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本日2話目です。前話がまだの方は前のページからよろしくお願いします。
「ゴホン。話しをもとに戻しますが、まあ、村々で新しく料理を作ってしまったのは仕方ありません。皆も喜んでいましたしね」
あえて話を戻すことで、黒紅がやらかそうとしていることを見なかったことにしたマルガレーテ。
「はーい」
「アマーリエ、あなたが無事で本当に良かったわ。あなたときたら、安全のために忍んで旅する予定が、アチラコチラで、騒動を起こしてきたでしょ?村の人達から【銀の鷹】の料理番から、美味しいものを教わったと報告されて、よく狙う者たちに身バレしなかったと、話を聞いていたこちらは冷や汗モノでしたよ」
そう言ってマルガレーテはホォと安堵のため息をつく。
領都からの道中、ダールからの報告の確認を兼ねて訪ねた村で、村民から大歓迎されたマルガレーテ達。村の美味しいものを是非と饗されて、アマーリエがいろいろとやらかしていたことを実感することになったのである。
なにせマルガレーテ達に報告したダールとウィルヘルムも、アマーリエに付いた影者から報告を受けただけで、自身の目でその村々の状況を確認してはいないため、村人たちの美味しいものフィーバーには実感が薄かったのである。
「本当にあなたときたら……。あなたは単純に、美味しいものが食べたいだけだとわかってますけど。あちこちの村で名産を作ってしまうんですもの。どれからお茶会で紹介しようか迷ってしまうし、他の国へのお土産もまよってしまうのよ?あれこれ美味しいものがありすぎて」
ルイーゼ・ロッテもあれこれと、道中、村の人から美味しいものを買い取ってきている。領都に戻って、ダールと相談し、どこから力を入れていくのか決めなければならないのだ。
「いろいろ美味しいものがあったんで、つい」
「はぁ、あなたらしいわね。ローレンはもともと港町で出入りが多いとは言え、さらに人の行き来が増えてますよ。美味しいものの噂は、海をも越えるようね。ローレンからさらに他の村へ商人の往来も増えてますし。ベレスフォードの御夫人が、ユグの村のチーズケーキをいたく気に入ったらしくてね。商会でも扱いたいと申し出てるの」
「えーっと、ロニーさんの奥さんの?」
「クララさんですよ。この間のロトリーの温泉で妃殿下と一緒に話が弾んで」
ルイーゼ・ロッテが夫と王妃達と一緒に、やんごとなきお方によって村に来たときのことを話す。
「まあ、妃殿下ったら……。温泉にまで行ってたのね!内緒でお出かけになるから、陛下のご機嫌をなおすのが大変だったのよ」
「御義母様、お止めせず申し訳ありません」
ため息を付いてしみじみ言うマルガレーテに、肩をすくめていたずらっ子のように謝るルイーゼ・ロッテ。
「あなたはしょうがないわよ。帝国のいたずらっ子も一緒だったのでしょ?止めようがないわよ。そこはフリッツが幼馴染としてガツンと言わなきゃいけないところよ」
「ブフッ!あんちゃん形無しだな」
マルガレーテの小言に、アマーリエが吹き出す。
「まぁ、アマーリエ。あなたも仲良しに?」
アマーリエの気安い呼び方に、大丈夫かと首を傾げるマルガレーテとルイーゼロッテ。
「大奥様、奥様、私はやんごとなき方々とは仲良くしてませんよ。帝国から来た神官さんのお兄さんとたまたま仲良くなっただけですからね!」
「ふぅ、そういうことにしておいたほうがいいのよね」
「そうなんです!えーっと、そうそう、クララさん!クララさんの話に戻しますよ!お菓子も気に入ったんですね。それは、初耳かも。魔導焜炉に力を入れることはクララさんから聞いてたんですけど」
「ええ、そちらが領都での主だった商いの用事だったようですけど、美味しいお菓子も大事な商売の種だと言っていたのよ」
「そうなんですね。ベレスフォードなら、あっという間に販売網ができそうですね」
「そうなのよ。だけど、うちのお茶会で、ぜひ、先に紹介したいから、一般への販売は少し待つようにお願いしたわ」
「へー」
「「へーじゃありませんよ、アマーリエ!」」
「美味しいお菓子は、外交の切り札にもなるんですよ。希少性を最初は持たせないと」
「はあ。まあ、胃袋を掴むのも外交戦術のひとつですものね」
「そうよ!あなたのお菓子と料理で、それがよーくわかったのよ」
