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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第24章 米の栽培試験
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現実世界は稲刈りが始まってますが、こちらでは田植えの準備に入ります〜

 快晴のアルバン村。動くとやや汗ばむ陽気になった日の朝。今日は、村の栽培試験用の田んぼの代かき作業がある。

 栽培試験用の田んぼは、アルギスが土の精霊に頼み込んで作ってもらっており、田起こしまで済ませてあったりする。

 水も村の近くを流れる川から、精霊が水路をこしらえ、水温調整のために少し大きめの溜池を作り、田んぼに流すことになっている。溜池は、子供の安全を考えて村の外に作っている。

 精霊の方は、料理以外の何かを作って人に感謝されるという経験をして、かなりはっちゃけていた。大半が戦闘のための協力で、創造する楽しさを今回実感したのだ。

 そして、アマーリエはと言うと、なんやかんや田んぼづくりにはちょこちょこと参加している。

 前世では、子供の頃田植えや稲刈りの手伝いをした記憶があり、親兄弟の米に掛ける情熱にさらされていたため、米に関する知識も魂にまで無駄に刷り込まれていたようである。もちろん、その親兄弟の熱さの反動で米農家の娘でありながら、パン屋になったのではあるのだが。

 蛇足ではあるが、後年、娘や妹のために小麦にも手を出し始めた親兄弟だった。単に作付け制限で休耕を余儀なくされ、小麦を作ることにしただけだったりするのだが。合間にレンゲを植えて、養蜂家を呼んだりしていた(はちみつを売ってもらって自分のパン屋で限定発売していたりもした)こともあり、アマーリエの中に、パン屋以外の実体験があるのはもはや、成り行きとしか言えない。

 さて、本日のパン屋の営業は、アマーリエとブリギッテを除く三人で開店することになっている。ブリギッテは、薬草園絡みで米の栽培に興味があって、親と一緒に米の試験栽培に参加しているのだ。

