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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第36章 幸せのモコモコ
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 魔法陣が消え、西の魔女、バネッサ、ビンセントの姿が現れる。

「うわっ!?」

 ビンセントは金色の壁の真ん前にでたため、そこに埋もれる南の魔女と至近距離でご対面することとなった。バネッサは、黒紅に気づいて、すぐにそちらに向かい背後にあるものをスルーした。

「南の。幸せそうだね」

「幸せよぉ」

「そうか。幸せそうで何より」

 西の魔女が、南の魔女との長い付き合いの中で、初めて見る緩みきった状態だったため、まあいいかと放置することにした。

「バネッサ殿とビンセントを連れてきたよ」

「西の、すまんの。助かる。バネッサ殿、ビンセント殿、遅くにすまんの」

「夜分にお呼び立てして、すみません」

 謝罪するヴァレーリオとアマーリエに、二人は手を振って、気にするなという。

「黒紅様のためです。私、何でも手伝いますよ」

 キリッとした顔で、バネッサが言い切る。

「よかった。実は、春頃お話した、魔物の飼育の件なんですけど」

「ええ」

「ああ」

 アマーリエの言葉に、そんな話もあったなーと思い出す二人。その後、立て続けに色々ありすぎて、すっかり忘却の彼方となっていた。

「前倒しで今からお願いします!」

 そう言って、頭を下げ、金色のフワモコの壁を指差す、アマーリエ。

「「は?」」

『ビーシープを飼いたいのじゃ、頼む』

 ペコリとバネッサに頭を下げる黒紅。

「頭を上げてくださいませ!任せて下さい!黒紅様!ビンセントがしっかり飼育いたします!」

 バネッサは反射神経だけで、責任を部下に押し付けた。

「俺かー!?本部長!?」

「おめでとう!ビンセント初代魔物飼育官殿!これができるのは貴方しか居ない!」

「よかったな、世界初の男だぞ!きっと世界もお前を認めてる!」

「おまえさんならできる!初代魔物飼育官殿、やったな!」

 これでもかと言うぐらい、ビンセントに反論を言わさぬよう立て続けに責任を押し付けた、アマーリエ、ヴァレーリオ、西の魔女だった。

『ありがとうの、ビンセント』

「……はひ」

 止めに、黒紅に手を握られて感謝されたビンセント。反論できるはずもない。

「さ、担当者も決まったことだし。細かいことを決めていきましょう」

 ここには、もふもふで天国に行っている人と、魔物よりも恐ろしい人しかいなかった。



「バネッサさんは、ビーシープをご存知ですか?」

「いや、初見だな」

「うーん、ここにいらっしゃる、経験豊かな方々が知らないってことは、アルバンダンジョン独自の魔物ですかねー?」

『そうじゃぞ、主。三十二階層におるのじゃ』

「へー」

「「「「「え?攻略更新?」」」」」

「そもそも、黒紅ちゃん、最下層に居たんだから、攻略とか関係ないんじゃないですか?」

 ラスボスしてたんだから、途中の階層のフロアボスなんか意味ないんじゃないのと思う、アマーリエ。

「それもそうか」

「そうだな」

 色々考えるのが面倒になって、攻略のことは一旦、脇によけることにした一同。

「取り敢えず、聞いてわかったビーシープの生態なんですけど……」

 アマーリエが聞いたことを、バネッサ達に話す。

「なるほど。黒紅様。蜂に近しいのなら、冬場は越冬するんでしょうか?」

『土の中で蜂団子になって、互いに温めあって、冬をこすそうじゃ』

「ほうほう、三十二階層の部屋は冬が来るんだー。土のほうがいいなら、建物の中よりは、土の精霊さんにお願いして、どっかに穴を開けてもらう?」

『家の中でもいいのか?主』

「うちの屋根裏は、(先住が居て)無理(共生させてもいいんだけどね)だけど、冒険者ギルドのあいてる部屋なら、ビンセントさんも管理しやすいんじゃないですか?」

「そうね。ビンセントの隣の部屋を片付けて、ビーシープの飼育施設にしましょう」

「そ、そこ、俺が集めた武器庫……」

「使わない武器を集めてもしょうがないでしょう。次のスタンピードで、冒険者に貸し出ししましょう。業物も多いから戦力の底上げになるわね」

 テキパキと、ビンセントにクリティカルヒットを与えていくバネッサの手腕は、素晴らしかった。

