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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第23章 ベレスフォード商会からの新情報
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大変おまたせしました。

 何故か脱線しがちな話を本筋にまたなんとか戻し、ギルド長が温泉に関して総括する。 

「ゴホン。では、温泉の宣伝の方は、まず商業ギルドと商人で浸透させていきます。貴族方は、先代様がこれはと思う方々を、貴族向けの宿屋が出来上がってから順次勧誘される方向でよろしいですか?」

「ああ、その方向で。でん……ゴホン、若様?公でうちの温泉にいらっしゃるのは、十分根回しが済んで、一番最後にお願いしますね。あなた方が真っ先にうちに来ると、温泉があれば王族を領地に呼べると、勘違いする貴族も出ますからね。民のために作るものを、貴族が独占するようなことがあってはなりませんから」

 王国のやんごとなきお方達を自領に呼ぶ面倒を回避できるとばかりに、建前を滔々と述べるフリードリヒ。

「はぁ、仕方ない。私達は後回しに甘んじましょう。私達が率先してやると勘違いする貴族も増えるでしょうからね。致し方ありません」

「にーさん、もうここの温泉にお忍びで入ってるんだし、後回しとか嘘くさい」

 わざとらしくため息をつく王太子に、ツッコミをいれるアマーリエ。

「うーん、でもおおっぴらに楽しみたいよね?」

「自分とこの温泉整備してくださいよー」

 あざとく首をコテンとかしげる王太子に、おじさん一歩手前がやってもちっとも可愛くねーわと内心でひとりごち、遠回しに来るなと言うアマーリエであった。

「はあ、しょうがないなぁ。自分で自分用のを作るか。王太子領にも一つ温泉あるしなぁ。父上のは待ってられないや。母上も父上と別で作ってるみたいだし。あー、わたしも毎日ゆっくり温泉に浸かって、癒やされたい」

 二十代後半の王太子のジジ臭い発言に、やっぱり良い(、、)為政者やるのって大変そうと思うアマーリエであった。

「……そう言えば、あの河原の岩屋は誰が作ったんだ?ゲオルグ翁」

 帝国のやんごとなきお方が、そう言えば聞いてなかったし調べなかったなとゲオルグの方を見る。聞かれたゲオルグの方は、また面倒事にならないよう回避策を考えながら正直に答える。

「アマーリエが作ったものですが……」

 ゲオルグの言葉に息を呑む商人と国のトップ二人。河原の温泉のある岩屋は、眼の前の魔力の少ないアマーリエが作るには、あまりにも大きなものだったからだ。

「!ならば……」

 ゲオルグは、マジな目をしてアマーリエを見る帝国のやんごとなきお方を止めに入る。

「オッホン、よろしいですか?普請も大事な経済活性の手段ですからの?職人に金を回し、職人がその金を使う。大事なことですぞ」

「アルギスさんのあんちゃん、拉致らないでくださいよねー。私はあくまでパン屋であって、土建屋じゃありませんから」

 思いつきでやるんじゃなかったなぁと、アマーリエは内心でため息をつく。

「むぅ、しょうがない。職人に頑張ってもらうとするか」

 潔く諦めた振りをする帝国のやんごとなきお方。その内心では、自分だけの隠れ家を作って、そこに個人の温泉をアマーリエに作ってもらえるように計画を立て始めていた。

「?なんか嫌な予感がする?」

 首をかしげるアマーリエに、にっこり笑って言う帝国のやんごとなきお方。

「我は民に無理強いなぞせぬ。安心いたせ」

「全然安心できない。無理強いはしないけど、交渉()する気なんですね」

 言葉の裏を読んで、帝国のやんごとなきお方をジト目で見るアマーリエ。

「ゲフンゲフン」

「おい、うちの領民と勝手に交渉してんじゃないよ」

「フリッツ!いいだろう!今すぐじゃないんだから!」

「交渉は、うちの窓口(ダール)を通してくれ。いいな?」

「それでは、娘のところにまで話がいかなくなるではないか!何度いろんなことを却下されたと思っておる!」

 昔からあれこれ辺境伯に話しを持ちかけて(一応、王国のやんごとなきお方にも話は通している)は、ダールにダメ出ししまくられていた帝国のやんごとなきお方でありました。それを聞いて、心当たりのある何人かが、あーっと内心でダールから許可を取る苦労を思い出してげっそりする。