 もちろん、昼にはアマーリエとブリギッテも、店に戻る予定ではある。

「オンオン!」

「はいはい、ちょっと待って。ズボンに履き替えるから」

 開店準備を済ませたアマーリエは、シルヴァンに急かされながら、急遽作ったもんぺズボンに履き替える。

「わふわふわふ♪」

 妙に張り切っているシルヴァンをみて、首を傾げるアマーリエ。

「シルヴァン、今日は代かきだよ?まだ、田植えはしないよ?」

「オーン?」

 あまりわかってない様子のシルヴァンに、やらかされる前にと釘を差しに行くアマーリエ。

「……こりゃ泥遊びする気だな?遊びじゃないからね?泥遊びの場所を精霊さんと一緒に作ればいいよ」

 最後にろくでもないことをシルヴァンに吹き込みながら、身支度するアマーリエ。

「ワーウ、オンオンオン」

「はい、はい。行くよ」

 ウキウキワクワクなシルヴァンの後を追いかけ、階下に降りるアマーリエ。足には、ダンジョンで刈り取ってきてもらった稲わらで作ったわらじを履いている。

「アマーリエさん!おはよう。今日はお店任せてね」

「おはよう!アマーリエ」

「おはよう、アマーリエさん」

「皆さん、おはよう。ナターシャさん、今日は朝早くからありがとうね」

「大丈夫よ。任せてね」

 皆まじまじとズボンにわらじ姿のアマーリエを見る。

「?」

「その靴、何?」

「ああ。米の藁で作ったわらじ(、、、)だよ。革靴だと革が傷むからね」

「「「?」」」

「米って水のある場所で育つんだよ。小麦と違ってね」

 もちろん陸稲と言って畑で育てる米もあるが、水稲の場合、除草が楽になる。水の中で育つ草のほうが圧倒的に少ないからだ。

「畑に水を溜めるってこと?」

「そういう感じ。じゃあ、いってきます〜」

 アマーリエはざっくり説明すると、店を出る。そのまま黒紅を迎えに行き、試験栽培地へと向かう。

 米の栽培に向いて場所を選んだため、村の北にある神殿とは逆の南側の土地に試験栽培場ができている。

「おはようございます~」

「オンオン!」

 すでに来ていたアルギスとネスキオ、ファル、そして土の精霊に声を掛けるアマーリエ。人族は皆、足にわらじを履いている。

「なにげにこれ、開放感があって気持ちいいね」

 そう言って、わらじを履いた足を上げて、見せるネスキオ。草履と違って、かかとと脇にも紐を通して足首に紐を結ぶ形式のわらじは、脱げにくい構造になっているのだ。

「あはは、革靴と違って全体を覆ってませんからね。親指と人差指で鼻緒の部分を挟んで履くから、足の健康にもいいんですよ」

「そうなの?」

「足の甲のこの山なりがしっかりある方が、歩いたり走ったりしても疲れにくいし、安定するんですよ。で、この指を挟む状態をすると……」

「あ、甲の部分が山なりになるように筋肉が動くね」

「鍛えられるんですよ。長距離歩いても疲れにくくなります」

「なるほどぉ」

「わらをつめてしっかり編んでますから、厚みもあって、わらの弾力性が足を地面につけた時の衝撃を吸収するし、革靴よりもしっかり足の裏の感覚がつかみやすいと思いますよ」

「うんうん」

 ネスキオは、その場で軽く飛び跳ねて、その感覚を確かめる。

「まあ、冬場は寒くて無理ですけどねー」

「あはは」

「地下足袋とかあるといいんですけどね。ワイバーンの翼の被膜と組み合わせたらいい具合の出来ないかなぁ?」

「地下足袋?」

「親指と人差指の部分が割れてる靴みたいなもので、足の裏はわらじ並の弾性と軟性があって、足首まで覆う布が付いてるんです」

「ホウホウ。わらじは足の裏とそこが離れる感じがないもんね。気をつけなくてもかなり静かに歩けるし……」

「リエ、それはまた今度」

 アルギスが脱線し始めたアマーリエを苦笑しながら止めにかかる。ネスキオの方は、後でアマーリエを誘って革細工屋に行って、地下足袋もどきを作りに行くことを決める。

「あ、そうですね」

「皆さん!おはようございます」

 そこへブリギッテとその父親のチャールズがやってくる。この二人も、もちろんズボンにわらじ姿である。口々に挨拶を返し、天気がいいことを喜び合う。

 アマーリエは、皆が揃ったところでアイテムバッグからノートを取り出し、代かきをする意義、しないとどうなるか、やりすぎるとどうなるかを説明する。そしてそれを、土の精霊に頼んで実際に目で見てもらうことにする。

 もともと作った栽培地は、地面の上に30cmほどの畦を田の字に作り、二m四方ずつの四面分の田んぼになっている。そして、下に20cmほど掘り、荒起しから田起こしまで済ませてある。

