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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第23章 ベレスフォード商会からの新情報
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お待たせいたしました〜って最近こればっかりですね。

 凍った食堂に動きを与えたのは、一汗かいたといい笑顔で戻ってきた緑青(アズリアス)

「どうしたんです?皆で固まって?」

「あ、アズリアス!いいところ……ッ、はっ母上!?」

 いち早く動きを取り戻し、なんとかしようとしたフリードリヒが、突然椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、直立不動で話し始める。

「「フリッツ?」」

 その様子に、帝国のやんごとなきお方と緑青が首を傾げる。 

「しぃっ!え、いえ!なんでもありませんよ!はい!……はい!母上!ただいま!なんとかします!」

 フリードリヒは、耳につけているイヤーカフス型の連絡用魔道具を抑え、必死に返事をしている。漏れ聞こえる声に、ゲオルグとアマーリエがああと声を上げる。

「なんじゃ、マルガレーテか。大方、そこなお方たちの戻りが遅うて、連絡がないのを心配し始めたんじゃろ」

「……まずい、まずいよ。見送ったあとすぐ戻るって女官長(マルガレーテ)と約束してたのに!つい、めったにない機会だからって、ここまでついて来ちゃったし!」

 ゲオルグの言葉に、サーっと血の気が引く王太子。

「そうですのぅ。早う帰らねば、あれは辞めると言い出しかねませんからのう」

 王太子の方をちろりと見てプレッシャーをかけるゲオルグに、アマーリエが質問する。

「あれ、大奥様ってお城で働くのが好きで、ご領地にもどってこないんだとばかり思ってたんですが」

 領地のマルガレーテ評は、至って単純。枕詞に【貴族らしくない】がつく働き者である。上が一生懸命働いてるのに下が怠ける訳にはいかないと、皆同じように一生懸命働く。それゆえに、マルガレーテは周囲から、下を休ませるために休めと言われるほどである。

「いや、陛下方に頼まれて、渋々とどまっておるんじゃ。領地の方で楽しいことがいっぱい起きとるしの。あれは責任感が強いほうじゃが、目新しいことも好きじゃからな。本心では帰って来たがっとるんじゃ」

「ああ、そうですよね。このところお忙しくて、領地にお戻りになってらっしゃらなかったから、大奥様がご存じないこと増えてますもんね」

「じゃろ?もう女官長候補も育て上げ、いつでも隠居できるんじゃがの。わしとしてもいい加減、マルガレーテとのんびり過ごしたいしのぅ」

 そしてまたちろりと王太子を見るゲオルグ。

「ゲオルグ翁!まだマルガレーテには居てもらわなくては!私の戴冠式!いや、私の子の養育だって!」

 王太子はあわあわしながらも、自分の望みをゲオルグにぶつける。いろいろ儀式があれば、それを回せる有能な人物は、上にとっては垂涎のまとなのである。やっといて!で済むって、なんて素晴らしい!

「……お妃様すらまだで、お子なんぞ影も形もないのに、何を云わっしゃるか。うちの孫が嫁を貰わん言い訳にするので、早う妃をもろてくだされ」

 ちょっとどころでなく呆れた目で、王太子を見るゲオルグ。王太子の方は、早く嫁もらえととばっちりを食らう。

「大奥様、信頼絶大ですねー」

 アマーリエも、完全に他人事状態で感想を漏らす。

「マルガレーテがいないと城が回らないんだ!」

「それ組織として、ダメダメじゃないですかー。大奥様がいないと機能不全起こすとか」

「うぐっ」

「じゃの?」

「大隠居様、ちょくちょく大奥様に帰ってきてもらいましょうよ。お城がちゃんと回るように人育てないと。組織だって年取ったら、若返らないとだめなんですよー。老若の交代がうまくいかない組織ほどあっけなく崩壊しますからね」

