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アマーリエは秋刀魚をアイテムボックスに残し、牡蠣と調味料と野菜と炊きたてのご飯を持って、厨房に戻る。
最近、アマーリエは朝にご飯を炊いて、アイテムボックスに保存するようにしているのだ。
「お待ちかねの、牡蠣だぜ!」
「「「牡蠣ー!」」」
ウェーイと盛り上がる料理人達とアマーリエ。
「へい!どう食べましょうかね?」
「その顔は、色々あるんですね」
アマーリエの顔を見て、ワクワクが止まらないダニーロ。
「何と一緒に食べるかにもよりますね」
「一緒に食べるもの?」
「パンで食べるのか、お米で食べるかによってです」
「あー」
「なるほど」
お米に慣れてきたパトリックとダニーロが、アマーリエの言葉にうなずく。
「では、まず牡蠣の調理法を聞いてからでもよろしいですか?」
「いいですよー。まあ、普段どおり生で食べる」
「生は今回はなしで」
「「賛成!違うものが食べたい!」」
「んじゃぁ、殻焼きは色々できますよ。塩焼き、醤油焼き、パン粉焼き、他色々。身を外してカキフライ、カキのグラタン、鍋は味噌仕立て、水炊き色々あるよ」
このところ、味噌や醤油にも慣れはじめ、増やされた選択肢に悶絶し始める料理人達。
「ああ、牡蠣のオリーブオイル漬けも保存が効く上に色々使えて便利ですねぇ」
「「「おおう」」」
「決められない!」
「んじゃぁ、お行儀悪いですけど、厨房でちょこちょこ食べながらやります?」
ニヤーっと笑うアマーリエに、コクコクと赤べこのごとく頷く料理人達であった。
アマーリエは、廉価版魔導コンロを作業台の上に取り出し、その上に村の金属細工士に作ってもらった焼き網を乗せる。
「あ、新しい調理器具?なにそれ」
パトリックが焼き網を取り上げてしげしげと見る。それを横からコッホとダニーロが手を伸ばす。
「ただの、焼き網。今から焼き牡蠣に使うから!みなさん、牡蠣の剥き方は大丈夫?」
焼き網をコンロに戻させて、牡蠣剥きを確認するアマーリエ。問題なく、皆が牡蠣を剥き始めたので、そのまま殻焼きに移ることにする。
「このまま、なんにもかけずに焼く、レモン汁、白ワイン、バター、粉チーズ、醤油、パン粉、パセリ、お酒で溶いた味噌、好きにかけて焼いていきましょう」
「「「おー!」」」
それぞれ、殻の上の牡蠣に調味料を少しずつかけ、コンロで焼いていく。アマーリエは、薄く切ったバゲットと軽くよそったご飯を用意してそれぞれに手渡す。
程よく火の通ったところで、殻から牡蠣を取り出して口に放り込む料理人達。
「ムホッ」
「アチッ」
「ムフッ」
熱々の牡蠣にワタワタしながらも、コクのある牡蠣のエキスと調味料のコラボに表情が緩みだす。
「「「うまーっ」」」
「ショウユは万能!」
「バターとショウユって罪過ぎるぅ」
「その後に塩とレモンでさっぱりもいい!」
次々牡蠣を焼いていく料理人達から、フライとオイル漬けにする分を確保するアマーリエ。
「ミソ焼きをコメと一緒に食べてもうまいですな!」
「バターにちょっと醤油、パン粉とパセリを振り掛けるとなかなか見栄えのする一品になりますね」
「ワイン垂らして、空いた殻で蓋をすると酒蒸しっぽくなるんだ!軽く炙ったバゲットに乗せて、粉チーズをかけて食べると美味しい」
料理人たちはあれこれ、お互いに調味のポイントを教え合いながら、焼き牡蠣を堪能する。
アマーリエは、カキフライとオイル漬けの準備に移る。
「はいはい、皆さん、ほかもあるんだから程々に」
「「「そうだった!」」」
「先に牡蠣のオイル漬けね。時間がちょっとかかるんで」
「「「はーい」」」
アマーリエは、作業台の上に調味料を取り出す。
「えっと、材料は塩とオリーブオイルに、これはなんのお酒です?」
並べられた調味料のうち、薄く黄みがかった液体を手にとって、匂いを確かめるダニーロ。
「米でできたお酒ですね。ダンジョンから出ます」
