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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第37章 魔の山に行こう!
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 登り始めた日の光が、漆黒と魔女たちをキラキラと輝かせる。

 準備を整えた西の魔女たちを眩しく見つめる、見送りに来たアマーリエと村の衆。

「キンキラキンだねー」

『そうじゃの』

「「「「「「ああ」」」」」」

 シルヴァンが、目を細めて言うと黒紅を始め皆が同意する。眩しいのは朝日のせいだけではなく、ビーシープの糸を織り込んだマントを、三人とも着ているからなのだ。漆黒の光沢のある黒い鱗に、三人のマントの渋めの金色は金蒔絵のような色合いを醸し出している。

 村の染色職人たちは、ビーシープの糸をどうやって染めるか、研究だなと内心で思う。

「では!行って来る!」

「行ってくるわねぇー」

「ビンセント!あとは任せましたよ!」

「任せるも何も、今日帰ってくるんでしょうが!そうそう、問題なんて起きませんよ!ご心配なく!」

『辰砂!すぐ帰るからね!』

「「「「「「「「いってらっしゃーい」」」」」」」」

 巨竜化した漆黒の背中から、西の魔女達が声を張り、ビンセントが呆れたようにバネッサに返す。そして上昇した漆黒たちに、アマーリエたちは手を振って見送った。





「絶景だね。こんなに空高くを、古代竜は飛ぶのだなあ。何れ、魔法でこのように飛んでみたいものだね」

「ほんとねぇ。見て見てぇ!アルバン村がぁ、あんなにちっちゃく見えるわぁ」

「……」

「「バネッサ?」」

 キャッキャッ楽しそうな西の魔女と南の魔女。長い長い人生で、初の空の旅にはしゃいでいた二人は、何の反応も示さないバネッサに、漸く気がついた。

「んまぁ、目を開けたままぁ、気を失っちゃってるわよぉ!?」

「バネッサ、これ!しっかり!」

「気絶耐性上げたのにねぇ?」

「気絶ではなさそうだよ。寝てるようだ。昨日の晩、興奮しすぎて、寝てないんじゃないのかい?」

「あぁ、この子ならありそう。古代竜に乗せてもらうなんてぇ、竜人族にしてみたらぁ、奇跡みたいなもんだしぃ」

「このまま寝かせておくかい?」

「落ちたらぁめんどうよぉ?」

『大丈夫。乗っている者が落ちぬよう、緩めの【風の拘束】と【風の膜】をかけているから、寝てても問題ないよ』

「「いつの間に!?」」

『乗ってすぐだよ。風が緩やかだろう?魔法がなければ、とっくに飛ばされているよ』

 漆黒はかなりのスピードで、魔の山に向かっている。漆黒としては、さっさと用事を済ませて、辰砂の元に帰りたいからだ。護衛対象者を、背中から落とすわけにはいかないので、すぐに防御膜を展開している。

「うっ、気づかなかったわぁ。魔女失格よぉ」

「ほんとだよ。魔女が魔法をかけられて、気づかないなんて間抜けではないか」

 漆黒の背中でがっくりうなだれる魔女たち。

『仕方ないよ。私の魔法だからね。発動した魔法は、漏れている魔力と同化するから、背中にいる貴方達は感じ取れないよ。まして、敵意や攻撃の意志のない魔法なのだし』

「「ああ」」

 漆黒の説明に、それもそうかとうなずく魔女たち。

 漆黒や辰砂の魔力の気配は、彼らが意識して抑え込まなければかなりの広範囲に及ぶ。村の衆や南の魔女たちは、すっかり漆黒一家の気配に慣れてしまっているため、漆黒たちも気配を最初の頃のように抑えてもいないのである。

 それ故に、アルバン村周辺は安全地帯になっていた。古代竜の縄張りに、攻撃の意思を持って入っていくような生き物は、いないのである。ただ、野ネズミや野うさぎなど弱い草食系の動物は、安全になったため、アルバン村周辺に増えていたりする。

