ゲーマー、休日を謳歌する
休日。
佐伯家の休日はちょっと特殊だ。
「休みだ!うおおぉぉぉぉ!!」
「うおー!」
「母さん、そんな親父の真似なんかしなくていいんだからな」
「そんな、とはなんだ!あの日裸で語り合った仲じゃないか!ガハハハ」
「人聞きが悪いこと言うな!親父が勝手に入ってきたんだからな!」
「まぁまぁ、そこまで進んでいたなんて……!家族の絆ね!」
「母さんまで……。だめだ、もうこの家族は侵されてしまったんだ……」
そんなこんなでいつものように朝食の卓を囲む。
「というわけで今日も俺らはデートに行くのでくれぐれも気をつけるように!」
「あいよ」
「雪さんも懲りないですよね。この人間の皮を被ったゴリラに付き合わなくてもいいんですからね?」
「あ、あれ?雅?そんなに辛辣だとお父さん泣いちゃうよ……?」
「泣けば?」
「楓ぇ?」
「……ふん」
「葵までぇぇ」
いつもの様式美かのように親父は目線を配らせては最後に俺を見つめるのだ。
「はよ行ってきなって、親父」
「やっぱり俺の息子、空は優しいなぁぁ!」
「ちょ、抱きついてくんな!俺はか細いんだからゴリラに絡まれると死ぬの!」
ほんと冗談じゃなく。
自分でも俺の腕折れそーって思うくらいに細いからな。
女子顔負けだ。別に誇らしくもなんともないんだけど。
「そんなこと言って、本当は照れ隠しなんだろ!お父さんわかってるって!お土産楽しみにしてろよ!」
「いやちげーし」
「じゃあ行ってくるからなー!帰りは明日だから留守番よろしく!」
「じゃあ行ってくるわね。空、雅ちゃんと楓ちゃんと葵ちゃんをよろしくね?三人も、空のことよろしく」
「わかってるよ母さん。いってらっしゃい」
「もちろんです!いってらっしゃい」
「じゃあ行ってきます」
母さんのその声とともに両親は旅立った。
なんでも一泊二日の旅行に行くんだとか。
来週には仕事があるというのに二人はおおよそ一ヶ月に一回のペースでこういう外出に行くのだ。
再婚してまだ三ヶ月。
一応は新婚って言ってもいいんだろうから、別段こうして子供同士が置いてかれるのもザラだ。
それに旅行に行かないまでも家族での買い物とか外食とかを休日に提案してくるから、何かと断るのに苦労したものだった。
これまでのこういう親が旅行に行ったときは別段何かあるわけでもなく、俺と三姉妹が特に関わりを持つこともなく過ごすだけだった。
しかし今のこの弱みを握られている状態でこの日を迎えたらどうなるのか、俺にはわからずにいた。
もしかしたら何かの奇跡でこれまでのように互いに不干渉でいられたらな、と思いながらも俺はのそりのそりと階段の方へと向かう。
が、なぜか俺の前に、正確には階段の下段に仁王立ちする雅の姿がそこにはあった。
そうですよね〜。
なにもないわけないですよね〜と自分に言いながら。
雅の上からはそのまたいつそこに移動したのかわからない、楓と葵の姿が。
葵は未だに朝の眠気と戦っているようではあるが。
「さぁ、空!行きましょう!」
雅はそう言いながら階段を下りきってきた。
「行くってどこに」
「もちろん、買い物に決まってるじゃない」
「買い物ぉ?マウスでも新調するのか?」
「いやそういうのじゃなくて、服とか見に行こうって話!私たちをなんだと思ってるんだか。これでも女の子なんだからね!」
「それ以前に生粋のゲーマーじゃないか」
昨日自室に戻ってからいろいろと調べてみてわかったことだが、この三姉妹俺が思った以上にゲーマーしてるし、俺が思った以上に実力も兼ね備えていた。
ただでさえ女子ゲーマーなるものは少ない昨今、女子かつ実力も兼ね備えているともなれば人気をというのも頷けた。
なにせこいつら、一部の界隈ではゲーム界の女神とさえ呼ばれているんだとか。
雅と葵がどうかは知らないが、チャンネル主でもある楓は前に顔出しもしているらしく、その容姿も相まってそう呼ばれているとも聞いた。さすがにいろいろと配慮をした上だとは思う。
そして俺が一番驚いたのが、こいつらが出ようとしているバーテックスの大会とやらの話だ。
聞いた限りじゃ一位に100万円の賞金があるってだけだったが、この大会、実はそれだけではないらしい。
「空がどんな目で私たちのことを見ているかよーくわかったよ」
「え、ちょっと顔怖くない?」
「空にはやっぱり女心ってものを教えないといけないみたいね」
でも今はそんなことを考えてる暇もないらしい。
「ってことで30分後リビング集合!もちろん……来てくれるよね?」
そんな含みのある顔で言わなくてもわかってますから。
「はぁ、30分後ね」
「あ、どうせ外行くんだからちゃんとおしゃれしてよね!モールに行くつもりなんだから」
「ああそこね」
確かよく行く商店街の先のほうの駅近くに大型ショッピングモールが建ったんだとかなんとか。
ここら辺の若者は最近は足繁く通ってるらしい。
それから30分後。
「お、来た……って空、それ」
「あれ、三人そろって行くのか?」
「あ、うん。そうだけど……。それより空、その格好で行くの?」
「ん?あぁこのパーカー?そのつもりだが」
「ていうかいつもそのパーカー着てるよね?」
「昨日もその服じゃなかった?」
楓が補足するように言ってくる。
まぁ事実だけど。
「これ着やすいし、なんか落ち着くんだよ」
「せめて外出るならもっとおしゃれな服着ようよ!てかその服何着持ってるのさ!」
「ふ、二つだが……。あとグレーの色違いを一つ……」
「んんんんん!よし、空の服を買いに行くのに決定!」
「俺のぉ?」
そんなにだめかなぁ?
「不服そうね。でももう決定だから!」
「てか楓に葵まで行くのか?」
「もっち」
「……ほんとは行きたくない、けど行く」
「さいで」
ただ一つ言えるとはたしかに雅始めこの三人は美的センスがいいのか知らないが普段の格好よりやけに神々しい。
贔屓目なしで見ても十分に顔が整ってるし、絶対本人には言わないがめっちゃ美人で可愛い。
絶対言わない、が。
「パンツはちゃんと持ってるんだ」
「っ!?」
「ズボンのことね!?」
そんなやりとりもあって俺らは家を出た。
葵は俺のパーカーの裾を掴んで歩いていたことだけは補足しておく。




