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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第3章 パン屋さんの朝は早いのです
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 すでに人が動く気配のするパン屋のドアをベルンがノックすると、粉だらけのアマーリエが出てきた。

「おはようございます。皆さん朝早くからお揃いで?」

 パン屋の入り口に集まった人数に首を傾げるアマーリエ。

「おう、南の魔女様から差し入れだ」

 ダリウスがバスケットを見せる。

「ありがとうございます?」

 アマーリエは、ダリウスに似合わない上品な造形のバスケットにさらに首を傾げる。

「芋っ娘にじゃないわよぉ」

 後ろからの南の魔女の言葉にアマーリエが納得する。

「銀の鷹に持ってきたんだけど、シルヴァンを帰すついでにね」

「はぁ。よくわかんないですけど、流れでうちで朝食になったってことですか?」

「まあ、そうとも言う」

「椅子足りないし、庭でいいですか?」

 アマーリエは人数を数えて、空を見上げ、外で食べることを提案する。

「ああ」

「色んなパンの匂い!」

 ダフネの声にアマーリエが答える。

「ああ、パン焼いて、道具の様子見してたんです。問題なさそうなので、お店開けられそうです」

「焼きたてのパン!」

「はいはい。とりあえず庭になんか敷く物持ってきますよ。差し入れだけで足りそうですか?」

「足りないぞ!」

「……ダフネ」

「んじゃ、とりあえずなんかあるもん見繕います」

 早々に作りおきの食料が消費される現実に、ちょっと諦めの入ったアマーリエだった。

「すまんな」

「いえいえ」

 アマーリエの後についてぞろぞろと中に入っていく。

「シルヴァン、店と厨房に入るときは毛が落ちないように風魔法で体表覆える?こんな感じ」

 獣人族に限らず食べ物屋を衛生的にやれるように生活魔法の中に体毛が落ちないよう体表を風の魔法で覆う方法があるのだ。アマーリエはそれをシルヴァンにやってみせる。

「ウォン!」

 感じたままにやり方を覚えるシルヴァンに、銀の鷹達は呆れ、南の魔女とアルギスは目を丸くする。

「芋っ娘!あんたなにやってんのぉ!」

「何って、食べ物屋で動物飼うなら必須なことですが。動物連れでお店に入る人もやりますよ?」

「違うでしょ!人が飼う動物にすることであって、シルヴァン自身にさせることじゃないじゃないのぉ」

「できるんだし、良いじゃないですか」

 あっけらかんというアマーリエに南の魔女はため息を吐きシルヴァンの方を見る。

「生活魔法を使える魔物なんて……。できちゃうこの子も変よぉ」

「ォン?」

「もう、やだかわいい。あんた、ほんとにお利口さんねぇ」

 なんだかんだでシルヴァンを撫でる南の魔女。

「まぁ、リエにテイムされるぐらい変だから、今更?」

