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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第4章 一緒にお散歩
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 アマーリエ達はヨセフと村のおばあちゃんたちに挨拶して商業ギルドに向かう。

「あたし達は、いったん部屋に戻ってゲオルグ殿に挨拶をして、勘定を済ませてくるからぁ、あんたはギルドの用事を済ませてらっしゃい。あとで、宿の支配人と料理人にも紹介するわぁ」

「は~い」

 ギルドの前で二手に分かれて、それぞれの入口に向かう。商業ギルドの受付を覗いたアマーリエは係員が一人ぽつねんと窓口に座っている状態に首をひねる。

「あの~、いいですか?」

「あ!パン屋さん!」

 泣きの入った顔でカウンターから身を乗り出して、しがみついてきた女性をアマーリエは受け止める。

「おうふっ。何事でしょうか?」

「みんな温泉に行っちゃったんですー」

「は?」

「ひどいんです!聞いてください……」

 女性の泣き言がそこから始まった。その長い恨みつらみを要約すると昨日ベーレントと商業ギルドの支部長がゲオルグの元を訪ね、今朝、女性一人を残し、支部長以下職員全員がゲオルグ達と温泉を見に行ってしまったということだった。アマーリエが店の用事で来るだろうから事務仕事で一人残す事になったらしい。

 アマーリエは思わぬところからのしっぺ返しと、とばっちりを食らった女性に心底反省した。

「自重しよう。マジ自重大事」

「ちょっとぉ、芋っ娘居るぅ?」

 宿屋につながる扉が開いて、南の魔女が顔を出す。シルヴァンが尻尾をフリフリ迎えに行ってアルギスにまた捕まる。アルギスの後ろに男性二人が見え隠れする。

「あ、魔女様こっち」

「ゲオルグ殿と東のなんだけどぉ」

「温泉に行かれたようですね、ここの職員連れて。この方お留守番だそうです」

 受付のカウンターに突っ伏す女性を指差してアマーリエが説明する。

「え゛……この子一人なのぉ?商業ギルド大丈夫なのぉ?」

「ほぼ業務停止状態じゃないですかね?そもそも何人いらっしゃったのか知りませんけど。あ、彼女くじ引きで負けたそうです」

「んまぁ、運のない子ねぇ」

 南の魔女のしみじみした言葉にさらに泣き声が上がる受付の女性だった。

「むしろギルドを乗っ取るチャンスじゃ?」

「その考え方があったか!」

 ガバリと起き上がって叫んだ女性に南の魔女が一喝入れる。

「芋っ娘ぉ!何怖いことそそのかしてんのよぉ!あんたもぉ、真に受けないのよ!」

「えへへ」

「ちょっとぉ、今週の黄の日、開店でしょぉ。この状況で従業員見つかるのぉ?」

 心配になった南の魔女が話題をパン屋の開店に変える。

「ここはもう、村のつながりを当てにするしかありませんね。ここで待ってたらおばあちゃん達が言ってたブリギッテさんが来るはずです。その方を軸に他に働きたい方が居るか、あたることにします」

