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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第25章 村を訪れる人々
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 男達がお通夜状態の頃、アマーリエは厨房の奥にある納戸で次のつまみの食材を探していた。

「ん?これお酒かな?開封してあるな。使っていいのかな」

 奥の方にあった、酒瓶を見つけ、大丈夫かどうか一口飲んで見る。

「ウィスキーっぽいなぁ。口当たりがまろやかだけど、かなり寝かせたったやつなのかな?」

 と、ツマミを作りながら手酌でやり始める。

 現世とっくに成人済みのアマーリエは、前世の成人年齢の抵抗感もなく、お酒を飲むことに抵抗がない。

 もともと前世ではザルを越して枠だったため、あまり酒には執着していなかったが、今生ではそれなりの量でちゃんと酔うようになったため、適量をさっさと覚えて飲みすぎないように気をつけている。

 酔っても、悪い酔い方はしないのである意味安心ではあるのだが。

「んー?これアルコール度数が思ったより高かったか?」

 何やら陽気な気分になってきたアマーリエ。手元はしっかりしているため、次々と思うままにつまみを作り始める。

「パン屋さーん、居るー?あれ?パン屋さん!うわぁ何、このつまみの量?」

 誰も止める人間がいなかったため、つまみをもられた皿や木鉢で作業台が埋め尽くされていた。

「あ、ネスキオさん。一杯どうですか?このお酒美味しいですよ」

 普段も割と人当たりのよいアマーリエが、見つけた酒をさらに陽気な感じで、つまみを取りに来たネスキオに勧める。

「あれ?酔ってる?大丈夫?」

「だいじょぶだー」

「微妙?」

 酒の入った木のコップを受け取って、遠慮なく飲むネスキオ。

「わっ、美味しいけど、これかなり強いよ?アルー!おつまみいっぱいあるから、運んでー」

 厨房から食堂に向かって叫ぶネスキオに、アルギスとヴァレーリオが慌ててやってくる。

「おい!どれだけ作ったんだ」

 目を丸くするアルギス。

「ぎゃぁ!それはわしのとっときの酒!」

 アマーリエの手元の酒瓶を見て、悲鳴をあげるヴァレーリオ。

「あれ?これ神殿長の晩酌用だったんですか?すみません。つい見つけちゃって」

 アハハーと笑ってごまかすアマーリエから、酒瓶を奪い取るヴァレーリオ。

「もうこれしか残ってないではないか!」

 八分目まであったはずの酒が、半分をきっている。

 涙目のヴァレーリオが酒瓶を抱え込み、アマーリエを睨んで、この酒がどういうものかと滾々と説教を始めるが、所詮、酔っ払い同士である。

 アルギスとネスキオは止めるのが面倒で、ツマミを台車に積み上げて食堂に逃げていく。

「アマーリエ!聞いておるのか!」

「聞いてますよー」

「聞いてないだろ!わしのとっておきを飲んだバツだ!うるさい伝説(レジェンド)級の装備をなんとかしろ!」

「なんとかしたら、お酒のことは不問で!絶対、言い出さないって約束ね!」

「応うとも!なんとかしたら酒のことは二度と言わん!男に二言はない!」

「わーい、じゃあなんとかします」

 そういうとアマーリエは、ツマミと酒の入ったコップを持ったまま食堂に出ていく。

 そう、この酔っぱらい同士のどうでもいいやり取りが発端で、また村に一つろくでもない事件がこれから起こるのだ。

 酔いの覚めたヴァレーリオは、果てしなくこのことを後悔することになる。

 酒は飲んでも飲まれるな、である。


「あれ?パン屋さん、男子会だぞ?」

「神殿長様が、伝説(レジェンド)級の装備なんとかしろって言うんですよー」

「ありゃ、パン屋さん酔っとるんだか?」

「ちょっとだけー」

「酔ってる自覚はあるんだな」

 ワハハと男衆達に迎え入れられ、皆から見える位置に立つアマーリエ。

「はい、では皆さん、うるさい伝説(レジェンド)級の装備にかんぱーい」

「「「「しないし!」」」」

「えー、のり悪いなぁ」

「職人通りの巡回を黒紅様に頼みたいぐらいなんだ!」

 黒紅に頼んでくれと泣きが入る職人達に、アマーリエが容赦なく突っ込む。

「アハハー、黒紅ちゃんが通るところは静かだろうけど、居ないとまた喋りだすから、黒紅ちゃんがどこに居るかわかりやすくなるだけじゃん!」

 大笑いするアマーリエに突っ伏す職人達。

「じゃあ、何か案はないのか!」

「しゃべるんだからー、歌わせればいいんですよ!歌ぐらい歌えるようになるでしょ。そこに音楽やってる人がいるんだし」

 ニヤッと笑って作曲家のジュリアンの方を見るアマーリエ。

「え?僕?」

「ええ、あなた!伝説(レジェンド)級の装備に歌を教えてくださいな!」

「装備に歌?」

「しゃべるんで、歌ぐらい歌えるかと。支援系の歌とかありませんか?」

「え、あ、癒しの歌や鼓舞の歌いろいろありますよ。僕も一応リュートで支援しますし」

 旅もするので、その時に役立つようにと支援スキルしっかり育てているジュリアン。

「「「「!」」」」

