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電車で咳をする人が増えてきた今日このごろ。皆様お身体お大事に〜。
あくる朝、パン屋も開店してぼちぼち、お客が入ってきた時分。強烈な怪音が村の中を鳴り響き、村に居た人は失神した。
そして二の鐘の音で、ようやく皆、気を取り戻し始めた。
「な、なに?何が起こったの?」
「気を失ってた?」
「みたい」
「気絶耐性スキルが生えてる!?」
「わたしもだよ!?」
ガヤガヤと騒々しくなる村の中。
「パン屋さん!ついさっき村で鳴った音は何だ?敵襲か!?」
漆黒が、黒紅を小脇に抱え、辰砂と一緒にやってくる。
『主、大変だ!妾も父上も母上も気を失ったのだ!妾達が他者の攻撃で気絶するなぞ、初体験のなのだ!』
「ありえないことが起こってびっくりですわ」
「「「「「え!?」」」」」
古代竜まで失神してたと聞いて、なにその威力と村人騒然である。
「音は、役場の前の広場の方からしたようなんだが?」
漆黒の言葉に、心当たりのあるアマーリエと男衆が反応する。
「あ」
「アゥー」
「「「「あれだ!」」」」
男衆とアマーリエ、シルヴァンは、あわてて役場前の広場に走っていく。その後を、女衆と漆黒達がついてくる。
そこには呆然と座り込む、歌劇団員三人と職人達。そして、やらかしてしまったと冷や汗たらたらな伝説級の装備たち。
あっという間に村のあちこちから、人が集まりだす。
「ウェストさん!皆さん!大丈夫ですか?何がどうなったんです?装備に歌わせたんだろうってところまではわかるんですけど!?」
アマーリエがまっさきに声を掛ける。
「すみません!」
ガバっと土下座するウェストに続いて、他の二人と職人達も土下座する。
「?」
「支援歌の効果が出たかわかりやすいようにと……」
「気絶させる歌を最初に覚えさせたんだ」
ウェストの言葉に続けてシダーが話す。
「は?」
「癒やしや鼓舞の歌じゃ、歌わせても効果が出たのか、すぐわからないと思ったんだ」
「あー」
シダーの言葉に理由がわかった人達は、理解を一応は示す。が、納得はしていない。
「俺達もそのほうがいいと賛成しちまったんだ」
「すまんかった!」
結果がわかりやすいほうがいいだろうと、安易に賛成した職人達も、土下座のまま謝る。
「……そりゃ、癒やしじゃ、誰かが怪我したり、疲れてなきゃわかんないでしょうし」
「鼓舞されても、その日の仕事をやる気になったかどうかじゃね」
アマーリエとソニアがげんなりした顔で言う。
「気持ちはわかりますけど!もっと他に歌はなかったんですか?」
ブリギッテが目をすがめて言う。
「後は眠りの歌とか駆け足の歌とかかな?」
指をモジモジさせながら、他の支援の歌を出すウェスト。
「寝ちゃダメだし」
呆れながらブリギッテが言えば、
「ずっと駆け足なの?」
ソニアが効果の程を確認し、
「効果が切れるまでは」
あははと笑いながらウェストが答える。
「「「「「ものすごく普段は使えないんだね」」」」」」
「支援系の歌ってほんと戦闘に特化してるんですね」
ズバッと言う村の衆とボソッとこぼすアマーリエ。
「「「そうなんだよ」」」
がっくりしながら同意する歌劇団員達。
「え、じゃあ気絶の歌なんていつ使うんですか?」
皆気絶してたら問題じゃないかと疑問に思ったアマーリエが、ウエストに聞く。
「僕が歌うぐらいじゃ、相手に気絶耐性スキルがあったら効果ないんだよ。一般人や動物や下級の魔物なら効果があるぐらい。だから、めったに使わないし、使うときは僕一人でいざってときぐらいだよ」
「だから、護衛を雇うときには、支援効果が活きるように、気絶耐性スキル持ちを雇いますしな」
