ゲーマー、休日を謳歌する③
前の人の試合が終わった。
対戦台での試合なんてもう何年振りか。
「ちょっとコマンド確認してもいいか?」
「……うん。私も人のこと言えない」
「葵も久しぶりってことか?」
「……そ。ちょくちょくはやってたけど」
「そうか」
この画面すら懐かしい。
あの頃はずっと台に座ってたっけ。
「キャラはこいつでいいか?」
選ぶのはもちろん俺が大会で優勝してきた時に使ってたキャラだ。
このゲームでは珍しいらしい女性キャラで特徴としては攻撃の火力が小さい分、技の発生が早くコンボが繋げやすい。
ジャンプも他のキャラに比べてちょっとだけ高く飛べたりもする。
ただ、こう聞けばいいように聞こえるかもしれないが実際のところはそこまで強いとは評価し難いキャラだ。
全体的にこのゲーム、一コンボ決まれば体力の四割が削れることがざらで、技のコンボから抜け出す回避をするにも体格差によって抜け出すことが困難なのが女性キャラ。
だから一度でも相手のペースに飲まれてしまえば敗北が見えるという評価を受けがちだ。
そんなキャラをなんで俺が使って、それも何故大会にまで持ってきているのか。
評価を知れば誰しも他のキャラを選んだほうが勝率を上げられると考える。
現に大会でもキャラ使用率は下からニ番目。
一番下のネタキャラでの予選参加を除けば最下位だ。
でもそれでも優勝したのはこのキャラで、俺だった。
「……私もそのキャラ」
「物好きだな……。こんなの容姿以外で選ぶやつ少ないぞ?」
そう、この女性キャラはえっちぃのだ。
特にKOされた時の敗北モーションなんかは至高たるものだった。
当時中学生の俺がこのキャラを使ったのも頷ける。
「……でもスカイは使ってる」
「ま、まぁそうだけどさぁ」
「……それにスカイ式、もう研究し尽くしたから」
「ーーへぇ」
スカイ式。
容姿だけが取り柄のこのちょっと素早いキャラを大会で通用するように組み立てたのが、俺の開発した空地奪取、通称スカイ式と呼ばれているらしい。
中学ながらいい命名をしたものだと思っていたが、そういえばこのコンボの名称を言ったことがなかったせいでスカイ式って呼ばれるようになったんだろうなぁ。
インタビューで高々に「空地奪取!」と叫べばよかった。
という一面があるもののこのコンボの組み立て自体はかなりガチだ。
いわゆる強キャラに対してのカウンターにもなるし、待ちの手を打ってきた敵に対しても始動のきっかけを作ることができるそんな手だ。
「……だから絶対に負けない」
「それなら他のキャラの方がいいんじゃない?」
「……知ってるよ?スカイ式の唯一の攻略法はミラー戦だって。……それに、私の持ちキャラもこの子だから」
「ーーはぁ、本当に知ってるんだな。ひょっとしてガチ勢か?」
「……それなりにはやってる。そういうそらはこのゲームのトップだけど」
「はは、たしかにそうだ」
「……でも負けない」
たった一試合。
ものの四、五分の勝負。
勝っても負けても時の運かも知れないし、ブランクのせいでの操作ミスかも知れない。
でもそんな言い訳で負けたくもない。
だって今対面に座している葵はきっとそんなの望んでいないだろうから。
顔を見えないし、どんな表情をしているかもわからないけど、それでも。
たしかに俺はゲームが嫌いだ。
でもゲームに真摯に向き合う相手を蔑ろにするほど腐ってはいない。
「多分、いや万全だ」
「……私も」
案外体が覚えているもんだ。
この頃に研鑽してきた数多の記憶が操作する手から流れ込んでくるようなもので。
たったの攻撃一つで幾つもの対戦を想起してしまう。
ただ不思議と負ける気はしなかった。
負ける気でゲームなんてしたことがないからか、俄然集中力は増すばかりだ。
「……始める前にいい?」
「なんだ?」
「……そらはゲームが嫌いって言った。それは本当?」
「ーー本当だ」
嘘偽りない本当の気持ち。
「…………わかった」
葵は意を決したように言葉にする。
「……ならここで私が勝って、ゲームが楽しいってことを教えてあげる」
「葵が勝ったらゲームは楽しくないって教えられそうだけどな」
「……ううん。教えるもん」
「そっか」
ゲームが楽しいし、面白いものだなんて知ってるさ。
それでも、なんだよ。
「じゃあ始めるぞ」
「……うん、やろ」
「始め!」
その言葉と同時に俺たちのゲームは始まった。




