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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第25章 村を訪れる人々
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 晴れ渡る空の青と植物の緑が目にも鮮やかになってきた頃、アルバン村の人々は衣替えを始め、冬物の衣類を虫干しをして夏物の衣服の準備を始める。

 そんな初夏の村に、王都に拠点を置く歌劇団員三人とその護衛を請け負った冒険者達がやってきた。

「アルバン村にようこそ!クレウサさん、お久しぶりですね!」

「やあ、モリス!久しぶりだね。元気そうで何よりだ!」

 門番は見知った冒険者の責任者に声を掛ける。白銀の髪に黒い髪がメッシュのように入り、虎耳に虎の尾の生えた虎人族の女冒険者だ。

「お嬢さんのダフネさんも、今、村で活躍してるよ!」

「ああ!ダフネもここに来てるんだったね!久しぶりに合うから楽しみだ」

「クレウサ、依頼人とうちの新しいやつの仮登録」

 クレウサの後ろに居た、焼いた鉄のような色の髪の狼人が、依頼人である歌劇団員三人と新人をモリスに引き合わせる。

「モリス、今日は村の出来ごとを劇にしたいっていう、王都に拠点を持つ歌劇団員を連れてきたんだ」

「過激団?村の出来ごとを激にする?危ない奴らなのかい?ご領主様や王様はよく許可したね?」

 こわばった顔のモリスが、クレウサを見つめる。歌劇団員の一人がそれを聞いて、慌てて後ろを向いて肩を震わせ始める。残り二人は何を聞いたのかという顔で目を丸くしてモリスの方を見る。

「……違う。歌劇団というのはだなモリス。歌や踊りや芝居をみせてくれる人達のことだから」

 狼人がモリスの両肩に手を置いて、真面目な顔でざっくり説明する。

「おお!ホントか!?村でも披露してくれるのか?」

 期待に輝くモリスの顔を見た歌劇団の一人、立派な八の字髭の男が、我に返って自己紹介を始める。

「はじめまして、門番さん。私は歌劇場の副支配人で、今回の旅の責任者でもあるナイジェル・モーリシャスと申します。どうぞ、村に滞在中はよろしくお願いしますね」

「ああ、こちらこそ!ジャン・モリスだ。よろしくな」

 モリスが、ナイジェルに期待の視線を向けながら握手する。

「申し訳ない、今回の同行者は劇作家、芝居を書く人と作曲家、劇の中の音楽を作る人だけなんだ。村での演奏は……」

「モーリシャスさん。僕はバルバッドを持ってきてるから、たまにで良ければ演奏するよ。門番さん、作曲家のジュリアン・ウェストです。よろしくお願いします」

 栗色の髪の男性が、気を使って演奏を申し出ると、モリスが仕事のじゃまにならないかと心配そうな顔でそちらを伺う。

「いいのかい?」

「ええ、もちろん。ちゃんと作曲もしますよ」

 そう言ってパチリと片目を瞑る作曲家に、モーリシャスはニコリと頷き、モリスが喜びの声を上げる。

「はぁ、やっと収まった。俺はエリック・シダーだ。よろしくな。いい喜劇ができそうだ!早速宿屋に向かいたいんだが」

 笑いを必死でこらえていた残りの一人である黒髪の男性劇作家が、まだ笑いの余韻が残る顔をモリスに向ける。

「おお!そうだな!じゃあ、仮登録を済ませるから詰め所に来てくれ。そっちの新人さんもな!」

 こうして、村に新しい顔が増えることになった。

 

 劇作家は村の中を取材しながら歩き回り、村人から様々な話を聞き出し、作曲家は村を散歩しながら、宿で作曲の日々を過ごしている。モーリシャスはそんな二人の要望を聞きながら、王都の歌劇団と連絡を取りあったり、村の職人と顔なじみになりつつ、それなりに忙しく日々を送っていた。

