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君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、花嫁になる
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世の中、触れちゃダメな奴ってありますよね?

「サラさん、なんで絶好調なのか分かりました。この城は迷宮なんです」


「この城がかい!?」


 サラさんが、何を言っているんだという顔をして私を見る。


「この城は、辺境へ入植した頃に建てられたと聞きました。でも建てられたんじゃないんです。そのような城が欲しかった人たちへ、厄災が用意した餌だったんです」


 今ならホールにあった、古いタペストリーの意味がよく分かる。あれは厄災と戦って、必死にこの城を落とそうとした人達を描いたものだ。


「それにこの迷宮は死んではいません。封印されていただけです」


「つまり、その剣は――」


 私はサラさんに頷いた。アズールの剣は、この迷宮を封印していた呪物だ。それを抜いてはいけないと言う口伝が、いつの間にか、抜けたら辺境伯に変わってしまったのだろう。


「どうやら当たりらしいね」


 周囲の様子を伺ったサラさんが、私に頷き返す。まだ昼のはずなのに、空は夜が舞い戻ってきたみたいに、真っ黒い雲に覆われていた。見えていたはずの遠くの景色も、いつの間にか、霞の向こうへ消えてしまっている。


「今すぐここを出ないと、閉じ込められるよ!」


 サラさんの言う通りだ。迷宮には入り口からしか入れない。当然そこが出口になる。迷宮が完全に復活したら、出口がどこか分からない私たちは、ここに閉じ込められてしまう。


 だけど、今使える唯一の出口である城門からは、ガチャガチャと言う金属音が響いてくる。城門を突破した騎士たちが、こちらへ向かっているらしい。でもこれは私たちだけの問題じゃない。エミール家の騎士たちも含めて、ここにいる全員の問題だ。


「あなたたち、命が惜しかったら、今すぐここを出なさい!」


 私は城門からこちらへ登ってくる騎士たちへ、声を張り上げた。


「いたぞ!」


 しかし騎士たちは私の警告を無視すると、剣を抜いてこちらへ向かってこようとする。


「アイシャ、もう遅い!」


 サラさんが城門を指さす。さっきまで門だった場所が、今では真っ黒な石の壁に変わっていた。これで私たちは、本当の出口を見つけない限り、ここに閉じ込められた事になる。


「人同士で争っている場合じゃないの。ここは迷宮なのよ!」


 もう一度叫んで見る。やっと、騎士たちの何人かが背後を振り返った。そして自分たちが入ってきた城門が、いつの間にか消えているのに気づく。


「おい、気を付けろ。相手は冒険者だ。怪しげな術を使っているぞ!」


 そう声を上げると、こちらへクロスボウを放ってきた。


「サラさん、ダメです。言うことを聞きません!」


 他に出来ることはないだろうか? そこで自分が、まだアズールの剣を持っていることに気づいた。これでもう一度、迷宮を封印することは出来ないだろうか?


「サラさん、封印って出来ます?」


「物理系の速攻魔法ならともかく、封印は無理だよ」


 サラさんが私に肩をすくめて見せる。お姉さまたちみたいな例外を除けば、動き回る相手に、複雑な術式を必要とする魔法で相手をするのは困難だ。それ故に、迷宮探索時において、魔法職は基本サポート役となる。


 それでも上位のパーティーが、魔法職を仲間にするのには理由があった。術式による罠の解除と、核の封印をするためだ。魔法職のいない私たちには、それが出来ない。


 キャ――!


