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前フリのはずだったのにちょっと長くなってしまいました。
「パン屋さーん!冒険者ギルドに、依頼してた荷物が届いたって!」
パン屋に冒険者ギルドから言伝を頼まれた、冬も村に居残った数少ない冒険者で、パン屋の裏手に住むブラウニーさんがパン屋を訪れる。
アマーリエは、アルバンの冒険者ギルドを通して、世界各地の冒険者ギルドに食材や調味料などの依頼を出し始めたのだ。依頼の形式と依頼料は、各冒険者ギルドに合わせて出すことになった。
アマーリエ、アルバン村でお取り寄せ生活の始まりである。ダンジョンの主との通販が、前世の食材関連の調達だとするならば、冒険者ギルドを通したお取り寄せは、現世の食材関連の調達である。
「アシュさん、連絡ありがとう」
「いえいえ。うちの夕食用に、パンとスープ買ってくついでだから」
「まいどー」
アマーリエは、店の営業を終えた後、シルヴァンと一緒に冒険者ギルドを訪れた。冒険者ギルドの中を漂っていたビーシープが、アマーリエたちに気づいて、ふわふわ近寄ってくる。
「久しぶりだね。みんな元気?」
アマーリエの言葉に、8の字ダンスで答えるビーシープ。
「そう、それは何より」
「もう少し暖かくなって、花が咲き始めたら、お外に出られるよー」
シルヴァンの言葉に、激しくダンスするビーシープたちであった。
「アマーリエさーん!こっちの小部屋にお願いしますー!」
「はーい!ミルフィリアさん」
「ミリちゃーん!こんにちはー」
「シルヴァン、いらっしゃい。手伝ってー」
「はーい!」
いそいそとシルヴァンがミルフィリアに駆け寄り、書類の束を手渡される。そして、ミルフィリアはかなり大きなアイテム箱を持って、奥の小部屋に向かい、アマーリエがその後に続く。
「結構、色んな所から依頼品と手紙が届いてますよ」
「「おおー!」」
「では!すでに鑑定は済んでいますから、依頼品の確認を、どんどん済ませていきますよ!」
「「はい!」」
ミルフィリアから依頼品とその鑑定書、受領証をアマーリエが受け取って、確認と事務処理を済ませ、シルヴァンが依頼品に鑑定書を貼り付けて、アイテムバックにしまうという流れだ。
作業する三人を見に、バネッサがやってくる。
「アマーリエさん、いらっしゃい」
「お邪魔してます」
「あなたの依頼のおかげで、こちらは抜き打ちの監査ができて、助かってるわ」
「え」
「実はねぇ……」
今まで、こういった遠方への依頼は、ほとんど無く、あったとしても、間にいくつかの冒険者ギルドを挟んでいたため、どこかがおかしくても、どこが怪しいのか調べにくい部分があったらしい。
それが、依頼人との間にアルバン冒険者ギルドしか間に入らないため、直接依頼を受ける相手側のギルドの対応が、手にとるようにわかりやすくなったようである。
各冒険者ギルドが、公正かつ正常に運営されていれば、よほどの理由がない限り、依頼品がまっとうに届き、依頼料も冒険者にまっとうに支払われるため、おかしなことが起っている冒険者ギルドを是正しやすいらしい。
他所のギルドの目が入ることになった、閉鎖的なギルドもあるらしく、冒険者ギルドも色々変化が起こり始めたようである。
「それにしても、アマーリエさん。冒険者ギルドで良かったのですか?食材なら、商業ギルドのほうが専門では?」
バネッサが、首を傾げる。シルヴァンがアイテムバッグに入れる前に、せっせとバネッサに食材を見せびらかしているのだ。見たことがないものが多いからだ。
「え、ああ。食材を見る目を変えたかったんですよ。商人なら、アーロンさんのお店やネスキオさんが探してきてくれたお店を、商業ギルド経由で利用してますから」
