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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第3章 パン屋さんの朝は早いのです
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 アマーリエとファルが薄手の毛布を日の当たる場所に広げる。どうやら、午前中は庭に日が当たるようだ。ダリウスがバスケットから取り出した皿やカトラリー、具材の入った皿とスライスされたパンを真ん中に並べていく。

 各々毛布の上に座り込み、ダリウスから皿とカトラリーを受け取る。アマーリエはリュックから保温マグを取り出してみんなに回していく。

「ムフフン。朝から豪勢だ!いただきまーす」

 ダフネの声に皆それぞれ好きなものを取り食べ始める。

「シルヴァン、はい、お肉」

 アルギスが食堂で別注文したお肉をシルヴァンに与える。

「あ、どうも。シルヴァン、魔鳥のお肉仕入れるからそれまで塩揚げ鶏待ってね」

「オン!」

「食べていいよ」

 アマーリエの許可が出てはじめてシルヴァンは食べ始める。

「あぁら、やっぱり芋っ娘がシルヴァンの主なのねぇ」

「ん~?何気に信頼してる人からは色々餌付けされてるよね、シルヴァン?」

「ウォン?」

「とぼけてもだめ。お前なんだかんだ皆からおやつせしめてるじゃない」

 アマーリエに言われて目をそらすシルヴァンに皆が吹き出す。

「ブッククク。ほんとに利口だな、シルヴァン」

「オン!」

「どのパンから食べますか?」

「このサクサクしてるっていうのからかな」

「分けますね」

 ファルがウキウキしながらパンを四等分していく。

「ん!このサクッとした外側にしっとりした内側!バターのコクもあって美味しい」

「このふんわりしたパン、お菓子みたいね」

「甘いのはあとにしようかな。リエ、これライ麦パンだろ?」

 黒パンを手にしたグレゴールに聞かれて口に物が入っていたアマーリエは黙って頷く。

「……粒マスタードありますよ。ソーセージ挟んで食べたら美味しいです」

 グレゴールに粒マスタードの瓶とスプーンをリュックから取り出して手渡す。

「ありがと。どれどれ……ん!美味い!」

「グレゴール、俺も!」

「ん」

 ベルンにマスタードの瓶とスプーンを渡すグレゴール。

「リエさん、この粒マスタードってお店で売ります?」

 ファルが真剣な顔でアマーリエに尋ねる。

「はい。実家から商業ギルド経由で送ってもらうことになってますよ」

「よし、うちも買うぞ」

 ベルンの即決に、ファルがニンマリ笑う。

「まいどあり~」

「ベルン~あたしにもちょうだぁい」

「はい、どうぞ」

「あ、リエさんマヨネーズありますか?」

「ありますよ。はい」

 アマーリエはリュックからマヨネーズの瓶を取り出して、スプーンと一緒にファルに渡す。

「うふふ。これもすきなんですよね」

「あ、卵のソース。朝説明できなくて、頼めなかったんですよ」

「酢と卵と油があればできますよ?」

「それも教えてね」

「はあ、いいですよ」

 真剣なアルギスの顔にそれほどあんちゃんはわびしい食生活なのだろうかと内心で首を傾げるアマーリエ。

「ね、リエ。後このサクサクしたパンとふんわりしたパンを兄上に送りたいんだけど。甘いパンは兄上は苦手かなぁ?」

「はいはい。今日はおまけしときますよ。良いんじゃないですか送っとけば。家臣をお菓子で釣り上げるのもありです」

 ろくでもないことをアルギスに吹き込みつつ、アマーリエが貸しを積み上げていく。

「ありがとう、そうする」

 きれいな笑みを浮かべて頷くアルギスにアマーリエはげんなりする。

「お、この豆のパン美味い。俺好みだ」

 デザートに突入したダリウスがあんドーナツにかぶりついてにやけている。