「「「味見を?」」」
「……量が少ないですから、ひとさじずつね」
宴会にまで発展させたくないアマーリエが、あえてケチくさいことを言う。
お酒の入った瓶から器用にスプーンにお酒を垂らし、味見する料理人達。口々に感想を言い、もっとと言うのをなだめすかして調理の方に集中させるアマーリエ。
「簡単にできるんだから、おとなしく見る!」
「「「はいー」」」
アマーリエは、殻から取り出した牡蠣を、ボウルに入れ、そこに塩を振り入れる。
「剥き身の牡蠣25個ぐらいに対して、粗塩、大匙半分をまぶし、優しく混ぜます」
「「「ふむふむ」」」
「何度か水を変えながら、きれいに牡蠣の汚れを洗い落とします」
魔法で水を出しながら、牡蠣を洗うアマーリエ。そして、ザルにあけて水を切り、汚れた水は浄化魔法で消してしまう。
「きれいにしたボウルに牡蠣を戻し、お酒を半カップ分入れ、鐘四分の一ぐらいの間、漬けておきます」
「なぜに?」
「牡蠣の臭みを消すのと牡蠣の中の水分を抜くのと、牡蠣に残ったお酒が火を通すことで甘くなり、よりコクが出るからです」
「ふむ」
「ホイ、お酒に漬けてる間に、お次はカキフライですよ」
牡蠣の入ったボウルを脇に避け、カキフライの準備を始めるアマーリエ。
「あ、衣つけるよ」
「なら、私は揚げますよ」
パトリックが慣れた手付きで牡蠣に衣をつけ始めると、ダニーロは鍋に油を入れ温め始める。
「私は?」
「コッホさんは私と一緒にタルタルソースを作りましょう」
「新しいソース!」
タルタルソースができるのを見て、ダニーロが牡蠣を揚げていく。そして揚げたてのカキフライに、皆でかじりつく。
「ハフッ」
「んんん!」
「うまっ!」
「さすが、ダニーロさん!丁度いい火の通り方ですね」
「半生ぐらいですかな。牡蠣は火を通しすぎるとだめなんですな」
アマーリエとコッホが、牡蠣の火のとおり具合の良さに頬を緩める。
「牡蠣の旨味が油のコクと合わさって、実に美味しい」
「油がキツければ、レモン汁をかけるとさっぱりしますよ」
揚げ終わったダニーロも食べる方に参加する。
「ショウユにつけてみよ」
「タルタルソースをください」
「付け合せにキャベツの千切りしますね」
アマーリエとパトリックが、ササッと千切りキャベツを皿に盛る。
「揚げ物には、やっぱりこの千切りキャベツですね」
「キャベツには胃の調子を整える効果がありますから、油ものの料理には必須ですね」
キャベツのビタミンUは、胃の粘膜や胃壁を保護する効果があるのだ。
「食べ合わせも大切なんですね」
「「「あっ!?もうない!?」」」
あっという間に空になった皿を見て、愕然とする料理人達。
「いやいや、なぜ驚く。十分食べてたから。じゃあ、牡蠣のオイル漬けの続きを」
「「「もっと食べたいような……」」」
「コッホさんもダニーロさんも、いい年なんだから、揚げ物はほどほどにねー。ほらオイル漬けは、後、フライパンで牡蠣を焼いて、瓶にオリーブオイルと一緒に漬けるだけですから!」
「「ムゥ」」
年甲斐もなく膨れる、料理長ズをなだめながら、パトリックと一緒に牡蠣を焼いていくアマーリエ。
「もう牡蠣ないし」
「「「えっ!?鍋は?」」」
「鍋はまたの機会ですねー」
殻だけになった木箱二つを指差して、苦笑するアマーリエ。
「おや、いつの間に?」
「何個食べたんだろ?」
「あらら。もうありませんか?ローレンに牡蠣の注文をしておきましょう」
ダニーロも、横から木箱を覗き込んで苦笑する。
「はい、焼けたよー」
パトリックの声に、アマーリエが浄化魔法をかけた瓶を用意する。
「牡蠣から出たお汁ごと瓶に入れてください」
「わかった」
「オリーブオイルをひと煮立ちさせて、瓶の中に注ぎます」
アマーリエは、小鍋で、オリーブオイルを沸かし、瓶の縁ギリギリまでオイルを注ぐ。
「蓋を締めて、粗熱が取れたところで冷蔵魔法をかけて冷やし、アイテムボックスに放り込んでおけば保ちます」