「……狭い村だからできる力技ねぇ」

「ええ、狭いからこそできることもあるんです」

「はぁ、じゃあその子が来るまで、時間があるわねぇ」

「そうですね、一応開店日と求人票だけは出しときます。えっと書類お願いします」

「はい。先程は失礼しました」

 受付の女性から、アマーリエは書類をもらい、必要事項をうめて手渡す。

「開店日は今週の黄の日で、求人はこの条件で随時ですね」

「はい、お願いします」

「「コホン」」

 話がまとまったのを見て、ずっと控えていた支配人と料理長が存在を主張する。

「あぁん嫌だ、私ったらぁうっかりぃ。ごめんなさいねぇ、支配人、料理長。アマーリエ、この宿の支配人と料理長のダニーロさん」

 南の魔女が慌てて二人をアマーリエに紹介する。

「初めまして、この度こちらでパン屋を開くアマーリエ・モルシェンです」

「お近づきになれて光栄です、支配人のコンラートです」

「ここの料理長を任せられているダニーロです」

「支配人、お茶をお持ちするのであちらの待合所でお話されてはいかがです?」

 受付の女性が気を利かせて場所を提供する。

「ああ、頼みます。ではあちらへ」

「あ!パン屋さんブリギッテが来たら声かけますね!」

「お願いします、えっと」

「メラニーです、お見知りおきを!」

「はい、こちらこそ、メラニーさん」

 待合所で何故か南の魔女とアルギスに挟まれて座ることになったアマーリエ。膝にリュックを置いて、支配人が話し出すのを待つ。シルヴァンはアルギスの足元に挟まれてモフられている。

 メラニーが、すぐにお茶を入れたカップを持って皆に配って仕事に戻っていった。

「お話と言うのはですね、アマーリエさんがこちらにいらっしゃる道中で作られたサンドイッチでしたか、そのことについてなんですよ」

 支配人が話を切り出す。

「それに使う卵のソースですか?それも詳しくお聞きしたい」

 料理長がぐっと身を乗り出してくる。

「それはわたしも知りたいんだ」

 アルギスにも迫られ、南の魔女に背中を預けるアマーリエ。

「オン!」

 シルヴァンに軽くいなされて席に落ち着くアルギスと料理長。

「「すまない」」

「マヨネーズのことですよね。えっと、一応実家(モルシェン)で瓶詰めで売ってます。はい、これ」

 アマーリエはリュックに入れっぱなしになってたマヨネーズの瓶詰めとスプーンを取り出す。

「……モルシェン特製マヨネーズソース?」

 瓶に貼られたラベルを読み上げる支配人。そのまま蓋を開けて、スプーンでマヨネーズを掬い、料理長と味見する。

「「!」」

「店売りのものなんですか!?」

「あ、うちで一応販売してますけど、誰でも作れます」

「レシピは!?」

「一応、商業ギルドの食品部門に登録してあって、使用料を払えばどなたでも商用できますよ」

「おお!すぐ確認を!ってメラニー君しかいないんだった……大丈夫か?」

 支配人が身を乗り出したが、人が居ないのを思い出して椅子に力なく座りなおす。

「あはは。うちは、人手がないから基本的なものしか扱ってませんが、バルシュの食料品屋さんが色々開発してますよ」

「料理長、仕入れますか?」

「ン、まずは自分で作ってみます。アマーリエさん、直接教わることは出来ますか?」

「はい、こちらのアルギスさんも知りたいそうなので良かったらご一緒に」

「ぜひ!」

「今日なら、夕方以降。開店は今週の黄の日なので、それまでなら逆に時間指定していただけたら合わせます。開店からは白の日以外は鐘六つ(午後四時)以降で白の日は用がなければ家でお休みしてます」

「なるほど。今日の夕方、鐘六つ半(午後五時)ぐらいでもよろしいかな?お客様はお出かけで、明日戻られるようですので」

「私は、問題なく。アルギスさん?」

「大丈夫、その後神殿に行けば大丈夫だから」

「はい、じゃあその時間で。あの、ダニーロさんにお伺いしたいんですけど、この村の肉屋さんについて教えてもらいたいんですが」

「一軒は、普通に家畜の肉を扱う肉屋でもう一軒は冒険者ギルドから卸される魔物の肉屋だね。うちは両方から仕入れてるよ。たまに冒険者ギルドに依頼を出して調達してもらうこともあれば、商業ギルドを通して取り寄せてもらうこともあるね」

