3
大変お待たせ致しました。
へそ踏みは順調に試合が進み、いよいよ準決勝である。
会場担当係が場の整備に入り、観客達もその間に追加の食べ物や飲み物を手に入れにいく。
「さあ!へそ踏み会場の整備に入りました。いよいよ準決勝であります!ティールさん、参加者の皆様善戦されていましたが、予想通りの四組が残りましたね?」
「そうですな。四組とも、まだまだ真の実力を発揮しておらず、どういう戦いが繰りひろげられるのか、楽しみですな」
「確かに」
「古代竜組が、対戦チームの最弱者を自分たちの力の最大出力の上限に決めているのに、むしろここまで勝ち残っているのは、その技術力と知恵のためと言えるでしょうな。砦に来ていただいて、騎士達にその技術や知恵をご教授願いたいものです」
「なるほど」
「他の三組が、そんな古代竜組をどれだけ本気にさせるのかもまた見ものでありますな。身びいきで申し訳ないが、特にうちの選抜騎士組には、頑張ってもらいたいものです。カークスウェル殿!スケルヴァン殿!往年の実力、ひよっこ共にしっかり見せてくださいよ!」
「「「「大先輩頑張れ〜」」」」
ゲオルグの二人のお供の後輩にあたるティールのからかいに、ひよっこ騎士やお尻に殻のついた見習い達が調子に乗って声を掛ける。
「「ティール!無茶振りするんじゃない!お前らあとできっちりしごくからな!」」
「「「「ヒィッ!?」」」」
それに対してスケさんとカクさんが真顔で怒鳴り、ひよっこ共を震え上がらせる。
それを見た外野が、ヤンヤと囃し立て始める。
「あはは。なかなか砦の生活も楽しそうですね!さあ、残ったの四組を改めて皆さんにご紹介しましょう!まずは、老舗の冒険者ギルド組!小さいからとあなどれない冒険者ちび台風組!そして、バルシュテインの要石!アルバン砦の選抜騎士組に、最後は飛び入り、今やっとその存在が明かされる古代竜組だぁ!」
「「「「わぁああああ!」」」」
モーリシャスの解説や盛り上がる観衆をよそに、マルガレーテが首を傾げる。
「どうしたんじゃ、メグ?」
「二人に、あとで皆をしごくだけの力が残るとよいのですけど」
「メグ、ゆうてやるな」
なにげにきついことを言う実際家のマルガレーテに、ゲオルグは止めながらも、その発言内容については否定はしない。
「母上そこまでですか?」
ちょっと青ざめてフリードリヒが母を見る。フリードリヒ夫婦は人柄を見定めるのが得手で外交を受け持っているのだが、戦闘能力を見定める方は、ゲオルグ達、親夫婦にはかなわない。
「そりゃぁそうよ。あの中の最弱と言えば、ミカエラだと思うのですが、それでも王都のその辺の騎士よりも遥かに強くなってますわよね?あなた」
マルガレーテが王宮の女官長をやってのけられるのは、その人の能力を見る目の確かさにある。女官や侍従、下女下官だけにとどまらず、王族の護衛騎士、王宮の守衛騎士をも見定める目を持っているのだ。
王都の騎士団長などは、マルガレーテにこっそり騎士の査定依頼を出していたりする。
そして、マルガレーテがさらにすごいのは、王宮の勤め人達のギリギリのラインを見極めて仕事を課し、さらに人の能力を伸ばす手腕があることなのである。
三年王宮に務めると、お世辞抜きで箔が付くのだ。引退した王宮勤め人達は、王宮外でも引っ張りだこなのである。王宮はなにげに人員養成所として、領主が自分のところの優秀な者を預けに来たりもするのだ。
「うむ。王の護衛騎士並にはなっとるのう。ここに来てかなり伸びたらしいの」
「護衛騎士並みですか?それは……」
義父の言葉に絶句する、ルイーゼ・ロッテ。自身の兄は、王都のすべての騎士団を束ねる、騎士総団長である。
個々の能力で見れば、王国最強と呼ばれるのが王族の周辺を固める護衛騎士たちなのだ。集団戦になるとまた変わってくるのだが。
「そこまで古代竜様達の枷が外れるということでしょう?言ってみれば、ミカエラ並みの力と速さにその上を行く知恵と技術に対抗するのです。生半なあたりではないはずですよ」
「そこまでですか。うちの騎士達もどこまで強くなるのやら……」
無駄に強くなりすぎて、どうでもいい敵を増やしたくないフリードリヒとしては、頭も胃も痛い状況である。
それに反して、このところ、アルバン村まで過剰な防衛能力をつけ始めているのである。
「そりゃ、おまえ。漆黒様とたまに組み手もしてもらうというておったからの。どこまででも強くなりそうな気がするのぅ」
神殿前の広場で繰り広げられるのは、何も鬼ごっこだけではないのである。村に仕事でやってきた騎士も冒険者も、ちゃんと自身の能力向上のための訓練は欠かさないのである。
そこに強者がいれば、教えを乞うのは当然の成り行きである。
「……」
無言で頭を抱え始めたフリードリヒであった。
「あ、こちらでしたか、先々代様。はい、アーロン殿からお菓子と飲み物の差し入れですよ」
ダリウスが、アーロンから渡された付け届けを持って、ゲオルグ達のそばにやってくる。
ちなみに、今日のアーロンは、新規事業のしょっぱいお菓子の売り込みを息子夫婦と孫娘と一緒にやっているのだ。
