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ヴァレーリオ神殿長に、付いてる黒いものを祓えないと言わしめたアマーリエ。翌日も真面目に店を開き、南の魔女に心配されながら、シルヴァンが帰ってくるのを待った。
仕事のあるヴァレーリオと問題ないと見極めた西の魔女は神殿に、土の精霊は砦に帰っていった。
「「リエ!久しぶりだな!」」
「あ!おっちゃんたち!久しぶりだねー!元気ー?」
朝一からパン屋にやってきたステファンとマシューに、一年も経っていないのに、懐かしさをにじませて駆け寄るアマーリエ。
「「欠片も元気じゃねーや!まだ魔力酔いしてる気がする」」
しかめっ面で、現状を口にするステファンとマシュー。
「はいぃ?」
「オホホホホー」
駆け寄ったアマーリエに、昨日領都を出て、ローレン、ユグ、途中の村々、ロトリーと転移魔法で短時間小刻み移動を強制的にさせられた話を、ステファンとマシューが交互にする。横で話を聞いている南の魔女は、笑ってごまかしているが。
「え、南の魔女様もネスキオさんもお土産、帝国に戻る時に、山程買ったって言ってたのに、戻ってくる時にまた、買ってったんですか?」
「ちょっとだけよぉ」
土産物のせいで、なかなかアルギスが帝国に戻らず、あんちゃんに泣きが入ったのが記憶に新しいアマーリエ。
「ああ、ローレンで牡蠣を殻付きで三樽分」
マシューが樽の大きさを腕で示し、ステファンが指三本立てて、強調する。
「え、そんな大きな樽?しかも三樽分?何をする気だ何を?」
「牡蠣料理がぁ、美味しかったのよぅ!色んな味の焼き牡蠣!カキフライの旨味と言ったらぁ!お肌もプルプルになるしぃ!」
「そりゃ、牡蠣は美味しいですよ。美容にも健康にもいいです。でもですね、そんなにいっぱい、誰と食べるんです?」
「大丈夫よぉ!ダニーロさんに頼むんだからぁ!」
アマーリエの疑惑の眼に、巻き込み先は別と訴える南の魔女。
「それだけじゃないんだぜ。ユグで、お菓子や乳製品を山程」
ステファンの言葉に、マシューが体格を活かして全身で、それは大きな山を描いてみせる。
「……アイテムバッグ新調してたから、その山が誇張じゃ無いのが、恐ろしい。買い占めか?ご領主様、買えなくなってたら卒倒しそうだな。太りますよ、南の魔女様」
「里のジジイどもに奪われちゃった分を、補充しただけよぉ!何も一度に、山程食べたりしないわよぉ!」
「途中の村々で、その村の特産品、目一杯。アイテムバッグに物が入らなくなったのを、初めて、俺は見た」
領都でアマーリエと拡張の少ない廉価版のアイテムバッグを作った時は、容量少なめの空間拡張だったため、ものを目一杯入れる実験はしなかったステファン。
アマーリエがこんぐらい入ればいいと、持ってきた食料品が問題なく、入って出せた時点で、商品化した。
容量が大きな空間拡張の方は、入れる物のほうがすぐになくなり、ここまで入るなら問題ないだろうという注文者との意見の一致を見れば、実験を終了させてた。
そのため、限界までアイテムバッグに物を入れるということをしたことが、実はなかったのだ。
「知ってるか?リエ坊。アイテムバッグが、ペッて吐き出すんだぜ!俺は、そんなことがあるのを、生まれて初めて見て、感動したぞ」
わざと握りこぶしを作って、感動を演出するステファン。
「初めて聞いたよ、そんな話」
リュックの入れ口が、ペッと物を吐き出すところを想像して、渋い顔になるアマーリエ。
「あたしだってぇ、入れたもの吐き出されるなんて思いもしなかったわよぅ」
「ああ、そうだ!南の魔女様、俺が預かってる分、いつ渡します?」
「……」
「で、弟子の分よぉ!」
ステファンとマシューの言葉を聞いて、南の魔女をじーっと見るアマーリエ。南の魔女は、必死で言い訳をしている。
「ロトリーで温泉をちょっと堪能できたが。温泉!あれは良いな!」
「また行きたいな!」
「また行きましょぅねぇ!いくらでも連れてくわよぅ!」
温泉を思い出したのか、ちょっと表情が緩むステファンとマシュー。南の魔女も、懐柔しにかかるが、二人ともすぐにげっそりした顔に戻って結論を言う。
「「マジ、強行軍だった。馬車でのんびり移動したほうが、まだ、楽だったんじゃないかって思えるぞ」」
「……反省してるわよぉ。でぇもぉ!ここの街道に美味しいものがありまくりすぎなのよぉ!」
「ありゃりゃ。そこまで小刻みに転移魔法使ったんだ。おっちゃんたち、お疲れ様。南の魔女様も街道筋の村々の経済活性にご協力感謝します?」
アマーリエの同情に、深ーく頷く二人。南の魔女は、すっと目をそらしたが。
「それでリエ坊は、ちゃんと隔離生活やってんのか?」
「ぼちぼち?」
「大隠居様もこっちに居るんだろ?迷惑かけんじゃねーぞ」
「迷惑をかけるつもりはサラサラ無いんだけど、状況がそれを許さないっていうかねー」
「親方衆にも、あれこれ頼んでるだろ?無茶振りするなよ」
それぞれの工房について早々、親方たちや他の職人衆となんやかんやと仕事の話で盛り上がったステファンとマシュー。当然、アマーリエからの依頼や伝説級装備たちの話も聞いている。
「そこはそれ、皆の平和と楽しい毎日のためにですねー」
