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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第37章 魔の山に行こう!
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 ネスキオが空いた部屋の扉を開け、黒紅がミリヒライズをベッドに寝かせる。

「あと、これね」

「?」

 ミリヒライズは、ネスキオから、巾着袋型のアイテムバッグを渡される。

「貸したげる。こん中に、食べ物入ってるから。夜中に、お腹空いて寝られなくなったら、適当に手を突っ込んで、取り出して食べていいよ」

 一覧機能の付いていない、闇鍋方式なアイテムバッグは、シルヴァンが酔っ払ったベルク親方と面白半分に作り、ネスキオが子どもたちと遊ぶ時用にと買い取ったものだ。何が出てくるかわからない袋は、子どもたちに大人気である。中身を入れた本人も、何を入れたか忘れることがあり、思いがけないおやつが出てくることに、ワクワクしていたりする。

「え」

「お菓子が入ってるから。遠慮しないで食べて。あ、あんまり力を入れて掴む必要ないから。指に触れたら、そっと取り出す感じね」

「えっと、色々、ありがとうございます」

「うーうん。気にしないで。今日はもう、なんにも考えないで寝ちゃいなよ。明日、話を聞いてもらいながら、自分の考えをまとめればいいよ。みんな優しいから、無茶なこと言わないし」

 ネスキオが、ニカっと笑ってお休みとミリヒライズに言う。ミリヒライズは、涙ぐんでうなずきながら、たどたどしくお休みなさいと返した。

「えっと……」

 枕元に残った黒紅に、ミリヒライズが視線を向け、首をかしげる。

『妾が添い寝してやろう』

「……ありがとうございます?」

 そして、ミリヒライズは、夜中に自分のお腹の鳴る音で目を覚ます。

『……遠慮なく食すが良い。そなたの手に食らいつく巾着ではない。心配するでないわ』

 寝ぼけ眼の黒紅が、巾着袋を手に持ってためらっていたミリヒライズをしっぽでつつく。ミリヒライズは遠慮を脇において、巾着にそっと手を入れてみる。ふんわりしたなにかに触れたので、それをそっと取り出す。

「?」

(あるじ)が作ったプリンシューだな。美味いぞ。ネスキオのやつは、蛇も真っ青になるような丸呑みをするのだが、そなたでは食べにくかろう。さじを使うが良い』

 神殿長のコカトリスのひな(ジュリー)のお尻の蛇が、ネスキオの食べ方を見て、冷や汗をかいていたのを思い出した黒紅は、亜空間からスプーンを取り出して、ミリヒライズに渡す。

『その生地のフタに、中のプリンと生クリームを口に入りそうなだけ、盛るのじゃ」

「はい」

 ミリヒライズは、プリンシューを膝の上に置き、黒紅の指示通りに、シューの上側の皮に少しずつプリンとクリームを載せ、口に入れる。

「……おいしい」

『美味しいのじゃが、無理して食べきらずともいよいからの。自分の体と相談して食すのじゃ』

「はい」

 色んな思いがよぎり、涙腺が緩みがちになるミリヒライズ。涙に濡れた目で、少しずつ、ゆっくり食べているミリヒライズの背を、無言で優しくさする黒紅であった。




 

 南の魔女は、珍しく早起きして厨房に向かう。

「おーはーよう!リエ、シルヴァン。あんたたちはぁ、相変わらずぅ早起きねぇ」

「おはようございます。南の魔女さま」

 アマーリエは、後ろを振り返って、南の魔女に挨拶するが、すぐに調理に戻る。

 かぼちゃのポタージュの入った鍋を見ながら、どんどんベーコンを焼いている。もう一つの鍋には、茹で上がったばかりの卵が入っている。調理できる人数が減っているので、アマーリエは、欲しくなかったスキルを絶賛稼働中である。

