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思った以上に、あちこちの村で覚える料理があって(村の人がアレンジしたせいもある)、温泉村にコッホ料理長が着いたのは秋の風を肌に感じる頃であった。
その頃にはすでにアルバン村に居たマルガレーテと先代夫妻、そしてお付の人々は東の魔女とそのお弟子さん達の転移魔法で領都に帰っていたが。
「おお!ここが温泉村か!」
アマーリエが来た頃と打って変わって、人の行き交いが増え、にぎやかになった温泉村。新しい建物も増えているようである。そんな村の様子を見て、期待に胸膨らませるコッホ料理長。
「今回泊まるのは、村の温泉付きの木賃宿の方ですね」
「はいはい、コッホさん落ち着いて。まず宿に行きますよ」
何やら、新たにできた村の土産物屋の店先から漂ってくる温泉まんじゅうの香りに、足が勝手に向かいそうになっているコッホの後ろ襟首を掴み、ブラウニーさん達は木賃宿の方に向かう。
「あの「アマーリエさんいわく、温泉をまず堪能して、それから温泉村の料理を楽しむべし、だそうですよ」」
宿の投宿手続きを済ませたブラウニーさん。アマーリエをダシにコッホ料理長の誘導方法を覚えたようである。
「さ、まずは温泉に入ってみましょう!温泉を体験して、その後に何を食べたら美味しく思うか考えるといいそうですよ!アマーリエさんいわく」
アルバン村に滞在中のブラウニーさん達を使って、アマーリエ情報を得たおじさんブラウニー。それを活かして、コッホを温泉へと連れて行く。
「む、それはそうだな!温泉のあとに料理をお出しするのだな!」
「そうそう。じゃ、温泉いきますよー」
男三人連なって、木賃宿の大浴場へと向かう。そして、ゆっくり旅の疲れを癒やす。
「「はぁあああああ」」
「アハハハ、お二人ともすごい緩んでますよ」
少年ブラウニーさんが苦笑しながら言う。彼はまだ若い分、体の疲労蓄積具合が軽いようである。
「いや、温泉がこんなに体を楽に感じさせると思わなかったんだよ」
「疲れが抜けていくようですな」
おじさん二人はしみじみという。
「「これはいい」」
ズルズルと尻でいざって、首まで湯船に浸かる二人。
「「もう出たくない」」
「温まりすぎて、頭がぼーっとなるらしいから、入りっぱなしはダメなんだそうですよ。湯あたりていうみたいですけど」
「「そうなのか?」」
「何でもやりすぎは良くないってことですね」
「「ふぅ。わかった」」
このしばらくあと、出ようという少年ブラウニーさんとおじさん二人の攻防が起きるが割愛する。
渋々風呂場から出たおじさん二人は、風呂上がりのお作法と言われて、よく冷えた牛乳を腰に手を当てて仁王立ちで飲んで、温泉を最後まで堪能したのである。
その後はお姉さんブラウニーと合流し、しばし温泉村の新しい食べ物探訪がつづく。
「おお!蜂蜜!色んな種類がある!そうだ!モルシェンのお嬢さんの土産にこれも追加しよう!」
「あれ?王都でもなんかお土産買ったとか、この間話してませんでしたか?」
「ああ、あれとはまた別にな!」
「っていうか、行く先々でパン屋の娘さんを理由に食材買いまくってませんか?」
「気、気のせいだ」
そう、コッホ料理長ときたら、アマーリエをダシにして自分が気になった食材をあれこれ買い込んでいるのだ。食材を持ち歩くためだけに、領都のベルク魔道具店で奮発してアイテムリュックを新調もしていた。
行く先々で買い集めた食材を餌に、アマーリエと新しいレシピを作ろうなどと考えているコッホ料理長であった。
そんな料理長が、あたらしい調味料の噂を聞いて、アルバン村に向かうのはこの後のことであった。
ところ変わってアルバン村。こちらは涼しい風が吹き、木々は秋の装いを始めだしていた。
「うぃっクシュッ!」
「あれ?パン屋さん風邪かい?」
「朝晩涼しくなってきたからね!気をつけないと」
「お大事にね」
アマーリエのくしゃみに、客たちが次々声をかけてくる。
「いや、風邪じゃない。誰かが噂してる!間違いない!」
「あはは、噂が原因じゃ、くしゃみが止まらなくなってるはずだぞ!」
渋い顔をして、風邪を否定するアマーリエ。それを客の一人がからかい始める。
「……どんだけ、みんな、私の噂してんですか?」
「いやー、パン屋さんときたら噂話の話題の提供率、ダントツ一位だからな!」
「まあ、話題には事欠かないわね」
「噂をしない日はないわねぇ」
「「「毎日家族との会話に花が咲いて楽しいよ!」」」
「そこまでですか?」
みんなに噂の種まきをしてると言われ、がっくりするアマーリエ。
「マアマア、悪い噂はないんだから!くすくす」
「そりゃぁ、そうさ。今はダンジョンから出た新しい調味料を使った料理でもちきりだしな!」
「オミソ?あれにお肉を漬けるのが流行ってるわよ!」