「ダリウスってホント甘党よね」

 マリエッタが呆れたように言う。

「いいだろ。子供の頃はめったに甘いものなんて食えなかったからな」

「宿のパンも美味しいですね。商業ギルドはパン職人さんも居るんですか?」

 他所のものが食べられるときはそっちに注力するアマーリエだった。

「あそこは専任の料理人が確か居たな」

 ベルンが首をひねりながら応える。

「あぁ、そうだわぁ。芋っ娘、あんたに話が聞きたいって、その料理人」

「?」

「朝、これの用意を頼んだ時に旅の道中で食べたもの話したら、ぜひ会いたいって言われたんだよ」

「はぁ。時間が合えばいつでもいいです」

「そ?じゃぁ、伝えとくわぁ」

「お願いします」

「はぁ、このクリームパン美味しい」

 ファルが幸せそうにクリームパンを頬張る。

「うん、美味い。リエの作る甘いものは王都や帝都の菓子と違って程よい甘さなんだよな」

「王都の甘いものを食べたこと無いからわかんないですけど、どんなのなんですか?」

 甘いもの好きの若領主に王都の菓子の話を聞いても、俺はアマーリエの菓子が一番好きだからとしか言われず。ダールに尋ねれば、貴女は貴女らしく有りなさいと言われ、先代のフリードリヒは領都に帰ってくる度、奥方と一緒に次に王都に持っていく菓子を山ほど注文して、王都の菓子は気にするなと言われるだけだった。完全に王都のお菓子情報をブロックされていたアマーリエだった。

 領主たちにしてみれば、王都の流行りに毒されて甘くくどい菓子を作るようになられては適わないという、防御一徹の姿勢だったのだ。

「甘すぎたり、硬すぎたりかしら」

 マリエッタが端的に答える。

「うーん?砂糖が高価だからたっぷり使ってより高価さを出してるんですかね?」

「それはあるかもな。後、日持ちするようにかなり焼き締めてるかな。だからかなり硬い」

「砂糖入れ過ぎで焼き締めてあったらそりゃ固くもなりますよ。アイテムボックスあるならそこまで焼き締めなくていいのに」

 首をかしげるアマーリエに、ハッとしたベルンが物申す。

「そうだ!あのな、俺達やお嬢はほいほいアイテムバッグやリュックを使ってるが、そこまで手に入りやすいもんじゃないからな?」

「そうよ。あんた、そこもおかしいからね。普通あんたみたいな町娘が、ひょいひょいアイテムバッグやリュック使ってないからね。高価なものなのよ!冒険者も駆け出しなんか手が届かないんだからね」

「あ~ちょっと前までは領都でもそうでしたね。私は魔道具屋のおっちゃんとあれこれ道具開発して、現金支給の代わりに現物支給してもらったのが色々あるからこの旅で利用できるってはっちゃけてました」

「ちょっと前ぇ?」

 アマーリエの言葉に引っかかった南の魔女が首を傾げる。

「そのリュック気になってたのよね。見せて」

「いいですよ。これも魔道具屋のおっちゃんと鞄屋のおばちゃんと相談して作ってもらった試作君一号です」

 アマーリエはマリエッタにリュックを手渡す。

「……甘いパンのおかわりしてくる」

 話に興味がないダフネが木皿を持って店に戻る。

「入れ口が巾着になってて、結構口が大きく広がるのね。ちょっと、こんな大きな拡張魔法なのに、何この省魔力!ありえない!外のポケットにも拡張魔法付けてる!しかもこっちまで省魔力仕様になってるし!肩紐のところは担ぎやすいように革を当ててるのね。うーん、うちも欲しいわね」

「なぁにぃ、魔法陣の仕様が違うのぉ?気になるわねぇ、あたしにも見せてぇ」

「どうぞ。省魔力ってそんなに変ですか?領都じゃ、だいぶ前から魔力の量を少なくして最大効果を!って研究が進んでますよ」

 魔道具屋の職人になんでこんなに魔力が要るのか、もっと省エネできねーのかよとアマーリエが突っ込み始まった省魔力研究だった。なんだかんだ付き合いの良い魔道具屋の職人によって、バルシュの魔道具屋界隈に革命が起こったのだ。