「そうなんだよね。でもここまで能力高いのかな?魔狼って。そうならテイムスキル欲しくなるなぁ」

 マリエッタの言葉を受けてグレゴールが悩みはじめる。

「……試したくはなるな。しかし、魔狼全てがこう賢いというよりシルヴァンが個体として優秀なんだろ」

 ダリウスの心の中にも子供の頃からの夢がもたげはじめる。

「まあ、ファルやグレゴールと同格なら能力自体は高いだろう」

「だな」

「ますますシルヴァンが欲しくなった」

 目をキラキラさせて言うアルギスに、アマーリエが釘を刺す。

「うちの子ですからね」

「シルヴァン、うちの子にならないか?」

 アルギスに言われて、アマーリエの後ろに隠れるシルヴァン。

「……だめかぁ」

「シルヴァン、うちの子はどうだ?」

 ダリウスが面白半分に言うが、アマーリエの後ろからでてこないシルヴァンにグレゴールが苦笑を浮かべる。

「胃袋ガッチリ掴まれてるみたいだよ」

「……力より食い物なのかテイムって?」

「料理を覚えたほうが早いのか?」

「……それこそシルヴァンだけだって思いたいんですけど」

「うーん、力で脅されるより美味いものでつられる方がいいな」

「……ダフネ」

 実感のこもったダフネの言葉にベルンが呆れた視線を向ける。

「食い意地がはってるやつならリエでもテイムが可能ってことだな」

「……絶対テイマーが泣くと思うんだ、そんな話きいたら」

 ダリウスの言葉にグレゴールがため息を吐きながらこぼす。

「新たな商売の匂い?テイム用のアイテム開発?」

 儲けの匂いに目をキラリと光らせるアマーリエ。

「ちょ、リエ!」

 また暴走始める気かと慌てて止にかかるベルンに、マリエッタがにやりと悪い笑みを浮かべる。

「良いわね。試してみる?テイム可能な餌の開発」

「おい、マリエッタまで本気になるなよ」

「あら、いいじゃない。私もテイムスキル生えたし、本気でテイムを考えようかしら。アマーリエがその餌作ってくれるなら助かるし」

「あぁ~ら、ねんねちゃん。料理スキル磨いたらぁ?男も胃袋つかむもんよぉ」

「大きなお世話です、南の魔女様」

「……本気でリエに習おうかな?」

「おい、グレゴール」

「いや、うまい飯って大事だし。それでテイムできるなら一石二鳥だろ?」

「そりゃ、この先うまい飯が食える方がいいのは俺もだが」

「グレゴールさんは器用だからすぐ料理スキル上がりますよ」

 アマーリエがグレゴールの器用さを請け合う。

「よし!時間のある時にリエに習う。依頼出していいか?」

「はぁ、いいですけど。講習会でもやりますか?」

「なら、わたしも!」

「え、神官殿もやるのか?」

「はい!テイムもしたいですが。兄上に美味しいものを食べていただきたいです!」

「いや、皇帝陛下(お兄さん)なら美味いもん食い放題だろ?」

「いえいえ。毒味や食堂と厨房が離れているせいで冷めたものが出るんですよ。不味いと文句を言えば関係部署の首が飛びますし。身分が高いからと言って美味しいものが食べられるとは限らないんですよ。私は、この道中で庶民がいかに美味しいものを食べてるのか実感しました!」

