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君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、ヒロインを首になる
72/90

どう考えても、ただのエロじじいですよね?

「確か、この辺りなんですが……」


 アンジェさんが少し自信なさげに、私たちの方を振り返った。


 そこは街を囲む丘の間に挟まれたくぼ地で、狭い道を挟んだ両脇には、びっしりと日干し煉瓦の建物が並んでいる。その間を色とりどりの洗濯物が、まるで船の帆の如くなびいていた。


 建物の狭い隙間から飛び出してきた子供たちが、冒険者ごっこでもしているのか、手に木の棒を持ちながら、私たちの前を駆け抜けていく。先程いた宿とは違い、どこか懐かしい感じがする場所だ。私は先頭で棒を持って、子供たちを率いていた。


「多分、こちらのお宅です」


 アンジェさんが、その一角にある二階建ての家を指さす。他とは違う作りで、高い壁に囲まれており、庭から伸びた木が風に揺れている。二階の窓のところには、いくつかの風鈴もぶら下げられていて、海風と共に澄んだ音を響かせていた。


「引退しても、仕事のあっせんなんて事をしているんだ。変り者なのは間違いないね」


 サラさんが人ごとみたいにつぶやく。分かっていますか? その人を頼らないといけないのは、私たちですよ。


「すいませ~ん!」


 壁にぽっかりと設けられた、風雨にさらされた扉の前で声を上げる。だけど何の反応もない。


『まだ寝ているのだろうか?』


 扉の横に、元は金メッキされていたらしいが、それが剥げて、下地がのぞいているドアノッカーがあるのに気づいた。


 トン、トン、トン!


 少し強めにそれを叩く。扉の背後で、誰かがこちらへ来る気配がした。


 ギィギギギギ――!


 何年も油を差してなさそうな音を響かせながら、扉がゆっくりと開いていく。


「朝早くから申し訳ありません」


 そう言って、下げられるだけ頭を下げる。年寄り相手には、ともかく礼儀正しくするのが一番です。


「本当に朝早くからよね」


『あれ?』


 聞こえてきたのは女性の声だ。それも妙に艶っぽい。同時に、とてつもなく大きな胸が目に飛び込んできた。それも薄着の寝間着で、わずかに隠されているだけだ。顔を上げると、真っ黒な瞳が、こちらをけだるげに眺めている。


『なんて色っぽい人なんでしょう!』


 サラさんも、かなり色気がある方だとは思いますが、この人がまとっているのは別物です。世の男性たちを、決して浮かんでこれない、沼の奥へと引きずり込む何かだ。そう言えば、ジェニファーさんも、店の中ではこんな感じだった気がする。


「それで、この家に何の用?」


 そう言うと、女性は少し癖のある黒髪をかき上げながら、私たちを見回した。


「私たちは冒険者なのですが、この家の方にご相談があって、お邪魔させて頂きました」


「あなたが冒険者?」


「は、はい。私は赤毛組の、アイシャール・カーバインと申します」


 女性が首を傾げて見せる。まあ、私だけ見たら、そう言う反応になりますよね。でも後ろを見てください。このちょっとやばそうな目つきは、どこからどう見ても冒険者ですよ。と言うか、サラさん、いきなり相手を睨みつけて、どうするんですか!?


「そちらの、侍女姿のお嬢さんも?」


「アンジェと申します。赤毛組の侍女をさせていただいております」


 アンジェさんが、丁寧に頭を下げた。サラさんはと言うと、相変わらず機嫌の悪そうな顔をしている。


「こちらは、同じく赤毛組のサラ・アフリートです」


 とりあえずは私の方で紹介です。でもサラさん、頭ぐらい下げてもらえませんか? だが女性はそれを気にすることなく、扉の背後へ顔を向けた。


「オン爺、あなたに客よ」


「誰もいないと言ってくれと、お願いしたじゃないか……」


 扉の奥から、男性の機嫌の悪そうな声が聞こえてくる。


「若い女性が三人だから、オン爺好みの客だと思って、教えてあげたんだけど」


「それならそうと、早く言ってくれ」


 その声に、思わずサラさんの方を振り返った。サラさんが、私に小さく肩をすくめて見せる。確か、ギルドの事務長を引退した人だって言っていましたよね。どう考えても、ただのエロじじいとしか思えません!