「なるほど。じゃあ、市で直接買うことはないんですか?」

「市の方の肉は畜産の方が余ったものを持ってくるので量が安定してないんで、うちでは扱ってませんな。野菜なんかは直接卸してもらうものもありますがね」

「なるほど。情報ありがとうございます」

「いやいや、これぐらい。調理技術を教えてもらうことに比べたら安いもんです」

「あ、帝国のお料理も教えて下さいね」

 アマーリエはちゃっかり他所の国の料理のレシピの情報源としてダニーロを選んだ。

「おや?」

「村のおばあちゃんたちからダニーロさんは帝国の出身だと伺ったんです」

「いやはや、村のお婆ちゃん達にはかないませんなぁ」

 困ったようにダニーロが後頭部に手をやる。

「ですよね」

「さぁ、もう良いかしらぁ」

 きりが良さそうなところで南の魔女がお開きを告げる。

「ええ、魔女様も神官様もお取り次ぎ頂き感謝しております」

 支配人が頭を下げるとふたりとも気にするなと言って席をたつ。

「それでは、夕方に」

「よろしくお願いします」

 料理長と支配人に挨拶して、アマーリエも席を立ち、三人と一匹は窓口へと向かう。

「あ、パン屋さん!ブリギッテはまだ来てないんだけど、どうします?」

「もし、従業員希望の方がいらっしゃたら、明日、うちのお店に来てもらうよう頼んで大丈夫ですか?」

「ええ、募集の張り紙に追加で書き込んでおきますね」

「よろしくお願いします」

 アマーリエはメラニーに手を振ってギルドを出た。

「じゃあ、日用品のお店を見ていきましょうか」

「お願いします、魔女様」

 朝市も済んで閑散とした広場に出て、アマーリエ達は村役場を正面に右側の通りに折れる。

「まずは食料品店かしらねぇ。野菜なんかはみんな朝市で買うのが多いけど、アントーニの店ならだいたいのものが揃うわよ。ここね。何か買うものあるかしらぁ?」

「いちおう、自分用の食料も三ヶ月分は送ってもらってるんで大丈夫です。足りなくなったら来ます」

「じゃ次は、肉屋ね。アントーニの隣の肉屋がカルニセロの家畜の肉屋で、その向かいが魔物の肉屋のブッチャーね」

 シルヴァンがアマーリエの方に顔を向けて尻尾を振る。

「うん。ほんとお前は賢いね。ブッチャーさんとこで魔物の鶏肉があるか聞いてみようか」

 そそくさと向かいの肉屋に行くシルヴァンを三人が追いかける。

「お!?何だこの狼は?肉か?」

 店番をしていた巨躯の親爺に声をかけられてシルヴァンは愛想よく尻尾を振る。

「えらい人懐こいなぁ?大丈夫かぁ、おめぇ?うっかり革剥がれちまわねーか?」

 親爺の言葉にビクッとして慌てて南の魔女の後ろに隠れるシルヴァン。

「……誰が一番強いかよくわかってるよね、うちの子」

 ボソリとこぼすアマーリエ。

「あんた!いっつも犬や猫に逃げられて泣いてんだから、せっかく尻尾振ってきてくれる子を脅すんじゃァないよ」

 店の奥にいた女将さんが自分の亭主をたしなめる。

「お、おう。悪かったなぁ、こいこい。マジックバイソンの骨をやろう」

 店から出てきた親爺にちゃっかり骨をもらって、撫でまくられるシルヴァンに三人が呆れた視線を向ける。

「いらっしゃい、あれ、南の魔女さま!おひさしぶり。珍しい、ダンジョン潜りですか?」

「ええそうよぉ、アビーも元気そうねぇ。今日はこの村の新しいパン屋と神官さんの案内よぉ」

「あら!ようこそアルバンへ」

「よろしくお願いします、パン屋のアマーリエです」

「赴任したてのアルギスです。よしなに」

「まぁまぁご丁寧に」

「あの、早速お願いしたいんですけど、魔物の鳥の肉が欲しいんですが」

「色々あるわよ?」

「うーん昨日食べたマジッククェイルが味がしっかりしてたから……。あります?」

「ええ。どれ位しましょう?」

 シルヴァンのキラキラした目に屈したアマーリエは、丸一羽をまず見せてもらう。アビーがニコニコとマジッククェイルの一羽を取り出す。アマーリエは普通のウズラを想像していたのに、鶏の三倍はあろう丸一羽を見て目を見開く。