「ああ、味噌豚美味しいですよね」
「冒険者ギルドの食堂ので肉味噌うどんが出るようになったしな!ありゃ、小腹がすいた時に丁度いい!」
味噌汁以外の調理法として、最初に豚肉の味噌漬けと肉味噌を村の料理上手達に教えたアマーリエ。ちなみに味噌汁の出汁はローレンから届く昆布と煮干しである。
「オーク肉もそのせいで人気だぞ」
「何でも、ダンジョンで出てくるオークが狩り尽くされるような勢いだとか」
「え、そうなんですか?」
「ああ!オーク肉のミソ漬けは、膂力が上がる支援効果がつくからな!」
「あーそうでしたね。そのせいで、オーク肉弁当作る羽目になったな」
遠い目をするアマーリエ。
あれはちょうど、ダンジョンの主との通販が始まって、数日経った頃。ダンジョンから帰ってきたシルヴァンと黒紅と銀の鷹、黒の森の梟はそのままパン屋にやってきた。
冒険者たちは、シルヴァンと黒紅に引きずり回されて、一層の部屋半分を探索させられたのだ。その原因となった調味料を試してみなきゃ、割に合わないと休みだったパン屋に押しかけてきたのだ。
シルヴァンと黒紅、グレゴールと黒の森の梟の料理スキル持ちと一緒に、コカトリスのてりやき丼定食とオーク肉の生姜焼き定食を作ったのだ。
コカトリスの方は想像通り石化耐性のバフが付き、オーク肉の方は一時的な膂力アップになった。もちろんご飯はダンジョン産なので微力のリジェネ効果が相変わらずついている。
ちなみに、コカトリスとオークは各部屋に出没した魔物だった。どうやら、黒紅が、ダンジョンの主に美味しく食べられる魔物にしてくれ、と要望を出していたようだった。
黒紅があっという間もなく戦闘不能にさせ、解体スキル持ちがとどめを刺し、解体作業に移るという連携で、サクサクお肉も調達していったのだ。
出された定食の味噌汁で、冒険者達も味噌味が嫌いじゃないと知り、通販だけでなく、彼らにもダンジョンで取ってきてもらおうなどと下心を出したアマーリエ。いっぱいあって困ることはない、いれとく場所はまだまだあるというアマーリエの中の食欲魔神が顕現してしまったのだ。
そして冒険者達も取ってきたコカトリスとオーク肉、調味料をアマーリエにおすそ分けする。こちらもバフ効果のある美味しい携帯食を作ってくれたら嬉しいなという下心有りの助であったが。
こうして、双方の下心が出会ってしまったことにより、オークの肉味噌入りおにぎり、コカトリスの唐揚げ、味噌漬けオーク肉の焼き肉弁当がアマーリエによって作り出され、冒険者たちにお返しされた。
そして彼らは、ダンジョンに行く前に携帯食を味見して、アマーリエに大量の携帯食を依頼したのだ。調味料と引き換えに。
「物理職に大人気だ!」
「鍛冶屋の職人も、仕事が捗ると人気だぞ」
「あははー。そりゃそうなりますよね」
元気いっぱいの職人の言葉に乾いた笑いが漏れるアマーリエ。
「携帯食もオーク肉の肉味噌おにぎりとミソ漬けオーク肉のメニューを追加したって、お母さんたち言ってたよ」
ブリギッテが付け加える。携帯食事業の方も順調のようである。最近は、村の料理上手達が冒険者から好みを聞き取って、メニュー開発をするようになっている。アマーリエもアドバイザー程度に仕事が落ち着いてきているのだ。
「村の料理上手達も、色々頑張ってらっしゃいますよね」
「そりゃ、ダンジョンの攻略が進んでほしいし」
「美味しいもので頑張ってもらえるならねぇ」
「いくらでも頑張るとも!それが、ダンジョン村の仕事だからな!」
「そうそう」
「さて、仕事に戻るか」
「じゃあね!パン屋さん」
ひとしきり喋って笑って、帰っていく村の人達に手をふるアマーリエ達。
「ぬーん、そんなに話題提供してたのか」
「そりゃねぇ」
眉間にシワを寄せるアマーリエに、呆れたようにソニアが同意する。
「そう言えば、アマーリエさん。次の噂の提供元はまだこないんですか?」
アナスタシアがブリギッテから聞いていた噂の欠片を持ち出す。
「次の噂の提供元?」
「ご領主様の料理人さんだよ!」
首をひねるアマーリエにブリギッテがズバッと切り込む。
「うっ、忘れてたのに」
「忘れてたんだ」
「そう!あえて記憶の底に沈めてた!」
拳を握りしめて言うアマーリエに、三人は顔を見合わせて聞く。
「「「何がそんなに苦手なの?」」」
「暑苦しいんだよ。そうでなくても暑い調理場が、無駄に温度上がるんだよ」
「「「?」」」
「ダニーロさんみたいな落ち着いた人なら、料理談義も弾むんだけど、あの熱血料理長はなぁ……。勢いについていけなくて無理」
カウンターに手をついて深ーいため息をつくアマーリエに、こりゃダメだと肩をすくめる三人であった。
いきなり秋風!?リアルに合わせてみました。
皆さん、風引かないようにね〜。
今日は、長袖の準備もしないとですね。北海道はだいぶ前に初雪済ませてたっけ?




