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ゲーマー、休日を謳歌する④


 最近ずっと夢を見る。

 一番最初の夢。

 ずっと手を伸ばしてるのに、その光には届かなくて。

 でも諦めたくない私は這ってでもその光にたどり着きたくてずっと手を伸ばし続ける。

 そんな儚くも叶わない、冷たい夢。



 私が初めてゲームに興味を持ったのは小学生の頃。

 下校中に通る商店街の一角にあるゲームセンターに足を運んだ時だった。

 

「ち、なんだよコイツ!?強すぎだろ!?」


 なんの台かはわからないけど、多分向かい合ってゲームを操作している二人の周りには十数人の群衆ができてた。

 

「おいおい、ガキ一人に負けるのか?」


「バッ!負けるわけねぇって!こっからだっつーの!」


 周りに鼓舞されながら声を荒げていたのは大学生くらいの男の人だったと思う。

 粗暴そうで一回見ただけで足がすくんじゃいそうだった。


 でもそれよりも衝撃だったのはその向かいに座ってた男の子。

 多分私と同じくらいの歳の子がいたこと。

 身長は小さくて、椅子に座ってるのに地面には足が届いていなかった。

 そして何より、あんなにも囲まれてるのに物怖じひとつせず画面をひたすらに見続けている。

 横顔しかわからなかったけど伸ばした黒髪は綺麗に後ろで束ねられててその目はとても綺麗だった。


 幼かった私はそんな男の子がなにをしてるのか気になったんだと思う。

 だから人が連なったあそこになにがあるんだろうって気になって仕方なかった。

 でも結局その日はお姉ちゃんたちに止められて、てくてく帰り道を帰っていってた。

 

 多分その頃から。

 怖いはずなのに何かに真剣になってる男の子。

 その頃から気怠げだった私は同年代の男の子のそういう姿を見て興奮せざるを得なかった。

 それからはずっと、あの男の子はなにをしてたんだろうって思う日々。

 学校が終わればお姉ちゃん達と合流する前にゲームセンターを覗いて彼がいないか確認してた。

 そして決まっていつも同じ場所にいる彼を見てなにをしているのかがはっきりわかった時には帰り道がウキウキだったのを今でも忘れない。


 そんな日々を送るある時、いつものように寄ったゲームセンターでいつかのように人だかりができてるのを見かけた。

 私が彼を知るきっかけにもなったあの粗暴な男の人と対戦していた。


「次は負けねぇ」


 あの男の人は鋭い目つきと眼光で彼にそう言ってた。

 でも彼はそれになんの反応も見せずただ「来いよ」って静かに言ってた。

 あれから私もそれなりに知識を得てたから彼がやってるゲームがいわゆる格闘ゲームだってことは知ってた。

 だからただの興味本位。

 なにが起こるんだろうっていう好奇心が恐怖心を覆すほどに強くなっちゃってた。


「くそっ!なんでこんなやつに!?」


「おいおいまた負けか?とっちゃんも腕が落ちたんじゃねぇのぉ?」


「っるせぇぇ!こんなガキに負けっかよ!」


 そして見てみれば、私はいつのまにか目を見開いて彼の座ってる椅子に手をついて見ていた。

 彼の操作するのが女の人のキャラクターっていうのは知ってたから、自然と彼が勝ってるんだって思って嬉しくなった。

 この子は強いんだって思って。


 彼の操作するキャラは滑らかで緩急があって、何より美しく見えた。

 隣にお姉ちゃんの一人でもいればキャッキャって飛びつきたくなるくらいにはすごかった。


 そして彼のキャラは一度もあの男の人のキャラに攻撃をもらうことなく、圧倒しちゃった。

 

「……チッ。やめだやめ。つっまんねぇ戦い方しやがって」


「無鉄砲に突っ込んでくるからだろ」


「あぁ?」


「戦略を持てって言ったんだ。攻め方も受け方もワンパターンが過ぎる」


「あぁぁ?なんだぁ?それは。俺を侮辱すんのか?」


「アドバイスしただけだが?」


「っ!?んだと?」


 でもそれで終わりじゃなかった。

 

「このガキ。言わせておけばアドバイスだぁ?んなもんいらねぇんだよ」


「強くなろうという気がないなら割り込むなよ。並んでる人がいる」


「あぁ?おいおい、今の状況わかってねぇのか!?こっちは五人いんだぞ?」

 

「人数がなんだ。それが割って入っていい理由にはならない」


「んなことどうだっていいんだよ!そんな舐めた口きいてタダで済むと思うなっつってんだ!」


「……なんだ、お前もそうか」


「あ?」


「いいぞ」


「は?」


「やりたいならやれよ」


 彼は座ってた椅子から飛び降りてあの男の人の前に立った。

 見ればわかる。明らかに身長差があって、体格も二倍三倍と差があるってこと。

 なのになんで彼はあんなに強くあれるんだろう。

 私と同じくらいの歳で私と同じくらいの身長で。

 私にはなにを言ってるのか半分も理解できなかったけど、きっと彼は立ち向かっていた。


 でも何故かここからなにが起こったのか覚えていない。

 彼があの男の人の前に立ってどうなったのか私には記憶がなかった。

 