「なるほど」
「それに、商人が行けない場所に冒険者は行けるでしょ?」
「それはありますね」
「市場に出回らないものとか、知りたかったし。冒険者のみなさんが、色んな場所で、どういう物食べているのか興味ありましたからね」
アマーリエは、各ギルドに、冒険者が選ぶ、ご当地お勧め食材と珍味という依頼をしたのだ。ちなみに依頼先のギルドは、箱の中に入れられたギルド名が書かれた紙を、アマーリエとアルバンギルドの職員が引くという、ランダム方式である。冬で暇だから出来たことである。
「でしたら、私の実家から、珍しい食材を送ってもらいましょうか?」
「え!いいんですか!バネッサさん!」
「ええ。アマーリエさんのところのパンやお菓子は、うちの実家でも人気ですから、それぐらいはしますよ?」
「わーい!ご実家のみなさんが好きな、パンやお菓子を教えて下さい!交換しましょう!」
「ええ、ぜひ」
おしゃべりしながらも、事務作業は着実にこなすアマーリエ。
「うーん、ほとんどの依頼は、現金支払いですね」
アマーリエは、依頼品と受領書の処理をしながら、話題をミルフィリアとバネッサにふる。
他所のギルドとも相談した上で、依頼料は現金での支払いと物品での支払いの二択にしてもらっていたのだ。
依頼品の受領書と依頼料をミルフィリアが相手のギルドに送り、依頼を受けた冒険者に依頼料が渡るようになっている。
やり取りの分、すぐに依頼料が冒険者に渡らないことを冒険者に確認した上で、依頼を受けてもらうようになっているため、アマーリエもアルバン冒険者ギルドも、依頼を受けた他所の冒険ギルドも、冒険者がせっせと受けるような依頼にはならないだろうという予測のもとに動いている。
それほど依頼内容が難しいわけでもないので、ランクの低い冒険者が、余裕のある時に受けるだろうというのが、大方の見解だ。
「まあ、そうでしょうね。一番使い勝手が良い、依頼料ですからね」
「物品なら、ポーション系などのほうが、多くの冒険者にはありがたいですからね。昨年の夏のアルバンがおかしかったのですよ」
ミルフィリアは当然と頷き、バネッサが遠い目をして答える。
「ん?そんなにおかしかったですか?現金支払いもあったと思ったんですけど?」
甘いものが苦手な冒険者やお小遣いが欲しい子どもたちは、現金払いだったようなと首を傾げるアマーリエ。
「子どもたち向けの依頼だけでなく、ベテラン冒険者向けの依頼料も、お菓子や調味料に携帯食ですよ?おかしいに決まってるでしょう!他の方の依頼まで、現金でないほうがいいとか言われ、携帯食づくりの資金として、依頼料用の現金を回したぐらいなんです」
「依頼に関係ない、ダンジョンの採集物を現金に変えてましたよね、ほとんどのみなさんが」
「え、そうなんですか?」
「うちのギルドの携帯食も人気でしたけど、アマーリエさんが作るものは、依頼品だけでしたからね。お菓子も、店売りもしてなかったものが、あったでしょう?」
「ああ。店で売るほど作れないものは、依頼料にしましたね」
依頼料にお菓子と書いてあるだけのものは、どんなお菓子が出るかわからず、冒険者の間ではシークレットガチャのような扱いになっていたのを知らない、アマーリエであった。
「ええ、嫌というほど携帯食事業の重要さを認識しましたよ。本部から、現金の追加に何事かと言われましたしね。結局、王都の本部で、この春から携帯食の販売と依頼料に携帯食を含む事になりました。様子を見ながら順次拡大ですよ」
「ホー」
アマーリエは感心しているだけだが、この裏ではいろんな職業の人々が動員され、かなりの経済効果が上がっていたりするのだ。料理人はもちろん、携帯食を保存するためのアイテムバッグ関連職、簡易魔導コンロや魔法瓶や魔法瓶型マグなどの関連職などなど。