のらりくらりと、二人の追及をかわすアマーリエ。そこにヨハンソンが、ソニアと一緒にやってくる。
「ステファンさん!マシューさん!おはようございます!」
「「ヨハンソン、おはよう」」
「見て!俺の奥さん!美人で気立てが良くて、料理もうまくて……」
アマーリエたちの会話に割って入ったヨハンソン。妻の紹介というものを遥かに越えた嫁自慢が、とどまることなく披露される。矛先が変わって、そそくさ逃げ出すアマーリエ。
「えーっと?」
ブリギッテが新顔の方を見て、アマーリエに首を傾げる。
「縦にも横にもでかい方が、鍛冶士のマシューさん。フェラーリ親方の預かり」
「ふむふむ」
「中肉中背の無精髭な方が、ベルク親方の息子さんの工房兼お店で魔導具士をしてるステファンさん。ふたりとも、魔導焜炉作ってくれた、領都の馴染みの職人さんだよ」
「おお!魔導焜炉の製作者なんだ!」
「「リエ坊!弟子も一応居るから、今は鍛冶師だ」魔導具師だ」
「偉くなったんだねー」
「「ご領主様のせいで無理やりな!」」
ウィルヘルムとダールに、無理やり弟子をつけられ、職人育成もやらされた二人であった。他のベテラン職人たちも同じだが。
もちろん、その御蔭で二人の親方達は、領都でも王都でもバルシュテイン辺境伯のバックアップを最大限受けられているのだが。
「で、弟子はどうしたの?」
「そこそこモノになったら、王都に連れて行かれちまったわ!」
「(ドナドナか!)ああ、王都支店の方にね。師匠より先に都会デビューする弟子かー。結局、二人とも、私と一緒で田舎に隔離だねー」
「「うるさいやい!」」
「ここの親方のほうが、王都の職人衆より腕は上なんだ!」
「むしろ、辺境でもここのほうが花形なんだ!」
「「俺たちは隔離じゃないやい!」」
「それで、おっちゃんたちが、うちに来たってことは、パン買いに来たんだよね?」
「「ああ!昼飯買いにな!」」
「まいどありー」
二人に、今月のおすすめ、オークのもも肉のカツサンドと根菜スープを売りつけて、ヨハンソンごと店から仕事先に追いやった、アマーリエであった。
店を閉める頃に、大神に連れられて村に戻ってきたシルヴァン。
「リエちゃーん!ただいま~!」
飛びついてきたシルヴァンを抱き上げる、アマーリエ。
「お帰り!ちょっと顔つきが精悍になったかな?」
「ムフー」
「あ、いつもの顔にもどった」
「むー」
「シルヴァン、おかえりぃ。いらっしゃいなぁ」
「南の魔女さまー!ただいまー」
アマーリエからシルヴァンを受け取って、シルヴァンを愛で始める南の魔女。かなり癒やしが、足りてなかったようである。
「南の魔女」
「久しぶりねぇ、大神様。相変わらず、憎たらしいくらい美形ねぇ!」
「?」
南の魔女に褒められている感じはわかるのだが、憎まれ口がよくわからず、首をひねる大神。
「大神様、いらっしゃいませ」
「リエちゃん、来たぞ」
「うーん。その【リエちゃん】がなんかむず痒い。アマーリエか、リエでお願いします。なんか違うんだよなぁ、ちゃん付け」
「確かにぃ」
アマーリエの言葉に頷く、南の魔女。超絶美形から出る、名前のちゃん付けが、あまりにも不似合いすぎて居心地が悪くなった二人。
強いて言うなら、痒いところがわからないのに、痒くなるという心地に、もぞもぞしている。
「では、リエ。今日から頼む」
「あ、それなんですけど。大神様、宿をとってあるので、そちらで寝泊まりお願いします」
村の衆に、噂の種を与える気がサラサラないアマーリエであった。
「?」
「大神様ァ、宿には私が案内するわぁ。先に、投宿手続き済ませちゃいましょ!」
「良くわからないが、そうした方がいいのか?」
「ええ、お願いします」
「ししょう!また後でね!」
「わかった。後でな」
アマーリエは、南の魔女に素直についていく大神を見送り、シルヴァンには、南の魔女の土産のチーズケーキがあることを教える。
「南の魔女様からもらった、ユグのチーズケーキあるよ。食べる?」
「食べる!」
いそいそとアマーリエの後にくっついて厨房に入るシルヴァン。
「ベイクド、スフレ、レア。三種類あるよ」
「ちょっとずつ全部!」
「いいよ。ユグ村のお母さんたち、かなり腕上げてきてるからね、美味しいよ〜」
「はぅ」
「はい、どうぞ」
アマーリエから、チーズケーキを載せてもらったお皿を受け取る、シルヴァン。
「二かいで食べる!リエちゃん見ててね!」
小鼻を膨らませ、シルヴァンが亜空収納魔法を披露する。亜空に空間を作り、ケーキの乗った皿をしまい、また取り出してみせる。
「お!出来るようになったんだ!」
「うん!」
大神の、ミスタージャイアンツ方式の指導に頭を抱えたシルヴァンは、念話でアマーリエに助けを求めたのだ。アマーリエに、なんにもない場所にファスナーがあって、その奥にしまう袋が開いてるイメージをしてみたらと教えられ、最初は森で拾ったどんぐりをしまえる程度の大きさから始めたシルヴァン。
今はなんとか、パン一斤程度をしまえる大きさまで広げられるようになった。
「頑張ったね」
「がんばった!」
真顔で頷くシルヴァンの頭を撫ぜ、一緒に二階に上がり、シルヴァンから修行の話を聞くことにしたアマーリエだった。
部屋の中より、外のほうが涼しいですね。
風は冷たいのになぁ。




