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雪の降る日も、ほとんどなくなり、村の中の雪もだんだん溶け始めているアルバン村。
ミリヒライズは南の魔女と西の魔女から、一緒に魔力と魔法について学びながら、ミリヒライズ自身の特性とその活かし方を考えようと提案される。
「ただし、嫌なことを我慢し続けて、我慢しきれなくなるまで我慢したらぁ、だめよぉ?」
「そうそう。魔力が入ると言っても、お前さん、魔の山の魔力は合わなかったんだから、他の魔力も合う合わないが出る可能性があるんだよ」
「そうよぉ。合わないのに無理に器に入れてぇ、辛いことが続いちゃぁ意味ないんだから、そういう時はぁ、違う方法がないか、皆で考えればいいのよぉ?一人で絶対抱え込まない!いいわねぇ?」
「え、魔力が合わない事が、あるんですか?」
魔女たちの言葉に、呆然とするミリヒライズ。
「あ。やっぱりぃ。はぁ、アマーリエってばぁ、もう、言ったとおりぃ!あたしよりぃ、うんと若いくせにぃ!先見えすぎよぉ!」
「落ち着け、南の。あれは、関心を向けたものに関して、観察力が人一倍優れてるだけだから、興味のないことは全然、見通したりしないだろう。ムラが多い」
西の魔女が憮然とした顔で、自分が観察したままを南の魔女に告げる。
「そうなんだけどぉ。ミリヒライズぅ?あんたぁ、人の魔力を受け入れられるなら、村の、魔力が多すぎて生まれてくることが出来ない赤ちゃんを、自分が助けようとか思ってたでしょ?」
「え、あ、なんでわかったんですか?」
「アマーリエがね、あんたは、居場所がほしいから、自分ができると思ったら、無茶すると思うって言ったんだよ」
「で、その無茶に耐えられなくなったら、また暴走するってぇ」
「あう」
アマーリエは、いくつかの推測を魔女に話した。
まずは、ミリヒライズ自身が、魔力を取り込める体だと実感したら、胎児を救うために村にすぐ戻るという可能性があること。
ミリヒライズが魔力を得られて、赤ちゃんが助かるから一見、物事が丸く収まったように見えるかも知れないけれど、ミリヒライズが元の村で道具扱いされる可能性も同時に出ること。
そもそも、魔力がないならないで、周りの大人がそれをどうにかする方法を考えても良かったはずなのに、なんにもされなかったわけで、そこにのこのこ魔力を取り入れられますなどと帰ったところで、いいように、ミリヒライズが使われて終わるだけかも知れないと。
何も出来なかったのか、なにか考える余裕もないほど村自体が切羽詰まってる可能性もあること。それならば自分の身すら守れないミリヒライズが、足手まといになっていた可能性は否定できないし、余裕があって初めて他の誰かを助ける気持ちも向くものだから、一概に村を責めることも出来ないこと。
まして交流を断ち、情報の刷新がなされてないのなら、変化そのものが受け入れられず滅びかけてるのかも知れないこと。
そしてミリヒライズが、魔力を取り入れるにしても、何でもかんでも入れられるのかどうかとか、ミリヒライズの器の限界とか、本人が道具扱いされてでも居場所を作ることにこだわるのか、それに耐えられるのか、など。
ミリヒライズ自身が見極めた上で行動しなきゃ、また暴走することになると、あらかじめ魔女たちに忠告したのだ。
ミリヒライズの成長に、アマーリエの寿命が保つかどうかもわからないからこそ、補助に回り、長命種である西の魔女や南の魔女をミリヒライズを託したのだ。
それに、ミリヒライズを拾ってきたのは二人でもあったので。
「あのねぇ、赤ちゃんを助けたいのはわかるわぁ。それはぁ、あたしもぉ一緒。知らない人の赤ちゃんでも、助けられるなら助けたいの。でもそれは、あんたの身とと引き換えでなくてもできることなの!私は見たことのない赤ちゃんもだけど、目の前のあんたもぉ、幸せになってほしいの!」
「南の魔女様……」
「あのねぇ、あんたがぁ、魔力を受け入れなくてもいいのよぉ?魔力過多の子のための、魔力を吸い取る魔道具があるしぃ、なんならぁ、あんたはその魔道具を作る人にぃ、なることもできるわぁ」
「そう……なんですか?」
魔力を受け取れることを知って、自分なら村を救えるかも知れないと意気込んでいたミリヒライズは、違う方法もあることを提示され、愕然とする。
「そうよぉ、ここにはそういうのが世界一上手で、世界一教えるのがうまい男がいるんだものぉ。後はぁ、あんたのやる気だけぇ。それにねぇ、別にあんたが魔道具士にならなくたって、魔道具を村に売りに行けば済むことだから、漆黒様に頼めるわよぉ?」
「……そうですよね。……私じゃなきゃだめだって、なんで思っちゃうんだろ?」
がっくり肩を落とし、うつむくミリヒライズ。
「それはぁ、自分の生まれた意義がほしいからぁ。なんのためにこんな状態で生まれたんだろって、答えが欲しいから」
南の魔女の言葉に、ガッと顔を上げて思いの丈を叫ぶミリヒライズ。
「欲しいです!なんで魔力がないのに魔族で生まれたんですか?他に種族がいっぱいあった!別の種族でもよかった!なんでっ!」
「理不尽よねぇ?生まれたら死ぬこと以外、確実なことはなにもないんだものぉ。不安よねぇ?自分はぁ、ここにいていのかって。誰でもいい、いていいよって言ってくれなきゃ、わかんなくなっちゃうわよねぇ?誰かじゃない、大切だと思ってる人から、居て欲しいって言われたいわよねぇ?」