「うわー、大きい。思ってたのと違ったー」

「あんた、どんなの想像してたのぉ?」

「いやこんくらいの手のひらに乗る、普通のうずら丸一羽」

「それは普通のよぉ。そっちならカルニセロの方よぉ。あーそうねぇ、魔獣になるとだいたい三倍は大きくなるって思った方がいいわぁ」

 アマーリエが普通の町娘だったことに思い至り、南の魔女が魔獣の簡単な説明をする。

「え、じゃあこれ更に大きい?」

「そうねぇ、かなり大物ね」

 女将が持つ、マジッククウェイルをまじまじと見るアマーリエに南の魔女も大きく頷く。

「ん?三倍?シルヴァンて普通の狼と比べてどうなんですか?」

 南の魔女の言葉に、隣で尻尾を振っているシルヴァンを見て首を傾げるアマーリエ。

「あらぁ、そう言われたらぁ?普通の狼ぐらいねぇ。成体になる前に魔獣化したのかしらぁ?」

「んじゃ、まだシルヴァンて、もしかして子供?」

「かもぉ」

「ありゃま」

「まだ大きくなるんでしょうか?」

 アルギスがワクワクしながら南の魔女に聞く。

「そこはぁ、一緒に居ないとわかんないわねぇ」

「キュウン」

「え、あ、はいはい。何?流石に丸一羽は……いや、シルヴァン。そりゃ、アイテムバッグがあるからちゃんと保存はできるけどね」

 シルヴァンに訴えかけるように見つめられたアマーリエが諦めて、値段を聞く。

「おいくらです?」

「くすくす、マジッククェイルは肉の中でもそんなに高くないから安心おしよ。これなら、五千シリングさ」

「あ、普通の鶏肉一羽分より安い、よかったぁ。あの解体してもらってもいいですか?」

「大丈夫だよ。あんた、ほら仕事!」

「おう、すぐにバラすから待ってくんな」

「お願いします」

「ガラはどうする?」

「使うんで、分けて入れといてください」

「おうよ」

 作業にはいった親爺を待って、アマーリエがシルヴァンに夕飯の相談を始める。

「シルヴァン、夕飯に食べる?」

「オン!」

「夕飯は塩揚げ鶏ね」

 はちきれんばかりに喜びを表すシルヴァンに、南の魔女が首を振る。

「あんた、本気でぇテイム用の餌付けアイテム作んないでよぉ?」

「えー」

「何がテイムされるかわかったもんじゃないのよぉ!」

「そこまでは。……自己責任?」

「絶対ダメ、絶対禁止、いい?頼まれても作っちゃだめよ?アルギスさんにテイムスキル生えなくってよかったわぁ。マリエッタにも釘刺しとかなきゃ」

 伊達に名付きの魔女をやってるわけじゃない南の魔女。シルヴァンの様子から色々察して、アマーリエに先に釘を差しておく。

「は~い」

「え、そんなぁ」

「駄目ったら駄目!」

 項垂れるアルギスにもガッツリ釘を刺す南の魔女であった。

「お待ちどう様!」

「あ、ありがとうございます。はいこれ、丁度」

「毎度!またよろしくね」

「はい、今度また色々魔物のお肉のこと教えて下さい」

 受け取った包みをリュックにしまうアマーリエにシルヴァンももらった骨をくわえて渡す。

「おう、お利口だなぁ、またこいよ!」

「オン!」

「どうもありがとうございました。また来ますね~」

「さぁ、順に店を紹介するわよ」

 南の魔女に教えられて、日用品の通りを一通り回ったアマーリエ達だった。

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