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パン屋の営業が終わってすぐに、シルヴァンと黒紅が送ってくれた果物を、マルガレーテ達のお茶会用に加工しはじめたアマーリエ。
そこに料理人という名のカモが三羽、ウキウキと牡蠣という名のネギを持ってやってきた。
「え!?奥様たちのお茶会に新作のお菓子!?レシピ知りたいんだけど!」
「りんごと梨と栗のお菓子ですか??それはどのような?」
「一口でいろいろな味が楽しめるですと!?」
「手伝っていただけると、とっても助かるんですが。牡蠣の新レシピも教えますよ」
ワクワク顔で詰め寄る料理人三人を、かかったなと、いい笑顔でまとめて狩る猟師。
「「「もちろん手伝うよ!」」」
「あぁりがっとぉう!」
勢いよく言う三人に、こちらも機嫌良く返すアマーリエ。もちろんコッホから木箱を受け取り中を確認する。
「わぁ!立派な殻付きの牡蠣ですねぇ」
「でしょう!ローレンの料理人が、ぜひ新しいレシピを知りたいと送ってきたんですよ」
コッホが勢い込んで言う。ただ、昼間のバイキングでかなり消耗しているため、従来のコッホの暑苦しさの八割減といったところで、アマーリエが対処できる程度に落ち着いている。
バイキングのおかげで八方良し状態のアルバン村であった。
「あはは、みなさんもでしょ?」
アマーリエの言葉にエヘッと笑う三人。
ちなみに、牡蠣は旬の時期に生で食べるか、殻ごと焼くのがローレン流である。
ローレンの料理人が、なんか新しいレシピない?と、アマーリエとコッホあてに牡蠣を送りつけてきたのだ。
「あ、秋刀魚も入ってる!なになに?あんまり人気がないが、漁獲量が多いから困ってるとな?どうやって食べてんだろ……。えーっと」
一緒に入っていた手紙を読むアマーリエ。
「え?サンマ?」
「なんです?」
「私の箱には牡蠣しかなかったが?」
首をかしげる料理人たちに、アマーリエは木箱の中の魚を指差す。視線は、まだ手紙に向けたままである。
「スープの具にしてる?具ってどういう状態だろ?……いや、でも、これだけ脂が乗ってるなら、単純に焼けばいいんだけどなぁ(目黒のさんまか……)。パンに合わせるのが、難しいのかなぁ?オリーブオイルに漬けて送り返してみようかしら?その方が、パンやパスタには合うしなぁ」
アマーリエは、木箱に入った脂の乗った秋刀魚と手紙を見て、首を傾げる。料理人三人は、アマーリエの木箱の中を一緒に覗き込んでいる。
「この魚は?」
ダニーロが箱の中の秋刀魚を指差して、アマーリエに聞く。
「秋刀魚と言って、青魚ですね。この時期、かなり脂が乗ってるので、脂を落としながら焼いて、お醤油垂らして米と一緒に食べるのが、最高に美味しいんです。魚好きにはたまりません」
アマーリエは前世で、魚が苦手な外国人に、尾頭付きは目と目がバッチリ合っちゃって怖いんだと言われ、意識が遠くなりかけたことがある。
「「「焼くだけ?」」」
「焼くだけですよ。旬から外れて、脂が少なくなってたら別の食べ方もしますけど。もっぱら焼く一択で、米に合わせます」
「へー」
「ほー」
「はあ」
「でも!明日も店があるし、秋刀魚はまた今度かな。焼くとけっこう匂いが残りますからね。浄化魔法でも厳しいし」
そう言ってアマーリエは、木箱を地下のアイテムボックスにしまいに行く。そして、厨房に戻るとやる気に満ち満ちた料理人三人に、菓子作りを仕込み始めるのであった。
「りんごのクレーム・シブーストは、最後にキャラメリゼというのを行います」
丸型ではなく角型で作ったフイユタージ(パイ生地)の上に、キャラメリゼしたりんごとアパレイユ(クリームを入れた卵液)を載せて焼き、その上にクレーム・シブーストをさらに載せて冷やし固め、粉砂糖をふりかけたところである。
この粉砂糖を焼きごてやガスバーナーなどで炙ってキャラメリゼをするのだが、魔法があるため、アマーリエは、生活魔法の『種火』を応用してりんごのシブーストの表面を焼いていく。
「「「はわわー」」」
砂糖の焦げる甘い香りと表面が飴状に変わる様子に、料理人三人が声を上げる。
「そして!これをこの温めた包丁で、一口サイズに切り分けていきます」
丁寧に、りんごのシブーストを四角く等分していくアマーリエ。
「ふむふむ」
「包丁の切れ味が素晴らしいな」
「一度ごとに、包丁をきれいにして、切り口を美しく保つんだね」
「そうですよー。奥様たちの戦道具ですからね。見栄えは大事です」
そういいながら、切り分けた端っこを、三人に味見させるアマーリエ。
「「「!」」」
「様々な食感が口の中に!」
「表面の飴がパリッと割れて、でもすぐ溶けて、ほろ苦さと上のふわもちっとしたクリームと合わさって不思議な感覚に」
「土台のパイ生地のしっかり歯ごたえとりんごのシャクシャクっとした食感にこのクリーム!」
「「「口の中が宴会だ!」」」
「あははは」
「「「もう一口!」」」
