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本日二話目の投稿です。前の話をまだの方は、前話にもどってくださいませー
家に戻ったアマーリエ。作業台で、残り一匙になったドライフルーツの酒漬けを見て、愕然とする。
「シ、シルヴァン?」
「リエちゃーっん、お帰り!」
「ただいまではなく、あんた、これ全部食べちゃったの?」
「あっ!?」
アマーリエに瓶を見せられ、今、気がついた顔をするシルヴァン。たらりと冷や汗が流れ落ちる。
「……おいしくってつい」
地下からバニラアイスを山程持ってきて、そこにたっぷりドライフルーツをかけて食べたシルヴァン。
「あちゃぁ。まいったなぁ。これ、毎年一瓶しか漬けてないんだよ。お酒があんまり手に入らないから」
「えっ!?じゃあ、神様のシュトレンは?」
「これじゃ、無理だなぁ」
瓶の底に残った一匙程度のドライフルーツを見て、どうしたもんかと首をひねるアマーリエ。
「ごめんなさい」
「いや、私も食べちゃだめと言わなかったし、片付けなかったわけだからね」
そもそも、シルヴァンには自由に食材を使わせていたのもあったため、アマーリエが怒るわけにもいかない。それに、いい加減、毎年同じものを作ってお供えするのに飽き始めてもいた。もっと職人の技術使わせろや!という思いが心の片隅にあるのだ。
「うーん、神様には違うものを、今年は送るしかないかな」
お供えを初めて十一年目。今年は違うものでもよかろうと、軽く考えるアマーリエ。
「さっき作ったのは?」
「あれを取り戻すのも、そりゃそれで色々面倒だからねぇ。神様には御免なさいして、違うもので今年は我慢してもらおう。無い袖は振れない!神様はそこまで食い意地はってないでしょ!」
もちろん、食い物の恨みに、人と神の差はなく、ヴァレーリオがパン屋に到着するわけなのだが。
「アマーリエ!シルヴァンは居るか!」
店に走り込んできたヴァレーリオを、アマーリエが慌てて出迎える。
「どうしたんですか?こんな時間に珍しい。何かあったんですか?」
いつもなら、夕の祈りの時間で神殿に居るはずのヴァレーリオに驚く、アマーリエ。
「神託が降りたんじゃ!」
「え、また?あ!捧げものが無くなったから!?あー、食い意地のはった神様っぽいからなぁ。なんか、注文あったんですか?」
「はぁ?そなた何を言っておる?神託はシルヴァンにだ!ん?またってどういうことだ?」
シルヴァンは自分の名が出たので、慌ててアマーリエたちのところに行く。
カクカクシカジカとアマーリエが昔の神託を話し、今年は、こうこうこれこれで捧げものを変えなきゃいけなくなったとシルヴァンが話す。
それを聞いたヴァレーリオが無表情になって、先程の神託の内容をアマーリエとシルヴァンに告げる。
三人の間に、沈黙が降りる。
「……神様、おこちゃった?一年に一回だけの大好きなおやつ、食べられなくなちゃったんだもんね」
「……いや、違う!シルヴァン。そんなことは関係ないはず」
「食い物の恨みって……ムゴゴゴ」
「アマーリエ!」
ヴァレーリオが焦って、アマーリエの口を手で塞ぐ。
「神でん長様、神せいの森ってどうやっていくの?」
「ぬっ。そもそもあるのは知られておるんだがな、正確な場所が伝わっておらぬのよ」
しょんぼりしているシルヴァンに聞かれて、アマーリエの口をふさいだまま、難しい顔になるヴァレーリオ。
「むーむー」
「何だ?アマーリエ」
アマーリエに腕をタップされて、塞いでいた手をヴァレーリオが離す。
「ブハッ。神狼にあったことがあるって、南の魔女様、言ってたことがありますよ」
「そうか!よかったな、シルヴァン。南のに連れて行ってもらえ!」
