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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第29章 スルー力検定?
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おまたせしましたー

 なんとかお茶会を乗り切ったアマーリエ。通りかかった村の人に手伝ってもらって、天幕を片付ける。

 村のご婦人方から借りたものは、シーナが返しに行っている。同じような品物を作ってもらうために交渉も兼ねて返却に行ったのだ。

「ふぇい、疲れた……。さて夕飯の支度、支度。軽めでいいかねー」

 アマーリエは独り言を言いながら、トボトボと地下室の階段を降りて行く。

「ん?」

 近頃はあったことも忘れていた転送陣が、うっすら輝いているのを目にして首をかしげるアマーリエ。

「起動してる?」

 特に誰からも荷物を送ったというような連絡は、アマーリエに来ていない。

「ダールさんが急ぎで、大隠居様達になんか送ってきたとか?確認したほうがい良いのかなぁ?面倒くさいし、いいや、取り出しちゃえ」

 受け取りを示す文様のところに、アマーリエが手を置くと魔法陣がひときわ輝いたあと、急速に光が消えていく。

「まぶしぃ、目が、目がぁ……とか一人でやってもな……。ふぅ、うっかりしてたよ。ああ、眩しかった」

 一人ボケツッコミをやって目をこすりながら、アマーリエは、かすかに記憶にある、魂を揺さぶる香りに気がつく。

「味噌と醤油の香りっ!?」

 視力の戻った目をカッと見開いて、魔法陣の中央を見るアマーリエ。

 そこからは早かった。

 山のようにある、樽と瓶を視認するやいなや、すぐさま開封し、味見をしたのだ。

「……前の世界のありとあらゆる調味料に酒が集まってる?……なんじゃこれ?」

 アマーリエは、目についた白い封筒を拾い上げ、開封する。

「えーなになに?『通販致し〼。お好みの味がわからないため、ご試食分をご査収ください。ご入用なものをフォーマットにご記入いただき、私、アルバンダンジョンの主あてで転送くださいませ。お代は、以下の料理で御願致し〼』とな?」

 しばし、手紙の内容を頭の中で反芻するアマーリエ。

「……えっと、通販してくれるのか。黒紅ちゃんとシルヴァンは、一体どんな話をしたんだ?味噌も醤油も作れんなら、料理そのものも出せんじゃないのか?ダンジョン主よ、どうなってんの!?誰か詳細ぷりーず!」

 一応、見えない相手にツッコミを済ませて気を晴らしたあと、アマーリエは転送陣の樽と瓶をアイテムボックスに収納していく。

「ダンジョンの主の能力って、一体?再現性がすごすぎんだけど……」

 日本酒の入った瓶に貼られたラベルを見て、ため息をこぼすアマーリエ。そして、そのまま、律儀に試食分のお礼状を書きはじめる。

「流石に、試食用とは言えあんなにもらったら、心苦しいからな。何かお礼もつけとくか」

 そう言って、アマーリエはアイテムボックスからカレーパンとアンパンを取り出して袋詰めし、お礼状を添えて転送陣に置く。

「ダンジョンの主あてって、座標になんねー気もするんですが、もういいや。言われたとおりやっとこう」

 魔力チョークをアイテムバッグから取り出し、宛先部分の空白をダンジョンの主へと書いて埋める。

 そして、今度はちゃんと目をつむって発送の文様に手をおく。魔法陣が輝き、紙袋が消え、光が消滅する。

「送れたのかな?」

 首をかしげるアマーリエの前で、また薄っすらと魔法陣が輝き始める。目をつむって、受け取りを起動する。光のあとに、また新たな封筒が一通残る。

「『チョーありがとう!どっちも美味しい!欲しいものあったら何でもゆって!ぼく頑張るから!』……さよか。さて、今日は簡単に味噌汁と卵かけご飯にしようっと。赤だしにしようかな……」

