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魔法陣が消え、西の魔女、バネッサ、ビンセントの姿が現れる。
「うわっ!?」
ビンセントは金色の壁の真ん前にでたため、そこに埋もれる南の魔女と至近距離でご対面することとなった。バネッサは、黒紅に気づいて、すぐにそちらに向かい背後にあるものをスルーした。
「南の。幸せそうだね」
「幸せよぉ」
「そうか。幸せそうで何より」
西の魔女が、南の魔女との長い付き合いの中で、初めて見る緩みきった状態だったため、まあいいかと放置することにした。
「バネッサ殿とビンセントを連れてきたよ」
「西の、すまんの。助かる。バネッサ殿、ビンセント殿、遅くにすまんの」
「夜分にお呼び立てして、すみません」
謝罪するヴァレーリオとアマーリエに、二人は手を振って、気にするなという。
「黒紅様のためです。私、何でも手伝いますよ」
キリッとした顔で、バネッサが言い切る。
「よかった。実は、春頃お話した、魔物の飼育の件なんですけど」
「ええ」
「ああ」
アマーリエの言葉に、そんな話もあったなーと思い出す二人。その後、立て続けに色々ありすぎて、すっかり忘却の彼方となっていた。
「前倒しで今からお願いします!」
そう言って、頭を下げ、金色のフワモコの壁を指差す、アマーリエ。
「「は?」」
『ビーシープを飼いたいのじゃ、頼む』
ペコリとバネッサに頭を下げる黒紅。
「頭を上げてくださいませ!任せて下さい!黒紅様!ビンセントがしっかり飼育いたします!」
バネッサは反射神経だけで、責任を部下に押し付けた。
「俺かー!?本部長!?」
「おめでとう!ビンセント初代魔物飼育官殿!これができるのは貴方しか居ない!」
「よかったな、世界初の男だぞ!きっと世界もお前を認めてる!」
「おまえさんならできる!初代魔物飼育官殿、やったな!」
これでもかと言うぐらい、ビンセントに反論を言わさぬよう立て続けに責任を押し付けた、アマーリエ、ヴァレーリオ、西の魔女だった。
『ありがとうの、ビンセント』
「……はひ」
止めに、黒紅に手を握られて感謝されたビンセント。反論できるはずもない。
「さ、担当者も決まったことだし。細かいことを決めていきましょう」
ここには、もふもふで天国に行っている人と、魔物よりも恐ろしい人しかいなかった。
「バネッサさんは、ビーシープをご存知ですか?」
「いや、初見だな」
「うーん、ここにいらっしゃる、経験豊かな方々が知らないってことは、アルバンダンジョン独自の魔物ですかねー?」
『そうじゃぞ、主。三十二階層におるのじゃ』
「へー」
「「「「「え?攻略更新?」」」」」
「そもそも、黒紅ちゃん、最下層に居たんだから、攻略とか関係ないんじゃないですか?」
ラスボスしてたんだから、途中の階層のフロアボスなんか意味ないんじゃないのと思う、アマーリエ。
「それもそうか」
「そうだな」
色々考えるのが面倒になって、攻略のことは一旦、脇によけることにした一同。
「取り敢えず、聞いてわかったビーシープの生態なんですけど……」
アマーリエが聞いたことを、バネッサ達に話す。
「なるほど。黒紅様。蜂に近しいのなら、冬場は越冬するんでしょうか?」
『土の中で蜂団子になって、互いに温めあって、冬をこすそうじゃ』
「ほうほう、三十二階層の部屋は冬が来るんだー。土のほうがいいなら、建物の中よりは、土の精霊さんにお願いして、どっかに穴を開けてもらう?」
『家の中でもいいのか?主』
「うちの屋根裏は、(先住が居て)無理(共生させてもいいんだけどね)だけど、冒険者ギルドのあいてる部屋なら、ビンセントさんも管理しやすいんじゃないですか?」
「そうね。ビンセントの隣の部屋を片付けて、ビーシープの飼育施設にしましょう」
「そ、そこ、俺が集めた武器庫……」
「使わない武器を集めてもしょうがないでしょう。次のスタンピードで、冒険者に貸し出ししましょう。業物も多いから戦力の底上げになるわね」
