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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第31章 去る者、訪れる者
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 澄んだ空気に、空の青が少し遠く感じる頃、アルバン村の稲作試験場で無事に稲刈りが済んだ。

 村の天気予報屋達が晴天が続くと予報し、それに合わせてアマーリエ達は稲刈りし、刈った稲を稲木に干した。乾燥させないとどうなるのか比べるために、一升分はそのまますぐに脱穀まですませている。

 そして無事に乾いた籾を脱穀し、こちらと乾燥をしなかったそれぞれ一升分を脱稃(だっぷ)して、今日は神殿の食堂で新米の味見会である。

 面子は田んぼの管理をやっていたアルギス、ネスキオ、ファルの三神官に、薬草園のアッカーマン親子、アマーリエ、そしてシルヴァン、黒紅、土の精霊である。ヴァレーリオはゲオルグとアーロンと一緒に冒険者ギルドへ飲みに行って留守だった。

 神殿の食堂で、アルギスとアマーリエを主体に調理が行われる。土の精霊はシルヴァンと黒紅と一緒に炊飯を任されている。

「ムフフー」

 異様に上機嫌で調理をしているアルギスを見たアマーリエが、食器の用意をしていたネスキオの方に視線を向ける。ネスキオは、その視線の意味を正しく読み取り、アマーリエを納戸の方へ連れて行く。

「何で、納戸?」

 コソコソアルギスの様子をうかがい見るネスキオに、アマーリエが首を傾げる。

「この話をすると、アルの話が終わんなくなちゃうんだもん」

「?」

「パン屋さん、アルの兄ちゃん賛美を延々と聞きたい?」

「結構毛だらけ猫灰だらけ。で?」

「なにそれ?あのね、帝国の神殿掃除が終わったって」

「ああ、あんちゃん、神殿の大掃除すんだんだ。早いなぁ」

「思ったほど、汚れが酷くなかったっぽいよ」

「へー。それで、アルギスさん帰れるから、ああなんだ」

 アマーリエはそう言って、納戸の陰からアルギスを指差す。指を差されてる方のアルギスといえば、お玉片手で足取り軽やかにジグを踊っている。ちなみに、このジグ、冒険者ギルドの酒場で村人から伝授されたものだ。

「そう!ここが雪で閉ざされる前に帰るって」

「あんちゃん、スキルでひとっ飛びなんだから、迎えに来りゃ済むじゃん。南の魔女様にしたって、アルギスさん一人なら帝都まで転移魔法でひとっ飛びでしょ?雪が降る前って?」

 アルバン辺りが雪に閉ざされるのは、もう二月ほど先だ。

「……パン屋さん、あれでも一応(、、)皇帝陛下よ?足に使うの?大胆ね」

 やんごとなきお方の首を取りに行ってプリンで懐柔された、これでも一応(、、)世界一の元凶手には言われたくないだろう。(小話参照)

「寝てたって、使えるものは使うんです」

 立ってようが立ってなかろうが、親であろうが親でなかろうが、人使いの荒いアマーリエであった。

「なるほど。なんかね、ここの領都までは、馬車でお土産買い集めながら帰るんだって」

 アルギスは、マルガレーテやルイーゼ・ロッテのお茶会に誘われ、そこで街道筋の美味しいものを堪能していたのであった。これはぜひ兄にも食べさせたいと、帰りの行程変更を南の魔女に訴え、領都までは馬車でのんびり帰ることに決まったのだ。

 もっとも、南の魔女も魔力溜まりの点検をしつつ、街道筋の美味しいものを買い集めるのには賛成していたが。アルバン村のベルク魔導具店で、特注のアイテムバックもしっかり注文したアルギスと南の魔女であった。

「……んなもん、送ってもらえばいいじゃん。転送陣あるんだし。最初ここに来た時、どれだけ落ち込んでたのか忘れてんのかな?」

 春先の出来事を思い出して、じっとりした視線をアルギスに向けるアマーリエ。

「自分の目と舌で確かめたいんだってさ」

「まあ、気持ちはわかんなくないけど。なにげに、美味しいものいっぱいあるんだよね、街道筋の村って。うーん、帰るのにすごい時間がかかるような気がするなぁ。それでネスキオさんも一緒に帰るの?一応、アルギスさんの護衛なんでしょ?」