「いや、よかったってなんですか、神殿長様。他の捧げものじゃ駄目か、北神様に確認できませんか?食べそこねたからって、シルヴァン修行に出すってあんまりですよ。神託聞き直してみてくださいよ」
流石に、シルヴァン一人で修行に出すとかあんまりだと思うアマーリエ。シルヴァンが居なくなると困るとちょっと思ったりもしたが。
「無茶言うな。神託なんてものはそうそう降りてくるもんでもなきゃ、こっちから尋ねるようなもんじゃないんだ」
「いきなり過ぎますよ、納得いかないっていうか。前みたいに大泣きしてごねてみようかな?」
神託を完全に食い物の恨み扱いにするアマーリエをみて、ヴァレーリオが諭しにかかる。
「いや、アマーリエ。泣いてごねるって、そなたいくつだ!」
「前回、それで神託降りたみたいだし」
もちろん、アマーリエが泣いたから神託が降りたわけではない。神が自身で決めたルール(ちょこっとだけ食べて、民に戻す)を自身が破ってしまったため、そのつくろいをする必要が出たのだ。
「それにだな、そもそもこの神託が、食い物の恨みとは限らんだろ?シルヴァンが次代を担うために、修行する必要があるからこそ、神託が降りたかもしれんだろう?」
食い物の恨みなどという、低次元な神託を受けたなどと思いたくないヴァレーリオが、必死で神託を正当化する。神に仕える身であるヴァレーリオ、仕える神様には気高くあってほしいのだ。
「そうかもしれませんけど、前科がねー」
自分のときの神託が微妙だっただけに、猜疑心たっぷりのアマーリエ。そこにひらりと紙が一枚舞い落ちる。シルヴァンがそれを拾い上げて、読み上げる。
「『しゅぎょうにはげみ、皆の助けとなる次代のおおかみになるようつとめよ』って、なんかふるえた字で書いてあるよ。あ、ココなんか文字がにじんでる」
シルヴァンから紙を受け取ったヴァレーリオが、その紙を見直す。横からアマーリエが覗き込んで確認する。
「ほんとだ!字が小刻みに波打ってるよ。なになに、『修業に励み』、『み』がちょっと滲んでいるね。『皆の助けとなる次代の大神になるよう努めよ』だって。ほんと書いてるわ。うわっ、まじもんか?で、期限がないけど、いつまでなの?シルヴァンが階級が上がるまでとか?それいつになるの?」
「え、リエちゃんたちとさよならなの?」
アマーリエの言葉にうるうるし始める、シルヴァン。そこにまた一枚ひらり。アマーリエが今度は拾い上げる。
「『修行は来週から今年の生誕祭の前の日まで。追伸、捧げものは忘れずに!』だってさ」
「……」
無言でアマーリエから紙をひったくり、内容を確認するヴァレーリオ。神託は、一言一句、アマーリエが読み上げたとおりであった。
「やっぱ、食い意地張ってんじゃん、神様」
誰に言われようとも、アマーリエだけには北神も言われたくなかったであろう。二枚の紙は、キラキラ輝いてヴァレーリオの手から消えていく。
「ゴホン。アマーリエ、シルヴァン。御神託のままに、だ。いいな?」
「あーあ。シルヴァン、じゃあ、お泊りの準備しようか。あー、神狼に何持っていったらいいんだろうね?」
「は?」
「いや、預かってもらうんですし、その労をねぎらう必要があると思うんです」
「それはそうだな。大事なことだ。神狼もとばっちり食らったようなもんだしな」
ヴァレーリオは後半をボソボソつぶやくが、アマーリエは地獄耳でそれを拾い上げる。
「なんだ、神殿長様も本当は……」
「南のと連絡取ろうか、アマーリエ?」
うにっとアマーリエの頬をつまんで軽く横に引っ張るヴァレーリオ。
「ひゃい」
そんなこんなで、アマーリエが南の魔女に念話で連絡を入れる。
『えぇー!?シルヴァンがぁ!?急ぎなのぉ?』
