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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第26章 さあ!鬼ごっこが始まるよ!
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 アマーリエが大会本部で実演している頃、会場の入口で入場係をしていた漆黒はというと。

「土の精霊さん、そろそろ人ももう来ないだろう。ここは私に任せて中を観てきていいよ」

 中が気になってそわそわしていた土の精霊に漆黒が提案する。

『ほんと!?』

「ああ。村の人も、人が来なそうなら閉じちゃっていいって言ってたからね。こっちに向かってくる気配は一つだし。大丈夫だよ、行っておいで。わたしももう少ししたら、ここを閉じて、娘の勇姿を見ようと思う」

 少し遠くからやってくる、昔なじみの抑えた気配を察知した漆黒が精霊を促す。

『黒の古代竜!ありがとう!じゃあ、行ってくる!』

「楽しんでおいで」

 勇んで中にはいっていく土の精霊を、笑顔で手を降って見送る漆黒であった。

 そしてしばらくすると、漆黒は昔なじみの姿を視覚で捉え、そっちに向かって手を振る。

「漆黒?あなた、こんなところで何をしているんです?」

「入場係を頼まれたんだよ。今はわたしも村の一員だからね、お手伝いしているんだよ」

「……馴染みすぎじゃありませんか?夫婦二頭、山で引きこもりだったのに」

 呆れをにじませて、漆黒を見る緑青に、にっこりと柔らかな笑みを浮かべる漆黒。

「そうだろうか?ならとても嬉しいんだが。村の生活はとても楽しいからね。辰砂も毎日楽しんでるよ」

「あの村の人族は肝が太いと言うか、なんというか……」

 古代竜の姿を見ても、大喜びしていた村の人を思い出してさらに漆黒の表情が緩む。

「心が広いんだよ」

「心が広いってあなた……。あれはパン屋の娘をはじめ、商魂たくましいと言うんですよ!」

 眉間にシワを寄せて言い放つ緑青。抜けた鱗や爪が溜まったら、また何かと交換でちょうだいねーとアマーリエに言われ、村人からも期待の眼差しを向けられていた緑青であった。

「ところで緑青はここへ何をしに?人の国で仕事してたんじゃなかったのかい?誰かに呼ばれたのかい?」

 誰からも緑青を呼んでいると聞いてないと首を傾げる漆黒。

「仕事ですよ。皇帝陛下の近衛が一人休みをとっていたのですが、いつまでたっても帰ってくる様子がなくて、連れ戻しに来たのです」

 エヘンと胸を張っていう緑青に、心の表層を読んだ漆黒がさらに首を傾げる。

「緑青?それはついでで、ここには遊びに来たんじゃないのかい?」

「うぐっ。探しに来たのは本当です!また面白いことをやっていると、ついさっきアルバン村の門番から聞いたばかりですよ!」

「それで探し人はどんな?」 

「竜人族のオスです」

「何人か来てるよ?藍鉄(あいてつ)の系譜の者と海松(みる)の系譜の者だったかな?」

 古代竜仲間同士は、古代竜と交わった者の血族の祖をなんとなく見分けることができるのである。

「藍鉄の者です。竜人族の中でもかなーり目付きが悪く、第一印象がすこぶる悪い者です」

「緑青?そういう言い方をされると、私までそう見てると思われそうで、誰だと言えないんだけども」

 ちょっぴり困った顔をする漆黒に、ムッとした表情を浮かべる緑青。

「すみませんね。長期休暇を取られたせいで、近衛の中の配置に少々問題が生じ始めてましてね。わたしもいろいろせっつかれてイラッとしているのです」

 緑青をもっぱらせっついているのは、狼人族の近衛である。内容は、ものすごくわかりやすく、まだ帰ってこないの?自分も遊びに行かせろーである。腹心の近衛二人が遊びに行くと、護衛対象(やんごとなきお方)まで一緒になってどこかに行きそうなので、連れ戻すことにしたのである。

「私には、今の君が、一番目付きが悪く見えるよ、緑青」

「漆黒ぅ?」

「はいはい。帝国の訛りのある子でいいんだね?あと、ものすごーく楽しそうにしてた子」

 漆黒は入場者を思い出しながら、帝国にゆかりのある竜人族を記憶の中から探し出す。

「ええ、おそらくそれです。居ましたか」

「君が来る少し前だよ。せめて今日の催し物を楽しませてあげなよ。連れて帰るのは君が、その催し物を見てからでも遅くはないだろ?」

「まあ、あのパン屋の娘のやることですから、うちでも取り入れても良いかもしれません。さ、中に入れてください」

 アマーリエが聞いたら、何でもかんでも私が仕切ってると思うなよと吠えそうなことを緑青が言う。

「緑青、入れるのはいいけど、くれぐれも大暴れしないでおくれよ?」

「あなたの娘と一緒にしないでいただけますか?」

「よく言うよ。君も幼い頃は黒紅に負けず劣らず大暴れしてたじゃないか」

「いつまでも、大昔のことをほじくり返さないでいただけますか?」

「そりゃぁ、パン屋さんなら大昔も大昔かもしれないけど、私にしたらほんのちょっと前のことだもの。緑青は少し人の中に長く居すぎて、感覚が人族よりになったんじゃないかい?」