「ううっ、言われたかった!抱きしめて欲しかった!疎ましいものを見るような目でなんて、見られたくない!なんで、なんで……」
「ミリヒライズ、おいで」
西の魔女が、ミリヒライズを膝にのせて抱きしめ、あやすように背中を叩く。
「ヒック、ヒック」
「ここにいていいのよぉ?いいと思うからぁ、あたしたちぃ、あんたをこの村につれてきたのぉ。ここの村の人は、色んな意味であんたを歓迎してくれるだろうから。けど、それがあんたにとって良いことかは、わかんないのよねぇ。あんたがいいと思うかどうかは、あんたが決める権利だから。そこは、あんたが譲っちゃだめなことなの」
「だからこそ、アマーリエはお前さんに聞くのさ、どうしたいと。今まで、村の人からはじかれないよう、言われるままに、生きてきたのかもしれないお前さんには、難しいことだろうがね」
「あんたは、怒ってよかったのよ?魔力のないのは、私のせいじゃないって」
「あ」
「けど、力がない子どものあんたは、生き残るために怒れなかったの。怒って見捨てられたら、生きて行けなくなるんですもの。辛かったわねぇ」
「おまえさんは、よく頑張ったよ。頑張りすぎたんだ」
「はっ、うっ……私、どうしたらっ……、どうしたらいいんだろう?」
「この村でぇ、ゆっくり自分自身を取り戻しなさい。あんたは、あんたのものなの」
「ミリヒライズ、いいかい?人ってのは、そのままで受け入れてもらって、それでも自分を変えたいと思うからこそ、自分を変えることができるのさ。一時的に、人と合わせることはしても、自分が根本的に変わりたくなきゃ、だれも変えられないし、他人に変わってもらうこともできゃしない」
「あんたはねぇ、魔力がないというその一点が、一緒に住んでる人に大きく異なりすぎたと受け止められちゃったし、あんたも大きすぎる違いだと受け止めちゃったから、その大きな溝自体が怖くなっちゃって、どうやって越えたらいいのかわかんなくなっちゃってるの。相手もよぉ?お互いにぃ、お互いをそのまま受け止める経験がないまま、来ちゃったのぉ」
「ミリヒライズ、産んでおいて、あるがままを受け入れてもらえなかったことは、許す必要はない。そんな物、ただの親の身勝手だから。ただ、そういう弱い者も親になってしまうんだという事実をゆっくりでいい、難しいだろうけど受け止めな。けどいいかい?今のあんたは器は空だが、魔力を受け入れられる可能性があることがわかった。違いが変容したんだ」
「あんたがぁ、村を出たから変わったのよぉ?逃げ出したんでも、追い出されたんでもない。いい?あんたが、変わるために新しい場所を選んだの。最初の一歩よ?」
「……はい」
「それにぃ、この村は皆違うことを受け止めてる人がほとんどでぇ、あんたがあんたであることを、皆受け止めてくれるわぁ。あんたは、まず、自分が自分であることと、皆が皆であることに少しずつ慣れていけばいいのぉ」
「選択肢は一つじゃないんだよ?いいかい?あんたは器は空で、魔力を入れられるということだけが、今わかってることなんだ。それだけしかわかってないとも言える。アマーリエの魔力は受け入れられたが、あれだって、アマーリエの勢いに押された部分もあるし、アマーリエは魔力が少ない方で魔力の加減もうまいからこそ、たまたま、うまく行っただけかもしれないんだよ?」
「あ」
「ね?今のあんたはぁ、まだまだ、自分でも自分のことがわからない部分がぁ、いっぱいあるのぉ。誰かにあんたを受け入れて貰う前に、まず自分で自分がどんなか、知りましょうよぉ。自分で自分の好きなところ、嫌いなところ、放っておいてもいいと思うところ、いっぱい見つけましょうよぉ」
「そうだね。おまえさんが嫌だと思う部分も、人からはいいと思われることもあるし、自分でいいと思ってる部分が人を傷つけることだってある。簡単ではないからこそ、自分とじっくり向き合わざるをえないのさ」
「向き合いすぎてぇ、イヤンなっちゃうこともぉあるけどねぇ。そん時はぁ、もう自分のこと全部放り投げて、誰かのためだけに一生懸命やってみるのもありだけどねぇ」
「いろんな生き方ができるんだ。でもそうするために、まず、自分を知ることと相手を知ることを怠らないこと。そして疲れたら休む。無理しすぎない。いいね?」
「はい……」
「ミリヒライズぅ?ちょっとぉ?あんた、顔が赤くなってないぃ?」
「……泣き疲れたんじゃないのか?やっと思ってたこともぶちまけたんだし」
西の魔女が慌てて、ミリヒライズのおでこに手を当てる。
「熱が出てるじゃないか!」
「まだ、魔の山の魔力酔いからぁ、回復しきれてないんじゃないのぅ?」
二人は慌てて、ミリヒライズを部屋に運び込む。ミリヒライズが熱を出したと聞いて、ネスキオとヴァレーリオが、診察する。
「……これは」
「これってー」
そう言って顔を見合わせる、ヴァレーリオとネスキオ。
「なんなのよぅ!?」
「「知恵熱?」」
「「は?」」
「いや、チビ達の症状と似とるんだ。大人でも無理がたたれば、熱くらい出すぞ」
「そうなんだよねー。考えすぎちゃったんじゃないの?魔女様たち、遠慮なく詰め込むじゃんー」
「うっ」
「……やりすぎたのぉ?」
「アマーリエが、のんびりと言うとっただろ。この後は、ゆっくり寝かせとけ。ミリヒライズ!今日はもう頭はつかうな!」
「はひ」
なんやかんやミリヒライズは熱が下がるまで、皆に甲斐甲斐しく看護され、甘えを聞き届けられ、大事にされる体験をしたのであった。