『来週には行かないとまずいんですけど、南の魔女様、そんな急に戻ってこられます?』
『むーりぃー!里のジジイどもがゆうこと聞きゃしないのよぉう!』
『はあ、そりゃ大変ですね。どなたか、神聖の森の場所を知ってて、神狼と顔繋ぎしてくれそうな方、ご存じないですか?』
『むぅ、あたしが行きたいのはやまやまなんだけどぉ、こっちも放り出すわけに行かないしぃ。西のにぃ頼んでみなさいなぁ。後でぇ話をゆっくりぃ聞かせてよねぇ!』
そう言って念話を切ろうとした南の魔女をアマーリエが慌てて引き止める。
『南の魔女様!まだ!』
『なぁにぃ?』
『神狼の好きな物ご存じないですか?』
『あぁ?好きな物ぉ?聞いたことないわよぉ』
『お肉とか?』
『あのねぇ!魔狼の進化先よ?もとは魔物よぉ?食べるほうがおかしいんだからねぇ!』
『困ったなぁ。迷惑かけるから、なんかあったほうがいいと思ったんですけど』
『ああぁん、気遣いねぇ!ならぁ、あんたのとっておきのぉ美味しぃものでもぉ、シルヴァンに持たせなさいなぁ!』
『結局、そこに落ち着きますよねー。わかりました!お仕事頑張ってくださいね!素敵な美容用品作って待ってますから!』
『頑張るわよぉう!じゃあ、またね!』
アマーリエは、念話を終えるとヴァレーリオと一緒に西の魔女にシルヴァンの送り迎えを頼みに行くことにした。もちろん当事者のシルヴァンも一緒についていく。
神殿に着くと、西の魔女はお腹をすかせて待っていた。
「待ちくたびれたぞ」
「先に食事にするか」
「手伝います」
西の魔女の催促に、ヴァレーリオが夕食を先にすることを決め、アマーリエとシルヴァンが用意を手伝う。
「西の魔女様、店番ありがとうございました。当番の割り振りどうされたんですか?」
ヴァレーリオの作ったカレーライスを食べながら、アマーリエが温泉旅行のときのお礼を言う。
「ああ、私は最初の三日受け持ったんだよ。残りの六日は古代竜の夫婦だね」
「なるほど。その後ダンジョンに実験に行ってたんですね」
「そうだよ。捕獲網もうまく出来上がったよ!ふふふ、さて、店番のお礼にあんたに何を頼もうね?」
「あ!魔女様、追加で頼み事があるんですよ」
「?」
「リエちゃん、ぼくが言う」
「どうしたい、シルヴァン?」
「西の魔女様、あのね……」
カレーを食べながら、シルヴァンの話に耳を傾ける西の魔女。時々、驚いて、カレーが別な場所に入り込みそうになり、むせながらではあったが。
「はぁ。また、えらく面倒なことになったね」
「神狼のとこに行くの難しい?」
「いや、行くのは難しくないし、森に入るのも大したことじゃないよ、私達エルフにはね」
「神狼に会うのが難しいんですか?」
「森を守るのが、アレの役割だからね。用がなければ引っ込んでるのが普通だからねぇ」
「え、じゃあ、シルヴァンが森で暴れたら出てくるとか?」
「「いや、なんでそうなる?」」
アマーリエが手っ取り早い方法を提示して、西の魔女とヴァレーリオから突っ込まれる。
「そもそもですけど、神狼の方に修行の話は通ってるんですかね?」
「「さあ?」」
アマーリエの言葉に首を傾げる二人。
「もしかして、会ってもらうのも修行の一環とかありませんよね?」
「そーれは、否定できないね」
「それもありそうじゃな」
神狼に会えるのかすら怪しくなってきたシルヴァン。
「い、いちおう、きげんもらったし、話はしたんじゃないかな、神様」
不安になったシルヴァンが、一応神のフォローをする。
「まあ、とにかく、準備して会いに行こうじゃないか。シルヴァンもそれでいいね?」
成り行きに任せることを推奨した西の魔女に、他に方法もないので納得したアマーリエたちであった。