「魔女さま、おはよー!」

 シルヴァンが、勢いよく南の魔女に飛びつく。南の魔女は軽々とシルヴァンを受け止め、おでこにキスする。

「なぁにぃ?なんかいいことあったのぉ?」

「ムフ。ダンジョンの(ぬし)から、ダンジョンの果物もらったの!」

「あんたと黒紅様は、ダンジョンの主と仲良しでいいわねぇ」

「とっても仲良し!魔女さま、ヨーグルトに何入れる?主、いろんな果物くれたよ?」

「どれどれぇ?」

 シルヴァンが、作業台の果物を南の魔女に見せて、あれこれ説明を始める。

「悩むわねぇ」

「お勧めはねぇ、いちごとみかんとパイナップル!」

「じゃあ、シルヴァンのぉ、オススメにするわぁ」

「はーい!」

「ねぇ、シルヴァン」

「なーに?魔女さま」

「アルバンダンジョンの主って、魔の山のダンジョンの主と面識あるのかしらぁ?」

「さあ?聞いてみる?」

「頼めるぅ?」

「いいよー」

「助かるわぁ!もう、魔の山の取っ掛かりが、なさすぎなんだものぅ」

 キュッとシルヴァンを抱きしめ、ブンブン振り回す南の魔女。シルヴァンは、南の魔女が簡易アトラクションになったせいで、キャッキャ喜んでいる。

「アハハハ、魔女さま、すごい切実」

「芋っ娘!笑い事じゃないわよぉ!解決しなきゃぁ、二十年ごとにぃ魔物の暴走(スタンピード)なのよぉ!」

「私は初体験なので、どれぐらい厳しいのか、わかんないんですよね。でも、以前よりは防御力も攻撃力も上がってる分、前回とは変わるんじゃないんですか?村の職人さんたち、魔物の素材を手に入れる機会とか言って、張り切ってるじゃないですか」

「あー、そうよねぇ。悲壮感はぁ、どっか行っちゃったわよねー。そりゃぁ、古代竜達が来てくれるらしいからぁ、下手したら、私達なんてぇ、出番がなくなるかもだけどぉ」

「まあ、毎回、助けてもらえるとは限りませんもんね。楽を覚えちゃ、駄目ですよね」

「そうなのよぉ!打てる手は、いっぱい打っときたいのよぉ!」

「魔の山の穴を全部、塞いだらどうです?迷惑かけてんじゃねーよって。今なら出来なくないでしょ?」

「……」

 穴を塞ぐことが出来る存在など、一握りしか居ないが、その一握りの存在がすごすぎたせいで、魔女達は、それらになんとかしてもらうことなど、端から考えていなかったのだ。

「中で魔物が溢れかえれば、魔の山のダンジョンの主も運営方法、考えるんじゃないですか?」

「……あんたって」

「なんですか?」

「斜め上の解答、いつもありがとう!そうよねぇ、穴塞げばいいのよね!出来なくはないわぁ、たしかに」

「ええ。その結果、どうなるかわかりませんけどね」

 無責任ザウルス、アマーリエはシレッという。

「あははー、蠱毒になりそうだね」

 シルヴァンが、想像してぽろりと漏らす。

「ああ、それもあるか。最凶の魔物爆誕したら、笑えないね」

 ゆで卵の殻をむきながら、アマーリエが頷く。

「なに?こどく?」

 南の魔女の疑問に、シルヴァンが前世の呪いの一つを教え始める。

「……穴を塞ぐのはぁ、最終手段ねぇ」

 シルヴァンの話が冗談ですまなさそうな感じを受け、真顔で結論を出す南の魔女であった。

「さて、朝食の用意できた。シルヴァン、みんな起こしてきてくれる?」

「いいよー」

 狼型にわざわざ戻って、ボディプレスをお見舞いしに行くシルヴァン。

「……早起きするもんねぇ」

「シルヴァンぐらいなら、全然余裕でしょ、南の魔女さまなら」

「馬鹿言わないでぇ。あたしだって、あの子に飛び乗られたら、ぐぇってなるわよぉ。寝込み襲われるのは無理よぉ。完全に油断してるんだものぉ。しかもあの子ったらぁ、気配ないんだものぉ。回避できゃしないわよぉ」

 今のところ、寝込みを襲われて、シルヴァンのボディプレスを回避できるのは、ネスキオぐらいなのだが、彼はわざと回避しないでシルヴァンに抱きつくので、シルヴァンのほうが回避するのである。