 アマーリエとジュリアンの言葉にハッとなる人々。

伝説(レジェンド)級の装備が支援スキルを持つようになるってことか!」

「使い手が居なくても支援できるのなら魔物の暴走(スタンピード)の時に役に立つようになるの!」

 よく思いついたと手放しで褒めるヴァレーリオ。そして、彼は話せるのなら祝詞も教え込めばいいんじゃないかと思いつく。

「ヴァレーリオ様?」

「アルギス、ネスキオ。お前たちは伝説(レジェンド)級の装備に祝詞でも覚えさせろ」

「えー、面倒」

「彼奴等言うこと聞くんだろうか?」

 商業ギルドで伝説(レジェンド)級の装備を目の当たりにしたネスキオとアルギスは、微妙な顔をする。

「ネスキオ、これも修行だ!面倒がるでないわ。アルギス、黒紅様も連れていけば、言うことぐらい聞くようなるだろ」

 上長からの無茶振りに、これも人助けかと諦めるアルギス。ネスキオの方はぶんむくれている。

「ネスキオさん、伝説(レジェンド)級の装備が一つ祝詞を覚えたら、新しいお菓子真っ先に一個!」

「乗った!」

 元最凶の凶手はチョロかった。

「え、ずるい、わたしも!」

「いいですよ。ただし、どっちがどれだけの装備に教えたかによります」

「「競争だ!」」

 火花を散らす二人を見て、ヴァレーリオとアマーリエは顔を見合わせてにんまり笑う。

 村の男衆は、ああして人を使うんだなと感心しきりである。

 劇作家のシダーはせっせとその様子を書き取っているが、酔っ払っているせいか、字が踊っているのがご愛嬌だ。

「あのあの!王都のうちの歌劇場にぜひ出演してもらえないでしょうか?」

 副支配人のモーリシャスも思いついたことを何も考えず、その場の勢いで話し始める。

「「「「王都の歌劇場!?」」」」

伝説(レジェンド)級の装備って、使い手か作った人の側、離れないんじゃないの?」

「村の中程度なら、大丈夫みたいだぞ。俺が店を離れて鍛冶場に行ってても、店に居てずーっと喋ってるらしいから」

 ネスキオの言葉に職人の一人が答える。

「なるほど」

「どこまで離れたら、戻ってくるんですかねー?」

 アマーリエの言葉に職人連中は首を傾げ、明日試すかと話し合いを始める。

「王都の歌劇場に出演するのは、仕上がり見てからでも遅くないんじゃないですか。それに行くとしても職人さんが一緒じゃないと難しそうですし」

「そのようですなぁ」

 のんきに酒を酌み交わしながら、アマーリエとモーリシャスが話をまとめだす。

「王都に行ったら、使い手も見つかるかな」

「「「「そうなったら助かる!」」」」

「でしたら私、監督者としてお供しますよ!」

 金儲けの話は、決して見逃さない聞き逃さないベーレントが口を挟む。

「副ギルド長、そりゃ、あんたが王都に行きたいだけなんじゃないのか?」

 男衆の一人が突っ込む。

「用事もありますから!温泉をひろめる会の!」

「「「「そっちかよ!」」」」

「「「温泉?」」」

 ツッコミを入れる村の男衆と、聞き覚えのない言葉に首を傾げる歌劇団関係者。

「この村の一つ手前の村に温泉があるんですよ。お三方は来る途中寄らなかったんですか?」

「一つ手前の村では食事休憩だけで、通過してしまったんですが」

 ここからしばらく温泉話に話がそれるのである。村の職人達も問題解決の目処が付き、心置きなく飲み食い無駄話に没頭し始めている。

「じゃあ、伝説(レジェンド)級の装備と職人さん達が王都に行くのなら、俺達が護衛を請け負うよ」

 王都への旅に話題が移って、冒険者が名乗りを上げる。

「でもどこで、伝説(レジェンド)級の装備に歌を教えましょうか?」

「役場前の広場でどうだ?」

「時間はどうする?」

「明日の朝の伝説(レジェンド)級の装備の実験が終わってから、広場に伝説(レジェンド)級の装備を運んどけば?」

「そうだな」

「誰も持ってけないから大丈夫じゃないの?ジュリアンさんが都合のいい時間に教えれば済むでしょ?」

 アマーリエの意見にそれもそうだなと男衆が頷く。

「僕はそれで構いませんよ。いや〜伝説(レジェンド)級の装備に歌を教えるのか」

「きっと世界初ですねー」

 ニコニコ笑いながら、話が弾むアマーリエ達。

「僕達も都合のいい時間に祝詞を教えればいいんだね」

「そうだな」

「そうそう」

 ネスキオが言うとアルギスとアマーリエも頷く。

「はー、ここしばらくの悩みがようやく晴れた」

 職人の一人がホッとしたように言うと、ほかの伝説(レジェンド)級の装備を作った職人達も口々に安堵の声を漏らす。

「じゃ、私はそろそろ御暇します。シルヴァン、帰るよ」

「オン!」

 アマーリエは潮時と見てシルヴァンを連れて帰ることにする。

「じゃあ、職人さん達で、ジュリアンさんあてに指名依頼出しといてくださいね」

「まかせとけー」

 陽気なオヤジどもに手を振って、家路についたアマーリエとシルヴァンであった。

 こうして、常識人も酔っ払っていた環境で、誰もアマーリエの発言をおかしいと思わず、満場一致で【我らレジェンド合唱団!】が爆誕することと相成った。



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