3
「ハマってるわねぇ」
「ハマってますねぇ」
五目並べに夢中になってる四人をなんとか紙から引き剥がし、湯豆腐を食べさせたアマーリエと南の魔女。食べ終えた四人は、デザートをどうする?という問いにも生返事で、また五目並べをやり始めている。
そして、いつの間にか、シルヴァンが色鉛筆を持ち出して、四人対戦になっていた。
暖炉の前で、四人が額をくっつけ、ウンウンうなりながら五目並べをする姿を、アマーリエと南の魔女は二人並んで机の前に座り、お茶をしながら見て、どうでもいい話にふける。
二人の後ろの窓からは、降りしきっていた雪がやんだため、向かいの家の明かりが見えるようになっていた。
「ネスキオさんが、五目並べにハマるとは思ってもみませんでした」
アマーリエから見たネスキオというのは、心の赴くままにあちこちうろちょろして、甘いものが好きな、ちょっと落ち着きのない印象だったのだ。
「あたしもよぉ?頭は悪くないんだけど、使うの嫌いなんじゃないのかしらぁって思うぐらい、カンで動いて正解する型の人間だと思ってたわぁ」
お茶を飲みながら、アマーリエに同意する南の魔女。
「南の魔女様は、やんないんですか?」
「どうせぇ、神殿に帰ったらぁ、対戦相手が足りないーとか言われてぇ、巻き込まれるわよぉ」
「あぁ」
その光景が目に浮かぶようで、アマーリエは遠い目をしてしまう。
二人は知らないが、五目並べに夢中の四人、勝てば好きなものを相手に要求できる権利をかけて、五目並べをやっていたのだ。
ネスキオまで真剣にやっているのは、勝って三人から甘味をもらうつもりだからだ。西の魔女は、頭脳戦の面白さにハマっているだけで、勝った後に何をもらうかには、こだわりがない。
「!」
後ろの窓に何かを感じた南の魔女が、振り向き目を見開く。
「どうしたんですか……ヒョー!」
「「「「何?」」」」
南の魔女の反応に驚いたアマーリエが、同じように後ろの窓を見て悲鳴を上げ、それに驚いた四人が顔を上げる。
『主!ちょっと問題発生なのじゃ』
「く、黒紅ちゃんかぁ、驚いた(本気でゴジラが外にって思っちゃったよ)」
「黒紅様ぁ、あたしのか弱い心臓止めないでぇ」
慌てて窓を開けて、大きくなった黒紅に声をかけるアマーリエ。南の魔女も、両手で胸を押さえて涙目で言う。
『すまぬ。驚かせるつもりはなかったのじゃが。ダンジョンで採集してきたものが、かなりの数でな。持って帰ってくるのに、大きくならねば無理であったのじゃ』
「アイテムバッグは?入らないほど採集したの?」
サンタのごとく大きな袋を担ぐ黒紅を見て、アイテムバッグに入らないほど採集してきたのかと問うアマーリエに、斜め上の答えが黒紅から返ってくる。
『生きておるものは、アイテムバッグには入れられぬじゃろ?パン屋の扉にもこの袋がつっかえて入れぬから、窓から主を呼ぶことにしたのじゃ!』
「……生きたままなの?」
前世で、飼っていた猫に、生きたままの雀の子をドヤ顔で見せられた時の気分を思い出したアマーリエ。
『うむ。飼いたいんじゃ』
「「かう?」」
何を言われたのかわからず、首をかしげるアマーリエと南の魔女。
『これなんじゃ!』
窓に袋の口をあて、中に入っているものを部屋の中に勢いよく放出した黒紅。
「「「「「「!」」」」」」
あっという間に金色のなにかに埋もれることになった、アマーリエ達。
黒紅は、袋の中身が空になると窓を閉め、体を縮めてパン屋の扉に向かった。窓から入らない行儀の良さがなぜかある、黒紅だった。
「グハッ!南の魔女様!生きてますか!」
「生きてるわよぉ〜。フワモコで幸せすぎてぇ、そのままぁ寝ちゃいそうだけどぉ」
なんとか顔にひっついた金色のモコモコを押しのけ、空気を吸い、隣を見たアマーリエ。横にいた南の魔女は、天国に一番近い人になっていた。アマーリエは、慌てて南の魔女の顔にくっついていた、金色のモコモコを外しながら、部屋にいた他の連中に声をかける。
「フワモコで幸せなのも、寝ちゃいそうなのも同意しますが、まだ寝ないでくださいよ!神殿長様!西の魔女様!シルヴァン!ネスキオさん!大丈夫ですか!」
「取り敢えずの……」
「息は出来てるよ」
「ふわふわ〜」
「もこもこ〜」
金色のフワモコからなんとか顔を出した四人を見て、大丈夫だろうと判断したアマーリエ。ネスキオもシルヴァンもフワモコに顔が蕩けきっているが。
居間の扉が開いて、金色のフワモコが廊下に雪崩出るが、黒紅が慌てて居間に戻す。
「黒紅ちゃん?」
アマーリエは、目の前をふわふわ飛ぶ、手のひらサイズの、ミツバチのような羽のついた羊の首根っこをつまんで、黒紅に笑んで見せる。
『あ、主!こ、これには深ーい訳があってのっ!?』
「聞こうか?」
『はひっ!』
温かいだのフワモコ幸せなどと言って、金色の小さな羽つき羊に埋もれるモフモフスキーを放置し、アマーリエとヴァレーリオは黒紅を取り調べ準備にかかる。西の魔女は、冒険者ギルドまでバネッサとビンセントを呼びに転移した。
