ゲーマー、三姉妹にばれる
俺、佐伯空は現在十七歳の高校二年だ。
とはいっても最近は高校に行っているわけでもない。
かと言って何かをしているわけでもない。
しかし、そんな俺は今猛烈な窮地に立たされていた。
普段から部屋からあまり出ることがないにもかかわらず、他人にこうも易々と部屋に侵入を許してしまうとは。
勢いよく俺は誰かが開けた形跡のある扉を押し開ける。
ドンッと扉が勢いよく開かれる音に驚いたのか、部屋の中にいる人物はピタリと行動をやめ俺の方に向き直っている。
その人物に心当たりがないわけがなかった。
同じ屋根の下、三ヶ月の期間をともにしてきた仲だ。
もちろんそれなりに人となりもわかってきたはずだった。
でも流石にこんなのは予想外だ。
他のなんでもいい。
今彼女らの手にしている、それ、以外ならどんなものでも俺はこうも息を乱してはいなかっただろう。
よりにもよって俺がずっとひた隠しにしてきたものを、よりにもよってなぜこの三人が。
俺の部屋の真ん中にいくつもの段ボールを並べて、その数々のトロフィーや賞状を覗く三姉妹の姿。
俺の自惚れでなければ、きっと俺が勢いよくドアを開けたからそんな顔をしているわけでも、俺がこんな切羽詰まるような表情をしているからでもない。
彼女らの手にする、それ、が彼女らを驚かせているのだ。
俺がskyとして歩んできた歴史を見て。
遡ることほんの一時間前。
一家そろって夜ご飯を囲んでいる時だ。
今日も例によってみんなで卓を囲んでいる。
「じゃ、ごちそうさま」
「はい、お粗末さまでした」
いつの日からかはわからないが一応一家の中で慣習であるかのように決まっていたことがこの食事以外にも一つある。
それは風呂の時間だ。
年頃の男女がいる中でそういうすれ違いが起こらないためにも、風呂の時間は決まって俺が最初だ。
だから俺はよく、夜ご飯を済ませた後はすぐに風呂場に直行する。
しかしこの時からその片鱗は感じられたのだ。
「ちょっとお父さん」
「ん?なんだ?」
俺がリビングから出ようというときに親父にひそひそとしゃげべりかける雅の姿があったから。
でもそんなのどうも思うはずもないだろう?
ましてやこの年になってこういうことになるのだって想像つかない。
場所は風呂場。
そろそろ湯船につかろうというとき、それは迫ってきたのだ。
「空ぁ!入るぞ!」
「あ?ってはぁ?ちょ、なんで親父が入ってくんだよ!」
「ガハハハハ。いいじゃないか、いいじゃないか。たまには男同士、裸の付き合いくらい!」
この時におかしいと思っていればよかったのだが、事態のおかしさを嘆くほうがこの時の俺には重要だった。
「はぁ?いつの時代の考えだよ!?出てけって!」
「ま、待てって!ほら積もる話もあるだろ?」
「ねぇって」
「そんな水臭いこと言うなって!俺らはもう親子なんだから」
「ちょ、マジで入ってくんのかよ!デケェって……」
湯船に入った俺からしてみれば、見上げるほどのデカさを誇っている親父。
いつにも増して存在感がマシマシだ。
「椅子壊すなよ?親父」
それゆえに小さな風呂椅子なんかは壊れてしまいそうに見えてしまう。
「そんな簡単に壊れねぇっての」
「嘘こけ。こないだだってマグカップ壊しただろ」
「ゔ、あれは、ちょっと力が入っちまったから仕方なかったんだ」
「見てたの競馬だろ」
「な、なぜバレてやがる!!?」
「その姿でこっちみんな!」
親父は何かとフランクだ。
こういうことこそこれまでになかったものの、再婚して新たな父として現れた時からずっとそうだ。
もう少し厳格な人であったならどうだったんだろう。
湯船からの湯気が立ち上り、次第に俺は天井を見上げて考える。
いや、もし厳格な父親だったならもっと尊敬はできたのかもしれないな。
親父にはそのかけらさえないし。
でも
「にしても空はほんと細いよな。身長は一応高い方だってのに」
「親父がデカすぎんだよ」
「そうか?これくらいが普通」
「な訳あるか。いっぺん外歩けばわかるだろ」
「そうかねぇ?」
親父が親父でよかったとも思ってる。
それからしばらく色々と話し合ってた。
男同士の裸の付き合いっていうのも案外酔狂でもないのかもしれない。
実際に多分みんなの前では話せなかったことも話せた気がするし。
そのほかにはそれなりに広さのある湯船にもかかわらず親父が俺の方に寄ってきたり、俺の髪やら体を触っては「ほせぇなぁ」と口にされたりと、散々なことがあった。
でもそういうのも悪くないと思ってた頃、いつもならもう風呂を出ている時間をとっくに過ぎていた。
そんな時だ。
「空。俺はずっと聞きたかったことがあるんだ」
「なんだよ。急に改まって」
「空にとって今の家族は、どうだ?」
「どうだってどういう意味だよ」
「そのままの意味だ」
「は?どうだって言われても……」
そう簡単には答えられないと考えついた時、この時妙に一瞬静かになってしまったのがいけない。
ガタンと妙な物音が二階から聞こえたのだ。
「どうした?」
「今の音」
「ん?」
ただの杞憂だったのならいい。
風呂場は階段を降りてすぐの場所。
そして俺の部屋も階段を上がってすぐの場所。
もしあの音が俺の部屋から出た物音なのだとしたら?
そう考えただけで悪寒が走る。
「出る」
「ちょ、もうちょっと入ろうぜ……ってはぁ」
勘違いだったなら良い。
ただ二階で荷物を落としたっていうなら別に。
俺の部屋でもなんでもなく、ただの俺の思い違いなら。
でもあれだけは、それにあの三人には見せちゃいけない。
あいつらの部屋を一度でも見たならわかる。
なぜならあいつらは……。
ドンッと扉を勢いよを開ける。
そこには俺の思い描いた最悪の光景が映し出されていた。
「空……。これ……」
三姉妹はどこか目を輝かせて聞くのだ。
一つあいつらを紹介するうえで言い忘れていたことがある。
それも一番重要なこと。
あいつらが生粋のゲーマーであることを。
よろしくなんだぜ




