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食後のデザートに、神殿の卵を使ったプリンをしっかり腹に収めた一同。ネスキオは農作業報酬の一部として、しっかり二個食べている。
その後、アマーリエとブリギッテはパン屋の仕事へ、チャールズは自分の薬草園に向い、黒紅とシルヴァンは、アルギス達に連れられて商業ギルドへと向かった。
『のう、アル?南の魔女殿はどうしたのじゃ?』
朝から姿のない南の魔女に、黒紅がアルギスに尋ねる。
「今日は護衛お休みなんですよ。代わりにネスキオとファルが、護衛を請け負ってくれました」
『そうであったのか。まあ、休みも大事じゃからな』
睡眠不足はお肌の敵!と叫ぶ南の魔女を見て、そう言うものなのかと刷り込まれた黒紅であった。
「ええ。なんか帝都に用事があるからと、朝早くから出かけてましたけどね」
『アルの兄上がおるところじゃな!妾も一度行ってみたいの』
「リエと一緒に遊びに行きますか?」
アマーリエを帝国に呼ぶチャンスとばかりに、黒紅に帝国行きをねだらせようとするアルギス。
『むぅ、主は三年、この村のパンを焼くのだと言っておったからの。その後、帝国に遊びに行くか聞いてみよう』
なまじ長生きなだけ、割と気の長い黒紅の返事に、仕方ないかとアルギスはうなずく。
「黒紅ちゃん、帝国よりこの村に居るほうが絶対面白いよー、村の人ってば、古代竜見て怯えないし、村の人もパン屋さんに巻き込まれていろいろやらかすし」
「おい!ネス!」
『ん、それはそうじゃの。肝の座り具合は、天下一品じゃな!妾達を見て、怯えることなく話しかけてくる貴重な者たちじゃ。それに主の望みを一緒に叶えてくれる良い者たちじゃからな!』
「あはは、村の職人さん達は、良いもの作る素材や意見を出してくれるなら何でも受け入れる人が多いですからね」
ファルが乾いた笑みを浮かべて、村の職人たちの顔を思い浮かべる。良いものを作るためなら悪魔をだまくらかしてでも(魂を売り渡す気は欠片もない)、素材を手に入れようとする図太さのある職人達である。
「……それは否定できんな」
「それにしても、伝説級の装備は一体いくつできたんでしょうね?」
ファルが、かなり気になる様子で話し出す。
「かなりの数ができてるようだったな」
「僕まだ、伝説級の装備なんてお目にかかったことないけど」
「私もないぞ。兄上から、帝国の宝物庫に初代皇帝の伝説級装備が収められてると、聞いたことはあるが」
「「へー」」
「ファルは?」
「帝国のギムレー神殿に収められている錫杖なら見たことがありますよ」
「ギムレーの神殿って、あの峻厳な山の中にある?」
「ええ。私その麓の出身なんですよ」
「そうだったのか」
「オン?」
「かなり自然も厳しいところなんですよ、シルヴァン」
「オーン」
「ん?錫杖を見せられたということは、ファルはギムレーの聖女候補者だったのか?」
「一応。と言いましても、あそこで神官になるものは皆候補者で、錫杖とおしゃべりはするんですけどね。私は錫杖に丁重に断られました」
「オン?」
「おしゃべり?」
「皆、聖女候補者?男もなのか?」
「聖女ではなく、聖の神官というのが正しいんですよ。長いこと資格者が続けて女性だったために聖女と勘違いされてるようですけど」
「「へー」」
「ギムレーの錫杖は、おしゃべりですよ。見習いの神官がサボってると、突然現れて叱りますし」
「突然現れるっ!?」
一応中央神殿の副神殿長だったアルギスは、各地の神殿の情報もそれなりに把握している。特に伝説級武器である錫杖があり、聖女を排出するギムレーの神殿のことは他よりも情報が多い。が、錫杖が喋り、動き回るなどという情報は、彼の耳には入っていなかった。
「いつもは祭壇に居るんですけど、暇なのか神殿内をあちこち出没しますよ」
「「……」」
意味が全くわからないと硬直する、アルギスとネスキオ。シルヴァンの方は、なんか面白い武器があるっぽいと耳をそばだててファルの話を聞いている。
『しゃべる武器か。ダンジョンの下層の宝箱の中にも入っていると聞いたことがあるぞ、ダンジョンの主から』
「「「え?」」」
「オーン」
シルヴァンはロマン武器キタコレとワクテカ状態、黒紅はダンジョンの主から話を聞いてそう言う武器もあるのか程度の認識。
一方の人間三人は、個々の情報を出し合って伝説級とはなんぞやと相互の認識の補完を始めたのである。
「なんかよく解んなくなったんだけど。職人が鍛え上げられる最高級の装備が伝説級なんだよね?」
「私は、伝説級って話すものだとばかり」
「いや、うちの宝物庫の中のは喋ったなんて話は一度も」
ネスキオが一般的な常識を、ファルは自分がしる唯一の伝説級の話を、アルギスは兄から聞いた話を持ち出すが、首をかしげるばかりである。
「よく知ってそうな人に聞くのが一番ですよ」
「そうだね」
「そうだな」
それぞれ、長命種な西と南の魔女の顔を思い浮かべ、神殿に帰ったら聞いてみようと話をまとめる。
「そうと決まれば、さっさと鑑定済ませて神殿に帰ろう!」
ネスキオの言葉にうなずいて、歩みを早めたアルギス達であった。
「「「「『……』」」」」
商業ギルドについたアルギス達は、いつもは静かなその場所のあまりのやかましさに呆然となる。しかもその音声源は人ではないのだ。
『さっさと鑑定しろやこら!』
『……きっとどこかに私の王子様が♡』
