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君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、ヒロインを首になる
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あのですね、とっても優秀過ぎはしませんか?

 この辺境では最も大きな港町、アビスゲイルに続く裏街道。その前方にある丘の合間から、青く光る何かが見える。それは朝の陽ざしを浴びて、巨大なシャンデリアみたいに輝いていた。


 その手前には高くそびえる塔をいくつも備えた、びっくりするほど大きな町があって、その港にはたくさんの船が泊まっている。よく見れば、海の上を大小たくさんの帆を張った船が、滑るように進んで行くのも見えた。


「サラさん、見てください。海が見えますよ!」


 私のかけ声に、馬の手綱を握るサラさんは、一瞬だけ遠くを見ると、興味が無さげに前を向く。


「アイシャ、私だって海ぐらい見たことあるよ」


「よく見てください。とっても大きな船もいますよ」


「港町だから、船ぐらいいるだろうさ。ずいぶんと浮かれているけど、もしかして、海を見るのははじめてかい?」


「えっ!」


 心の中で、「どうしてそれを!」と叫んでしまう。


「は、箱入り娘だったので……」


「自警団がうろうろする様な、随分と殺伐としたところに居たと、言っていたじゃないか? それのどこが箱入り娘なんだい?」


「そ、それはその通りですが……」


 そのせいだと思いますけど、冒険者になるまでは、村の外へ行く機会がほとんど無かったんですよね。どう考えても、そんな所からさっさと引っ越さなかった、あのくそ親父のせいです。それに冒険者になってからも、迷宮にばかり潜っていましたから、あまり外の世界を知らないんですよ。


「あんたみたいな天然が、アビスゲイルみたいな町にいたら、どこかの男に騙されて、すぐに腹を大きくする事になる。だから、田舎に引っ込んでいて正解だね」


 ちょっと待ってください。腹は大きくなっていないけど、それって、サラさんの半生そのものですよね?


「アビスゲイルは、どちらまで行かれるのでしょうか?」


 荷台の上にも関わらず、野営用の簡易コンロで、器用にお茶を沸かしたアンジェさんが、私に問いかけた。


「口利き屋みたいな、お爺さんの所です」


「口利き屋ですか……」


 アンジェさんが怪訝そうな顔をする。アンジェさんは口利き屋の紹介で、あんな城へ送り込まれることになってしまった。なので、さぞかし心配な事だろう。


「口利き屋といっても、引退したギルドの人で、私たち冒険者の推薦をしてくれるらしいの」


「ちなみにその方は、アビスゲイルのどちらへいらっしゃるのでしょうか?」


「そ、それは……」


 アンジェさんの問いかけに言葉が詰まる。ここから見ても、はっきりと分かるぐらい、アビスゲイルは大きな町だ。と言うより、大きすぎです。どうやって探せばいいのだろう。目抜き通りで、「困った冒険者引き受けます」とか言う看板を、掲げているとは思えない。


「サラさん、そのギルドの事務長を引退した人って、アビスゲイルのどこに住んでいるか、知っています?」


「そんなの、私が知るわけないだろう」


「えっ、知らないんですか!?」


「普通に考えれば、ギルドへ行って聞くのが一番だ。でもアズールでのあれやこれやを考えると、アビスゲイルのギルドにはあまり近寄りたくないね。酒場で酔っぱらった冒険者にでも、こっそり聞くしかない」


「酔っぱらいですか!?」


 思わずため息が出そうになる。アビスゲイルへ行くには、もっと立派な街道があるのだけど、人目を避けるために、こんな田舎道を苦労しながら進んでいる状況です。サラさんの言う通り、ギルドに近寄るのはできるだけ避けたい。


 と言うか、普通にギルドへ行けるのなら、そんな怪しげな人物を頼る必要はありません。


「アイシャ、あんた意外と男から好かれるから、この件は任せたよ」


「ちょっと待ってください。それって、私が酒場へ行って、酔っぱらいに聞けと言っています!?」


「そうだよ。それとも、裏道で袖を引いて、寝台の上で聞いてみるかい?」


 思わずキィーと叫びたくなった私を見て、サラさんが意地の悪そうな笑みを浮かべて見せる。


「冗談だよ。だけど、あんたが意外とモテるというのは、マジな話だ。本物かどうかは怪しいけど、色ごとにかけて、大貴族の男の身を滅ぼしたんだ。孫が出来たら十分に自慢できる」