 水路はその両側を通り、畦の部分に取水口と排水口がつけられている。

「精霊さん、水路と逆側のこの部分をこの絵みたいに掘り下げてもらっていい?」

『えーっと、アゼの外側に人の入るぐらいの溝にすればいいのね。うんと、【ピットフォール】』

 田の字の左右に水路があるとすると、その上側がピカリと光って、大人の腰の高さまでの堀ができる。

「じゃ、この中に入ってください。で、この田起ししたよりも下側の位置にちょっと穴を堀りますね」

 アマーリエは、シルヴァンと黒紅を残し、アルギス達と土の精霊が作った堀の中に入る。そして、田の字の左上部分の畦の下の一部を掘り始める。

「黒紅ちゃん!こっち側の面の取水口の板を外して、水路から水を入れてくれる?」

『わかったのじゃ』

 黒紅が取水口の板を取り除くとどんどんと、水が入っていく。水が溜まり始めると、アマーリエの掘った穴から水がザアザアと漏れ出す。

「黒紅ちゃん、取水口締めてー」

 黒紅が取水口の板を戻しにいく。

「水が貯まらない?」

「ええ、代掻きをすることで水と土を混ぜ泥状にして、水が溜まりやすい状態を作るんですよ。そうすると水が溜まりやすくなるんです」

「ほうほう」

 皆でヨイショと堀の外に出て、すべての部分に水を入れはじめる。

「水も溜まりましたし、じゃ、代掻きして見せますね」

 アマーリエは平鍬を使って、土と水を混ぜながら表面を平らにならしてみせる。

「平にしないとだめなんですね?」

 チャールズがじっと見ながら口にする。

「ええ、凸凹してると水に浸かる部分に差が出ますからね」

「ああ、凹んでるとそこだけ浸かり過ぎちゃうし、高くなってると土が見えちゃって浸からなくなるんだね」

 なるほどとアルギスがうなずき、手を中に入れて確かめる。

「そういうことです」

 アマーリエ達は二人一組でそれぞれの面の代かきを始める。

「もっと広ければ、馬や牛と道具を使って出来ますよ」

「うんー」

「魔道具も開発すればいいし」

「そうだね」

「オンオン!」

「シルヴァンどうしたー?」

『主が堀った穴の水が、止まり始めたのじゃ』

「お、どれどれ」

 皆で田んぼの中から出て、堀の中に入る。

「本当ですね、ポタポタ漏れる程度になってます」

 ファルが顔を穴に近づけて観察する。

「これぐらいがちょうどいいんですよ。完全に水が漏れなくなると、今度は土の中の水が抜けず、古くなって根腐れが始まったり、根が張らず、作付けが悪くなったりするんです」

 何事にも加減というものがあると、アマーリエが実際に見せて教える。

「なるほど」

「なにげに、作付け増やしつつ美味しい米にするのって手間隙かかるんですよね」

「だねー」

「なので、豊作の時の土の状態や水の状態、天候を覚えておくことや、毎年記録を取ることが大事になってくるんですよ」

「それは、薬草園でも言えますな。代々の記録がちゃんと残ってますよ」

 チャールズがウンウンとうなずき、アルギスが難しい顔で口を開く。

「……そうなると、農民も文字や計算ができる方がいいってことだね?」

「そうですよ。富国というのは、効率よく生産性を上げることですから。単純に民が増えればいいってもんでもないんです。人が増えると食い扶持が増えるってことですから」

「適切な生産量と消費量ということか。余剰が出ればそれを売ることもできる」

 腕を組んで考え込むアルギスに、アマーリエが肩をすくめて言う。

「そう、簡単にうまくいかないから、(まつりごと)ってのは難しいんですよ」

「はぁ、そうだな。だが、まずは皆が飢えずに暮らせるようにすることが先決だな」

「その最低限が、なかなか難しいんですけどね。やんないと進まないし」

「諦めるわけにいかないか」

「皆も、誰かに任せっぱなしではなく、できる部分をやる意識を持たないとだめですしね」

「そうだな。おんぶに抱っこが許されるのは、乳飲み子だけだ」

「それに、どんな小さなことでもいいんです。誰かの役に立ってるっていう意識は、帰属感に繋がりますからね。生きていく上で大事なことなんです」

「自分がいらない人間だと思うことほど、辛いことはないから」

 苦い顔をしてアルギスが漏らす。

「あー、アルギスさん、あんちゃんから大事にされてるからね?」

「うん。それはもうちゃんと実感した。それに今は、皆でいろいろやって居場所があるっていうのも実感したから」

「うんうん」

 ボチャ。

「「「「「「?」」」」」」

 皆が音のした方に目を向けると……。田んぼに顔面からはまった黒紅と、畦で尻尾を振るシルヴァンの姿が。

「く、黒紅ちゃん?」

『……』

 慌てて引き上げにかかるアマーリエ。ファルが必死で黒紅に浄化魔法をかける。

「シルヴァン、あんたもしかして?」

「ワーフー」

 よそを向いて、口笛をふくまねをするシルヴァン。

『タンボを覗き込んでいた古代竜の背中を、その魔狼が鼻で押したの』

 すべてを見ていた土の精霊が証言する。シルヴァン、どこぞのダチョウなコントをやったようである。

「精霊さん、申し訳ないんだけど、あっちに泥遊びの場所作ってくれるかな」

『いいよ!』

 田んぼからだいぶ離れた場所にぬかるんだ場所を作る土の精霊。

「黒紅ちゃん、やり返すならあそこでやっていいからね」

『わかったのじゃ、主。妾も皆が頑張ったタンボをだめにはしとう無いからの』

「シルヴァン、やられといで」

「オン!?」

 そう言って、あっさりシルヴァンを黒紅に売ったアマーリエであった。









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