 しみじみ言うアルギスに首を傾げるアマーリエ。

「アイテムボックスで運んだらだめなんですか?温かい物は温かいまま、冷たいものは冷たいまま食べられるじゃないですか」

「なんでもいれられるから却って無理なんだよ」

 苦り切った顔で答えるアルギスに、アマーリエは首を傾げたままさらに言う。

「条件付きは?」

「芋っ娘、どんだけ条件付けすることになると思ってんのよぉ。技術的に無理なのよぉ」

 南の魔女も苦い顔をして、王族が安全に食べられるように条件をつけ始めたら魔法陣がとんでもないことになると文句を言う。

「うーん?条件付け条件付け……」

「はいはい、考え込まない。ご飯にしましょ」

 軌道修正を図るマリエッタ。

「はーい。厨房の棚に焼きたてのパンがありますからどうぞ。上から庭に敷くもの取ってきます」

「おう。どのパンでも良いのか?」

「好きなの食べてください」

 そう言い置いてアマーリエが二階に向かう。

「どれどれ、どんなのがあるんだ?」

 ベルン達は厨房の焼きたてのパンを置く冷却棚の前に集まる。

「ちょっとずつ色々あるわね」

「これ、バターの匂いがする!」

 変った形と質感、香りにつられてダフネが声を上げる。

「ホントですね。バターの香りがします。それにサクサクした見た目もはじめてみますね」

「このあげてあるのなんだ?甘い匂いがするぞ」

「砂糖がまぶしてあるんですか?」

「お菓子かしら?」

「うーん。色々ありすぎてリエに聞いたほうが良い気がしてきたぞ」

「差し入れの中身はなんですか?」

 ベルンが隣のアルギスに確認する。

「旅の途中で食べたサンドイッチでしたっけ?あれにできるよう、パンをスライスしてもらって、色々な具材を用意させました」

「そうなんですか?」

「ええ、あれはどこでも食べやすかったですし。自分で好きな具材をパンに挟めばよいかと」

「なるほど。具材は?」

「ハムやベーコンにソーセージ、塩胡椒して焼いた肉、目玉焼きやスクランブルエッグです。ゆで卵のペーストはソースがなかったので作れませんでしたね。後は葉野菜です」

 アルギスがバスケットの中身を説明する。

「なら、パンはそれを挟んで美味いやつかパンだけでうまいものにすれば良いのか」

 アイテムリュックを背負い、手に薄い毛布を持ってアマーリエが戻ってくる。

「お待たせしました。はい敷き物。あれ?まだ選んでないんですか」

「あ、リエ。このパンは?」

「クロワッサンですか?バターと生地を層にして焼いたパンです。外側サックリ中しっとりで、バターのコクが美味しいですよ」

「この砂糖のかかった揚げパンは?」

「あー。最後の村でもらった紅い豆を甘く煮て作ったペーストをいれて作った菓子パンですよ。食後にどうぞ」

「……甘い煮豆?」

「豆が甘いの?」

「ああ、好き嫌いでますけど甘すぎないので試しに食べてみたらどうですか?」

 日本人でもあんこが苦手な人はいたし、外国人はとくに豆をしょっぱく煮て食べるから甘い豆が想像できなくて最初の口の中の味のイメージとズレが生じやすくファーストインパクトが良くない人も多かったことを思い出したアマーリエ。

「この端がうずまきでまるっこいのは?」

「バターロールは生地に色々混ぜて作ったふんわり柔らかいパンですね」

「固くないのか?」

「ええ。色々食べてみてくださいよ。それで好みのパンを見つけてください」

「そうする」

「ああ、コレ木のトレーとトング。これに好きなパン載っけて持ってってくださいよ。私、保温マグにクラムチャウダー入れてきますから」

 アマーリエはリュックを台に下ろすと、焜炉にかけてあった鍋に火を入れる。

「おお、ありがとな」

「リエ~、この熊の手形みたいなのは?」

「クリームパンです。生地はバターロールとほぼ変わりませんが、中に卵で作った甘いクリームが入ってます」

「お!俺は甘いのにするぞ」

 甘いものに目がないダリウスが、あんドーナツとクリームパンを皿に載せる。

「俺は、差し入れのパンと後このサクサクするパンか?」

「……ファル、半分こしない?」

 棚をじっと睨んでいたマリエッタがファルに声をかける。

「します!全部食べたいです」

 こちらもじっと棚を睨んでいるファルが応える。

「いや、流石に全部半分は無理よ」

「俺も、混ぜてよ」

 悩むのが面倒になったグレゴールが参加表明する。

「じゃ、三等分?」

「あ、私もいれてください」

 こちらは全部食べて兄上が好きそうなものを贈ろうと画策するアルギス。

「四等分ね。じゃ私はこの棚の持ってくわ。神官様とファルとグレゴールも分担して持ってってね」

 四人はトレーに分担してパンを一個ずつ取り分けていく。

「この甘いって言ってたのは半分こにしませんか?」

 ファルの言葉にアルギスが是非と頷く。

「私は、このサクサクするのとバターロールにしてみるわぁ。他のはまたお店が開いてからにするわねぇ」

 そう言って、南の魔女はクロワッサンとバターロールを一つずつ木皿に載せる。

「ぬうう、悩むぅ」

「……ダフネ。とりあえずあるもの食べて、腹具合でまた取りに来たらどうだ?」

 ダリウスが呆れたように、ダフネを諭す。

「そうする!でもこの甘いの一個ずつは確保する!」

「決まりました?マグにクラムチャウダー詰め終えましたから、庭に行きましょう」

 リュックを背負い直したアマーリエに言われて、皆トレー片手に庭に出ていった。

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