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本日二話目となります。前話まだの方はお戻りを〜。
南の魔女に連れられて、商業ギルドの宿に来た大神。
アマーリエが大神を泊める場所として選んだのは、ゲオルグが居る商業ギルドの宿。泊める場所の候補として神殿もあったのだが、ヴァレーリオに大神を丸め込ませるのは無理だと判断したのだ。下手したら、面白がって大神を煽りかねないと危惧し、利害の一致するゲオルグに任せることにした。
そんなこんなで、アマーリエから神狼が泊まった宿なんて他にないだろうから箔が付くし、きっと皆の知らないような面白い話が聞けるよと唆された、支配人、商業ギルド長とベーレントが二人を出迎える。
「「「いらっしゃいませ!」」」
「投宿手続きをいたしましょう」
「「ささ、こちらに!神狼様のお話を、ぜひ、お伺いしたいのです!」」
「なぁにぃ?あんた達ぃ暇なのぉ?」
「「「お話聞くから暇じゃありません!」」」
「耳は使ってても、手は空くでしょ。丁度いいわぁ。牡蠣の殻の剥き方教えるからぁ、手伝ってぇ!」
「「はぁ?」」
「牡蠣好きです!」
「「支配人!」」
「ハッ!つい」
牡蠣が大好きなコンラートが落ちかけるも、商業ギルドの二人が辛うじて引き戻す。
「今日の夕飯に、牡蠣奢るわよぉ?」
もうひと押しする南の魔女。
「「「それは奢るというのではなく、牡蠣を剥いた労働対価なんじゃないかと?」」」
商業ギルドに勤めるだけあって、そのあたりの計算はしっかりできるため、うっかり踊らされない三人。でも、アマーリエに儲かるよと言われると踊ってしまうのは、アマーリエのやらかした数々の儲け話が信憑性をあげているのと、取らぬ狸の皮算用がしやすいからである。
「話も聞けて、美味しいものも食べられる!さぁ!厨房に行きましょうねぇ!」
「「「南の魔女様がっ、パン屋さんに毒されかけてるー!でも、まだまだ!我々には通じませんよ!」」」
「なぁに失礼なこと言ってんのよぉ!ほらぁ、早く投宿手続き済ませて!行くわよぉ!」
結局、南の魔女の圧に負け、投宿手続きを手早く済ませて、厨房に向かう商業ギルド関係者。
大神は、この会話のキャッチボールを大人しく見ていただけだった。口を挟むスキルがなかったとも言う。ずっと一人で森に居れば、会話スキルも磨かれないのである。
「ダニーロさぁん!牡蠣がいっぱいあるのぉ!食べなぁい?」
「南の魔女様、お帰りなさいませ!」
「うぐぅ、イラッシャイマセが良かったわぁ」
ダニーロの心からの笑顔と言葉に、住人度が増してる気がして、落ち込む、南の魔女であった。
「あれ?南の魔女様、いらっしゃいませ!」
「パトリック!それなのよぉ!」
「え、何がそれ?」
「さて?」
パァッと顔を輝かせる南の魔女に、二人の料理人は顔を見合わせて首を傾げる。
「ところで、南の魔女様!牡蠣があるって聞こえたんですけど」
「いっぱいあるわよぉ!ローレンで買い占めてきたんだものぉ!」
「なら、この間、リエちゃんところでやったみたいに、自分で好きなように食べる方式はどうです?」
「リエちゃん?」
大神はパトリックの言葉を聞きとがめ、ポツリと漏らすも、皆、パン屋でやったことの方に気を取られてその言葉は拾われず、どんどん話は進んでいく。
「良いですね!網も出来てますしね!廉価版のコンロを用意しましょう」
ダニーロは、ちゃっかり焼き網をフェラーリ親方のところに注文していた。
「自分で好きなようにぃ?」
「ええ、牡蠣の殻はお剥きしますよ!何なら剥き方もお教えいたします。自分で味付けしながら、好みで焼く牡蠣、美味しいですよ!」
「カキフライもいいですしね!油の鍋も用意しますよ!」
「食堂でお出しする、お食事らしくなくて申し訳ないですが、たまには皆様と面白いこともいたしましょう」
「んまぁ!牡蠣パーティーみたいねぇ!」
ダニーロが申し訳無さそうに言うも、南の魔女はノリノリである。
「ところで、パトリックと料理長は、いつ、パン屋さんで牡蠣食べたんです?」
「いつって、もう何回かやってるからなぁ?直近で一週間前?」
コンラートの疑問に、パトリックが答える。
「何回も?」
「ええ、俺たちローレンから牡蠣を取り寄せて、新しい料理作ってるじゃないですか。その試作をパン屋の厨房で何度か」
「混ざりたかった……」
「牡蠣は自腹ですよ?支配人」
「自腹でもいい……、楽しそう」
パトリックの言葉に、今度、自分も牡蠣を買って混ざろうかと真剣に悩み始める、牡蠣が大好きなコンラート。
宿の食堂で、牡蠣の新メニューが出るたびに、真っ先に食べに行っていたのもコンラートであった。泊り客に、食堂の食事の説明をしなきゃいけないから、なんとか言って。
「今からやるんでしょぉ!」
「そうでしたね!」
コンラートは南の魔女に背中をはたかれ、我に返る。
「「聞いてませんよ!何やら食堂でやったら儲かりそうな気がするんですが!」」
「儲かるのかな?」
「パン屋さんのやることでしょ!絶対儲かります!バイキングもウハウハでした!」
