ゲーマー、休日を謳歌する⑤
「姉ちゃん」
「ん?なに」
「ソラがいなくなってる」
ショップで空へのコーデを選ぶ二人は未だに買うものを決めあぐねていた。
なまじ空の容姿がいいばかりになにを着させても似合ってしまうのが一番の原因でもあった。
「え、あれ?さっきまであそこに……」
「葵もいない」
「……いや、まさか迷子じゃあるまいし」
「連絡の一つよこしてないしね、葵」
「トイレ……でもないよね」
「ま、待ってればいつか戻ってくるかな?」
「せっかく試着用のを選んだのに……」
二人にしてみればせっかく選んでいるというのにいなくなる空に感じるところがあったが、それ以上に葵と二人というところに引っかかっていたりもする。
「楓さ、葵がなんで今日に限ってついてきたかわかる?」
「んー、たしかにこれまでは自分のこと以外じゃついてきすらしなかったもんね。あるとしたらソラ、がいるからかなぁ?」
「空ねぇ〜。やっぱり葵にとっても空っていうかスカイは重要な存在なのかな」
「も?……あ、姉ちゃんもそうだからか!」
「なっ、そうとは言ってないでしょ!」
「ふーっん、隠さなくたってわかるもん。姉ちゃんはわかりやすいからな」
「ん、もー!たしかにちょっとは思ったりするけど……」
「やっぱりそうじゃん」
「それでも!……まぁ葵は私とは違ってずっと前から、みたいだけど」
「……まぁたしかに、そうかもね」
二人は手に持つ上着類をしきりに見ては笑い合った。
服を手にしてなんでそんな話をしているんだろう、って。
「これ、どうする?買っちゃおうか?」
「そうね。空って持ってる服少なそうだし。このくらいは持ってていいでしょ!」
「じゃ、会計したら二人を探しに行こっか!姉ちゃんは先に外で待っててよ」
「レシートは後でよろしくね」
「もち」
雅は楓にお会計を任せて一人で先に外に出る。
二人で選んだコーデを合わせれば裕に六着分と言ったところだが、二人にとってはそこまで痛い出費でもなかった。
これもこれからのことの先行投資とさえ考えている。
「ん?なんだろ、あれ」
今いる位置がモールの吹き抜けになっているところでもあるため、一度外に出てしまえば一階のホールの様子が丸見えになってしまう。
そのため雅は一階のホールに群がる人たちに目を奪われた。
一階ホールはそれなりの広さがあるだけじゃなく、その季節ごとに四季折々の飾り付けがされている場所でもあった。
そしてその場所に今回多くの人が群がる原因が存在していた。
「げ、あれもしかして桜……?」
そこにいたのは長身ですらっとした体型の雅と同じ年頃の女の子。
名を西園桜。
モデル兼、ユーチューバーという今人気の女子高生だ。
そしてこの桜、雅と楓の双子にとって少し因縁のある相手でもある。
主に同じ動画配信者として同時期に有名になった楓とは特に。
「楓が会計済ませたらすぐに退けたほうがよさそうね……」
雅としてはそこまでではないが、桜のヘイトを買っていることは自覚していたから。
なんでヘイトを買っているのかと聞かれれば雅はわからないのだが。
「あれ、姉ちゃん?なに見てんの?」
「あっ……いや、なんでも……」
ない、と言葉を紡ぐより先に会計を済ませた楓は吹き抜けになっている一階ホールを覗いた。
「あっ!桜!」
「ちょ、声!声大きいって!」
「あ、ごめ」
そしてそれなりの人集りのうむ狂騒のおかげで桜には届いていないことを祈って雅は楓を連れて行く。
その時桜の目線が楓を捉えていたことを彼女らは知らずに。
ーーー
「というわけで作戦会議をします」
「必要?」
「必要でしょ!ふたりがどこにいったかなんてこんな広い場所じゃ見当もつかないし」
「まじで言ってる?姉ちゃん」
「え、うん」
「はぁ、だから姉ちゃんは心配なんだよ……」
「え、なによ……?分担して見つかったら、とかそういう作戦を……」
「私には見当つくけどね、あの二人が行きそうな場所なんて」
「うそぉ…………あ」
何かを思いついたように立ち止まる雅。
よく考えてみればいくら大きいモールに来たとしてもあの二人が行きそうな場所なんて限られてるわけで。
「絶対ゲーム関連の場所でしょ」
「た、たしかに……」
「てなわけで、やるならそこ関連の場所を姉ちゃんと手分けして探すのがいいんだろうけど、どうも一人にしておくのは危ないから一緒にいこっか」
そう楓がいうと姉の雅の返事も聞かないままにそそくさと歩いて行ってしまった。
「え、ちょなんでそんな扱い!?」
そんな雅の声だけがそこに残って二人は歩いた。
ただ、そうして行き着いた場所で彼女らは見てしまった。
「え……」
思わず絶句してしまうほどの光景を。
「ソラ……」
「空……」
「これは……ち、違うんだ……ぞ?」
空が義妹であるはずの葵を抱いている姿を。
「……おいしい」
昼食をその小さな口に蓄えている葵を片目に俺もちびちびと水を頬張った。
水を飲むだけなのに何故か喉を通らないのは気のせいじゃないんだろう。
きっとこの目の前の威圧ゆえ、か。
「百歩譲って私たちに黙って出て行ったのは許しましょう。でもいったいこれはどういうことなのかな、空?」
「何故写真が……」
なぜか雅の手には俺が葵を抱いている写真がスマホによって撮られていた。
「それは置いとくとして」
「いや、さっきも言った通り、仕方なく、だ!俺に罪はない!はずだ……」
「ふーん」
いや、そうだよな?
俺は別に悪くないよな?
うん問題ない、そのはずだ。
「ソラはああ言ってるけど、ほんと?」
「……んーー、そらにめちゃくちゃにされた?」
んーー?言い方?
「めちゃくちゃに!?」
「されたの!?」
「……そらの攻めになすすべなく……」
「空の攻め!?」
「なすすべなく!?」
「……私はされるがままだった」
あれー?なんかそれを聞くとその空って奴はやばいやつに聞こえるんだが?
ゲームの話だよね?
ゲームの攻めになすすべないって意味だよね!?
「ソラー?」
「やっぱり空……。葵に我慢できなかったのね……」
「なんでそんな憐れむような顔する!?違うから!ゲーム!ゲームの話だからね!?」
「あぁもちろんわかってるって。隠さなくていいんだよソラ」
楓は察すかのように深く頷き、
「家に帰ったら色々と聞かないと……まさか空が……」
雅はすでに俺の評価を体で示していた。
「だからぁ、色々違うってぇ!!」
その声も虚しく葵はその膨らむ頬を満足げに動かしていた。
「……おいしい」