 基本、習うより慣れろな職人アマーリエのスパルタ方式に、ゲオルグも深く頷く。

「……わかった。そうだよね、マルガレーテには無理ばかり言ってるし」

 ちょっと涙目の王太子を、こちらも呆れた目で見ながら頷くアマーリエ。

「はい!今すぐ連れて戻ります!はぁ……」

 母親(マルガレーテ)との通話を終え、どっと疲れの増した顔のフリードリヒ。

「終わったかの」

「終わったみたいですね」

「あわわ」

 のんきなゲオルグとアマーリエ、真っ青な王太子。よくわからずキョトンとしている帝国の二人をよそに、商人たちは固唾をのんでフリードリヒを見守る。

「殿下!王妃陛下を連れて、今すぐ城に戻りますぞ!」

 貴族モードに戻ったフリッツが、王太子に帰城を訴える。

「わかった!でも、(けい)。ご機嫌取りのお土産を持って帰らないと、帰るに帰れないよ」

 王城で、拗ねてるであろう父親と怒り心頭の女官長の機嫌を取らないといけないと、訴える王太子。

「うぅっ」

「先代様ー、帰るってどうやって?今日ここに来たのだって、あんちゃんのスキルでしょ?今から温泉村に寄って、そこのにーさんのお母さん確保して王都に戻るって、誰に長距離転移を頼むんです?東の魔女様は、温泉村だし、一応西と南の魔女様いらっしゃいますけど、南の魔女様はアルギスさんの護衛でしょ?残るは西の魔女様だけど、今なんかの研究に熱中してて誰が呼んでも聞こえないふりで流されちゃうんですよー」

 一応村の魔法使い達の状況を伝えるアマーリエ。魔女のお弟子さん達も居るが、その場合は師匠である魔女たちの許可を得て、仕事の依頼をする必要がある。なまじ、やんごとない方々を遠方に送り届けるお仕事なので、安全マージンは大きいほうが良く、当然術が劣る魔女の弟子では不安が残るのだ。もちろん、魔女の弟子たちの将来のためにも、顔つなぎはあったほうがいいだろうが、それは今ではないのだ。人を紹介するというのは、なかなかに難しい仕事であるのだ。

「うっ、そうだった。うちの旅行荷物を積んだ馬車すらまだ、王都を出たところだろうよ」

 帝国のやんごとなきお方のスキルであっという間に温泉村に転移したため、手ぶらで来る羽目になってることに気がついたフリードリヒであった。

「フリッツ、私で良ければ王都まで運んであげますよ。どうせこの人も帝都に連れて帰らないといけませんしね」

「な!?俺は!お前を!宰相のために!連れ戻しに来てたのに!」

 何故か立場が逆転してることに不満を訴えるも、緑青に黙殺される帝国のやんごとなきお方。

「ほんとうか!?」

 フリードリヒの方は、藁にもすがる思いでニコニコ提案してきた緑青をみやる。

「都合のいい時に、パン屋の娘を貸してくださいね?」

個人的(、、、)用途なら好きに使っていいぞ!」

 政治を絡ませないなら好きにしていいと、あっさりアマーリエを貸す約束をするフリドーリヒ。

「ありがとう」

「……いやちょっと、本人の意志無視して売り飛ばすとかどういうことですか?」

 危機的状況に、アマーリエがすばやく口を挟む。

「アマーリエ?王室と我が家の平和のためだ。協力な?」

 真上からの圧力に、アマーリエは今までの借りを返しておくかと、諦め顔で協力し始める。

「へーへー。ほいじゃ、にーさん。これ袖の下用に、ベリーソーダね。ダニーロさん、ベリーのパイ残ってませんか?」

 大人しく待っていたダニーロに、声をかけるアマーリエ。

「え、ああ。ございますよ。今、ご用意しますね!」

「ありがとう!この恩は必ず!」

 目を潤ませて、ダニーロとアマーリエに感謝の言葉を述べる王太子をみて、苦笑いするゲオルグ。

「さ、あなたも帰る準備してください」

「我は試食して帰る!ダニーともアルギスとも話があるんだ!それに我は一人で帰れるしな!」

 帰国を促す緑青に、断固反対する皇帝(駄々っ子)

「何をおっしゃってるんです。宰相殿が心配して身も心もやせ細ってしまうではありませんか!」

「元はと言えば、お前が急に居なくなるから!」

「宰相殿がゆっくり浸かれる温泉を作るためですからね!」

「ダニーロさんを手伝ってきますねー」

 何やら混沌としてきた場から一旦離脱するため、黒紅とシルヴァンを連れて厨房に避難するアマーリエ。その後姿を、身動きが取れず彫像と化した商人たちが、涙目で見送ったのである。



