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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第30章 熱い男がやってくる!?
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大変お待たせいたしました。

主人公はでません!

 無事王城の料理人を鍛え上げたコッホ料理長、今度もすぐさま領都に戻る。

「コッホ料理長、任務完了ご苦労さま」

「本当に大したものです、この短い間で成し遂げるなど」

「はい」

 ウィルヘルムの執務室で、コッホ料理長にニッコリ微笑むウィルヘルム。それをコッホの隣でみているダールの方は幾分苦笑気味ではあったが。

「それでね、料理長……」

「はい!」

 ウィルヘルムの溜めに、期待に目がキラキラ輝くコッホ。

「アルバン村で、休暇を取っていいよ」

「はいー!」

 そのまま回れ右したコッホを、くるりともとに戻す、隣りにいたダール。

「はい、料理長、慌てない慌てない」

「若様?」

「あのね、アルバン村までの道中は、お仕事なんだよね」

「はい?どういう?」

「アルバン村までの道中の村々で、アマーリエが作った料理を覚えつつ」

「はい!もちろん!」

 ウィルヘルムの言葉にそりゃ当然と、コッホはやや声が上ずりながら返事をする。

「新しい料理人と見習いを何人か見繕ってほしいんだよ、道中の村々で」

「新しい料理人と見習いを、ですか?」

「うん。今度、うちの領内の温泉地に宿屋を開くんだけど、そこを貴族専用の保養地みたいにしたいんだよね。ああ、ちゃんと平民向けの温泉宿ももう出来てるから。そこは心配しないで。なんなら試してきても全然いいからね!」

「はあ」

 温泉が温かい泉だということはコッホにもわかるのだが、なぜ領主が食い気味にすすめるのかがわからず首を傾げながら、とりあえず、頷いておいたコッホであった。

「そこの宿の料理を任せられる人も、育てたいんだよね」

「ほう、貴族向けの宿の料理人ですか、それは生半な腕前ではいけませんな」

「そうなんだよ!で、君が育ててもいいかなーって思う人を見繕って、推薦状を書いてくれたら、ダールがその人の人となりを調べるから」

「なるほど。私の休暇中に、ダールさんが人を厳選するわけですな」

「ええ、そうです、料理長」

 足がアルバンに向かおうとしている料理長の肩をがっちり抑えて、ダールがうなずく。

「それで、休暇が終わったら、その保養地の宿の調理場で、その新人たちを鍛え上げれば良いんですな!」

「そうそう、そのとおり!わかってるね!流石!うちの料理長!」

「宿の調理場の準備も休暇後に行いますよ!問題ありません!では!」

「いやいやいや。待ってください。ちゃんとやる気があって、お客様のために美味しい料理を作る気のある人を選んでくださいね」

「そりゃ、もちろんですよ、ダールさん!料理人は、食べてくれる方が幸せになるような料理を作りたいが一番ですよ。だからこそ、技術を磨くし、新しい味も探すんです!自分が褒めて欲しいから料理を作るなんて、話になりません!」

「そうそう。そう言う料理長だからこそ、心意気のずれた人を選ばないって信じてるよ」

「それとあなたには護衛をつけますから。その者と一緒に、アルバンまで行ってくださいね」

「わかりました!では準備してまいりますー」

 ダールが手を離すと、一目散に自分の家に戻ったコッホ料理長であった。

「料理長ってさ、絶対アマーリエを料理人にって言わないよね」

 すっとんで行ったコッホに苦笑しながら、ウィルヘルムがポツリとこぼす。

「それは言わないでしょうね。アマーリエは、自分はパン屋だと思ってますし」

「自分が美味しものを食べたいだけだしね」

「ええ。料理長の思う料理人とは違いますからね」

「あ!」

「いかがなさいました?」

「いつまで休みか言ってない!?」

「大丈夫ですよ、アマーリエのほうが三日と持たず音を上げて、料理長は温泉村からアルバン村に通うことになりますよ」

「ああ、そっか。そうだね。短い休みでごめんよ、コッホ料理長」

 ひどい言い草の雇い主であった。

 


