ゲーマー、休日を謳歌する②
そうしてたどり着いた大型ショッピングモール。
最近建ったということもあって、外装から内装まで白で統一された清潔感を感じさせる。
商業施設ということもあってか、いろんな店が立ち並んでもいた。
それ故に色んな人が集まってもいるようだ。
「やっぱりジャケットに黒スキニーでスッキリした印象がいいでしょ!」
「いやいやいや、ジャケットやるくらいならパーカーと合わせてカジュアルめに見せた方がいいって!」
「白シャツ!?空に合わせるならグレーで合わせたほうが!」
「シャツをインナーに使って黒で基調を整えたほうがいいって!」
「こっち!」
「いや、こっちだって!」
かくいう彼女ら双子組は、何故か俺の服を見繕っては俺の目の前で肩に合わせた次にこうして言い争うのだった。
これでコーディネートで争うこと五回、色調の良し悪しで争うこと三回、俺が試着した回数三回だ。
ちなみにこいつらがなにを言っているかは分からん。きっと暗号だ。
「なぁ葵。お前はあいつらがなにを言ってるか分かるか?」
「……わからない」
「仲間よ」
「……それよりちょっと腕貸して」
「ん?」
俺らの今いる位置は双子から少し距離をとって店を出たあたりで、吹き抜けのモールの二階通路に位置する店だ。
だから通路端に背中を預けるようにしているわけだが、そんな時の葵の言葉だ。
俺がその言葉通りに左腕を貸すと。
「ん!?」
「……二人には後で連絡しとくから」
「そ、それはまぁ気にしてないんだが……ちょっと、その近くありません……?」
彼女は胸を預けるような感じで俺の左腕に手を絡ませるのだ。
時に俺の身長が180センチ近くあるから、低身長な葵とは結構身長差が顕著に現れたりする。双子の方は女子にしては身長が高い方だから余計。
そんな葵の成長段階の慎ましげな膨らみが、ちょうど腕の関節部に当たるから動かすだけで……その、あれが。
そんなことに思いを馳せ、この極楽を"天使の気まぐれ"と名付けたところでようやく葵が俺の方を見ていたのに気づく。
「……来て」
「あ、はい」
どこか見透かされたような顔で見られたらそれはもう仕方ない。
流れに任せるように俺は葵の後を追った。
そして着いたのは。
「ゲーセン?」
「……そう」
よく見るようなゲームセンターがこのモール内の一角に広がっていた。
「何ゆえここに?」
「……そんなの決まってる、でしょ?」
「まぁ、ゲーム?」
「……いぇす」
あ、なんかテンション高そう……葵さん。
「俺は保護者でもしてればいいのか?自慢じゃないがこれでも”大学生ですか”って聞かれた回数は県内一位を誇れるからな」
「……私が背低いのを気にしてるのを知ってての皮肉?」
一度眼前の葵を見れば見えるのは頭頂部。
それに彼女の姉たち、あの双子は二人ともそれなりに身長がある。体感170センチ近いと思う。
「あっ、ッスーーー、そんなわけないじゃないっすか。葵さんの背丈はもう美点というか、なんというか」
「……嘘。別に気にしてない」
「――肝が冷える嘘はやめないか……?最悪死人が出るぞ、俺みたいな」
「……そらは死人?」
「えっいや、それは比喩であって俺が死人というわけではなくてだな」
「……でも死人みたいなもの」
「ん?」
もしかして罵倒を受けようとしている?
「……あんなにスカイとして結果を残しているのに、あれ以来一度も姿を見せなかった」
「――言い得て妙だが、そういう意味なら確かにそうなのかもな」
どうやらいわれのないような罵倒ではないようだ。
このがりがりの不健康体型をゾンビのようだ、と形容した雅よりかはだいぶ。
てかあの頃は確かに夜型だったからゾンビのような生活をしてはいたけれども。
とはいえ、葵の言ったこと。伝説と語られれば聞こえはいいが、そういう扱いをされるのだって確かだ。
「……だから私はもうあきらめてた」
「?」
「……なんでここにって言った。それはこれをするため」
ゲーセンの中のとあるコーナー。
入口からは見てみればちょっと奥に位置するそれはいくつものアーケード台が向き合って並んでいて、暗い中で怪しげな光を放っている。
そこに並ぶのは、いわゆる格ゲーだ。それも俺が以前タイトルを取ったことがある、あの。
「なるほど。これをするためにあの怠惰の化身、葵様はこの買い物についてきたってわけだ」
葵はただ首を縦に振った。
そうだよな、あの葵がゲームのこと以外で前向きな姿勢を見せたことがないんだから。
「……そして私が勝ったときには、そらには自分が頭が高いってことを知らしめる」
「やっぱり気にしてない!?身長!?」
「……土下座とか」
「わぉ」
「……負けたら」
「負けたら?」
「……失意で動けない私をそらが運ぶ」
「どちらにせよ俺にとっては罰ゲームだ、これ」
「……だから、一度だけでいい。一試合だけ。それだけでいいからお願い」
いつになく真剣な表情の葵。
いつもみたいに太ももをちょんちょんとつついてスマホの画面をちらつかせれば俺はやらざるを得ないっていうのに。
そういえば俺の正体がばれてからそろそろ一週間が経つ。
正体がばれたのは連休明けの日だったから、葵とちゃんと話すようになったのもそのくらいだ。ちゃんと話しているかは定かじゃないけど。
最初のころこそ姉妹揃っては俺の正体を出汁に使っていたのに、今みたいに葵はまっすぐお願いすることが多くなってきた。
これは一体なんの兆候なのか。
俺が脅さなくてもお願いされればやってくれると思っているのだろうか。
まぁ、この間のは所詮ゲームと言っても練習程度のものだから、いつものノリで引き受けてしまったが。
それでも俺は、元々ゲームを教えることもプレーすることもお前ら三人の前で否定して見せた。
それが脅しという手段を度外視した時の俺の答えだ。
俺は正面に立つ葵に向かう。
そのことを言おうと口を開く。
「無…………」
無理だ、とそう言おうと。
でも何故か言えなかった。
これが葵の可愛さに負けたんだと言えたならどれほど良かったか。
そういう感性とはまた違うところが、今の葵を否定する気になれなかった。
だからこれ以上の言葉が出てこない。
「…………む?」
それに傾げる葵。
あーもう!可愛いな、おい。
その上目遣いがもう凶器だっての。
「ーーなんでもない。一試合だけだ」
「……!」
「一試合だけなら受けてやる」
「……本気で」
「本気でやるかって?……やるからには負けるつもりはない」
「……次あそこが空いたらやろ」
「あぁ」
今回だけだ。
今回だけ……。