「それは、お前の詰めが甘いからだ。ダールは何でもかんでも却下はしないぞ」

 フリードリヒの言葉が、グサグサと何人かの胸に刺さる。

「ぐぬぬ」

「まー、雑な案件は許可してくんないですよねー」

「そなたは「おまえはだからといって無断でやりすぎなんだ!」じゃ」

 しみじみ言うアマーリエにゲオルグとフリードリヒが突っ込む。

「私は好きにやっていいって、ダールさんから許可もらってますからー」

 しれっと返したアマーリエの頬を、両隣から手が伸びてウニっとつまんだ。

「「流石に自重しろ?」じゃ」

「うにゅ」

「……では。温泉の良さが広まりましたらですが。それぞれの領地の商業ギルドが、ベレスフォード商会と参加商会、ご領主方の仲立ちをしつつ、それぞれの領地に適した形で温泉と宿屋を運営をするということでよろしいでしょうかな?」

 ギルド長の話に頷く、おじさん達。アマーリエもそれでいいんじゃないかなと頷く。

「それでですな、カレー粉とソースの話もありましたな?アーロンさん」

 次の話にもっていく、ギルド長。

「そうなんじゃ。カレー粉の方はうちの三男坊が、ソースの方は次男坊が食いついてな。いくつか試作品が出来ての、今日はそれを使ってこちらの料理長に料理を頼んだんじゃ。ちなみに、カレー粉の方はウコンなしでも大丈夫と嬢ちゃんが言っておったから、なくても旨いものをと頑張ったらしいんじゃ」

 アーロンの発言に何故か目が輝く、国のトップ二人。この二人は供給先アマーリエとアルギスの気が向かない限り、食べたい時にカレーが食べられないのだ。

「わぁ、もう試作品できたんですか!流石ベレスフォード商会!早いですね!」

「父から、私が店に居ない(、、、)時にカレーライスとカレー粉、瓶詰めのソースとソースの使い方が届いてね。カレーライスの方は一人前しかなくて、弟達が食べてしまったあとだったんだよ」

「ははは」

色々(、、)あったんだけど、担当者を決めて頑張ってもらったよ」

「……そうなんですね」

 ロニーの食い物の恨みのこもった声音に、若干顔が引きつるアマーリエ。

「まあ、弟達はかなり力を入れたらしくってね。商業ギルドで売ってるカレー粉とソースの基本のレシピを元に、各国の支店でそれぞれの国の食材を使って、それぞれの国の味覚にあった物をこしらえたそうなんだよ」

「わぁ、もしやそれ全部今日持ってきたとか?」

「うん、少しずつ味見してもらおうと思ってね」

 そう言って、ロニーがアイテムバッグから、カレー粉の瓶とソース類の入った瓶をドンドコ取り出していく。次々出てくる茶色や赤、薄黄色をした中身が入った瓶に、皆目を丸くして見入る。

「……すごいですな」

 ベーレントが、呆然と呟く。

「ベレスフォードの底力を見る思いだな」

「じゃの」

 顎を撫でながら、フリードリヒがつぶやき、ゲオルグが同意する。そして、二人はすぐに機動させられる人力をベレスフォードがどれだけ持っているのかと心胆を寒からしめた。

 国のトップ二人の方は、ソースがどんなものかよくわからず、首を傾げている。

「やりすぎじゃないかの?わしゃ、確かにそれぞれの国の味覚もあるからと伝えたがの。こんなに早くあれこれ作ってくるとは思わなんだ」

 仕事を振ったアーロンの方は、かなり呆れている。

「父さん、それぐらいに衝撃だったんですよ。このカレー粉やソース類があれば、もっと豊かな食生活を皆がおくれるんですからね!私と妻は、それを活かせるように簡易コンロを作れる職人や魔道具店を探して契約取りまくったんですよ!一番下の弟は、温泉探しに奔走してるし!」