 そんなこんなで、コッホ料理長の護衛には、冒険者に扮した、新たなアマーリエ付きのブラウニーさん補充員がひっつけられ、朝も早くから領都を旅立っていった。

 そして、早速到着した港町ローレンで、何がどうしてそうなったのか、漁業組合の食堂の料理長と料理対決と相成った。

「……なんでこうなった?」

「さぁ?」

「止めなくていいの?」

「誰がどうやって止めるんだ?」

「止めようとしたやつがボコられる気がする」

 お玉を握って燃えさかる男二人を煽る、港町に居た人々。すでに漁業組合の食堂は、お祭り状態である。

 その熱気をちょっと距離をおいて眺める、護衛なブラウニーさん達。

「……これから行く先の監視対象()、問題児なんだと思ってた」

 ポツリとこぼす、ブラウニーさんその一、地味ーなお姉さん。監視対象(アマーリエ)が、魔狼を拾った上に、古代竜とも仲良くなってバージョンアップしてると仲間内の話を聞いて、お姉さんブラウニーは覚悟していたつもりだったのだ。

 でも、旅の途中で騒動に巻き込まれるなんて話は聞いちゃいない、が本音である。本音ではあるが、仕事なので粛々とこなす以外に道はない。

「混ぜるな危険を混ぜに、あちこち行くような気がするのは、俺だけだろうか?」

 料理長の行動に、不安が湧き上がるブラウニーさんその二は、真面目そうな中年男。料理長達が、目からみえない炎を燃やし、料理する様子にちょっとこの先を想像して身震いしている。

 (かしら)から、道中の村の新しい料理とお菓子が、領地の特産になるかどうか再確認してこいとも言われているからだ。新しい料理に出会うたびに、このバトルが起こるのだろうかと今まで滅多なことで動揺したことのないおじさんブラウニーの心臓が、バクバク言い始めている。

「ぼくは、美味しいものを食べられたら幸せなんだー」

 そして現実逃避を始めるブラウニーさんその三は、見た目が見習いを脱したぐらいの少年だった。一生懸命、目の前の料理人たちの料理の技の数々を頭の中でトレースし、後で再現しようと明後日の方向を向いて、心に誓う少年ブラウニーだった。

 とりあえず、三人は勝負の行方を見守りつつ、料理の味見はしっかりして、熱い男同士の友情が芽生える瞬間を見逃すことなく観察し続けた。そして報告書をしたため、簡易転送陣でありのままの報告書を(かしら)に送りつけておいた。

「「「後のことはお頭に!」」」

 友情の芽生えた料理長達は、アマーリエから届いていた新しい魚料理を、夜を徹して満足行くまで作り続けたのだった。

「新しいレシピを手紙で送るからな!」

「こっちも新しい魚料理は、魚と一緒に送りますからね!」

 ウィルヘルムがあっちこっちに転送陣を設置したおかげで、個人の流通の方は思った以上に発展していたりする。最後に、徹夜明けのくまを貼り付けた顔でお互いをぎゅっとハグして、固い友情を誓いあった料理長達であった。

「さあ!次の村へ出発!」

 ヨレヨレの状態に気合だけで拳を振り上げたコッホ料理長に、ブラウニーさんから待ったがかかる。

「「「徹夜明けで旅とかありえませんから!」」」

「寝ろ!」

「寝て!」

「一生目が覚めなくなりたいの?」

 地味なお姉さんブラウニーの笑顔に、死んだふりをし、そのまま寝落ちたコッホ料理長であった。翌朝、ダールがわざわざ、お叱りにやってきたのはここだけのお話。

 コッホは一応仕事はしていると、新たな食材の仕入先をいくつかダールに報告し、漁業組合の食堂の見習いとうしろに居た自分の護衛の少年ブラウニーを推薦しておいた。

「「「「しなくていいから!」」」」

 ダールとブラウニーさん達に突っ込まれ、首をかしげるコッホ料理長。さらに、ダールから料理対決はしなくていいと釘を刺されて、次の村へと旅立った一行であった。

 酪農の村のユグでは、アマーリエが少々長逗留したこともあって、覚える料理やお菓子が多く、コッホ料理長も真面目にレシピを村のおかみさんたちと研究した結果、こちらもちょっと長逗留になってしまう。