 シルヴァンに愛を持って起こされた人々が、食堂に集まる。

「「おはよう」」

「おはよぉ〜」

「おはようございます。はい、西の魔女さま取り皿どうぞ」

「ん」

 眠い目をショボショボさせ、椅子に座って、自分が食べる分を取皿に取り分け始める西の魔女。

「アマーリエ、あれ(、、)はなんとかならんのか?」

 西の魔女の横に座った、ジュリーを頭に載せたヴァレーリオが、渋い顔で言う。

「年寄りには厳しいんだって言えば、やめてくれますよ。じいちゃんばあちゃんにも優しいですから、あの子」

「ぐぅ」

「ブフ。ヴァリーがぁ、自分が年寄りだなんてぇ、認める発言するわけないじゃなぁい」

 膝を叩いて、笑い転げる南の魔女。それをヴァレーリオが、にらみつけるも言葉には出来ず、歯ぎしりしている。

「なら、私がいいましょうか。神殿長様はお年だから、優しくねーって」

「年寄り扱いするでないわ!」

「じゃあ、今まで通りで、本人が飽きるまで付き合ってやってくださいよー」

「ぐぬぬぬ」

「ヴァレーリオ。あんただって、なんだかんだシルヴァンが、甘えてくるのは嬉しいんだろ?文句を言いたいためだけに、文句を言うもんじゃないよ」

 西も魔女も呆れた顔で言い放つ。

「うぐ」

 四面楚歌な状態に、そのまま黙って自分の分の食事を、皿にとりわけはじめるヴァレーリオ。アマーリエは、鍋からかぼちゃのポタージュをよそってヴァレーリオに手渡す。

『皆、おはよう』

「「「「おはようございます」」」」

「……おはようございます」

「「「「おはよう!」」」

 黒紅に姫抱っこされた、ミリヒライズにいい笑顔で挨拶を返すアマーリエたち。

「適当に座って。ミリヒライズさん、お腹の具合どう?軽いほうが良ければ、お粥もあるよ?」

「あ、もう大丈夫です。食べられます」

「わかった。はい、これ取り皿。自分が、食べたい分だけとってね。遠慮はなしだよ」

『妾が取り分けてやろう。どれぐらいずつ欲しいか、遠慮せず言うのじゃ』

 アマーリエが寄越した皿を、黒紅が受け取り、フォーク二つを器用にトング代わりにして、ベーコンとゆで卵を皿に乗せ、パンを盛っていく。アマーリエが食べる分量と同じぐらいを皿に盛り、ミリヒライズの前に置く黒紅。

 西の魔女が、アマーリエから回ってきたポタージュの器とヨーグルトをミリヒライズに渡す。

「温かいうちに食べな」

「ありがとうございます」

『パンは、かぼちゃのポタージュに浸して食すと美味いのじゃ。足りねば遠慮のう、お代りするが良い』

 せっせとミリヒライズのお世話をする黒紅を、魔女達が微笑ましげに見つめる。 

 しばらくして、ネスキオが、人型に戻ったシルヴァンを小脇に抱えて、食堂にやってくる。

「おはよー。パン屋さーん。全部大盛りで!」

「「「「おはよう」」」」

「はいよー」

「ぼくは自分でやりたいー。ネス兄ちゃん下ろしてー」

「はいはい」

「あ!パン屋さん!ヨーグルトに蜂蜜かけてね!」

「蜂蜜の瓶、置いとくから、好きなだけ自分でかけなよ」

 蜂蜜の瓶を食卓に置きながら、アマーリエが言う。

「僕、自分でやると、好きなだけかけすぎて、調節効かなくなるからやって!」

「ぼくが、かけたげるー」

「シルヴァンお願い」

「任せてー」

 ネスキオから蜂蜜の瓶を受け取り、シルヴァンは自分のとネスキオのヨーグルトに、はちみつを適量かける。

 アマーリエが、ネスキオの前に大盛りに持った皿を置く。その食事の量に、ミリヒライズが唖然とする。

「すごいですね」

「ああ、これでも少なめなんだよ。あるだけ食べる、底なし胃袋だから。ネスキオ神官は」

「そうなんだよねー。食えなかった時期があるから、食べられる機会には、あるだけ食べる癖がついちゃって」

 微妙な表情のアマーリエに言われ、否定もせず、肩をすくめて自分のことを話すネスキオ。

 商業ギルドの宿のヴァイキングで、給仕を連れてこないのなら出禁と言われたネスキオであった。そのせいで、アルギス(皇弟)に給仕させたのはネスキオである。

「今は三食出るからぁ、そんな食べ方してたらぁ、体に悪いでしょぉ?こっちで、食事量決めてんのよぉ」

 南の魔女が、渋い顔をしてミリヒライズに説明する。

「はあ」

「流石に、まずかったらそこまで食べないよ、今は。昔は、食えたら何でも食ってたけど」

「苦労なさったんですね」

「うーん、苦労といえば苦労なの?仕事で役に立ってるから、言うほど苦労でもないと言うか」

 よくわかんないと首を傾げるネスキオ。その反応に、オタオタするミリヒライズ。

「うう、ネス兄ちゃんも、生きるの頑張ったんだね」

 そう言って、隣りに座っていたシルヴァンがネスキオに抱きつく。

「うん、それは頑張った!死んじゃったら美味しいもの食べられないからね!」

「今のあんたはぁ!逆に食べすぎて死なないか、心配なのよぉ!」

 そう南の魔女に突っ込まれ、あっけなくしんみり空気が笑いに変わった。





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