観戦のためにお菓子を買いに来たダリウスに、ちゃっかり頼み込んだのである。
「おお!ダリウス殿。ありがとうのぅ。これが、なかなかうまくての!病みつきになりそうじゃわ」
「あはは!うちのベルンもですよ。アローン殿とリエの術中にすっかりはまってますな!ん?先代殿はどうされたんです?」
イソイソとキノコチップスの袋を開けて、食べてみせるゲオルグに笑いながらダリウスが聞く。
「んぐ。うちの戦力強化が凄すぎて絶句しとるんじゃわ」
「ああ!皆強くなってますよ!次の魔物の暴走はかなり被害が抑えられると村の衆も言ってましたよ」
「そこは大事なんだがね。それでも、いろいろ言ってくるのが王都に居るんだよ」
深々とため息を付いて愚痴をこぼしながら、キノコチップスの袋とエールを受け取るフリードリヒに、肩をすくめてダリウスが言う。
「政治ってのは難儀ですな」
「あんな物、政治じゃない。ただの個人の嫉妬と恐怖なだけだよ。それをいなすのが私の仕事だ。ああ、面倒くさい。みんなもっと大人になってくれりゃあ、無駄なことせずに済むのに。はぁ、温泉に浸かってのんびりしたいよ!」
そう言い放ってむしゃむしゃとキノコチップスを食べ、エールを一気に煽るフリードリヒ。
「リエの美味いものと温泉で虜にしちまえばいいんじゃ?」
自分もそろそろ温泉村に行こうかなどと思いながら、ダリウスが言う。
「ま、それも手の一つだがね。それすらもまた嫉妬を呼ぶんだよ。どれだけ持っても満たされぬ哀れな存在、それが宮廷貴族というやつよ。領地持ちの貴族のほうが、まだ付き合いやすい」
げんなりとこぼすフリードリヒに、無理をしないようにと言ってねぎらうダリウスであった。
「ほら、あなた!騎士達と古代竜様達の試合が始まるわよ!」
明るくそう言って、夫の気分を上げにかかるルイーゼ・ロッテ。
「お!どうなるかな」
「うぉっ!?こりゃ、アーロン殿を呼んでこなきゃ!見損ねたら、泣いて恨み言が続きそうだ!皆さんまた後で!」
そう言って、ダリウスが慌てて、古代竜好きのアーロンを呼びに行く。
「さあ!おまたせしました。会場の準備はバッチリですね?」
モーリシャスの声に大きく丸を腕で描く、会場係。
「さあ、みなさん!古代竜組と選抜騎士組の準決勝戦です!」
モーリシャスの声に、会場に出るカクさんとスケさん率いる騎士組と古代竜組達。
それに観衆達から声援を送る声がドッと沸く。
ヨハンが二組を呼んでコイントスで先攻と後攻を決める。ジャンケンでもいいのだが、いかんせんこのクラスがじゃんけんを始めると、もはや普通の人には何が起こっているのかさえわからない「あいこでしょ」が続くので、コイントスに決まったのだ。
「先攻選抜騎士組です!先攻、選抜騎士組は始めの地点に、後攻の古代竜組は守備についてください!」
ヨハンの声にそれぞれの位置につく、選抜騎士組と古代竜組であった。
「どうやら先攻は、選抜騎士組に決まったようです!ティールさんいかがでしょう?」
「人数がひとり多いことを活かせれば、勝機はありますな。なにせ、相手は手加減してくださってますからな」
「ふむふむ」
「ってことで、勝ちを拾ったら、温泉休暇やるぞ!ノール!しっかりやれよ!」
日頃から温泉休暇ほしいとこぼすノールの前に、人参をぶら下げるティール。
「絶対ですよ!」
ティールの発破に嘘ついたら殺すと顔に書いてノールが返事する。
「わたしも欲しいです!」
尻馬に乗って、ミカエラも長期休暇をダメ元でねだる。
「勝ったらな!」
「言質取りましたからね!みんなが証人ですからね!負けませんんんん!アーノルドさん!頑張りましょうね!」
「あっ、あぁ」
ティールの言葉にやる気をみなぎらせるミカエラ。それにちょっと引け腰になるアーノルドであった。
「そうだノール本気出せよ!負けたら、アマーリエ専属にしてやるからな!」
「フリードリヒ様!?なんてことおっしゃるんですか!?」
途端に悲壮な表情になったノールに、事情をよく知る連中が後ろを向いて笑いをこらえる。アマーリエのはっちゃけを村の賑やかし程度にしか思ってない村の衆は、なんでパン屋さん?と首を傾げているが。
「あなた、いくらなんでもノールがかわいそうよ。心安らぐときがなくて死んじゃいますよ」
アマーリエが聞いたら、そこまでひどくないヤイとブスくれることを言うルイーゼ・ロッテ。
「あいつは安定志向がありすぎる。たまにああして危機感を覚えさせないと、本領を発揮しないからいいんだ。このところ砦勤務で、リエに振り回されずにヒマしているだろうからな」
「あら、そういう使い方なんですのね」
「こりゃ、フリッツ!このところのいろいろで、砦に居てもアマーリエに振り回されておるから勘弁してやらんか」
夫にルイーゼ・ロッテが言いくるめられそうになって、流石にゲオルグがノールを哀れんで止めに入る。
「おや、そうでしたか」
自分も巻き込まれたので、だから何?という顔で流すフリッツに、渋い顔になるゲオルグであった。
そんなこんなで、騎士ノールは温泉休暇をもぎ取るために悲愴な決意を固めるのであった。
連休絶対好きなことして遊んでやる〜(><)それまで生き延びられるか……orz




