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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第29章 スルー力検定?
131/175

台風大丈夫でしたか?今日はかろうじて、猛暑日なところはないようですが、明日からまたひどい暑さになるようですので、皆さんお気をつけて!

 地下に食材を取りに降りたアマーリエは、何を作るかと一瞬悩む。

「えーっと、ご飯は炊きたてが仕舞ってあるからそれを使って。……シルヴァンは親子丼にするか。大隠居様達はテリチキ丼のがいいかなぁ?黒紅ちゃん、待ってる間にお腹すいたとかいいそうだなぁ。シルヴァンと同じで大丈夫か。特に気にしないで何でも食べるからな」

 アマーリエ、無理なく食べられて、手早くできそうなものに決める。

「味噌汁大丈夫かなぁ?味噌の匂いが苦手な人もいるしなぁ」

 味噌汁は、夕食に作ったわかめとネギを入れただけのシンプルなものを温め直すだけだ。

「大隠居様は胸肉のほうがいいかな?先代様やスケさんカクさんは、まだもも肉でも大丈夫だろ。シルヴァンは人型で食べそうだから、ももを少し小さめの一口に切ればいいか」

 それぞれの胃腸年齢を鑑み、食材の選択をするアマーリエ。

 アマーリエは、必要なものをアイテムボックスから取り出し、アイテムバッグに放り込んでいく。そして厨房に戻る。

 作業台の上に、食材と調味料を取り出し、アマーリエは照り焼きのタレと親子丼用の出汁を作り始める。

「大隠居様は味薄めに、先代様達は醤油と酒を気持ち多めかな。シルヴァンと黒紅ちゃんは味の濃すぎるものを食べさせるのはなぁ?昆布で出汁をとっておくか」

 昆布を水の入ったボウルに入れ、錬金スキルで時間経過させるアマーリエ。火が入ってからは手早さが要求されるため、先にタレや出汁は用意しておくのだ。

「テリチキ丼はネギ、親子丼の方は玉ねぎのほうがいいかな。三つ葉がどこかに無いか、今度、村の森の中にでも探しに行くか」

 手早く、ネギをぶつ切り、玉ねぎは火が通りやすくするためにスライスに切るアマーリエ。さっと包丁とまな板を浄化し、次は肉に入る。胸肉は同じ厚さになるようところどころ開き、シルヴァン用のもも肉を小さめの一口大にカットしていく。

 そして肉に薄く塩をふり下味をつけ、てりやき用の肉には軽く粉胡椒もふっておく。

「卵三個は余裕で食べるな、あの子達。テリチキ丼の下に卵のそぼろも敷いとこうかな」

 そう言ってアマーリエは、一ダースの卵をボウル二個に分けて割り入れて、そぼろ用の卵に塩と砂糖、昆布出汁とお酒で軽く下味をつけて混ぜておく。

「えーっと、親子丼用と腿肉用は普通のフライパン、胸肉用には小さいフライパンでいいか。今度、鍛冶屋さんで親子丼用の鍋作ってもらおうかなぁ?」

 専用鍋がなくてもできるくせに、道具を増やしたがるアマーリエであった。

 フライパン三つを火口に載せ、温め始める。

「親子丼用は、油を薄く塗る程度。テリチキの方は少し多めの油で最初あげるような感じで。まずは皮目から」

 パチパチと、鶏の水分が油に爆ぜる。

「親子丼用は色が変わる程度。テリチキ用はカリカリを目指すっと」

 親子丼の方は素早く鶏を返して裏も色が変わる程度火を通したら玉ねぎを入れ、合わせ調味料を入れる。

「この間に、そぼろを作ってっと」

 フライパンをもう一つ用意し、卵そぼろを手早く作り、バットで冷ます。

「照り焼きの鶏もそろそろ返して、ここにぶつ切りのネギを投入して油にネギの風味を移す。親子丼の方はここで一旦火を止めてしばし待ち。さて、ご飯盛るぞ」

 木の少し深めの鉢を湿らせて、ご飯を盛り、テリチキ丼の方はそぼろをまんべんなくかぶせ、木の皿で蓋をしておく。

「ホイ、では親子の方に再び火を入れ、照り焼きの方はタレ投入!焦げないように火加減を下げてっとあとは照りがつくようにタレを掛け戻しながら焼くっと。親子丼の卵は、残りの三分の二を入れて、フライパンに蓋をして軽くゆすりながら、焦げ付かないよう調節。そろそろお味噌汁温め直すかね」

