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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第31章 去る者、訪れる者
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 朝早く、パン屋に飛び込んできたのはパトリックだった。

「リエちゃん!ちょっと!何とかして!」

「「「いらっしゃいませ、おはようございます」」」

 焦るパトリックを泰然と迎えたのは、パン屋の店員たちであった。

「え、あ、おはよう。リエちゃん、居る?」

「もちろん居ますよ。呼びますね、アマーリエさん!」

 ソニアが、厨房を覗き込んでアマーリエを呼ぶ。

「ちょっとまってー。今、手が離せないところ!」

 見極めの要る作業中のせいで、手が離せないアマーリエ。

「……だそうです」

「あ、うん」

「どうしたんですか?」

「いやぁ、その、夜中にさ、ご領主様の料理人がここに着いたんだよ」

「ああ!噂の!」

「うん、噂になってる、あの」

 ブリギッテの言葉をパトリックが、苦虫を潰したような顔で肯定する。

「どんなひと?」

「何かあったんですか?」

「気になる!」

 まだ、客もまばらな早朝のため、新しい話題に早速飛びつく店員たちであった。

「それがさぁ、ご領主様のご厚意で、コッホ料理長も商業ギルドの宿に泊まることになったんだけど」

「コッホさんていうのね!」

「それで?」

「ダニーロさんと意気投合しちゃってさ」

「「「うんうん」」」

「料理談義しながら、それぞれが新しい料理を作り続けて止まんないんだよね」

「「「……?」」」

 言葉は認識したが、状況が理解できず首をかしげる、パン屋の店員たち。

「やった!ダニーロさんが砦になってくれた!」

 厨房から出てきたアマーリエが、ガッツポーズを取る。

「ちょっと!リエちゃん!あの二人、寝ないで料理作りながら話し続けてんだよ!止めてくれよ!」

「眠気が勝れば止まるよ。私がその場に行ったら火に油を注ぐようなもん。三日徹夜になるね。絶対止めになんか行かねー」

 誰よりも状況を把握しているアマーリエは、パトリックの願いを拒絶する。

「……否定できないところが、哀しすぎる」

 そう言ってパン屋の床に崩れ落ちるパトリック。

「えっと?」

「夜中に村に着いて?」

「宿に入って、それからずーっと料理と料理話がいまだに続いてるって?」

「「「え?それ、色んな意味で大丈夫なの?」」」

 状況を理解した店員達が、呆れた顔でパトリックとアマーリエの顔を交互に見やる。

「言ったでしょ、無駄に熱い人なんだって。油が切れたら、寝落ちするから問題ないよ。それまでは、絶対(、、)、近づかないからね、私」

「……わかった。そうだよな。リエちゃんがあの場に行ったら、さらに熱を上げるよな、コッホさん」

 アマーリエの言うことを想像して、的を射てると頷くパトリック。

「でしょ?どーしても止めたきゃ、大隠居様に頼みなよ」

「グハッ!先々代様にそんなこと頼めるわけ無いだろ」

「なら油が切れるまで待つ一択だよ」

「……できた料理、どうすりゃいいんだ?」

 すでに調理台に置けず、食堂の机にまで進出している料理の入った鍋やら皿を思い出し、呆然とするパトリック。もちろん、パトリックだけでなく支配人も呆然としていたのだが。