「……(知らないところでいろんなことが普及され始めてるし……大商会恐るべし!)」

 唖然として、ロニーを見るアマーリエ。

「こちらの領都のベルク魔道具店にはどれだけ協力していただいたか!足を向けて寝れません!それでも手が足りないんですよ!」

 フンッと鼻息荒く言い募るロニーを、カレーの会、ソースの会の会員であるギルド長とベーレントがなだめにかかる。

 アマーリエは、領都の知り合いの職人さん達に心の底から合掌したのであった。そして、ロニー達から視線を外し、目の前の瓶に手を伸ばす。

「ほんとに色々作ったんですねー。わー、王都の本店はマヨネーズの油とお酢を変えて三種類も作ってるよ。帝国のお店は、トマトの種類とハーブを変えてケチャップを二種類に、なになに……」

 アマーリエは、瓶に貼ってあるラベルを読みながら、それぞれの支店、ソースの種類ごとに分別していく。 

「ああ、では、料理を運んでもらいましょうか」

 それを見たベーレントが立ち上がって、厨房に声を掛ける。

「あ、人払いしちゃってるのなら、私も配膳を手伝いますよ」

「アマーリエさんは、そのソースの瓶を机の中央に並べてください。ギルド長、給仕を呼んできてくださいよ」

「わかりました」

「ああ」

 アマーリエは仕分けた瓶を、机の真ん中にずらりと並べていく。ギルド長は、食堂の外に出て待機していた支配人に声をかけ、給仕を食堂の中に入れる。

 給仕達は、ダニーロの指示に従って出来上がった料理を並べていく。

 その様子を、国のトップ二人はワクワクしながら待っている。

『主ー!美味しいものいっぱい作ったぞ!』

「オンオン!」

「二人共ありがとう。美味しいものできたのね、ご苦労さま」

 飛びついてきた二匹を抱きしめ、撫ぜながらねぎらうアマーリエ。

「アマーリエさん!黒紅様とシルヴァンがいてくれて助かりましたよ!」

 厨房から出てきたダニーロがニコニコアマーリエに声を掛ける。

「……ダニー?」

 ダニーロの顔を見て、呆然と呟く帝国のやんごとなきお方。

「殿下……、いえ今は陛下でざいますな。お久しゅうございます。ご壮健、何よりでございます」

 少し潤んだ瞳で、帝国のやんごとなきお方を見つめるダニーロ。それを見て、やんごとなきお方がフリードリヒに顔を向ける。そんな空気を読んで、微妙な雰囲気になる食堂内。

「……フリッツ!?」

「はぁ。積もる話があるだろうが、今は、お前はただの冒険者なの。ダニーロも仕事があるんだ。味見が先!いいな?」

 一応その場を慮って、やんごとなきお方を落ち着かせるフリードリヒ。本音はおなかすいてるから昔話はあとにしてねである。幼馴染ゆえの遠慮のなさ発揮である。

「うぐぐぐぐ」

「えー、気になる!」

「うるさいよ、アマーリエ。黙ってなさい。二人は後で時間を取ればいい」

 席に戻って横から口を挟んだアマーリエの口をつまんで、フリッツが言う。

「……わかった」

「はい。では、今回の料理の説明を……」

 渋々うなずいた帝国のやんごとなきお方。それを見て破顔し、自分の仕事に戻るダニーロ。

「ムームー」

「何だアマーリエ?」

 アマーリエの口をつまんでいた手を離して、フリードリヒが尋ねる。

「ふぅ、始めちゃっていいんですか?」

 首を傾げながら、フリードリヒに聞くアマーリエ。

「?」

「にーさん、先に食べちゃって、お母さんの食い物の恨み買わない?奥様のは絶対買う気がするんだけど。ロニーさんとこ、奥さんとお嬢さんは?大丈夫?」

「あ」

「「あ」」

「「まずい?」の」

 ぴしりと凍りついた、食堂でした。

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