他領の奥方や他国からの使者を相手に奮迅するルイーゼ・ロッテにすれば、美味しいお菓子や料理は手札の一つでもあり、外交の武器にもなり得るものなのだ。
「そういうのって、話に聞くだけだからなぁ。実感あんまりないし」
「何を言ってるんです。お菓子でウィルヘルムを手玉に取ってるではありませんか!」
「あー」
「色気ならば、ウィルヘルムも年貢を納めていたでしょうけど」
「「お菓子ですからねぇ」」
孫と息子にまだ嫁が来ないことを危惧する二人。これでも一応一家を成すものとして、系譜が続くことへの責任は持っているのだ。
ただ、辺境伯の精霊絡みのしきたりとして、伴侶は己で見つけるべし!があるため勝手に嫁を引っ張ってくることが出来ないのである。
「浮いた話にならなくてよかったじゃないですか!」
焦って、アマーリエが反論する。
「浮いた話どころか……。この頃は、狩られるうさぎの気持ちがよく分かると王都の社交も手を抜いてるようだし」
深々とルイーゼ・ロッテがため息をつけば、
「ダールに、屋敷の料理長と駆け落ちしかねないって脅されたのには、参ったわ」
苦笑いを浮かべて言うマルガレーテ。
「なんですかそれ?」
「私のころは辺境に嫁ぐなどと、親が泣いて止めましたが」
「私のときも、ど田舎領主の嫁なんぞにという親戚を黙らせて嫁に来ましたよ?親は諸手を上げて喜んでくださいましたけど」
「「今は時代が変わって豊かになって、目指せ王妃か辺境伯の妻!ですからね」」
「あー。ご令嬢方に虎視眈々と玉の輿を狙われるんですね」
まだ嫁の居ない、最高物件の二人を思い出して、うなずくアマーリエ。
「ええ」
「で、なんで料理長と駆け落ち?」
「二人共、あなたの料理を間近で見たくてしょうがないのですよ」
「……ちゃんと設置してもらった転送陣でお菓子と料理、レシピ付きで送ってますよ(気が向いたときだけな!)」
「料理長は、作っているところも見たいのだそうですよ」
「ウィルは、息抜きでしょうね」
「左様で」
「まあ、ウィルのことはいいわ。料理長は、秋にはこちらへ呼ぶ予定ですし」
「いいんですか、そうですか」
「それよりも今度、王城に、帝国から陶器の職人がくるのです。料理長には新しい料理を覚えてもらって、王城の料理人達を鍛えてもらわないと」
「はいぃ?」
「職人たちの胃袋懐柔に一役買ってもらわないと!料理人達に頑張ってもらって、職人たちを美味しいお菓子や食事で虜にしなければ。作った器にぜひ盛ってみたいと思わせられれば、こちらのものですからね」
「ははは。まあ、土を探すところからだと思いますし、王国内をうろちょろするんじゃないですか?そこまで気張らなくても」
職人を二度と帝国には帰さないぐらいの意気込みで語るマルガレーテに、顔が引きつるアマーリエ。
「アマーリエ。新しい仕事ができれば、働く場所も増えるのです。大切なことだと言ったのはあなたでしょうに」
反応が薄いアマーリエをメッと叱りながら、先々代の領主夫人として、また王城で王と王妃の片腕として働くマルガレーテが呆れ混じりで言う。
「そうですけどー。追いかけられたら、悪いことしてなくたって逃げたくなるのが人間なんですから、そんなとっ捕まえる気満々で職人を見ないでくださいよ、大奥様。逃げられたら元も子もないですよー」
「あら、そんな顔してたかしら?」
アマーリエが、ブーッと口をとがらせて言うと、マルガレーテは両手で頬を抑えて首を傾げる。
「ええ!ご領主様や先代様が裸足で逃げ出す時の顔をしてましたよ」
「まあ、アマーリエ!あれはあの子達が碌でもない事をしたときだけよ!」
にやっとおどけてアマーリエが言うと、目を見開いて自己弁護するマルガレーテ。
その光景をよく目にする侍女やルイーゼ・ロッテは、思わず思い出し笑いをする。
ひとしきり笑いが溢れたあと、ルイーゼ・ロッテはすっと表情を真面目なものに変えてアマーリエに問う。
「領地にも、陶芸職人を連れて帰ってくるわよ?あなたは、美味しい料理を増やしたいのでしょ?」
「ええ。そりゃ、ご領地で新しい器が量産できれば、新しい料理も増やしやすいですからね」
「なら、料理長をビシバシしごいてやってちょうだいね、アマーリエ」
「頼みましたよ?王国の新しい事業が始まるかどうかは、あなたの肩にかかってますからね?」
「えーっ?」
にこやかに笑う貴婦人二人に、しっかり仕事を押し付けられたアマーリエであった。