 そんな中唯一覚えていることは彼の輝いた瞳が一度、私を映してくれたこと。

 どこまでもまっすぐで何より自分の中に芯を持っているそんな綺麗な瞳。

 そこに私を映してくれたのがなんだか、あの時の私には神秘的に思えちゃった。

 あんなに小さくて、お姉ちゃん達に付き纏うだけだった私が自分を見出した瞬間だったから。

 その姿がとても美しいって感じたんだ。

 それは今でも変わらない。

 今向かい合っているそらこそ、あの時の男の子なんだから。




「始め!」


 でもあの頃とは違うことがある。

 それは私がこのゲームを知っているってこと。

 そして全国をとったスカイの戦い方を知っているってこと。

 私がそれに並ぶだけの実力を持っているということ。


 だから私は負けない。

 ゲーマーとして憧れたスカイに私が勝って、そらに証明するんだ。

 何が理由かはわからないけど、ゲームが嫌いっていうそらにそんなことないって思わせてあげるんだ。

 私が勝って。



 初手の定石は上段下段を巧みに使い分ける通常攻撃で翻弄する。

 スカイ式というのの本質は相手のコンボの流れを崩し、いつのまにか試合全体の流れを支配してしまうくらい流暢な試合運びにある。

 だからどんな攻撃や待ちをしてもいつのまにか全体の流れを掴むのはいつだってスカイだ。


 ただ、そうなるのに摩訶不思議な理由があるわけじゃない。

 タネも仕掛けもスカイ式には存在するんだ。


 その実はこれ。


「へぇ」

 

 そらの声が聞こえる。

 あの頃とは違う青年の澄んだ声。


 伊達にゲーマーとしてスカイを憧れてない。

 その隣にいつか立てるように私だってあの日からずっと夢見ていたんだから。


 繰り出すのは中段、下段の攻撃。

 そこからガードに入る敵を掴みで投げる。

 するともちろんキャラはその軌道に従って飛ばされるわけで一定時間の硬直もそこには存在する。

 そこまでは普通の駆け引きだ。

 問題はその後、投げられた後の行動にスカイ式の種がある。


 いわゆるカウンター。

 相手のつなげようとするコンボを利用したカウンターだ。

 中段、下段の攻撃をつなげようとするコンボならジャンプ攻撃、掴み投げにつなげようとすれば下段攻撃と言ったように明確な対抗打が存在する。

 本来はその選択すら取れないのがコンボだが、スカイの使うこの女性キャラ。これだけは勝手が違った。

 投げられた時にフレーム単位でジャンプのコマンドを入力することで判定を飛ばし、本来硬直時間で決められるはずのコンボにギリギリ間に合わせることができるのだ。

 ちなみに他のキャラでもできるが、このキャラの特徴でもあるジャンプ力の微増による影響がないと特定の技にしか反応できない。


 そしてスカイはそれを狙って出してくる。

 相手のつかみのタイミングを正確に測り、次の行動を正確に予測し、フレーム単位でその技に対するカウンターを実行する。

 それがスカイが全国すら勝ち上がった必勝のスカイ式の種の一つだ。


 だから私はこの攻略に同キャラを当てはめた。

 もともとスカイと同じキャラを使う身、このキャラの特性をスカイの次に知っていたと豪語してもいい私はその攻略にこのキャラを使うしかないと思った。


 なぜなら。


「……決まった」


 そらは私の掴み投げに対して長年のブランクなんて感じさせないくらい、当たり前にフレーム単位でジャンプを合わせていた。

 だからこの駆け引きは私の勝ち。


「ん?」

 

 同じキャラのミラー戦ではその特徴をうまく引き出せない。

 なぜなら投げる側と投げられる側に明確な差が存在しないから。

 スカイ式がスカイ式として成り立つのは他が圧倒的な体格差とウェイトを誇ることで、ジャンプ力の微増を硬直時間の短縮に無理やりつなげているだけ。

 だから差のない相手同士だと一つ、明確に避けられない技が存在する。

 それがこの、キャラのリーチを生かした中段の攻撃。

 一見繋がっていないように見える辺鄙な攻撃が明確なスカイ式への反撃打になる。


「へぇー。本当にうまいな、葵」


 でも所詮は火力の低いキャラ、スカイ式を破ったところで大して体力は削れていない。


「……そらは余裕そう」


「そう見えるか?」


「……見える」


「まぁ、俺がこうして出方を待ってるのをみれば仕方ないか」


 そう、スカイは私が知っている限り、大会で待ちの姿勢を見せたことは一度もない。

 実に馬鹿げてると思う。

 普通なら待ちが強い場面でも構わずただの駆け引きで勝ったり、スカイ式なんて使わずとも勝てたり。

 絶対的に弱いキャラを使ってハンドスキルで他を圧倒している、という評され方もあながち間違いでもないんだ。



「でも流石にまだ足りない」


「……え?」


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