「大きなお世話です!何なら今ここで暴れましょうか!?」

「ほら、やっぱり暴れるんじゃないか」

「暴れさせようとしてるのはあなたですー」

「バレたか。君と来たら最近大人ぶって、ちっともかわいくないんだもの」

「あなたに可愛いなんて思われたくもないですよ!」

 プンスカ怒る緑青を中に入れ、出入り口をしっかり魔法で施錠した漆黒であった。

 一方、探されている竜人族の近衛はというと。

「ヒョー、ハーッ、この刺激たまらん!?兄さんもう一個!」

「……あんた、そんなにアイス立て続けに勢いよく食って大丈夫か?」

「お、お腹が冷えて下しますよ!?」

 頭にキーンと来るのにハマった竜人族の男を、呆れた目で見るベルンとアワアワするメラニー。

「大丈夫だ!我が一族は竜人族の中でもさらに頑強と謳われた藍鉄族だからな!次はそのコーンとやらに三個載せてくれ!」

 思わず顔を見合わせ、肩をすくめるベルンとメラニー。

「お金がなくなったら諦めますよ、きっと」

「そうだな。その前にアイスクリームがなくなるかもしれんが」

「それはないと思います。アマーリエさん、黒紅ちゃん一家のおかわり具合を見て、古代竜が群れできても大丈夫なだけ用意したって言ってましたから」

「……群れか。そうか。嫌な予感がしてきた」

「はい?」

「ボヨン、ボヨン」

 メラニーが首を傾げた瞬間、漆黒と土の精霊が作った結界の真上で何かが弾む、大きな音がした。

「ボヨンボヨン?」

 変な音に周りを見回す人々。

「あ、あれはー!?」

「上を見ろ!」

「鳥か!?」

「ワフワフ!?」

「竜だ!」

「「古代竜が二頭!?」」

 人々が騒ぐ声に、こめかみを押さえるベルン。

「……一家から群れになったな」

「……ええ」

 ボソリと漏らすベルンに、呆然と相槌を打つメラニー。

「え?漆黒さんと辰砂さん、黒紅ちゃんはここにいるよ!?緑青さんもだけど!そしたら、あれは誰?」

 本部で実演を終えたアマーリエが、声をかけに来た緑青達を見て、結界の上でトランポリンを楽しむ二頭の古代竜を思わず指差す。

 ゲオルグとフリードリヒは頭を抱えて机に突っ伏し、ルイーゼ・ロッテとマルガレーテは初めて間近で見る古代竜に声も出ない様子である。

「あれは、代赭(たいしゃ)御祖母様と月白(げっぱく)お祖父様ですね」

 アマーリエの問いに答えたのは、辰砂であった。

「えっと、辰砂さんのおばあさんとおじいさん?黒紅ちゃんのではなく?」

「はい。私の祖父母ですわ。二人から産み月の問い合わせがあって、そろそろと伝えたのです」

 そう言ってお腹を撫でる辰砂に、なるほどとうなずくアマーリエ。

「辰砂さんのじいちゃんばあちゃんかぁ。古代竜って、すんごい長生きなんですねー。ちなみに親御さんは?」

 祖父母が来るなら、親も来るんじゃないかと辰砂にアマーリエが確認する。

「父と母は卵が孵る頃に、村に来ると聞いてます」

「そっかぁ。漆黒さんの方は?」

 片方が来るならもう片方も来るよねと、漆黒の方を見るアマーリエ。

「うちの方は母が気が向いたら来ると。あ、私の祖父母はもういないよ。父もすでに。ただ、兄弟がいつか来るかもしれないね」

「大隠居様!先代様!まだまだ来るんですって!頑張ってくださいね!」

 生存する古代竜の全頭数を怖くて確認できなかったアマーリエは、くるりと後ろを向いて、最高の笑顔を浮かべて言い放つ。

 その無責任な応援に、机に突っ伏したまま、片手を上げて応えた、ゲオルグとフリードリヒであった。

『父上、結界は大丈夫なんだろうか?』

 上で楽しそうに弾む二頭を見て、黒紅が首を傾げる。緑青は、珍しく口を開けたまま呆然としている。

「ゲオルグ殿、驚かせてすまない。結界は壊れないと思うけど、すぐにお祖父様とお祖母様を呼んでくるよ」

 漆黒が結界の外に向かう。村の人達は、辰砂の祖父母と聞いて、通常に戻っている。職人の何人かは新しい鱗の入手先に、ちょっとどころでなくワクワクしていたりするが。

「じゃあ、鬼ごっこ始めますか」

「ですね。それではみなさん!それぞれ参加する場所に行っくださいねー」

 こうして第一回四村共同鬼ごっこ大会は、何故か飛び入りした古代竜も交えて始まったのである。









や、やっと鬼ごっこがはじまるのか?

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