 食堂が静かになった頃合いをみて、そっと厨房の扉を開けて覗き見るアマーリエ。

「……帰ったみたいですねー」

「おう、帰ったぞ。ほれ、試食会を始めるぞ」

 ゲオルグが、アマーリエに応える。商人達は一様に肩の力を抜いて一息ついているようである。

「はーい」

「オン!」

『お腹へったのじゃ』

 ダニーロとパトリックが作り直すというのを、アマーリエが温め直せるものだけ温め直せばいいと二人を手伝って準備する。その後、皆でロニーが持ってきたソース類をあれこれ試し結局、ソースの会で更に試食会を行うことを決めたのであった。なにせ、いろんな地方の味のソースが出来ていたので、いろんな地方から人が集まってできたアルバン村は、試食人に事欠かないのだ。

「はぁ、もうお腹入んない。……そう言えば、結局、先代様達どうなったんです?」

 アマーリエがゲオルグに聞く。

「ん?陛下方を無事、王城に送り届けたそうじゃ。フリッツ達は、マルガレーテと一緒に、今度は馬車でゆっくりこちらに戻ってくるそうじゃ。領都からアルバン村までの街道沿いの村や町も新しい名物がいろいろ出来ておるからそれも堪能するそうじゃ」

「よっしゃ!大奥様ありがとう!おかげで王妃様達のお守りせずに済んだし!先代様は、好きなように夫婦水入らずをすればいいんだ!」

 あからさまにガッツポーズを取るアマーリエに、苦笑するゲオルグ。

「うちの嫁御と孫は、明日、東の魔女様と戻ってくるそうでの。ソースの会の方に是非参加させてくれとさ」

 こちらもお腹いっぱいと自分の腹をなでながら、アーロンがゲオルグから伝えられたことを教える。

「なるほど。ダニーロさんは、あんちゃんといわく有りげだったけど?」

 駄々をこねてたやんごとなきお方の声から、どうなったのか気になったアマーリエが、ダニーロに聞く。

「一度宰相様に顔を見せて、またすぐ戻ってこられるそうですよ」

「……戻ってこなくていいのに」

 どこぞの役者の戻ってくるという台詞を思い出しながら、口をへの字にするアマーリエ。

「まあ、そう言ってやるな。つもる話もあるじゃろうからの」

「ものっすごく気になるんですけど」

 したり顔で言うゲオルグに、好奇心を疼かせるアマーリエ。そんなアマーリエに苦笑しながらダニーロが言う。

「大した話ではありませんよ。私がまだ若い頃、帝国の後宮で料理人をしていた頃に食事をお作りしていたことがあたったんですよ」

「わお!ダニーロさん皇帝陛下の料理人!?」

「いえいえ。まだまだ下っ端の時代ですよ。いろいろあって、こちらで料理人をさせていただいておりますが、毎日、とても楽しいですねぇ」

 暗に、これ以上は聞いてくれるなと言うダニーロにアマーリエが肩をすくめて言う。

「楽しいのなら良かった!わたしも、世界の端っこの村に隔離って言われてちょっと落ち込んだけど、来てみたらものすごく楽しいから」

「落ち込んだ?どうせホンのちょびっとじゃろ?無駄にお前さんは前向きじゃからな!それにじゃ!楽しいどころか、お前さんは騒動起こしすぎじゃ!隔離の意味がないわい!」

「うぐっ」

 ゲオルグのツッコミに、その場に居た人々の爆笑が渦巻く。

『主は毎日楽しいのか?』

「うん、楽しいよ。毎日パンを焼けるし、新しい出会いや発見もあるしね」

『妾と出会えてよかったのか?』

「もちろん!おかげで、面白いことできそうだしね!」

『妾も主と出会えてよかったのじゃ!』

「オンオン!」

「シルヴァンも居てくれて、心強いよ。最初は一人暮らしになりそうでちょっと不安だったからねぇ」

「キュゥ」

 膝に頭を載せてきたシルヴァンを、アマーリエはこれでもかと撫で回す。

「ふふふ。うちの村もアマーリエさんが来てくださって良かったです。活気づいてますからねえ」

「わしのところもおかげさまで大忙しだの」

「ええ、うちの商会も商売の種が尽きず安泰です」

 商人達もニコニコとアマーリエ達を見つめる。

「やれやれ、どこに居ってもアマーリエはアマーリエじゃの」

 肩をすくめるゲオルグであった。

 あちこち脱線した話し合いであったが、アーロン達商人は得るものが多く(やんごとなきお方たちの力関係とか人間関係!)有意義な話し合いだったとうなずきあっている。

 そして、商人達は商売の大まかな道筋を決め、腰を据えて温泉商売と調味料商売を始めるのである。

ちょっとこの章、難産でした。

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