王も、王都の税収が上がって、ウハウハだったのだ。使い道はしっかり考えなさいよと、王妃に叱られてはいたが。
「アマーリエさん、これは物品支払いですよ。夏にアルバンにいらした冒険者の方たちですね。なんか言伝がついてます」
そう言ってミルフィリアが、依頼品と手紙をアマーリエに渡す。
「依頼品は、大丈夫です。言伝の方はですね……、『こんなところで、パン屋さんの依頼を受けられるなんて思わなかった。こちらの食材が、依頼品だったから引き受けたよ。うちのオススメ!』ほうほう。えーっと『携帯食とカレー粉が切れてたから助かった。こっちの食材で美味しいものができたら、依頼の時に、依頼料に付け加えて欲しい。夏にはまたアルバンに行くよ!』ですってさ」
「「……需要が増えそうな?」」
アマーリエが読んだ内容に、バネッサとミルフィリアが顔を見合わせる。
「んと、キリルの冒険者ギルドってどこですか?」
言伝の紙がギルドの専用紙だったようで、ギルド名が入っていたのだ。
「辺境伯領の南東で、二個先のパーマー子爵領地にあるんですよ」
「王国に居るんだ。なら、まだ移動は、もう少し先かな。指名依頼出してもいいのかな?」
「確認しますよ。それぐらい、お安いご用です」
「なら、またお願いしとこう」
「では、連絡が取れて、向こうが指名で良ければ、その形で依頼出しますね」
「お願いしまーす」
「ムフウ、色んな所の美味しいものが食べられるね」
「まあ、依頼を受けてもらえたらね」
シルヴァンが、依頼品をアイテムバッグにしまいながら、ニコニコ笑っていう。アマーリエは受領証にサインして、言伝に簡単な返事を書き、依頼料であるカレー粉と携帯食をミルフィリアに渡す。
「この携帯食は?」
「ああ、漆黒さんからおすそ分けしてもらった、ミノタウルスのヒレカツサンドだよ。物理攻撃力上昇が、鐘半分ぐらいの時間持続するみたいだね」
「「……アマーリエさん、確かに携帯食ですが……」」
バネッサとミルフィリアから、じっとりした視線を向けられたアマーリエ。
「ミルフィリア、一応鑑定してから送ってもらえるかしら?」
「もちろんです。けどこれ、依頼品より遥かに高いのでは?」
「彼らなら、誰にも言わず、お腹に収めるでしょうから、大丈夫でしょう」
依頼遂行者の名前を見て、バネッサが言う。
「携帯食だけに?」
「「シルヴァン!」」
「一応、魔物の暴走の時にお腹いっぱい食べられるかもって、返事に書いたんですけど」
「「アマーリエさんて」」
「リエちゃん……」
その書き添えた一言が、ただの宣伝で終わるのか、お腹いっぱい食べなきゃやばい状況になるのかは、先の話である。
「ゴホン。えっと、これが最後の依頼品ですね。帝都の冒険者本部へ出した依頼です。これは銀の鷹の若手の皆さんが依頼を受けたようですよ。こっちも現金ではなく、物品での支払いになってます」
ミルフィリアが、最後の依頼品を取り出して机に乗せる。
「ああ、王国の方の拠点づくりは終わって、結局、今、帝都で拠点を作ってるとかどうとか、連絡きてましたね」
「ええ、そうなんですよ。なんでもアルギス神官から、お願いされたようですよ?」
「そうなんだ(あんちゃんも、転移魔法陣絡みで、もれなく絡んでそうだなー)」
アマーリエが念話で、マリエッタに美容講習会の話を振った際に、色々あって無理という泣きの入った声で、返事が返ってきたのだ。
「銀の鷹の皆さん、優秀ですからね。王国と帝国のギルド本部から、若手の育成依頼を受けたそうですよ」
ミルフィリアは、流れてくる噂をアマーリエに教える。
「バネッサさん?」
もちろん真に受けないアマーリエが、バネッサに目で物申し、実際のところを確認する。
「コホン。正しくは、上層部が若手を押し付けたようですね。詳細まではわからず、今、確認してますけど」
