ始まりにすぎないのだ。
この先、銀の鷹たちがどう巻き込まれるかは、やんごとなき方々のストレス発散具合によるのである。
お久しぶりです。年内もう少し更新頑張りたいと思います〜。