「色ごとになんて掛けていません。それに孫相手に何の自慢をするんです。あれは向こうの単なる気の迷いと、吊り橋効果ですよ」


「吊り橋効果? なにそれ?」


「し、知らないんですか? 恋愛の定石じゃないですか!」


 だからランドさんを逃して、あんな変な男に捕まるんです!


「あの~〜」


 正座して説教を始めようとした私の肩を、誰かが叩く。振り返ると、お茶のカップを手にしたアンジェさんが、苦笑いをしていた。


「アビスゲイルでの人探しでしたら、私にも、お手伝いをさせて頂けませんでしょうか?」


「アンジェさんが?」


 私なんかより、はるかにかわいいですけど、さすがに冒険者などという変人たちの、さらに酔っぱらいの相手なんて、とてもさせられません!


「はい。家が近くの町だったので、アビスゲイルにはよく来ていました。ギルドを引退した方というのは、とても珍しいと思います。なので、人伝いに聞けば、何とかなると思います」


 酔っぱらいの相手は抜きですね。それなら……。


「ぜひお願いします」


 ブリジットハウス以来、裏街道を進んでばかりで、私とサラさんの時は、道に迷いまくりでした。ですが、アンジェさんが一緒になってから、全くもってその心配は無くなっています。ここはアンジェさんに任せるのが一番です。


「サラさん、アンジェさんにお願いするで、いいですか?」


「土地勘のない、私たちがやるよりはましだろうね」


「100倍はましだと思います」




「なんか知らないけど、すごいね」


「はい。本当にそう思います」


 私たちは普段泊まるギルドの宿舎などより、よほどに立派な宿屋の玄関で、サラさんと一緒にお茶を飲んでいる。玄関と言っても、三階までの吹き抜けになっている立派なものだ。そこを明らかに私たちとは違う層の、おしゃれな服を着た人たちが、行き来している。


 皮の鎧を着ている時点で、私たちはとても場違いなのだが、その扱いは決して悪くはない。どうやら冒険者と言うのは、私が知るよりも、はるかに世間での待遇はいいらしい。


 まあ、普段から命張ってますからね。それにうまく生き残れれば、自然と小金も貯まるはずです。だけど、どうして私たちは、一向に貯まらないのでしょうか?


 因みになんでこんなところで、お茶をのんでいるかと言えば、アンジェさんが私たちに、「変な宿に泊まったら、間違いなく馬と馬車が盗まれます」と告げたからだ。その犯人はと言うと、たいていは宿屋とつながっているらしい。都会恐るべしです。


 しかも、私たちの馬車を使って、店の荷物を配達することで、割引まで引き出してくれました。アンジェさんをお嫁さんに出来たら、その家は間違いなく安泰です。


「冒険者なんかやっているより、あの子を店主にして、その手伝いをした方が、よほどにもうかりそうだね」


「はい。本当にそう思います」


 先程から、サラさんの全ての問いかけに対して、その答えしか思いつきません。給仕の人から、何杯目になるか分からない、お茶のお代わりをもらった時だ。


「アイシャール様、サラ様、見つかりました!」


 背後から、アンジェさんの声が聞こえら。


「お待たせして申し訳ありません。最初は、丘の上の方に住まわれていると思っていたのですが、意外に下町の方でして、時間がかかってしまいました」


 アンジェさんが息を切らせつつ、私たちに告げる。でもちょっと待ってください。朝に飛び出して行ってから、そんなに時間はたっていないですよ!


「サラさん、善は急げです!」


「そうだね」


 サラさんが立ち上がって背伸びをして見せる。何をのんびりしているんです。こんなところに連泊なんてしていたら、私たちはすぐに一文無しですよ!

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