 色々察してるアマーリエが、ネスキオに身の振り方を確認する。

「うん。一応、一緒に帝都まで行って報告済ませたら、またここに戻ってくるよ、パン屋さんの護衛でもあるからね」

「え?そうだったの?」

 意外なことを聞いて、目を丸くするアマーリエ。

「うん。アルを中心に、だけど。だってパン屋さん、それなりに護衛兼監視が付いてるからね」

「……付いてるのはなんとなく知ってるけど、何人居るかは知らんのよ?」

 ネスキオのそれなり発言を聞いて、顔がひきつるアマーリエだった。

「大丈夫、パン屋さんてば、やらかし過ぎだから、人数多くて当たり前。今後は、アルに、こっちから色々送る役目になったんだ。パン屋さん、新しい料理やお菓子作るでしょ?それに帝都に居ても面白くないし。ヴァレーリオ様も、帰んないみたいだし」

「あれ?神殿長様は帝国の神殿に復帰しないの?」

 アマーリエはてっきり、ヴァレーリオも一緒に帰るもんだと思っていた。

「帝都の総神殿長なんて面倒くさいこと、もうやんないって言ってたよ。ここでカレー粉作るんだって」

 アルギスは、ヴァレーリオに帝国の神殿掃除が終わったと告げ、これで帰れますねと言ったら帰らんと言われ、ちょと涙目になっていたのはここだけの話。

 やんごとなきお方も一応こっそりまたアルバンにやってきて、帰国するようにヴァレーリオを促したのだが、趣味(カレー)に生きると言い切られ、結局昔と同じく、皇帝が総神殿長を兼ねることになってしまったのだ。

「えー。真面目に仕事しなくっても、一回帝国に帰って、スパイス集めてくるとか色々あるじゃん。帝国のほうがいろいろ物が集まるんだからさ」

 スパイス関連で、ヴァレーリオのつてもアテにしていたアマーリエは、思惑が外れてブーイングが漏れる。

「おお!ぼく、色んなもの集めてから帰ってくるよ!パン屋さん、使ってね!」

「そりゃ、ありがたい。できれば、継続して購入できるともっと嬉しい」

「わかった!向こうで代理購入とか納品とかしてくれそうなところ探しとくね!」

「アーロンさんのところなら、請け負ってくれそうな気はするけど」

 そう言って首を傾げるアマーリエに、それもそうだとうなずき提案する、ネスキオ。

「そうだね。んじゃ、アーロンさん以外のところを重点的に?」

「まあ、その辺りは、向こうに着いてからでもいいんじゃない?」

「うん!」

「ああ、このやり取りについては、あんちゃんに報告無しで」

「?」

「あんちゃん絡むとややこしいし、借りを増やすと後の取り立てが怖い」

 アマーリエはお礼にと陶器の皿をもらったのはいいが、料理を添えて返す皿の数が、なぜかジリジリと増え続けているのだ。今の所、まだ負担にはなっていないが。番町皿屋敷ならぬ、皿の数が増えていく恐怖の皇帝宮殿である。