「「「味見?」」」
可愛らしく小首をかしげ、フォークを握りしめる料理人達。
「しょうがないなぁ。ほんとは一日は置きたいんですけど。ここは私の裏技、時間経過の魔法をかけてっと……」
瓶の蓋を開け、牡蠣のオイル漬けをスライスしたバゲットに乗せ、手渡すアマーリエ。
「ムフッ!」
「旨味が凝縮してる?」
「色々使えそうですな」
「色々使えますよ。コメを炊くときに、一緒に入れて炊いたりとか、パスタの具でも、そのままつまみにでも。漬け油はパスタのソースや炒め物に利用するといいですよ」
「「「では、早速!」」」
「やんないからね」
「「「えー」」」
「もう十分食べたって!余ったお茶会用のお菓子食べるんでしょ!」
ぶうぶう言う料理人達をいなし、作業台の片付けを手伝わせる。
「居間に行っててください。お茶入れてお菓子持っていきますから」
お菓子に心を移した料理人達が、いそいそと二階に上がっていく。アマーリエは、お菓子に合うお茶を用意し、その後に続く。
「パトリック、ローレンにいくつ牡蠣を注文しましょうね?」
「オイル漬けも作りたいですよね?」
「ええ。かなりの量を注文しないとですね」
早速、食堂用にいくつ牡蠣を注文するか話し合い始めるダニーロとパトリック。
「ローレンの料理長に、レシピを送らねば!」
「コッホさん任せていいですか?」
「任せておきなさい!」
面倒事をコッホに押し付け、気になったことをダニーロに聞くアマーリエ。
「ダニーロさん、ダンジョンに海があるって聞いてるんですけど、ご存知ですか?」
「ええ、聞いたことはございますよ」
「牡蠣も獲れたりするんですかね?」
「どうでしょう?そもそも、冒険者で海のものを持ち帰ってきてる方はいらっしゃるのでしょうか?」
ダニーロが首を傾げて言う。
「え、ダニーロさんは聞いたことないんですか?」
「ええ。かれこれ十年以上、アルバン村におりますが、聞いたことはございませんね」
「「そうなんだー」」
アマーリエとパトリックが驚く。
「ベルンさん達に、聞いとけばよかったー」
「そうだね。また来年、冒険者が戻ってきたら、リエちゃん、依頼でも出してみたら?」
「そうしますー」
そんなこんなで、牡蠣を堪能した後、二階の居間でゆっくりお菓子を食べて楽しい時間を過ごした、アマーリエと料理人達であった。
一方、領都では。
アマーリエから受け取ったお茶会のお菓子を、ダールがマルガレーテ達に見せに行く。
「「まあ、まあ、まあ!」」
「素晴らしい出来ですわ!」
「さすがアマーリエね」
「お茶会は間違いなく成功ですね」
キャッキャ喜ぶ母親と妻を見て、フリードリヒが太鼓判を押す。
「コッホ料理長たちも、お菓子作りに巻き込まれたようですよ」
アマーリエからの言付けを読み上げるダールに、フリードリヒが、料理長はいつ頃温泉村の方に移動するのか聞く。
「それがですな……」
「すみません、父上。休暇の期限を切るのをすっかり忘れていまして」
「「「は?」」」
ウィルヘルムの言葉にしばし固まる、マルガレーテ達。
「アマーリエから学ぶことがなくなるまでは、移動しそうにないかなって」
エヘッと笑って、お茶会のお菓子に手を伸ばす息子の手をはたき落として、氷の微笑を浮かべるルイーゼ・ロッテ。ダールがすぐさま、アイテムボックスにお菓子をしまい込む。
「ウィル?お菓子を食べたいのなら、茶会に参加しなさいね」
「は、母上?」
「ウィルや?コッホが戻るまでお菓子抜きですよ」
「お祖母様!?なぜ!?」
「休暇の期限を決めずに、使用人を休みに出すとは何事ですか!いいですね、ダール」
「うっ」
「承りました」
ウィルヘルムは、マルガレーテに処罰を言い渡され、慌てて父親にすがる視線を向けるも、あっさりフリードリヒに首を横に振られ、泣き崩れることになる。
そんなこんなで、ウィルからの手紙が更に増えることになるアマーリエ。だが、黒ヤギアマーリエは一切、ウィルヘルムからの手紙を見なかった。




