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君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、花嫁になる
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もしかして、逃げられました?

「やっと王子様のおでましかい?」


 サラさんがうんざりした顔をした。その気持ちはよく分かりますが、一応は私の婚約者なので、お手柔らかにお願いします。


「降伏する!」


 あれ? グラントさんの声じゃない。竜の紋章のチュニックをまとった、城の騎士たちだ。騎士たちは手にした剣や長槍を空堀へ放り投げると、全員が両手を上げる。その後ろから、黒い独特な服を着た人物も走り出て来た。


「大法院のスティファノだ。私は部外者だ!」


 スニファノ卿は、騎士たちを弾き飛ばしつつ吊り橋を進むと、先頭で大きく両手を上げて見せる。その姿には、彼が言う大法院の権威などみじんもない。


「アー、ハハハハハ!」


 つり橋の向こうから、不気味な笑い声が聞こえてきた。白馬に乗った女性、マリアンヌが口に手を当てて、大笑いをしている。


「部外者? 何を言う。お前もあの簒奪者の一味であろう」


 マリアンヌさんが、口に当てていた手を軽くあげると、おもむろに振り下ろす。それを合図に、前衛にいる騎士たちが、一斉にクロスボウを掲げた。


 ヒュン!


 矢を放つ音が辺りに響き、あまたの矢が、つり橋の上にいる者たちへ襲いかかった。スティファノ卿は再び騎士たちを突き飛ばすと、それを盾に城内へ戻ろうとする。だが長弓隊が放った矢が頭上から降り注ぎ、つり橋の上へ呆気なく倒れた。彼だけじゃなく、降伏を試みた城の騎士たちも、全て動かぬ屍となって、つり橋の上に身を横たえている。


「殺されちまったね」


「はい。あっさり殺られましたね」


 私はサラさんと一緒に、茫然とそれを眺めた。あの女(マリアンヌ)は城にいる人間を、問答無用で皆殺しにするつもりらしい。厄災なんかより、余程に危険な女です。星と月のチュニックをまとった騎士たちが、つり橋へ向かって動き始める。彼らが城内に入ってしまったら、私たちはおしまいだ。


「サラさん、城門を閉じないと!」


「今から巻き上げても間に合わないよ。それに人手はどうするんだい」


 サラさんが私に怒鳴り返してくる。でもこの城は実戦向けのやつだから、緊急時につり橋を落とす仕組みぐらいある気がする。その間なら、私の斬撃でも何とかなるかもしれない。いや、何とかしなければ皆殺しだ。


「サラさん、私が斬撃でけん制しますから、その間につり橋を落としてください。多分、鎖の横にある綱かなんかを切れば落ちるはずです」


「了解!」


 サラさんが、城門へ続く階段へ身をひるがえす。私は城門の真上へ駆けあがると、剣を手に足を引いて斬撃の準備をする。私に気付いたらしい長弓隊が、遠矢を放ってくるが、そんなものを気にしている暇はない。相手は重装備な上に距離もある。ともかく私の全力を叩き込んでやる。


 自分の中のマナを意識し、それが全身へ回るのをじっと待った。集中できているのか、迷宮にいるとき同様に、マナが体中に満ちていくのを感じる。


「斬撃!」


 私は突撃する騎士たちの鼻ずらへ向かって、渾身の一撃を放った。ゴーという音ともに、私の剣先から生まれた竜巻が、先頭を進む騎士たちを空へ放り投げる。


「サラさん、今です!」


 ガラガラガラ!


 まるで雷鳴みたいな音と共に、つり橋をかねた城門が、空堀の中へと落ちていく。同時に頑丈な鉄でできた柵が城門をふさいだ。それでも無理やり突撃しようとした騎士たちへ、もう一発斬撃を放ってやる。これでしばらくは時間をかせげるはずだ。


「アイシャ、あんた中々やるね。見直したよ」


 下から上がってきたサラさんが私の肩を叩く。確かに全力で二発も打ったのに、一向に空になる気配がしない。それどころか、かつてないほど絶好調な気がする。


「なんか、いくらでも打てそうな気がするんですよね」


「気を付けな。単にハイになっているだけだよ」


 私はサラさんに頷いた。いくら絶好調でも、軍隊丸ごとの相手は無理だ。


「それよりも、あんたの男はどこだい?」


「部屋で着替えをしているはずです」


「化粧でもしているってかい!」


 サラさんが呆れた顔をする。確かに単なる着替えにしては、どんだけ時間がかかっているんだろう。


「ともかくここにきて、交渉してもらいましょう」


 たとえ裸だろうが、やってもらうしかない。私はグラントさんを探すべく、館の入口へ向かった。入ってすぐの廊下の先で、誰かがうずくまっているのが見える。


「アンジェさん?」


「あ、アイシャール様!」


「グラントさんはどこ?」


「こちらの私室へ入られたままです」


「グラントさん!」


 扉を叩くが、何の返事もない。


「グラントさん、部屋にいるなら扉の側から離れてください。アンジェさんも扉の近くから離れて!」


 私はそう宣言すると、腰の剣を抜いた。剣先から放たれた斬撃が、重厚なオーク材の扉を吹き飛ばす。そのまま部屋の中へ飛び込んだが、誰の気配もない。奥にある寝室も空だ。床には埃まみれの、金糸で刺繍がされた見覚えのある服が落ちている。


「どうやら、逃げられたみたいです」


 私の台詞に、サラさんが小さく肩をすくめて見せる。


「結構お似合いだと思ったんだけど、やっぱり私は男を見る目がないね」


 はい。今後は男性に関する評価について、サラさんは一切信用しないことにします。


「だけど、これであんたも一人前の女だよ」


 そこも自分を基準にするのはやめてください。それに私はまだ乙女ですよ!

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