「どうぞ中へ」


 私たちを部屋の中へ招き入れた女性が、石のタイルが張られた床を、裸足のままぺたぺたと音を立てながら歩いていく。薄着の寝間着から覗く、真っ白な足がものすごくいやらしい。部屋の中はと言うと、変わった置物やら、壺やらが置かれていて、まるでどこかの古道具屋みたいだ。


「お嬢さんたち、こんな隠居じじいの所へ、一体何のご用かな?」


 不意に部屋の片隅から声があがった。藤で編まれた椅子に、男性が寝間着姿のまま、気だるげに腰をおろしている。はみ出て見える足や、顎髭には白いものがまじっているから、確かに年をとってはいるのだろう。だけど、とても老人とは思えない姿だ。


 と言うよりこの二人、もしかして、朝から一戦交えていました?


「初めまして、赤毛組のアイシャール・カーバインです」


「同じく、赤毛組のサラ・アフリートです」


 流石のサラさんも、男性に対しては、自分から挨拶をする。


「専属侍女のアンジェと申します」


 最後にアンジェさんがペコリと頭を下げた。それを見た男性が、わずかにほほを緩めて見せる。やっぱり、ただのエロじじいですかね? しかし男性はサラさんへ視線を向けると、わずかに首を傾げて見せた。


「グレイの所にいたお嬢さんか?」


「はい。ゴライオン卿、ご無沙汰しております」


 サラさんが軽く頭を下げる。もしかして、前からの知合いですか? それならそうと、先に言ってくれないと困ります!


「時が立つのは本当に早いな。私が最後にオールドストンで君を見た時は、まだ冒険者見習いの子どもだったのに、今では随分と女性らしくなったものだ」


 そう言うと、サラさんをしげしげと眺める。間違いありません。ただのエロじじい確定です。


「確か引退したと聞いていたが?」


「はい。ブリジットハウスに居ましたが、現役に戻りました」


「色々とあった所だね。私が現役だった頃と比べると、最近は随分と騒がしいみたいだ」


 そう告げると、サラさんの顔をじっと見つめる。その視線の鋭さは、やはり只者とは思えない。


「カーティス殿、申し訳ないが、お客さんたちにお茶を出してもらってもいいかい?」


 女性が片手を上げて部屋を出ていく。


「それと不揃いで申し訳ないが、好きな椅子に座ってくれ。どれも思い出の品でね。捨てるには忍びないんだ」


 ゴライオン卿が、周りにある個性的な椅子を指さした。とりあえず、一番差し障りのない、丸い板で作った椅子に腰をおろす。


「ゴライオン卿――」


 そう声を掛けたサラさんへ、ゴライオン卿が両手を上げて見せる。


「昔と同じく、オン爺と呼んでくれないかな。若い女性に卿付きで呼ばれると、棺桶に片足をつっこんだ気分になる」


「ではオン爺、私はこのパーティーのリーダーではないので、リーダーのアイシャールから説明させて頂きます」


 それを聞いたゴライオン卿が、少し面食らった顔をする。


「これは失礼した。私はゴライオンというもので、以前はギルドの監督の仕事をやっていたが、今はただの爺だ。それでアイシャール殿、私にどんなご用かな?」


「仕事のあっせんをお願いしに、こちらへ伺わせて頂きました」


「あっせん? 最近は人手不足だと聞いているがね。この間、ミストランドのハントマンギルド長が、使えるやつがいないかと、私の所まで聞きに来たぐらいだよ」


「つい最近、アズールで貴族同士の争いに巻き込まれました。しばらくはおとなしくしていたいのですが、経済的に余裕がないんです」


「なるほど。だが君たちは、どちらかに雇われただけだろう? そのような状況から、冒険者を守るためにギルドはある。こんなおいぼれの所へ行くより、素直にギルドを頼るべきでは?」


 た、確かに正論ですが、それが出来ないから、ここに来ているわけで……。一体どう説明すればいいのだろう。


「オン爺、それについては、私から補足させてもらっても?」


 言葉に詰まっている私を見て、サラさんがゴライオン卿へ声を掛けた。


「もちろんだ」


「この子は以外と男からもてるんです。それでアズール家の次期当主に見初められました。どうもエミール家の当主が、それにやきもちを焼いたらしいのです」


 ちょっと待ってください、なんて説明をしてくれているんですか!?


「もしかして、例の戦争の原因は、このお嬢さんという事かい? これは驚いたな……」


 ゴライオン卿が、素で驚いた顔をする。


「あら、そんなに驚くことかしら?」


 その声と共に、私の前へ、とてもいい香りのする紅茶が差しだされた。

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