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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第32章 領都の秋のお茶会
142/175

 お昼休憩を終えた商業ギルドのメラニーが、他の職員とともに届いた荷物を宛先ごとに仕分けしている。

「えーっと、こっちの木箱二つはローレンから……。宛先はアマーリエさんとコッホさん?食材かな?」

「そろそろ宿のバイキングの時間も終わるだろうから、先にコッホさんに届けたら?」

 同僚の言葉の後に、鐘五つ(午後二時)の音がする。

「ほら!」

「いってくる!」

 同僚の言葉に、ローレンからの木箱を一つ持って、宿屋の食堂に足取り軽く向かうメラニー。

「ふっふん♪食材が何か、コッホさんに確認して〜♪仕事終わりにアマーリエさんところにも持っていって♪今日は夕飯をご馳走になっちゃおうかな〜♪シルヴァンちゃんたちがいなくて寂しいだろうし!手土産は何がいいかなー?うふふふふー」

 ギルドに届いた、アマーリエ個人宛の食材を、仕事終わりにパン屋に配達に行って、そのまま夕飯のご相伴に預かるところまでがルーチン化しているメラニー。

 すでに、シルヴァン達が泊まりで依頼をこなしに行っているのが、村中に知れ渡っているのはご愛嬌。

 夕飯に美味しいものが食べられそうな予感に、ワクワクしながら、彼女は休業中の札のかかった食堂のドアを抜け、厨房の扉を開ける。

 そして、ちょうど厨房側から扉を開けようとしたパトリックと鉢合わせになる。

「あれ?メラニーさん?」

 死んだ目をしたパトリックが、目の前に現れたメラニーに声をかける。

「あ!パトリックさん!コッホさんは、厨房にいらっしゃいますか?」

「ああ、両、料理長とも厨房でくたばってるよ」

 パトリックは少し扉から体を離し、後ろを振り返って、メラニーにバイキングと戦って力が尽きかけている状態の料理長たちを見せる。

「あらら。コッホさん!ローレンの料理人さんからお届けものですよ!」

「はいー」

 コッホが力なく返事をするも、動く気配がない。

「アマーリエさんのところにも同じ物が届いてますから、きっと今の時期の海産物ですね!」

 それを聞いて、目に力が戻るパトリック。

「リエちゃん宛は、僕が届けに行くよ」

「大丈夫ですよ!パトリックさんはお疲れでしょう?私が行きますから!」

 パトリックもメラニーも、いい笑顔で相手を牽制し始める。

「どうしました?」

「どうした?」

 厨房前での静かな攻防に、生気が少し戻った料理長ズが顔を出す。

「「なんでもありませんよ!」」

「なんでもないわけは、ないでしょう」

 じーっとパトリックとメラニーを見る、ダニーロ。思わず、二人は視線をそらす。

「それがローレンの荷物かな?」

 コッホの方はメラニーの持つ木箱を見て、確認する。

「あ、はいこちらです!ここに確認をお願いします!」

 お届け伝票にサインをして、メラニーから木箱を引きとり、中の確認を始めるコッホ。

「おお!こりゃとれたての岩牡蠣だ!この時期のローレン名物だ」

 コッホの言葉にいい笑顔を浮かべたダニーロが、パトリックとメラニーにさらに強い視線を向ける。

「パン屋さんのところにも同じものが届いているのなら、コッホさん、これも一緒に持っていって、牡蠣の新しい調理法を教わりませんか?」

「ダニーロさん!そりゃいい!お嬢さんのところに行こう!メラニーさん、お嬢さんあての木箱を預かるよ」

「ちょっ!?それは私が配達しますから!お三方とも、昼の営業でおつかれでしょう!?」

「「「いやいやいや」」」

「新しいレシピで」

「美味しいものを食べれば」

「元気になるから!」

「「「ローレンの木箱を」」」

「よこせ!」

「渡してください」

「預かろう!」

「嫌ですー」

 切られた戦いの火蓋は、メラニーを呼びに来た同僚によってあえなく消火される。

「メラニー!いそぎで温泉村に跳んでほしいんだけど!あなたまだ一度も行ってないでしょ?」

 くじ引きに負け続けた結果、未だ温泉村に行ったことがないメラニーをかわいそうに思い、ベーレントが今回の温泉村への同行にしたのだ。

「行く!行きたい!でも、でも!アマーリエさんのところで牡蠣を食べてから行きたいー」

 ライバルの脱落に、顔がほころぶ料理人たち。

「「「我々が届けるけるから、安心しなよ」してください」していいぞ」

「私の牡蠣ー」

「あんたのじゃないでしょ。ほら、馬鹿なこと言ってないで、すぐ出発よ!ベーレントさんが待ってるわよ」

「くうぅう。副ギルド長のバカー!」

 同僚に引きずられるメラニーの後について、木箱を受け取りに行く料理人達であった。





 バーシュク村の果樹園での仕事終わりのお茶の時間、シルヴァンと黒紅は、アマーリエが持たせたアップルパイをお茶請けに出す。

「まあ!美味しそうなお菓子!」