「ああ、なるほど。じゃ、ぼくとパン屋さんの個人契約ね!」

「そういうことでお願いします」

「新しいお菓子と料理忘れないでね!」

「もちろん」

 こうしてアマーリエは、ネスキオを仲介人とし帝国の商材を直接通販する機会を持ったのである。

「リエ!ネス?」

「「はいはーい」」

 アルギスに呼ばれ、納戸を出て、それぞれの作業に戻るアマーリエとネスキオ。

「リエ、ミソシルできたよ。このあとは?」

「今回はあくまで新米を堪能しますので、おかずは控えめ。だし巻き卵を今からせっせと焼いていきます」

「「?」」

「たまごやき!」

 アマーリエの言葉に、シルヴァンが万歳をする。

「シルヴァン、お米炊けた?」

「たけたー!これからむらしー」

「黒紅ちゃん、精霊さん、お米の蒸らしを任せていい?」

『任せておくのじゃ!』

『任せてー』

 頼まれた二人は、魔導焜炉から鍋をおろし蓋をとって一文字を入れ、布巾をかぶせて蓋をし直す。

「シルヴァンは卵割るのを手伝って。一人三個ずつね」

「はーい」

 卵をシルヴァンに任せ、アマーリエは調味液を作っていく。昆布出汁にみりんと醤油、ほんの少し砂糖を足したものだ。

「われた!」

「ありがとう」

 シルヴァンから卵の入ったボウルを受け取り、調味液を混ぜていく。

「リエちゃん、フライパンよういするねー」

「お願い!」

 アマーリエの指示を受ける前に、慣れた様子でアルギスと一緒にフライパンを魔導焜炉の上にいくつも並べて火をつけ、少し多めの油を敷いて準備する。

「シルヴァン、なんか一端(いっぱし)になってきたね」

 ネスキオが感心したように頷いている。

「ムフー」

 褒められてドヤ顔をネスキオに見せるシルヴァン。ネスキオは、そのままシルヴァンの頭を撫ぜ回している。

「さて、じゃあ、焼いていきますかね」

 アマーリエは、フライパンの温度を確かめて、お玉で卵液を流し入れていく。最初は多めに入れて、卵の芯になる部分を軽くまぜながら火を通す。そして、巻きながら形を整えていく。

 シルヴァンはネスキオにお皿を出してもらい、焼きたてのだし巻き卵が冷めてしまわないようにアイテムバッグを用意する。

 アルギスは、アマーリエのすることを横でじっくり観察している。

 アマーリエは、卵液をさっきよりも少なく追加して、フライパンに広げていく。

「結構、薄く焼くんだね?」

「ええ、何層にもなるように手早くです」

 手早く巻いては、追加の卵液を足し厚みのあるだし巻き卵が出来上がる。

「リエちゃん、はい、お皿!」

 シルヴァンから皿を受け取って、出来上がっただし巻き卵を移していくアマーリエ。シルヴァンはそれを、アイテムバッグに入れていく。アマーリエは次の卵焼きに取り掛かる。

「うーん。手間がかかった卵焼きだね」

 たかが卵焼きにここまで手をかけるのかと、目を丸くするアルギス。

「卵焼きって、自分にとっての最良を焼くのって、なかなか難しいんですよ。慣れてても。でも最高にいい感じに焼けると、一日幸せ気分に満たされたりもするんですよね」

「これだけの手間がかかってたら、最高に出来たら、そりゃ嬉しいとは思うけど」

「まあ、アルギスさんもやってみたらわかりますよ。自分が思う通りに事が仕上がっていく充実感て、格別ですから」

 アマーリエは、そういいながらフライパンの一つをアルギスに任せる。任されたアルギスの方は、あわあわしながら、卵と格闘を始めている。

「はい最後!」

「はい!」

 シルヴァンに皿を渡され、卵焼きを載せていくアマーリエ。

「ふぅ、なんとか巻けた。むーん、難しい」

 アルギスは、少し焦げて、いびつなだし巻き卵を見て、息を吐きだす。

「初めてにしては、上出来ですよ。はいこっちと一緒に、食べてくださいね」

 アルギスのだし巻きと一緒に皿に載せ、これがアルギスの分になる。

「じゃあ、お米よそって、試食会を始めますか」

 アマーリエの声に、黒紅と土の精霊が、ネスキオから渡された木のお椀に、ご飯をよそっていく。ご飯は乾燥させた分と乾燥させなかった分の二種類あるので、少なめによそっている。

 アルギスは味噌汁を温め直して器に注ぎ、ネスキオに手渡し、ネスキオは、それを台車に乗せていく。

 シルヴァンは、アイテムバックにだし巻きの皿を全部しまって、黒紅たち用意した二種類のご飯を混ぜてしまわないように、もう一つの台車に乗せていく。アマーリエはお湯を沸かして、お茶の用意をしていた。

「出してくるね」

 アルギスとネスキオは台車を押して、食堂に向かい、その後をシルヴァン達がついていく。アマーリエはお茶を用意すると、その後に続いた。



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