 刷毛で、宛先のチョークを払い落として空白に戻し、何事もなかったように厨房に戻るアマーリエであった。



 ちょっと時間を巻き戻して———。

 ダンジョンの零階層に到着した黒紅とシルヴァン。

『アルバンの(ぬし)や!話があるんじゃが!』

 黒紅があたりに人がいないのを確認して、早速、話しかけると薄墨色のモヤッとした人型が現れる。

「にゃー、へんなのきたー」

「ごめんね?ダンジョンの創造者って、呪いがかかってて、自分自身を生物として構築できない仕様なんだ」

「……」

 (もや)が後頭部を掻きながら謝る様子に、魔狼の時と変わらず、驚くと口が開けっ放しの人型シルヴァン。

「……なんで、こえでてるの?ねんわしてないよね?」

 シルヴァンが我に返って発したのは、最初に浮かんだ疑問であった。

「えっ?えっ?なんでだろ?」

 今まで誰にも突っ込まれたことのなかった事実に、動揺するダンジョンの主。

『魔素を振動させて音に変えておるようだぞ』

 何を言ってるのかと首を傾げて、代わりに答える黒紅。

「「ええー!?」」

『なんじゃ、気づいておらんのか?』

「知らなかった……」

 何やら愕然とした雰囲気の主に、シルヴァンがいいことを思いついたと声を上げる。

「あ、じゃあ、いきものじゃなきゃいいの?ゴーレムとかは?」

「あ」

 手をぽんと打つふりをして、早速自分の体をゴーレムで構築しようとし始めるダンジョンの主を、黒紅が止める。

『ここではやめておけ。うっかり討伐されたらシャレにならん。そなた魔力と創造力はあっても、攻撃力も防御力も皆無であろうが』

「あ」

「え?ほんと?」

「うん。攻撃も防御もスキルないんだ。だからダンジョンを延々と構築し続けるの。見つからない様に隠れるために」

「え、ここにきたらだめなんじゃ……」

 手で口を抑え、まじまじと靄を見つめるシルヴァンに、照れたように笑い声を上げるダンジョンの主。

「えへ、黒紅ちゃんが守ってくれるから」

『ウム。妾が守るぞ』

「そうなんだー。でも、どっかべつのばしょにいこー」

 シルヴァンは、黒紅あるあるうっかり巻き込まれ事故(フレンドリーファイア)に遭う主を想像し、攻撃の来ない場所に移動することを提案する。

『そうじゃの』

「じゃ、最近のぼくの住処に移動しようか?」

『頼む』

 そんなわけで、黒紅とシルヴァンはダンジョンの主の住処へおしかけたのであった。

「……なにもない。ただのあなぐらだ」

 シルヴァンが、連れてこられた場所を見回してポツリとこぼす。

「さ、殺風景でゴメンね。お客さんこないから、気にしたことなかった」

「んー?りょくしょうさんはー?あのおっかないこだいりゅうのー」

「来るけど、言われたことないよ?」

『古代竜の住処もこんな感じじゃぞ?ただの穴ぐらばかりぞ?』

 黒紅が、何を言ってるのだとばかりにシルヴァンを見つめる。

「あ、そっか!べにちゃんたち、となりでひととおんなじせいかつしてるから、かんちがいしてた」

 隣に遊びに行くシルヴァンは、人と同じ様に生活する漆黒と辰砂を見ていたため、穴ぐら生活に想像が及ばなかったようである。

『そなた、(あるじ)に会う前はどうであったのだ?』

「えっと、ちょくぜんはムレおいだされてはいきょ?そのまえはもりのなか」

「ぐすぐすぐす」

『「え?」』

 突如泣き出したらしいダンジョンの主に驚く、黒紅とシルヴァン。

「ズズズズーッ!く、苦労したんだね。ぐすぐすぐす」

「な、なかないでー。いま、リエちゃんところにいて、しあわせだからー。あ、てがすっぽぬけた!?」

 靄をなだめようとして、伸ばした手がすり抜けていくことに慌てるシルヴァン。

「あ」

 それに、靄も驚いて泣き止む。ダンジョンの主に触れようとする存在が居なかったからだ。

(ぬし)よ。コヤツはそなたより余程図太いから、泣いて心配するなど、もったいないだけぞ。お土産を持ってきたから食べよう!』

 黒紅はそう言うと、自分のアイテムバッグから保温マグや保温瓶、お菓子の袋を取り出し始める。

「え?」

「ちょっとまって、べにちゃん。ブランケットしくから」

 オタオタ始める靄をそっちのけで、シルヴァンが毛皮があるんだからいらないでしょと言われながらも、気に入って買ったアウトドア用のブランケットをアイテムバッグから引っ張り出して広げる。

『ん、頼む』

 そんなこんなで、勝手にお茶会の準備を始める黒紅とシルヴァンであった。




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