テキパキと、ビンセントにクリティカルヒットを与えていくバネッサの手腕は、素晴らしかった。
「餌ははちみつでいいみたいだから、自分たちの毛を売って、購入してもらいましょう」
「自分で食い扶持を稼ぐ、魔物ですか。いいですね」
アマーリエの言葉に、バネッサが目を輝かせる。
「何なら飼育員の生活費も稼ぎそうですけど。この毛、きっとお高いですよねー」
「「「「わははははは、どっちが飼われてるのかわからんな」」」」
ビンセントにあたりが厳しい皆々様。若い頃にビンセントがやらかした、アレヤコレヤのせいなため、自業自得である。
『暖かくなれば、自分たちで蜜を取りに行くぞ、主』
「ああ、それもそうか。ならエサ代は冬場だけか」
アルバン村は不届き者が存在できないため、ビーシープが盗まれる心配もない。
「素晴らしい」
バネッサは、美味しい仕事にウハウハである。
「じゃあ、隣の部屋の片付けもあるでしょうし、終わったら連絡下さい。ビーシープ達を運びますので」
「ええ。すぐ、きれいにしますから」
『バネッサ、ビンセント。ほんに、助かった。ありがとう』
「お言葉だけで、十分ですわ。さっ、行きましょう。ビンセント」
「ああ、じゃあ、わたしがギルドまで送ろう」
「ありがとう、西の魔女。お願いしますわ」
死に体のビンセントを連れて、冒険者ギルドに戻ったヴァネッサ。西の魔女はすぐに戻ってきた。
「さて、小奴らをどう掘り起こす?」
ビーシープを一匹、手に乗せてもふもふしているヴァレーリオが、アマーリエに問う。
「いいんじゃないですか?結構温かいから一晩ほっといても、風邪ひきゃしませんよ。幸せそうなんですし。冒険者ギルドにビーシープを移したら、毎日、南の魔女様は通えなくなるでしょうし」
「ああ!足繁くビンセントの部屋の隣に通えば、この村ならビンセントと噂されることになるね。なら、今晩一晩ぐらいは、このままでいいか」
アマーリエの言葉に、西の魔女が賛同する。しかし、言われた本人はと言うと、
「ちょっとぉ!なんてことぉ!?こ、この幸せかベルンか選べってことぉ?」
壁の中で覚醒し、ムンクの叫び状態になっている。
「いや、別にそこまで言ってませんし。ヴァレーリオ様と西の魔女様も、埋もれてみます?」
「なかなか面白そうだからやってみよう」
「色々試さねばな」
二人は、そっと壁の中に両腕を突っ込んでみる。
「ほう、かなり温かいね。この中に埋もれたらなかなか寝心地良さそうだ」
「神殿は冷えるからな。増えたら神殿でも飼育してみるのもいいな」
ヴァレーリオまでビーシープの飼育に心惹かれ始めている。
ふわりと壁からビーシープが飛び出して、蜂蜜の瓶の前で八の字ダンスを踊る。
アマーリエは、蜜をやりながら、自動給餌方式にしないと、流石にビンセントがかわいそうかなと思ったのであった。
翌朝、黒紅は素材を持って、繊維加工関連の職人たちに会いに行く。持ちこまれた素材に大騒ぎになる職人たち。素材の等級が高すぎて、今までの道具では糸にすらできなかったからだ。これでは糸にできたところで、織れもしなければ編めない可能性もあり、裁つこともできなければ縫えないことになると、他の木工や鍛冶、魔道具の職人も巻き込んで、最速で等級の高い道具の刷新が図られることになった。
道具を作るための素材を探しに、黒紅はまたダンジョンへと行くことになったのであった。
ビーシープ達は村の人達に可愛がられ、順調に群れを増やしていく。冒険者ギルドと神殿、そしてバルシュテイン伯が、金の糸の生産者となり、やがて金色の夢布団という、最高の寝心地を約束する布団が完成する。
幸せな眠りは、健康に欠かせないものの一つのため、多くの人に求められ愛される布団となったのである。
その成功の影に、一人の男の涙とコレクションがあったことは、誰も知らない。
羊が勝手に数を数えてくれる金色のお布団はいかが?金色が眩しくてねれないかもしれん……