「餌ははちみつでいいみたいだから、自分たちの毛を売って、購入してもらいましょう」

「自分で食い扶持を稼ぐ、魔物ですか。いいですね」

 アマーリエの言葉に、バネッサが目を輝かせる。

「何なら飼育員の生活費も稼ぎそうですけど。この毛、きっとお高いですよねー」

「「「「わははははは、どっちが飼われてるのかわからんな」」」」

 ビンセントにあたりが厳しい皆々様。若い頃にビンセントがやらかした、アレヤコレヤのせいなため、自業自得である。

『暖かくなれば、自分たちで蜜を取りに行くぞ、主』

「ああ、それもそうか。ならエサ代は冬場だけか」

 アルバン村は不届き者が存在できないため、ビーシープが盗まれる心配もない。

「素晴らしい」

 バネッサは、美味しい仕事にウハウハである。

「じゃあ、隣の部屋の片付けもあるでしょうし、終わったら連絡下さい。ビーシープ達を運びますので」

「ええ。すぐ、きれいにしますから」

『バネッサ、ビンセント。ほんに、助かった。ありがとう』

「お言葉だけで、十分ですわ。さっ、行きましょう。ビンセント」

「ああ、じゃあ、わたしがギルドまで送ろう」

「ありがとう、西の魔女。お願いしますわ」

 死に体のビンセントを連れて、冒険者ギルドに戻ったヴァネッサ。西の魔女はすぐに戻ってきた。

「さて、小奴らをどう掘り起こす?」

 ビーシープを一匹、手に乗せてもふもふしているヴァレーリオが、アマーリエに問う。

「いいんじゃないですか?結構温かいから一晩ほっといても、風邪ひきゃしませんよ。幸せそうなんですし。冒険者ギルドにビーシープを移したら、毎日、南の魔女様は通えなくなるでしょうし」

「ああ!足繁くビンセントの部屋の隣に通えば、この村ならビンセントと噂されることになるね。なら、今晩一晩ぐらいは、このままでいいか」

 アマーリエの言葉に、西の魔女が賛同する。しかし、言われた本人はと言うと、

「ちょっとぉ!なんてことぉ!?こ、この幸せかベルンか選べってことぉ?」

壁の中で覚醒し、ムンクの叫び状態になっている。

「いや、別にそこまで言ってませんし。ヴァレーリオ様と西の魔女様も、埋もれてみます?」

「なかなか面白そうだからやってみよう」

「色々試さねばな」

 二人は、そっと壁の中に両腕を突っ込んでみる。

「ほう、かなり温かいね。この中に埋もれたらなかなか寝心地良さそうだ」

「神殿は冷えるからな。増えたら神殿でも飼育してみるのもいいな」

 ヴァレーリオまでビーシープの飼育に心惹かれ始めている。

 ふわりと壁からビーシープが飛び出して、蜂蜜の瓶の前で八の字ダンスを踊る。

 アマーリエは、蜜をやりながら、自動給餌方式にしないと、流石にビンセントがかわいそうかなと思ったのであった。



 翌朝、黒紅は素材を持って、繊維加工関連の職人たちに会いに行く。持ちこまれた素材に大騒ぎになる職人たち。素材の等級が高すぎて、今までの道具では糸にすらできなかったからだ。これでは糸にできたところで、織れもしなければ編めない可能性もあり、裁つこともできなければ縫えないことになると、他の木工や鍛冶、魔道具の職人も巻き込んで、最速で等級の高い道具の刷新が図られることになった。

 道具を作るための素材を探しに、黒紅はまたダンジョンへと行くことになったのであった。

 


 ビーシープ達は村の人達に可愛がられ、順調に群れを増やしていく。冒険者ギルドと神殿、そしてバルシュテイン伯が、金の糸の生産者となり、やがて金色の夢布団という、最高の寝心地を約束する布団が完成する。

 幸せな眠りは、健康に欠かせないものの一つのため、多くの人に求められ愛される布団となったのである。

 その成功の影に、一人の男の涙とコレクションがあったことは、誰も知らない。


羊が勝手に数を数えてくれる金色のお布団はいかが?金色が眩しくてねれないかもしれん……

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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な素敵な金色のお布団!! 欲しいです〜 )^o^( ぜひ、素のビーシープ付きでお願いします(^_-)
[一言]  コレクターころし・・・強く生きてビンセント。
[一言] 尊い犠牲に敬礼。 黒紅ちゃんが管理する素材飼育場もダンジョウにはあるから いいものが市場に出まくるっと。
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