『そろそろ魔の山の領域に入るよ。魔道具の準備はいいかい?』

「あらぁ、速いわね。もう峰がすぐそこだわぁ」

「バネッサ、起きな!もうすぐ着くよ!」

「!?」

「ヨダレ出てるわよぉ」

「!?」

「うっそっ!」

 慌てて口元を拭うバネッサに、南の魔女はおかしそうに、口に手を当てて言う。

「南の!」

「寝ちゃうなんてぇ、もったいないことしたわねぇ。せっかくの空の旅だったのにぃ」

「……」

 南の魔女のニヤニヤ顔に、悔しさと情けなさで四つん這いになるバネッサ。

「南の、あまりいじめるんじゃないよ」

「だってぇ。バネッサをおちょくる機会なんてぇ、めったにないじゃなーい。子どもの頃から、スキなさすぎてぇ、可愛げがないんだものぉ」

「だからといって、ここぞと竜の首をとったようにからかうんじゃないよ」

 西の魔女が呆れた顔で、南の魔女をたしなめる。

「うう、西の。可愛げがないところは、否定してくださらないのですか」

「出来ないね。わたしは、無駄な嘘はつかないよ」

 涙目のバネッサを、バッサリ切り捨てた西の魔女だった。

『お嬢さん方。準備?』

「「「ひゃい!ただいま!」」」

 アマーリエがそこに居たら、漆黒さんからしたら、魔女たちも、まだまだお嬢さんの域なんだね、と内心で突っ込んだであろう。魔女たちも短命種のそばでなければ、種族年齢相応にキャピキャピしているようである。

 魔女たちは、台座に空の魔石がはまったアクセサリー類を、これでもかと言うほど身に着け、空の魔石の入った袋をベルトに下げる。

「「「出来ました!」」」

『じゃあ、麓から頂上を越えて反対側の麓。お昼とったら、こっちに戻るからね』

「「「はい!」」」

『入るよ』

 そう言って、漆黒が一段と魔力が濃く重くなる領域に、侵入していく。

「「「!」」」

「指輪の魔石程度じゃぁ、すぐいっぱいになってるぅ!?」

「ネックレスの方は、魔石が大きいから大丈夫そうだが、鐘一つ分で埋まりそうだね」

「ちょっと二人共!悠長に喋ってないで、早く指輪の魔石を変えてください!」

 指輪の魔石を外してアイテムポーチにしまい、新たな魔石をはめ直す三人。

「これは、とっておきのを、先に出したほうがいいんじゃぁないのぉ?」

「そうだね」

「魔石を変えてるだけで、調べる時間が無くなりそうです」

 三人はため息を吐いて、自身の籠手から自分たちの小盾を取り出す。そこには、村の職人たちによって空の大きな魔石がはめ込まれていた。

「ああ、指輪の魔石の魔力の充填が緩やかになったね」

「これなら大丈夫だろう」

「では調査を始めますよ」

 三人は、それぞれ索敵魔法、探査魔法、魔力感知を展開し、魔の山の周辺を探っていく。

 漆黒は風魔法で飛ぶ速度を調節しながら、索敵を行う。漆黒は、三人の護衛も受け持っているのだ。

 原生林のままの魔の山の麓は、芽吹き始めた木々の枝と常緑樹のせいで、見通しが悪くなっている。

「うーん?ポツンポツンと魔物の反応があるくらいよねぇ?」

「そうだね。思ったほど、麓に魔物は集まってないね」

「あそこ!あそこがさらに魔力が濃くなってませんか?」

『ああ、あそこは魔の山のダンジョンの排出口だよ。穴が開いてるだろ』

「「「は?」」」

 漆黒の言葉に、思わず目を凝らす三人。ポッカリと空いた穴は、周りの樹の高さよりもやや大きかった。

『魔の山は、山全体がダンジョンなのさ』

「「「……初めて聞くのですが?」」」

『うん。私も初めて、古代竜以外に話したね』

「「「漆黒様ー!?」」」

 南の魔女たちは、もっと早く言ってくれというニュアンスをこめて叫ぶ。

『私も聞いた話だよ。反対側の麓に、ダンジョンに入る入口が一箇所あるんだよ。で、こちら側には各層の排出口がいくつかある。魔力が強すぎて、誰も入れないダンジョンなんだけどね。昔、古代竜の一人が、試しに入り口から鐘一つ分だけ入って、あまりの魔力の濃さに諦めたんだよ』