「言葉が通じるかわからんが、金色の!こっからあっちに待機!」
ヴァレーリオが、厳つい顔をさらに厳しくして、羽つき羊を移動させる。取り敢えず、言われたとおり移動する羽つき羊を見て、ホッとするヴァレーリオ。
アマーリエの肩まで埋めていた金色の羽つき羊は、机がある側と反対側に壁まで押しやられ、モフモフスキーごと天井までみっちり埋まった。
モフモフスキーたちは、息をするためにフワモコから顔だけ出して、幸せを満喫している。ちょっと怖い絵面(顔だけ浮かんだ金色の壁)になっているため、アマーリエは、あえて視線をそっちに向けなかった。
「おなかすいてるの?それともはちみつが好きなだけ?この羽つき羊」
アマーリエがなんとか机と椅子から金色のフワモコたちを回収し、モフモフスキーにひっつけて机に戻ると、何匹かがまた机に戻っていた。
それらは、アマーリエと南の魔女がお茶のために用意していた、はちみつの入ったポットに視線を向け、よだれを垂らしていた。
『ビーシープは魔物だが、蜜が主食なのじゃ、主』
「ふーん。今ここで、この子たちだけにやると、あそこから雪崩れてきそうだよね?」
金色のフワモコの壁の方には視線を向けず、起こりそうな事態を口にするアマーリエ。
『大丈夫じゃ。腹が満ちておるものが向こうに居る』
腹をすかしているらしいビーシープ数匹が、アマーリエの方を見て視線で訴える。勝手に食べてしまう行儀の悪さのない羊に、かなり頭はいいらしいと判断するアマーリエ。
「しょうがない、話の間ずっと視線向けられてたらたまんないから、あげるよ。ヘイ、整列!」
アマーリエの言葉に、一列になって、くるくるその場で8の字ダンスをして喜ぶビーシープ。ビーと付くだけあって、見た目は羊でも行動は蜂なんだと思うアマーリエ。
「わたしの目が回っちゃいそうだな」
ティースプーンにはちみつをすくい、先頭の羊の前に差し出す。はちみつをちょっぴりなめて満足したビーシープは、壁の方に向かってふわふわ飛んでいく。
「羽音はしないんだ」
『魔力で飛んでおるからの』
ティースプーンをビーシープに差し出したまま、黒紅と話をするアマーリエ。
「アマーリエ、わしにもスプーンを貸しなさい」
「えっ、ああ、交代しますか」
アマーリエは、目がキラキラしているヴァレーリオを見て、ティースプーンを渡す。
「かわいいな」
「なんだかんだ、神殿長様もちっちゃくて可愛いもの好きですよね。そういや、コカトリスのジュリーはどうしたんです?」
「神殿に置いてきたぞ?外は寒いからな」
「相変わらずちっさいままですか?」
「ああ。まだ大きくならん。ダリウスのところのぴーちゃんも、まだ、小さいままだそうだ」
「へー。経験値稼いで進化するのかなぁ?」
「なんじゃ、それ?」
「いや、魔物だから、人と違う成長をするのかなと」
「ふむ」
「黒紅ちゃん、このビーシープ?だっけ、これはもう成体なの?」
『うむ。これが成体じゃ。女王ビーシープがおってな、それが卵を生み、他のビーシープが育てるんじゃ』
「なるほど。生態は蜂と一緒ってことね。で、飼うというからには女王ビーシープもいるの?」
『うむ。女王よ、こちらに』
黒紅に呼ばれ、ちっちゃな冠をつけた金色のビーシープが机の上に降り立つ。
「わかりやすいっちゃ、わかりやすいね。えーっと、蜂みたいに巣を作るの?」
『ビーシープは巣を作らず、穴の中で脱皮して、その皮を子育てに使うんじゃ』
「脱皮?え、蜂って脱皮しないよね?」
『見たほうが早いであろう。脱皮しそうなのはおるか?主に見せてほしいんじゃが』
黒紅が呼ぶと、数匹が飛んできて、机に降りる。
一匹の前肩あたりの毛を左右から二匹のビーシープが掴んでするりとコートを脱がすように毛だけを脱がせた。さらにもう一匹を同じように、二匹のビーシープが脱がせててみせる。
毛を脱がせられたビーシープ二匹は、頭の部分だけ毛を残して毛を刈られた羊状態になっていた。
そしてその毛の塊を、アマーリエに手渡しにくるビーシープ。渡された、羊の抜け殻のような状態の毛の塊を無言で見る、アマーリエ。
「……脱皮と言うよりは、脱毛に近いような?」
「わしにも、見せなさい」
「はい、どうぞ」
「ふむ、脱皮ではないな。皮はついておらんからなぁ。毛だけだな」
ヴァレーリオは、机の上で、毛の塊を伸ばして検分する。
「南の魔女様!幸せ満喫中にすみませんが、ビーシープを見たことは?」
「ないわよぉ〜」
「そうですか!そのまま、満喫してて下さい!」
「わかったわぁ」
幸せに蕩けている壁の中の顔たちが、現れた魔法陣の輝きに照らされる。西の魔女が、バネッサとビンセントを連れて戻ってきたのだ。
夏場に書く話でも読む話でもないぐらい暑苦しくなってしまったorz