 そして三人の日課は、鐘五つ(十四時)過ぎにモルシェンパン屋でお茶をすることである。

「この分厚く切ったバタートーストをお茶請けにのんびりする時間が、すごくいい。天気もいいしなぁ」

 雲ひとつない空を見上げて、手元のトーストをちぎるシダーに、モーリシャスがうなずく。

「ええ。このスコーンでしたか?私はこれがお気に入りです。くるみが入っていて、香ばしくほんのり甘く、いくら食べても飽きませんね」

「僕はこのプリン。はぁ、この食感がたまりません」

 気候もよく、美味しいお茶と好みの食べ物でリラックスする三人。

「王都にも、こんなふうに外でお茶をできる場所ができればいいですねぇ」

「甘すぎない茶菓子も」

「こののどけさも。ゆったりした牧歌的な旋律がいくつもわいてきます」

 この日も、三人のんびりお茶をしていたときのことだった。

「お!三人さん!ちょうどいいところに。今日は村の男子会なんだが、参加しないか?」

 村の男衆の一人が、村に馴染んできた歌劇団員達を、村の定例飲み会となってしまった飲み会に誘う。

「「「男子会?」」」

「ああ。野郎ばっかで飲むんだ。楽しいぞ〜」

「よくわかりませんが」

「飲めるのなら」

「ぜひ」

 好奇心と呑兵衛心をくすぐられ参加を決めた三人。

 他にも誘われた冒険者が混ざって、鐘七つ(十八時)過ぎから神殿の食堂で飲み会が始まった。

 シルヴァンもオスだから参加資格があると主張して、毎度参加している。アマーリエが調理に駆り出されるため、店で一匹留守番させると拗ねるので、連れてきているというのも理由の一つではあるが。ただ、アマーリエは女子だから!と、会がお開きになるまでは厨房から出ることはない。

「オッホン。注目!今日はアルギス神官が帝国から取り寄せた土の皿を使ったお披露目料理!熱いから皿には気をつけろよ!以上!ではカンパーイ!」

 机の上の様々な熱々のグラタンやドリア、ポットパイを、自分の皿に取り分けていく男衆。

「土の皿?王都のかなり上級の貴族様のお屋敷に取材を申し込んだときに、銀器をみせていただいたことはあったが、帝国は土の皿が主流なのか?」

 シダーが首を傾げながら、料理を村の人から取り分けてもらう。

「この皿は、庶民向けだそうだ。村で売ってる木皿より少し高いぐらいだとよ。今度、村でまとめて購入することにしたんだ」

「へ〜。面白いことするんだな」

「うまいもんを食べるためだ!これもなかなかうまいぞ」

 村人の一人によそってもらったグラタンを口にするシダー。

「うん。たしかに。このクリームみたいなソースにパスタか?チーズもよくあってる。味が濃いから、エールもすすむな」

 料理に舌鼓を打ちながら、注がれる酒をどんどん消費していく男達。酒が程よく回った頃、職人の一人から愚痴が溢れる。

「……最近職人通りがなぁ」

 その言葉に、場が静まり返る。

「思い出させるなよ、酔いが冷めちまったじゃねーか」

 一人がバタリと机の上に突っ伏す。

「いや、ありゃぁ流石に問題だろ?」

「いい加減なんとかしねーと」

 暗い顔の職人達に、目がうつろになる冒険者達。商人ギルドの職員は、酔いもどこかにとび、真顔で話し始める。

伝説(レジェンド)級の装備か……」

「彼奴等なんであんなにしゃべるの?」

 一際うるさい伝説(レジェンド)級の装備が店にいる職人は、涙目になっている。

「うるさすぎて、客が寄り付かないんだよ」

「いや、懐かれたら怖いから、用事をさっさと済ませたくなるっていうか」

 職人の一人が言えば、客である冒険者が恐怖で体を震わせて応える。

 そう、あの日出来た、メラニーいわく伝説級という名のゴミ以下装備達は、店頭で元気よく冒険者や職人達に話しかけまくっていたのだ。それぞれを作り上げた職人がいる店で。

 ただ、黒紅がシルヴァン達【ちび台風】と通りを歩いているときだけ、静かになるのではあるが。

伝説(レジェンド)級の装備!?村にあるのか?ぜひ話を聞きたいんだが!」

 シダーが興味を持ち、隣の村人に話しかける。王都で劇になったら、色んな意味でたまったもんじゃないと、歌劇団員達には伝説(レジェンド)級の装備のことは黙っていた村の人達。

 今日は酔っ払ってうっかり喋ってしまったようだ。

「シダーさん、止めときな。子どもの頃の夢が思いっきり壊されるから」

「はい?」

 真顔で知らないほうが良いと止める職人に、首をかしげるシダー。

「子供の頃はなぁ、特別な存在に選ばれるってことに憧れるもんだが……」

 微妙な存在を思い出して、なんとも言えない表情で顎を撫でる職人に、隣の冒険者がずばりという。

「大人は自分で選んで生きていくもんだ」

 シダーがその言葉頂きと、慌てて懐から帳面を出して書き留める。

「作っといてなんだが……」

「「「「「「彼奴等にだけ(、、)は、選ばれたくない!」」」」」」

 皆の唱和に、目を丸くする歌劇団員たち。

「オン」

 そっと、男たちから目をそらすシルヴァンであった。

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