ウェストの言葉をフォローするモーリシャス。
「こんなに効果があるとは思はなかったな」
シダーがしみじみといい、それに頷くウェストとモーリシャス。
ここまでの被害をかけらも想定していなかった歌劇団員達に、そりゃしょうがないかとため息をつくアマーリエ達。
「……でも古代竜にまで効く、気絶の歌じゃねぇ」
「気絶耐性スキルがうんと上がった気がするんだが。後で神殿でスキル鑑定しないと」
土の精霊のスープを飲んで、気絶耐性スキルを鍛えていた冒険者の一人が、ソニアの言葉を受けてぎょっとしたように言う。
「気絶の歌は封印?」
「いいえ、魔物の暴走には使ます!この歌は」
肩をすくめるアマーリエの言葉に、バネッサ冒険者ギルド王国統括本部長が拳を握り、すぐに反対する。
「先制に使えたら、最強だぞ。伝説級の装備が装備として使えなくてもな」
バネッサの言葉を受けて、冒険者ギルドのビンセントギルド長が言う。
マジな顔をした村の人々は、真剣にどうするのかその場で話し合いを始めだす。
そして、皆で気絶耐性スキルを鍛え抜くという方向に、何故か結論が至ってしまう。
「……本気?」
ぼそっと呟くアマーリエに、マジ顔で頷く村の衆。
「まずは、伝説級の装備に歌を覚えさせスキルを上げさせると同時に、それを我々も毎日聞いて、気絶耐性スキルをあげる!」
「は?毎日気絶の歌?」
「もちろん他の歌も覚えてもらうぞ」
アマーリエの引きつった顔を見て、ビンセントはマジな顔で応える。
「「祝詞も覚えさせる!」」
「効果絶大そうだからな」
アルギスとネスキオも実にいい顔で、仕事をやりきることを誓い、ヴァレーリオ神殿長が深く頷く。
「土の精霊様に頼んでスープの作り方を覚えて、一日一食そのスープを飲んで気絶耐性スキルをあげる!」
「へ?誰がその作り方覚えるの?」
「「「パン屋さんも覚えてね!」」」
冗談はよしこさんなアマーリエに、村の料理上手がその背中を力強く叩く。
「一ヶ月でなんとかするぞ!!」
「おー!」
「ヒィ?一ヶ月って!?なんで?」
「リエ、諦めろ」
「キュウ」
「おかしい!おかしすぎるって!その方向性!職人なんだからッ耳栓作ろうよ!」
ただ一人立ち向かうアマーリエ。ちなみに止める方に回ったであろうゲオルグは、仕事で温泉村に滞在中である。
「作る数が多すぎる!」
「つけたり外したり面倒だろ!」
「なくすやつも居るだろ!」
「戦闘中に、耳が聞こえなくなる方が問題なんだ!」
「耳栓に聞こえなくするものを指定する必要が出るからだめだ!」
「「「だからパン屋さんの案は却下!」」」
皆に全否定されるアマーリエ。
「もう気絶してていいから、鍛えたくないし、変なスープの作り方も覚えたくない」
「「「「パン屋さんは有事の際には、食料供給のお仕事があるから、絶対気絶なんてさせたげません!まっさきに鍛え上げること!」」」」
「!」
そんなこんなで、アマーリエも含め、みなが気絶耐性スキルを一ヶ月後にはカンストすることと相成った。
【我らレジェンド合唱団!】は見事、支援の歌と祝詞を極め、村の防衛線を強固なものとする。これ以上強固にする必要があるのかというツッコミは影に葬り去られることになったが。
「気絶できたほうが幸せな場面だってあると思うのに。酔った勢いで言うんじゃなった!シクシクシク」
一ヶ月の間、ベッドで泣きの入るアマーリエに、ポスンッと顎を載せて慰めるシルヴァンと頭を撫でる黒紅の姿があったという。
蛇足ながら、砦の騎士達や領内に駐留する騎士達、そして魔物の暴走に参加予定の冒険者も土の精霊のスープで、気絶耐性スキルをカンストさせられたのであった。
合掌(=人=)。
合唱だけに……。えへっ。