 フライパン三つの様子を見ながら、お味噌汁の鍋を火にかけ、仕上げに入るアマーリエ。

「よし、テリチキ丼はオッケーか?鶏を引き上げて、胸肉の方はそぎ切りに、腿の方は大きめの一口大にぶつ切りして盛る」

 アマーリエはきれいに切った鶏を手早く切って、盛り付ける。そして親子丼のフライパンの蓋を開け卵の火の通りを確認する。

「よし、残りの卵液投入!ふたして十秒!」

 火を切って、親子丼用の鉢にフライパンの中身をスライドさせるように入れていく。

「うん!上出来!木の皿で蓋をして。お味噌汁入れて!ホイできた!持ってくぞー」

 六人前を木の大きなお盆に載せて、こぼさない程度に小走りに二階に持って上がるアマーリエ。


「何やら香ばしい匂いがしますな」

 カクさんがシルヴァンを膝に乗せて遊びながら、階下から漂ってきた醤油の焦げる香りに鼻をひくつかせる。黒紅は、フリードリヒの質問に答えている。

「てりやきだー!」

「てりやき?」

「領都のアマーリエの実家のパン屋で売ってるテリヤキチキンサンドか?」

「?」

「ああ、シルヴァンは実家のパン屋のは食べたことがないか」

 首をかしげるシルヴァンにスケさんが、そう言えばとつぶやく。

「魚醤と砂糖を使った甘辛いタレで鶏を焼いたものだ」

 カクさんがシルヴァンに説明する。

「今日のは、ダンジョンの主からもらった豆のしょう油なの!」

「「「「豆?」」」」

「そう!だからお魚臭くないの!」

「ふむ?」

「お待ちどう様!できましたよ!」

「やったー!どんぶりだ!なに?なに?」

 目をキラキラさせて、シルヴァンがカクさんの膝から机に乗り出す。

「シルヴァン、慌てない。大隠居様は鶏むね肉の照り焼き丼。先代様達はもも肉の照り焼き丼ね。炊いた米の上に少し甘めの炒った卵を敷いて、その上にタレを付けて焼いた鳥を乗せてあります。スープは味噌汁といいまして、豆を発酵させて作った調味料を出汁に溶いたもので具はわかめとネギです。香りが独特なので得手不得手があるやもしれません」

「ぼくの分ー」

「はいはい。シルヴァン、カクさんの膝から降りて、そっちに座りな。黒紅ちゃんも親子丼ね。はい、お味噌汁。熱いからやけどしないように冷ますのよ」

「おやこどんだー!」

 慌てて、空いていたゲオルグの隣に移動し、木皿の蓋をとって満面の笑みで叫ぶシルヴァン。

『親子?』

 同じ様に、木の皿の蓋をとって、黒紅が首を傾げる。

「鶏卵と鶏肉だから親子なのよ(どっちもコカトリス混じりかもしれないけどさ)」

 神殿から分けてもらった鶏肉と卵を使ったアマーリエであった。

『なるほど!洒落なのじゃの!いただきますなのじゃ!』

「いただきまーす!」

「アマーリエ?」

 なぜ、シルヴァン達と料理が違うのかと、目で問うゲオルグ。

「あー、卵に完全に火を通さないので、大隠居様達は苦手かなと思いまして」

 ゆで卵もハードボイルドがデフォルトなのが辺境の地。卵に火が通っていないのは、抵抗があるかと気を使ったアマーリエであった。

 トロットロの卵が美味しそうな親子丼を満面の笑みで頬張るシルヴァン達に視線をやって、ちょっと食べてみたくなっている、ゲオルグ達。

「シルヴァンや、一口」

「じいちゃまも一口!」

「よし!交換じゃ」

 そう言って、丼を交換して一口ずつ食べるゲオルグとシルヴァン。

「ん!こりゃ、コメがすすむの!」

「テリチキもうまー」

 なんだかんだと、半分こずつにすることにする二人。

「アマーリエ、また次回にでもな」

 フリードリヒの言葉に、カクさんとスケさんも頷き、自分の分の鶏の照り焼き丼を食べ始める。

「はぁ、次がありましたらねー」

 ボソッとこぼすアマーリエを置いて、勢いよくかきこみ始める、それでも所作は貴族らしく美しいフリードリヒであった。屋根裏でブラウニーさんがそれを見て、階下に聞こえないようにジタバタしているのはここだけの話である。