商業ギルド長が、本音をダダ漏らすとパトリックが考え考え言う。
「あー。お客さんが、自分で牡蠣剥いてくれるんなら、できそうですね。俺ら二人で大量の牡蠣剥きは、流石に無理ですから」
バイキングの盛況さを思い出して、身震いするパトリックに、ベーレントがしばし考えてから、口を開く。
「ゲオルグ様たちも巻き込みましょう!お客様が、牡蠣を剥けるなら問題ないはず!参加人数を増やしてもよろしいですか?南の魔女様!」
「いいわよぉ!いっぱーいあるんだものぉ」
こうして、ゲオルグ達も呼ばれ、食堂で牡蠣パーティーへとなだれ込むことになったのであった。
南の魔女が、皆に大神を紹介し、牡蠣パーティー開始を宣言する。
「では、まず焼き牡蠣です。こちらに調味料をご用意いたしましたので、このように牡蠣を剥きましたら、ご自身で調味し、網の上で焼いていきます。これぐらいに牡蠣の色が変わりましたら、食べごろでございます。では、牡蠣の殻を開けたことのない方に、牡蠣の剥き方から、お教えいたしますよ」
ダニーロがが南の魔女のあとを引きって、焼き牡蠣のレクチャーを始める。
大神は、ゲオルグの隣に席を用意してもらい、カクさんとスケさんと一緒に、パトリックから牡蠣剥きを教わる。
存外ぶきっちょさを露呈したのは、スケさんであった。
「あれ?」
「スケルヴァン、牡蠣の向きが逆だ」
見かねたゲオルグが、懇切丁寧に指導し始める。
「パトリック、だったか?」
「何でしょう?大神様」
「なぜ、そなたはリエを【リエちゃん】と呼ぶのだ?」
「え?(いきなりどした?)」
聞かれた内容のせいで、剥いていた牡蠣が手からスッポ抜けそうになったパトリック。
「わたしは、そう呼ばないでくれと言われたのだ」
「ああ!そういうこと!それは慣れの問題じゃないですか?」
ちょっと、しょんぼりした顔で言う大神を見て、何やら面白くなってきたと、パトリックは会話で大神の本音を探ろうと試み始める。もちろん手は休めず、牡蠣を剥いて焼き始めている。
「慣れ?」
「俺は、リエちゃんが子どもの頃から知り合いで、もう、ずっとリエちゃんで呼んでますから」
「ずっと?子どもの頃から……。慣れ?そういうものなのか?」
「そういうものかと。まあ、でも、リエちゃんも成人してますから、そろそろ【ちゃん】呼びはやめたほうがいいのかなぁ?」
「?」
「大人の女性として扱うのなら【ちゃん】付けで呼ぶのは、いい加減まずいんですよ」
真面目な顔で、大神の反応を見るパトリック。
「む、大人の女性として?……そなたはリエを番にと思っているのか?」
「あははは!ないない!ただの料理仲間ですよ!あ、大神様、これ焼けましたよ。どうぞ、熱いからやけどに気をつけてくださいね」
パトリックはバター醤油に味付けした牡蠣を、殻ごと大神に渡す。大神はシルヴァンに教わったように、風の魔法を使って、程よく冷まして牡蠣を口に入れる。
「!うまい。そなたは、料理仲間?」
「ええ。リエちゃん、美味しい料理をいっぱい知ってますからね。美味しい物好き、料理好きが寄ってくるんですよ」
「食い気なのか?」
「ええ!まごうことなき、食い気です!大神様も、リエちゃんの料理を食べたんでしょ?」
「ああ」
「何を食べたんです?」
「ミノタウルスのサンドイッチ。塩揚げ鶏……シルヴァンと一緒に鍋もした。食事はすごく楽しかった」
次の焼けた牡蠣をパトリックから手渡され、口に放り込んで満足そうに笑む大神。
「え?ミノタウルスのサンドイッチ?それ初耳です!」
「漆黒が仕留めたミノタウルスの肉を、分けてもらったと、シルヴァンが言っていたのだが」
「ああ!あの時の!一頭だったんで、あれ、みんなで素材取り合いになったんですよねぇ」
魔の山から、魔物を持ち帰る漆黒。お肉の殆どは料理上手に調理してもらい、出た他の素材は村の職人連中に売りさばかれる。
「ミノタウルスの素材が、必要なのか?」
「うーん?ミノタウルスに限らず、いろんな魔物の素材が必要なんですよ。この村、職人の村ですから」
「わたしも、素材か?」
「え!?それはないない。なんでそう思ったんです?」
「緑青に、皮を剥ぎに来られたんだ」
思い出して、顔をしかめる大神に、古代竜怖いと内心でつぶやくパトリック。
「うおぅ、それが出来るのはの古代竜だけだと思います!村の人は、抜け毛くれとか爪削らせてとか、その程度だと思いますよ。漆黒さん達から、抜け鱗もらってたりしますし」
「ああ、それで、シルヴァンから古代竜のにおいがするのか。わたしの抜け毛が要るのか?」
「シルヴァンの抜け毛で、お守りできましたからね」
「そうなのか?」
「そうなんですよ。南の魔女様が持ってるから、見せていただいたらどうです?でも、大神様の抜け毛ならすごい加護が付きそう。俺、欲しいかも」
「よくわからないが、必要なら提供しよう」
「ありがとうございます。あ!牡蠣焼けましたよ。どうぞ」
「わたしも、食い気なのだろうか……」
牡蠣を見て、考え込む大神に、ずっと森の中にいて世間ずれしてないんだと、しみじみ納得するパトリックであった。