 背後で誰かの叫び声が聞こえた。振り返ると、中年の女性が、いつの間にか火の消えた建物を指さしている。その指の先には、中庭を取り囲む黒い影があった。だが影の元になる人も光もない。ただ人の形をした影だけが、ゆっくりと近づいてくる。


 私は悲鳴を上げようとしたアンジェさんの口を押えた。そして背後にいる人たちへ、口元に指を立てて見せる。


「私の一番苦手な奴だ……」


 サラさんが、吐き捨てるようにつぶやく。通称「ゴースト」。確か正式な名前はもっともったいぶったやつだったけど、覚えていない。ブリジットハウスで現れた目玉お化けと同じ類で、こいつには物理攻撃は一切効かない。


「なんだこいつら!」


 中庭へ入ってきた騎士たちからも、声が上がった。これが出てくると言う事は、ここは間違いなくSランクの迷宮だ。でも、こちらの気配がばれなければ、やり過ごせる。


「みなさん、絶対に声をあげないで。それと私の背後へ集まってください。ただしゆっくりです。決して走らない」


 アンジェさんたちは体を震わせながらも、ゆっくりと私たちの背後へ移動する。だが私の警告は、エミール家の騎士たちには通じなかったらしい。


「全員抜刀、円陣を組め!」


 あろうことか、大声で号令をかけた。次の瞬間、中庭を囲んでいた影が、一斉に騎士たちへ向かう。騎士たちは手にした大剣でそれを迎え撃つが、剣は空を切るだけで、何の効果もない。影は騎士にまとわりつくと、体の中へと入っていく。憑依だ。こうなっては、魔法で払わない限り、その人物を殺す以外に対処のしようがない。


「や、やめてくれ!」


 その叫びもむなしく、憑依された騎士は、同僚に対し剣を振るい始めた。不意打ちを食らった何人かが、地面へ倒れ込む。その体へも、黒い影がまとわりついていく。見るも無残な同士討ちの始まりだ。でもゴーストが騎士たちへ注意を向けている間なら、ここから離れることが出来るかもしれない。


 だけど、どこへ行けばいいのだろう。不意に水が枯れた噴水が目に入る。噴水は最初の砲撃を受けた時、まだ水が上がっていた。再び砲撃される前には、もう水が止まっていたのを思い出す。それに、単に水が回らなくなっただけなら、水盆まで空にはならない。


 つまり、下へ向かう穴がどこかにあり、そこから水が抜けたのだ。おそらくそれが迷宮の入り口だろう。あの男(グラント)もその穴を通って、城外へ逃げたに違いない。


「サラさん、出口が分かりました」


「なんだって?」


 私の発言に、サラさんが呆気にとられた顔をする。


「この噴水のどこかに、下へ抜ける穴があるはずです。でも探している暇は有りません。私が斬撃で吹き飛ばします」


「そんなことをすれば、連中はこっちに気づくよ。それに外れだったら?」


「賭けです。でも何もしないで、死ぬよりはいいと思います」


 私はサラさんの返事を待たずに、大理石で作られた噴水へ斬撃を放った。白い石が砕け散り、その下にぽっかりと黒い穴が開く。大当たりです!


「皆さん、ここから逃げてください!」


 そう叫びつつ、噴水とは反対側へ足を進める。


「アイシャ、何をするつもりだい!」


「時間稼ぎです!」


 今の私は辺境伯ですからね。責任があります。それに冒険者として、一般人をほったらかしにして、逃げるわけにはいきません!


「本当に馬鹿な女だね。だから男に逃げられるんだ」


 そう告げつつ、腰の剣を抜いたサラさんが、私の背中を守る位置へ移動した。


「その言葉、そっくりそのままお返しします」


 目の前では騎士たちが、次々に互いの剣で倒れていく。最後の一人が倒れ、その骸から抜け出た黒い影が、こちらへと向かってくる。


「フフフフ……」「ハハハハハ……」


 私たちの口から、自然に笑い声が漏れた。やつらには私の剣も、サラさんの速攻魔法も役に立たない。でも心臓が動いている限り、アンジェさんたちが抜け出すまでの囮なら出来る。


「右に行きます!」


「あいよ!」


 相手を少しでも混乱させるべく、サラさんと左右に分かれた。だけど黒い影たちは迷うことなく、一斉に私の方へ迫ってくる。


『うん。それでいい』


 心の中でほくそ笑む。少なくとも、私の方へ引き付けられれば、サラさんが逃げる時間を稼げる。次の瞬間、私の体は真っ黒な影によって覆われた。

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