『ギャー、何こいつダサい!』
『うるせー、叩き割るぞゴルァ』
『怖い怖い怖い怖い』
『……』
『まだ?まだ?』
『離せ!いくら親といえども俺は、もう一人前の武器なんだ!主を探させろー!』
職人に連れられた装備達が、勝手に騒いでいるのだ。連れてる職人達の方はすでにうんざりしている。稀に静かなのも居るが、静かなだけで異様な空気感を醸し出しているのもあって静かだから良いとも限らないようである。
そして職人達の並ぶ奥の方で、アーロンが言葉少なに鑑定を続けている。
「……お取り込み中のようだから帰ろうか?」
「ああ」
「そうですね」
「キュゥ」
『うむ』
危機回避のため、さっさと撤退を決めたアルギス達。当然、待ったがかかる。
「これはこれは!神官様方!いかがですか!伝説級の武器ですよ!」
伝説級の装備を買えるだけの懐具合の持ち主を発見したベーレントが、逃さないとばかりにアルギス達に走り寄ってくる。その目は、このうるさいのを早く誰かに押し付けたいとはっきり言っていた。
「いらない」
「兄が用意したものがあるので」
「こ、この間ダンジョンで新しい装備手に入れましたから」
間髪入れず、断った三人だった。
「そうおっしゃらずに!見るだけならただですぞ!」
「「「見ません!」」」
「パン屋さんでこりた。ただほど高いものはないって」
ネスキオの農作業参加は、アマーリエがただで食わせたプリンがきっかけである。その後の交渉により、農作業期間中は、プリン無料食べ放題になんとか持ち込んだネスキオであった。
「そうですね、ただほど高いものはありません」
「うん」
疑惑の眼差しでベーレントを見、ネスキオに同意して後ずさるファルとアルギス。その後ろにはニコニコしたメラニーの魔の手が。
「大丈夫ですよ!装備に懐かれさえしなければ問題ないですから!さあ、お茶入れましたよ。どうぞそちらにおかけください!」
なし崩しに、待合室に連れ込まれるアルギス達。
「「「懐かれる?」」」
「ええ、総じて伝説級の装備というのは持ち手を選ぶゆえに伝説級なんですよ」
「「「???」」」
メラニーが胸を張って言うが、意味がわからず首をかしげる三人。
「伝説級装備は、一応、親である、装備を作った職人は持ち運べますが、装備としては使用できません。そして、使用者以外は装備をもちあげられなくなるんですよ」
ベーレントが伝説級の装備の特質を説明する。
「はぁ」
「へー」
「ほぉ」
「装備品が、使い手に装備することを許してはじめて使用可能になるんです。そしてめったに使い手は現れません。だから伝説になっちゃうんですよね」
はぁとため息をつくメラニー。
「はっきり言って、私達商人にも職人達にもなんの旨味もない装備!それが伝説級なんです」
憮然とした表情で言い切るベーレントに、三人は呆れた表情を向ける。
「どんなにいい装備でも使えなければ、売れませんし、押し売りすらできない、捨てられない、ゴミ以下ですからね」
あっさりひどいことを言い放つメラニーに、伝説級装備達からブーイングが起こる。職人達の方はうつろな目であるが。
「……押し売りするって?」
「捨てられないんですか?」
「作った職人が捨てても、戻ってきちゃうんですよね。そのまま不良在庫ですよ。それは使用者でも同じです。捨てに行っても、使用者のもとに戻ってくる、ある意味呪われた装備なんです!」
「そんなもん見たくない」
「見せないでください」
「見せようとするな」
「「コッチだって誰かに売りつけないと、職人達があのうるさいのに気が滅入っちゃって仕事になんないんです!」」
声を揃えて言うベーレントとメラニー。それにビクッと反応する職人達。
「数年に一度のことなら、なんとかなってましたが……。ここまでしゃべるとは思ってもみませんでした。たまにできる、伝説級装備はここまでおしゃべりじゃなかったのに、なぜ?」
「今日は一度に三十二点ですよ!どう頑張っても売りさばけません!数が多いからか、遠慮なく喋りまくってますしね!しかも下品なのが多いし!」
何やら言われたらしいメラニーが、顔をひきつらせる。
「……売れるまで家に戻ってこなくていいって、母ちゃんが」
「え?なんで?」
一人の職人の悲壮な言葉に、耳を疑う三人。
「こいつが母ちゃんを侮辱した」
『チッパイは滅びろ!』
「壊しませんか?」
思わずキレるファル。誰もその胸元に視線をやるものは居ない。
「壊せれば誰も苦労しません。壊せないくらい頑丈だから伝説なんですよぉ」
がっくりと、その場に崩れ落ちる商人と作っちゃった職人達。
『せっかく作ったのだから、壊すのは不憫であろう。静かであればよいのではないか?』
黒紅がキョトンとしてベーレント達を見る。
「静かにできますか!?」
「黙っててさえ居てくれたらいい!」
「少しぐらい話してもいいですけど、いらぬことさえ言わなきゃ、助かります!」
『それぐらいならできると思う』
黒紅を、涙ながらに拝み始める職人達であった。
『では。妾の前に並べ』
ブチブチガヤガヤ喋りまくっている伝説級装備を、自分の前に出して並ぶ職人達。
『そなたら、妾のブレスで滅しとうなければ、黙りや』
黒紅の口からちょろりと漏れるブレスと威圧に、ピタリと黙る伝説級装備達。黒紅のブレス攻撃には、流石に負けるのがわかっているようであった。
静けさを取り戻した商業ギルド内で、アーロンが粛々と鑑定を終わらせた。