「はぁ、このレアチーズケーキ美味しい!」

「俺はこのどっしりした焼いたやつが好みだな」

「ぼくは、この蒸したやつ。ふわふわだー」

 ブラウニーさん達も、村の料理とお菓子を堪能しつつ、護衛の合間に料理長が推薦する見習いや料理人を調べて、報告書を送る。そして、ブラウニーさん達もちゃっかり作り方をおかみさんたちから教わっていた。

「お頭からだ。なになに……チーズケーキを送ってくれとな?どの作り方かしら?」

「ダールさんからも、ご領主様用に送って欲しいって来てるよ」

「お菓子を送るのもアマーリエ部隊の仕事だから、業務のうちだろ。全種類送っておけばいいさ。いくつずつ送る?」

 料理長が作ったものと、村の特産になっているお菓子を一緒に転送する、ブラウニーさん達。

 そして仲間には、自分たちが作ったものを自腹で村役場の転送陣から送っておいた。案外マメなブラウニーさん達であった。

 お頭から報告を受けたダールとウィルヘルムはと言うと。

「料理長ったら、何日かけて、アルバン村に行くつもりなんだろ?……ん!このレアチーズケーキ、前のより美味しくなってる!これ、下の土台にレーズンいれてある!美味しい。やるねぇ、村のご婦人たち!」

「手の者には、なるべく早くアルバンに向かうよう、料理長のお尻を叩けと申し付けました。奥様から、ユグのお菓子を、秋の屋敷の庭園でのお茶会に用意するように言い付かっております」

「あー、母上、これを外交にも使いたいって言ってたよね?」

「ええ」

「む~ん、人には教えたくないなぁ。はぁ、自分の分が減るのが辛い」

「若旦那様、これ以上おやつは増やしませんから、その悩みは無駄ですぞ」

「……わかってるよ。庭でお茶会か。目先が変わっていいね。庭師たちにはより丁寧な管理を頼まないとね」

「ええ、すでに張り切って色々と新しい草花も取り揃えているようですな」

「そうなんだ。ユグのお菓子の方だけど、安定して生産できる量を調べて、更に増やせるか考えよう。その量によって、他の酪農が盛んな地域に料理人を派遣することも考えよう」

「他の領地から料理人を受け入れる準備もですね」

「そうだね。はぁ、仕事が減らないし、人手増やしたいー」

 べたりと自分の執務机に突っ伏すウィルヘルム。

「致し方ございませんな。文官見習いの申し出がございますが、受けてみますか?」

「それ、よその領地からの紐付きってこと?」

 わざわざ辺境に行儀見習いに出すなど、これまでになかったことである。ウィルヘルムは即座にそれが他領からの本格的なスパイ活動と受け止める。

「いえ、似たようなものではありますが、帝国からの派遣ですな」

 ダールの言葉にガバっと起き上がる、ウィルヘルム。

「はぁ?なにそれ?」

「皇帝陛下直々のお声掛りです」

「アルバン村に避難滞在中の神官のお兄さん?父上の幼馴染って言う、あの?」

「あれです。私もお世話させていただきました」

「……それは、さいな、ゲフンゲフン、いい経験になっただろうね」

「ええ。お預かりいたしますからには、きっちりとお世話させていただきましたとも」

 ダールの真顔に、帝国の方に向けて手を合わせたウィルヘルムであった。ちなみにこれは、アマーリエがご愁傷さまと手を合わせて拝むくせが伝染っただけである。

「何でうちーって、来て見て知ったら、そうなるよね」

 ウィルヘルムも帝国のやんごとなきお方たちをリラ祭りの時に見かけているし、アルバン村に居るブラウニーさん達から、色々と報告があがっているのだ。取り立てていまのところ、大問題になってない(というよりそれ以外の問題が大きすぎた)ため、やんごとなきお方の突撃訪問は、有耶無耶になったままなのだ。

「ええ。大丈夫です、若旦那様。可愛い娘と美味しい料理を用意して、やってくる文官見習い達にはうちに骨を埋めていただきましょう」

 爽やかな笑顔を浮かべて言い切ったダールに、冒険者が話してくれた森ダンジョンの食虫植物の話を思い出したウィルヘルムだった。

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