「だめ!後はお茶会用なんで!ほら、まだ他の作業あるんですから、口じゃなくて手を動かしてくださいよ!次は、こっちの栗の甘露煮と栗のクリームを薄いパイ生地できれいに包んでいきますよ」
「「「ちぇー」」」
「夕飯もあるんです!牡蠣食べるんでしょ!後で自分たちで作ってくださいよ!」
アマーリエに追い立てられ、一粒栗のパイ包みをこしらえ始めるパトリックとコッホ。ダニーロはひと夏パイ生地を研究していたため、梨のコンポートを任されている。
一粒栗のパイ包みは、四角く切ったパイ生地の真ん中に、栗のクリームを絞り金を使って、丸く台座のように絞り出す。そこに栗の甘露煮を載せ、四隅を中央に折りたたみ、同じパイ生地で作ったリボンを飾り付けた後、卵黄で艶出しされ、オーブンに放り込まれる。
「飾りのリボンが……ちぎれた」
パトリックが無残にちぎれたパイ生地を手に、肩を落とす。
「大丈夫。もっかい生地にまとめりゃ、二番生地で使えるから。ほれ、数こなす!貴族女子ってのは可愛いと美しいが重要なんだから」
夏のお茶会で村の元王城勤めのご婦人に、貴族のご婦人方の勝負どころのカンを教え込まれたアマーリエ。
「パイは、色が焼き色だけになるから、造形で勝負なんですな」
目をギラッと光らせ、王城の厨房で教えることが増えたと、さらにやる気に油を注ぐコッホ。
「そうですよ!美味しいのは当たり前!目でまず楽しませる!香りで鼻を、食感で舌を楽しませる!楽しいことがいっぱいなら幸せもいっぱいになるんです!」
「幸せは大事だよな」
「楽しい食事!」
「美味しくいただくのは大切ですね。アマーリエさん、梨の砂糖煮はこんなものですかー?」
ダニーロに呼ばれ、梨に串を通して硬さをみる、アマーリエ。
「これで大丈夫です。冷ましておきましょう」
「次は、タルト生地ですな」
アマーリエが取り出した、小さな木の葉型のタルト型を使って、ダニーロとコッホは一緒にタルト生地を作り始める。
パトリックがオーブンのお守りをし、アマーリエは、皆に説明しながらクレーム・ダマンド(アーモンドクリーム)を作る。
焼き上がった一粒栗のパイ包みを、パトリックは冷まし棚に天板ごと置いていく。
「おお!きれいにリボンが浮き上がってる!これはかわいいな!見てよ、コッホさん!ダニーロさん!」
「ほお!女性が喜びそうですな」
「いい色に焼けましたね、パトリック。このパイも食べてしまうのが、惜しいですね」
「いい感じでしょ!」
キャッキャ楽しみながら、菓子を作り続けるアマーリエ達。
「パトリックさん!料理長さんたちが作ったタルト生地を冷却魔法で冷やしてください」
「了解ー」
「アマーリエさん、手が空きました!」
「こちらの、木の実を軽くローストして、殻から取り出した後、刻んでください。洋梨のタルトの飾りにします」
アマーリエは、コッホにピスタチオに似た木の実を手渡す。
「わかった!」
「ダニーロさんは、梨を切るの手伝ってください」
「ええ」
タルトの材料が揃うとクレーム・ダマンドを詰める役、梨のコンポートを綺麗に並べる役、オーブンに放り込む役と流れ作業で洋梨のタルトを作っていく。
焼き上がったタルトは薄めたジャムを塗って、刻んだ木の実を飾って仕上げる。
できがった菓子類は、お屋敷から届いた銀のトレーに美しく盛られていく。
きれいに紅葉した葉っぱを四隅に飾り、レースのように飾り切りした紙を敷き、その上に、作ったお菓子をきれいに並べるアマーリエ。残りの三人も、同じように銀のトレーに盛り付けていく。
「「「「できたー!」」」」
「はぁ、これは美しい」
「我ながら、惚れ惚れしてしまう」
「綺麗にできましたねぇ」
溜息を零しながら、自分たちの仕事を愛でる料理人達。
「皆様のおかげですよ。ありがとうございました」
アマーリエの方は、手伝いが増えたおかげで仕事時間を短縮でき、ホクホク顔である。シルヴァンが留守で、一人徹夜作業かとちょっと泣きが入っていたのだ。
「いやいや、こちらこそ、色々勉強になりましたよ!」
「王都のお茶会も、さらに素晴らしいものにできそうですね」
「うーん、小さなお菓子もいいね」
それぞれ、お菓子作りの感想を述べる料理人達。
「それじゃ、残ったお菓子は、牡蠣を食べた後のデザートにしましょう!」
「「「やったー!」」」
「ふふふ、これで奥様たちも文句ないはずー。さて、手紙つけて、ダールさんに送っとこー」
盛り付け済みのお菓子にアイスクリーム三種類が入った缶をつけて、アマーリエは地下の転送陣から領都のお屋敷に発送する。ついでに、余ったお菓子をダンジョンの主に送っておくアマーリエ。
自分の国のやんごとなきお方が拗ねるのと奥様方の領地外交という面もあるので、アマーリエは今回はアルギスやあんちゃん、銀の鷹に送るのはやめることにした。
その間に、料理人たちは厨房の後片付けを済ませる。
アイスクリームの盛り付けに関しては、鬼ごっこ大会の時に侍女たちが把握しているので、お屋敷の料理人達がワッフル生地を焼き、侍女の指示に従って盛り付けることになっている。
面倒な仕事を終え、牡蠣を堪能する気満々のアマーリエであった。