「え」

「つまりぃ」

「ダンジョンの討伐されない魔物が、二十年ごとに溢れ出てるのか!?」

『そういうことだね。まあ、チョロチョロと、毎年出てはいるんだけど、問題になる数じゃないしねぇ』

「「「はぁー」」」

 呆然と漆黒の背にへたり込む、南の魔女たちであった。

『どうする?』

「どうもこうもぉ」

「魔物の暴走(スタンピード)の原因がわかりましたが」

「我らでは、どうしようもないな」

 お手上げと両手を上げてみせる西の魔女。

「漆黒様は、アルバンのダンジョンの主をご存知なのですよね?」

『ああ。若い頃に踏破したからね。今もたまに遊びに行くよ』

 古代竜はダンジョンの踏破をしても、ダンジョンの主を消滅させることはない。ダンジョンの主はダンジョンを造営する力があっても、攻撃も防御も持たない存在で、力試しにならないからだ。

 むしろ、ダンジョンの主と仲良くなって、強い魔物を作ってもらったりすることのほうが多い。

「踏破すれば、ダンジョンの主に会えるんですね?」

『ああ、そう言う決まりになっているからね』

「「バネッサ?」」

 考え考え漆黒に話しかけるバネッサを見て、つい、何を考えているのか、確認するように声をかける南の魔女たち。

「ちょっと待って。漆黒様、アルバンのダンジョンの主は、他のダンジョンの主と交友が、あるのでしょうか?」

『それは、聞いたことがないからわからないね。今度、聞いてみようか?』

「お願いします!そこから交渉できれば、助かります」

「なるほど!人のいいアルバンダンジョンの主なら、交渉の場が作れる可能性もあるね!」

 バネッサの考えていることがわかり、表情が明るくなる西の魔女。

「けどぉ、魔の山のダンジョンの主がぁ、アルバンダンジョンの主みたいな人柄だとはぁ、かぎんないでしょー、レギナムみたいにぃ」

「うっ、以前踏破されたレギナムの森ダンジョンの主は、最悪でしたね」

 思い出して、顔を思いっきりしかめるバネッサに、南の魔女が肩をすくめながら続ける。

「そうよぉ、あんなぁ底意地の悪いダンジョンもぉ、ダンジョンの主もぉ、類を見ないわよぉ」

『ああ。消失してよかった』

 漆黒までもが、思い出して、座った目で短く感想を述べるほど、ひどいダンジョンかつダンジョンの主であったようだ。

「ダンジョンは、ダンジョンの主の、性格そのままなのではないのか?」

 西の魔女が、首を傾げながら言う。

『それはそうだろう。ダンジョンを作り運営しているのはダンジョンの主なのだから。そのまま性質が反映されているよ』

「「「……」」」

 漆黒の言葉に顔を見合わせる魔女たち。

「そう考えると、誰とも関わり合いたくなさそうですよね。魔の山のダンジョンの主は」

「そうよねぇ。拒絶してるわねぇ」

「一歩も入れたくないのが、ありありと分かる魔力の濃さだものね」

 魔女たちは、頭を抱えて考え込み始める。漆黒は、早く家に帰りたかったので、用事を続けるかどうかを三人に確認する。

『予定をこなすかい?』

「あ」

「取り敢えずぅ、反対側まで行ってみないぃ?行ったことがないんだしぃ」

「そうだね。漆黒様、尾根を越えて、反対側の麓までお願いします」

『うん。わかった。観察は続けるの?』

「一応ダンジョンの排出口でしたか?その位置を確認させてください」

『いいよ。位置はわかるから、そこを確認しながらだね。少し速度を上げるね』

 そう言って、漆黒は移動を始めた。

 




 


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