「この濃いタレが、コメと絡んでまた美味い!」

「鶏のさっぱりした旨味とタレも合うな」

「ふぅ、このおみそしるという豆のスープもホッとしますね」

 スケさんが、味噌汁を一口飲んでしみじみという。

「お味噌汁って気持ちが落ち着く栄養素がいっぱいなんですよ」

「ほうほう」

『体に染み渡るようじゃ』

 味噌汁を飲んで、ホウッとため息をつく黒紅。すでに親子丼の鉢は空っぽである。

「お茶淹れてきますねー」

 そう言って、一旦階下に降りるアマーリエ。

「まずい。わりと保守的な味覚のカクさんまで、味噌汁を美味しそうに飲んでたし!コレは消費量が増える予感がする!わたしの分の確保が!?」

 あわあわしつつ、緑茶に近いお茶を淹れるアマーリエ。お茶請けは昆布のチップスである。



 お茶を飲んで一息入れるゲオルグ達。座ったアマーリエの左右にシルヴァンと黒紅が座り直して、ゲオルグの沙汰を待つ。

「パリッ。む、これもうまいの」

「父上」

 昆布のチップスを口に放り込んで、その旨味を味わうゲオルグに、フリードリヒが先を促す。

「ゴホン。それでじゃ、経緯を聞こうかの」

 ゲオルグの言葉に、アマーリエが口火を切り、お茶会からのことを説明し、それに続いて黒紅とシルヴァンが交互にダンジョンであったことを話す。ただし、ダンジョンの主の弱点は内緒と黒紅とシルヴァンは念話で約束する。

「……で、地下のまほうじんにおくったほうが早いからーって」

『妾がダンジョンの主に転送魔法を教えたのじゃ』

「それで、通販なのね」

「うん!」

『そうなのじゃ!』

「「「「「……」」」」」

「えーと五階層までの、どこかの部屋の奥の部屋に調味料の蔵があるって?(よかった、私の分確保できる!)」

「ウッドゴーレムが、くらばんしてるって!たのんだら分けてくれるの!どこに何があるかはお楽しみなの!」

『色々調べると、色々出るらしいのじゃ』

「……なんとまぁ」

 ちょっとどころでなく、疲れた顔のゲオルグ達。

「んじゃぁ、私はギルドに依頼すればいいんじゃないの?」

(あるじ)は、(ぬし)とつうはんしてやって欲しいのじゃ』

 黒紅の言葉にゲオルグを見るアマーリエ。

「仕方ないのぉ。アマーリエ、みなには内緒にするように。シルヴァンと黒紅様がダンジョンから持って帰ってきたということで。黒紅様もシルヴァンもその様にの」

「『「はーい」』」

 黒紅の頼みは断れないゲオルグが折れ、ダンジョンの主との通販については秘密にすることになった。そしてダンジョンの主は手出し無用と言うルールが、アルヴァンダンジョンで初めて適用されることとなる。

 そんなこんなで、アルバンダンジョン、またしても攻略が滞ることになり、五階層までは、探索者を増やすためにC級の冒険者でも入れるようになる。

 もっとも、冒険者の安全のために、アルバンダンジョンの主に頼んで、パーティーの平均レベルがB級以上でないと五階層以降は潜れないように設定してもらったのだが。

 そして、魔物の暴走(スタンピード)以降、アルバン村は宿泊施設を作るため、村が拡張されることとなる。

 ダンジョンの主も安全が確保され、暇にあかせて、ダンジョン拡張を続けていく。アルバンダンジョンの繁栄が位置づけられたのである。

「あのさ、黒紅ちゃん。ダンジョンの主さんは安全確保されたけどさ。それって、永遠にアルバンダンジョンに居続けになるってことだと思うんだけど、主さんはそれでいいの?」

 アマーリエが、ダンジョンの主が死ねなくなったことをこっそり黒紅に確認する。

『大丈夫なのじゃ!妾達もまだまだ居るからの!(あるじ)の料理は、妾がしっかり覚えて、ダンジョンの(ぬし)にいずれごちそうするのじゃ!』

「まあ、他に長命種がいるからいいのか?わたしが気にしてもしょうがないか」

 ダンジョンの主にはダンジョンの主の物語があるかと、スルーすることにしたアマーリエであった。


 

暑いと、火に近づきたくないですよねー(==;)

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