冒険者ギルド本部の上層部も、色々思惑があるらしく、そちらを離れているバネッサは、後手に回ることもあるようである。
「「え」」
「やっぱりか」
シルヴァンとミルフィリアが、顔を上げてバネッサを見る。アマーリエとバネッサは顔を見合わせて肩をすくめる。
「ですが、銀の鷹も、今まではクラン最小人数の一パーティーでしたし、経験値的にも、そろそろ若手の育成が必要になりますからね」
「ほうほう」
「アマーリエさん、じゃあ、これ依頼品の確認、お願いします。それと、銀の鷹の若手の皆さんへの返事がありましたら、依頼料と一緒に返送しますよ」
「はーい……依頼品は大丈夫です。手紙はっと……」
「アマーリエさん、もし、問題がないようでしたら、手紙の内容をお聞きしても?」
上層部の意図を知るために、アマーリエから情報を得ようとするバネッサ。
「え、ああ。バネッサさんも、上層部が押し付けた若手がどんなか、気になりますよね。いいですよ」
「あなたは、話が早くて助かります」
「えっとですね、名前はこっちの封筒に全部あります。はい、どうぞ」
「ミルフィリア、控えておいてください」
「承りました」
「内容はと……。はじめましてのご挨拶がそれぞれからと、ぜひランクに見合った依頼なら指名依頼をお願いしますという売り込みと、依頼料に関してですね」
「ふむ。売り込みは問題ありません。依頼料に関してとは?一応双方のギルドで公正に決めたのですが」
「ああ、依頼料の物品の種類を増やしてほしいようですね。ファルさんやダリウスさんからお菓子を分けてもらったり、銀の鷹の中で使ってる調味料が気になるようですよ」
「「あー」」
「アーロンさんのお店は、若手の冒険者じゃ足を踏み入れにくいんですかねぇ?それともまだ、帝都の店じゃ扱いが少ないのかな?今度聞いてみよう。まあ、ファルさん達とは個人のやり取りだから、店売りしてないものもありますしね。手に入れようと思ったら、私と縁を結ぶ以外ないですし」
「「ハハハ」」
「まあ、こちらとしても、高位の冒険者なベルンさん達には出せない依頼もありますし、お願いしてみようかな?でも、いつまで帝都に居るんだろ?春にはまたアルバンダンジョンに来ますよね?来ないっていう連絡は受けてないんですけど」
「うちの方も、特には何も。アルバンダンジョンも五階層までなら、低レベルでも入れるように変わりましたからね。ただ、村に滞在するには、紹介状と許可証は必要なんで、それなりに評判のいい冒険者である必要はありますからね」
「ああ、そうなると若手は、貢献度を上げる必要がありますか」
「そうなりますね」
「んじゃ、一緒に来ない可能性もあるのか。一度ベルンさんたちに話を聞こうかなぁ。若手には一応軽く、今後の予定だけ確認してみますか」
「そうですねぇ」
アマーリエの言葉に同意するバネッサ。アマーリエは、若手への手紙に挨拶と、指名依頼をするのはいいけど帝都にどれぐらい滞在するのかを書いて、ミルフィリアに依頼料と一緒に手渡した。
「はい!終了です。お疲れさまでした」
「こちらこそ、お疲れさまです」
「うふふ、手数料稼げましたし、他のギルドとのツテも増えて、いい仕事でした」
ミルフィリアが楽しそうに後片付けをはじめる。
「あはは。気に入った依頼品は追加依頼出しますんで、また、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ!」
「アマーリエさん、なにか情報ありましたらお願いしますね」
「ええ、バネッサさん。じゃ、お暇しようか、シルヴァン」
「うん!バネッサさん、ミリねーちゃん、またねー」
「お邪魔しました」
二人と別れてアマーリエたちは店に戻った。