「これすごいわぁ。なるほど、この方式にすると魔力の量が少なくて済むのねぇ。考えたわねぇ」

「魔道具屋のおっちゃん達と頑張って考えたんです」

「しかも、この陣の簡素化!値段下げられたんじゃないの?」

「はい。うちの街だとアイテムトートバッグが一般向けで普及してます。街のお母さんたちが買い物に重宝してますよ。その普段の買い物量程度の拡張魔法で、省魔力にして発売したんです。そのせいでナマモノ買っても腐んなくなって、母ちゃん達の世間話が長くなったんだっておっちゃんとこに苦情来たんですよね」

「町の人レベルでアイテムバッグが普及するって……」

 アルギスがサンドイッチを手にしたまま目を丸くする。

「技術の発展ていうのはどれだけ普及するかにかかってますから」

「必要な技術は発展し、必要ないものは淘汰されるんですね」

「それに技術登録特許制になってますから、開発を早くして先に登録すればそれだけである程度お金が得られますからね。みんな、隠すほうが損だって認識になってます」

「そうなの?」

 アマーリエの話に首を傾げるアルギス。

「会う機会がありましたら先代様に詳しい話を聞いてみられては?私が子供の頃に領内は各ギルドとも調整して技術やレシピ登録制になりましたよ。その後、すぐ王国内でも登録制になって、管轄のギルドが管理するようになったはずです。登録技術があちこちのギルドに関連するときはその関連するギルド全てにレシピを出すことになってますし、それに関する税金とかの税率の話とかもまとまってたはずです」

「帝国はどうなってるんだろう?」

「それこそ、それに関してはあんちゃんに聞いてくださいとしかいえませんね」

「ああ、そうする」

「うーん?ギルドは基本国の権限と離れた団体だから、帝国であれどこの国であれ、話はそれぞれの国の上層部に通ってるはずだと思うんですよね?うちは領主主導でその上、王様も頑張ったみたいだから、国内の制度は結構早く決まったんですよね。他の国はどうなんだろ?大隠居様ならご存知かな?」

 登録したレシピの特許利用料にかかる税率事体は国で上限と下限を決め、各領地でその範囲内で税率を決めることとなった。最初欲をかいて高い税率に決めた領主のところからは職人が流出し、色々と領主の有り様がわかりやすくなった一件もあって王自身は、家臣を見定めやすくなったとニンマリしたとかしなかったとか。

「ゲオルグ翁ですか?」

「はい。うちのご領主方、わりと代替わり早めにして、老後を楽しんでらっしゃるようですよ?若い時分は領地経営、隠居して国内外を見て回ってるみたいですけど」

「そうなの?」

「ゲオルグ殿はよく帝都にもいらっしゃってるわよぉ。私たまに護衛を頼まれてたものぉ」

 南の魔女の言葉にアマーリエとアルギスがそうなのかと頷く。

「うちのご領主様しか知らないので他はどうなのか知りませんけど。大隠居様は隠居すぐは王都と外国を見て回ってらっしゃいましたよ。子供の頃は今のご領主様と一緒によく旅の土産話を聞きました。先代様は今王都にいらっしゃって、貴族同士の付き合いをこなしてらっしゃるようですし。たまに外国にいかれる時とか外交で出られる方の代理で、うちのお菓子を頼まれてたような気がします?」

「アマーリエは領主一族とかなり親しいのかい?」

「うーん、自由にさせてもらってますで答えになります?」

「ああ。ありがとう、すごくよくわかった」

 アマーリエの言葉に、兄の言った意味を実感したアルギスだった。

「大隠居様はバルシュの子供たちみんなのおじいちゃん?なところがありますからね。よく(うち)のお菓子を買って、子供に振る舞ってましたよ。その時に他所の国のお話とかしてくれたんです」

「翁は領民に気安い方なんだね」

「領主は領民の心のそばにあるものだといつもおっしゃってますよ」

「なるほど、心に留めておくよ」

「そうしてください」

 二人の真面目な会話に皆少し黙って耳を傾けた。

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