 なんとか持ち直したパトリックが、アマーリエのところに駆け込んできたのだ。

「大隠居様たちに振る舞えばいいじゃん。客なんだから」

「そうだよね。そうなるよね。でも、どう頑張っても食べ切れないよ?」

 何いってんだとばかりに、ぶった切るアマーリエ。それに潤んだ目を向けて悲壮感たっぷりに言うパトリック。

 今現在、商業ギルドの宿に宿泊しているのはゲオルグたちだけである。どう頑張っても、食べきれない種類と量の料理が生産されているのだ。

「そんな時のためのアイテムボックスでしょ」

「「「「いや、アイテムボックスはそのために存在してないから!」」」」

 アマーリエのずれた意見に、ツッコミを入れる常識人たち。この世界の人にとってアイテムボックスは、非常用持ち出し袋の認識である。

 アイテムボックスを食料保存庫認識しているのは、アマーリエだけである。

「保存でいいと思うんだけど。どうしても消費したいなら、宿の食堂に村の人呼べばいいんだよ」

「あ、その手があったか……。でも、村の人来るかな?うち一応高級料理な認識だろ?」

「大丈夫。誰かに新しい料理が食べられるって言えば、昼までにみんな食べに来るよ」

「みんな新しい料理だって知ったら、そりゃ、来るでしょ」

 アマーリエの言葉に、ソニアが相槌を打つ。

「でも、料理長さんたち、自分たちで勝手に料理作ってるんでしょ?食べたい料理が注文できないんじゃ、だめじゃない?」

「お金どうするの?」

 アリッサが、料理の注文はどうなるのか首を傾げ、ブリギッテがどう売るのかとアマーリエに質問する。

「半刻いくらにするのさ。料理は自分で食べたいものを取る方式にすれば、パトリックさんはできた料理を大皿に盛り付けて、取皿の用意さえせすれば済むよ。人毎に食事できる時間を決めて、人をさばくのは支配人さんと給仕の人に任せればいいのさ」

「なるほど!料理は自分で好きなものを選べて、半刻の間の料金を払うってことね!」

「それじゃ、いっぱい食べられる人が得になるの?」

「男女や年齢で、価格を変えればいいのさ」

 アリッサの疑問にアマーリエが是正案を答える。

「そっか!それなら不公平感は減るね」

「え、なにそれ、面白そう!」

「私も行きたい!」

「昼の休憩時間ないならいいよ。行っておいでよ」

「ちょっと、ちょっと待ってリエちゃん!決定事項として話さないで!」

 慌てて、パトリックが止めにかかる。

「「やろうよ!パトリックさん!」」

 なにやら新しいことが起こりそうな予感にワクワクするブリギッテとアリッサ。

「支配人と相談してくるから!それまで待って!絶対、噂広げないでね!」

 間違いなく騒動になるのがわかっているパトリックは、慌てて口止めをしてパン屋を出ていった。

「「チェーッ」」

「面白そうなのにな」

「ね」

 口止めされたブリギッテとアリッサは、むくれる。

「まあ、食堂の方の準備が整ってなきゃ、大勢の人が集まってもさばききれないからしょうがないわよ。宿の人達が龍に出会うことになっちゃうわ。絶対内緒にしなさいよ」

 パン屋の開店の日の忙しさを思い出したソニアが、二人に念を押す。

「「しょうがないかぁ」」

「人が押し寄せたら、大変だもんね」

「なんにしろ、支配人さんが差配するでしょ。それまで待てばいいんだよ」

「「新しい食事方式、できたらいいなぁ」」

「できると思うよ。パトリックさんが、朝も早からあれだけ焦って、ここにくるんだもん。かなりの量の料理だと思う。利益出さなきゃ、困るのは宿だろうからね」

「ああ、使った食材の分の利益出さないとだめだもんね」

「そういうこと」

「「うふふ、楽しみー」」

 そんなこんなで、支配人を連れてパトリックがパン屋に戻り、バイキング形式の料理販売方法をアマーリエと相談して決め、昼には、異世界初のバイキングが行われることになったのである。

 整理券を用意し、やってきたお客を混乱させることなく、料理と客を捌き切った支配人と給仕たちであった。

 ちなみに、アマーリエは火に油を注ぐのを回避するためバイキングには行かず、店員と客から報告を受けてその日を終わらせた。

 料理長たちは、ゲオルグと支配人にこってり絞られた後、寝落ちたのである。

 こうしてコッホ料理長のアルバン村初日は、幕を閉じたのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] キャハハ! 私もそのバイキングに参加したかった!!
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