「おばちゃんとこのりんごが中に入ってるよ!」

「じゃあ、早速、切るわね」

 農家の女将さんと娘さんが、手伝いに来た人たちにお茶とアップルパイを渡していく。

「「「……はぁ、このアップルパイ美味しい」」」

 しみじみと幸福を噛みしめる、ブラウニーさん達。

「ほんとにうめーなぁ。これ、うちのりんごだよな?」

 アップルパイにかぶりついた農家の主人(ポム)が、パイの中のりんごを見て首をかしげる。

「そだよー。ポムおじちゃんがあさいちで売ってたやつー」

 ニコニコと、シルヴァンがりんごの出どころを答える。

 特価で売り出されていた、紅玉に似たりんごを店売り用に大量買いした、アマーリエであった。

「うーん、あの酸っぱいりんごが、こんなに甘くなるんだなぁ」

 そう不思議そうに言って、パイにかぶりつく主人。

「すっぱくてかたいほうが、火をとおすのにむいてるんだって」

「砂糖で煮るから、身がしっかりして酸っぱいほうがいいんじゃと」

「そうなんだかぁ。そいで、このお菓子はパン屋さんとこで、売ってるのか?」

「うん!おじちゃんとこのりんごが、買えたときだけだけど」

「主人、なかなか人気での。お昼までに完売してしまうのじゃ」

 シルヴァンと黒紅が口々に状況を話す。

「わしが、パン屋さんとこに、果物を届けようか?」

 更に美味しく食べられるのなら、毎日届けに行ってもいいかもと思ってしまう、ポム。女将さんと娘さんもぜひぜひと頷く。

「あのね、ポムおじちゃんにお願いがあるの」

「そうなのじゃ」

 ここぞとばかり、シルヴァンと黒紅が、果物の年契約を取りにいく。シルヴァンたちの話に、果樹園の一家は、すぐに契約を締結した。

「……しっかりしてんなぁ」

「人型になるとちまいのにね」

「黒紅様、威圧もせずにちゃんと取引終えましたね」

 一緒にお茶をしながら、その様子を眺めるブラウニーさん達。子ども姿のシルヴァンと黒紅のしっかりした様子に、安堵と感心のため息を漏らして、アップルパイを一口かじる。

「「「はぁ、平和で美味しいって、最高ー」」」

 思ったよりも、依頼が順調でホッとするブラウニーさん達であった。

「うにゃ!?」

 一緒にご機嫌でお茶をしていたシルヴァンが、飛び上がる。それを見て、白告の鳩たちも腰を浮かせる。

「あ、おじちゃんたち、だいじょぶよー。ベニちゃんもしんぱいしないで」

 警戒に満ち満ちた視線を冒険者たちから向けられ、へニャリと笑って躱すシルヴァン。

『リエちゃん?』

『シルヴァン、急にごめんね。今、話をしても大丈夫?』

『お茶してるから、だいじょぶよー』

『ほんとに申し訳ないんだけど、そこの農家の人に、林檎と梨と栗を今日、分けてもらえるか聞いてくれる?急遽、必要になっちゃって。地下の転送陣に転送してもらえると、すごく助かる』

『いいよー。ちょっとまってね』

 ちなみにこの農園で栽培されている梨は、洋梨寄りの形と食感である。りんごは、大昔に知恵者の一人が品種改良したせいで、フジや紅玉などに近い品種なども栽培されている。

「ポムおじちゃん」

「なんだい?シルヴァンちゃん」

「あのね、きゅうでもうしわけないんだけど、りんごとなしとくりを今すぐ、リエちゃんに送りたいの。買える?」

「かまわんが、いっぱいいるのかね?」

「ちょとまってね。『リエちゃんいくつー?』」

『林檎と梨は十個ずつ。栗はベリー摘みのときに使ってたかごがあるでしょ?あれぐらいの大きさで二かごぐらい』

『わかったー』

「ポムおじちゃん、あのね……」

 シルヴァンが提示した数に、心安く応じるポム。シルヴァンは、アマーリエに言われた品種と近いものをポムに確認しながら選んでいく。女将さんと娘さんが、すぐに数を多めに用意してくれる。

「わあ!ありがとう!これ代金ね」

「いやいや、今日は助かったし、美味しいお菓子も食べられたからなぁ。おまけだよ!それで、契約したパン屋さんの分はどうするね?」

「しゅっかのおてつだいもするから、その日でいい?」

「おう!それは助かる。じゃあ、契約分は明後日な!」

「はーい!ベニちゃん、パンやのちかのてんそうじんにいそぎで送ってくれる?」

「まかせるのじゃ!『主!今から果物を送るのじゃ!』」

『黒紅ちゃん、シルヴァン!助かった!ありがとうね!』

『どういたしましてー』

『どういたしましてなのじゃ!』

『お仕事頑張ってねー』

『『はーい』』

 そんなこんなで、夜も楽しく農家で過ごすことになるシルヴァンと黒紅、ブラウニーさん達であった。



……二月は逃げる。三月は超ッ早で去るんですね。ね?

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― 新着の感想 ―
[一言] いい話です。 餌付けされた人々がもっとふえるっと、 シルヴァン達便利だ。 それと人人に愛さりてるね。
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