ゲーマー、必要とされる
「ありがとう葵」
俺は葵の席から立ち上がり、その場を明け渡す。
ゲームの感度を変えちゃったから椅子から立った後、思い出したように「あっ」と声を漏らしながら、俺は設定を元に戻しておく。
「……まだやってていい」
「いや、いいや」
「……ううん、やって」
葵は何かと俺にこのゲームをさせたがるが、気怠げ気質な葵がそこまでいうとはそれだけこのゲームに魅力があるんだろう。
あぁまったく。
何平気な面してまた性懲りも無くやろうとしてるんだか。
それもこのゲームはチーム戦だぞ?
俺が一番嫌いなタイプじゃないか。
「いや、やめとくよ」
語気は決して強くはなかっただろうが、多分伝わってくれただろう。
葵はあんななりして結構人のことは見てるタイプだと思う。知らんけど。
空気読みとか得意そうだしな。
「……ん」
ただちょっと申し訳なくはある。
葵は椅子に座ってマウスを数度振った後、またエイム練習に戻っていった。
「そうだよ!!」
「わ、びっくりした。なによ、楓?」
「相手はあのスカイなんだよ!そんなスカイの初プレイがまだなんだって言うなら、いっそのことこの場でやっちゃえばいいんだよ!それにちょっとかじっちゃえば多分ものすごい速度で習得してくれるでしょ!!どうせ本番まで後一ヶ月あるし、スカイがこのゲームを理解してきてから私たちはコーチングして貰えばそれで…………ってあれ?」
「そ、スカイならもう出てっちゃったよ?」
「えぇー。でもいっか、今日はもう取れ高もあったしね。じゃあみんな!また後日、スカイの初バーテックスをすると思うからよろしく!じゃあねー!」
楓はそうやってほんの一時間程度の生放送であったが、その枠を閉じる。
「ねぇ楓。やっぱりスカイ……じゃなくて、空がゲームが嫌いって言ったの本当なのかな」
「それは……わかんない。2人がいない時にさりげなく聞こうと思ったんだけど、結局はぐらかされて終わっちゃって……。そういえばさっきまで視界の端でソラが葵の席に座ってたのを見たんだけど、あれは?」
「葵がやってって空に言ってくれたの。そういえばそのときはなんか自然とやってくれたのよね。なんだか葵も空に懐いてきてるみたいだし……案外素直に頼めばやってくれるのかな?」
「姉ちゃんならできるでしょ、かわいいし」
「かわいいとか言わないでよ!恥ずかしい……!」
「本当姉ちゃんってほんとわかりやすいよねぇ。私たちの中じゃ一番スカイのこと尊敬してるって言ってたし。もしかしてソラがスカイだってこと知ってた?」
「さすがにわかんないよ。今になって思えばたしかにスカイだ!とはなるけど、その先入観がなかったらわかんなかったもん」
「じゃあなんでソラの部屋にまで入ったのさ」
「それは…………まだ秘密」
「えぇ、なにそれ!気になるー!」
「秘密なものは秘密なんだもん。教えませーん」
「ぷっ、必死だなぁ姉ちゃんは」
「うぅ、笑うなぁ!双子のよしみで骨は拾ってやる!」
「ぷっはははは。おっかしーの姉ちゃんは!」
「もぉぉー!許さん!!」
それから二人のくんずほぐれずがあったのち、とりあえず一時間だけでも練習しようと三人でバーテックスをしたんだとか。
その中でも相変わらずの葵の一つ頭抜けた実力で敵を薙ぎ倒して、一日のノルマのチャンピオンを2回取ってこの練習は終わった。
この時間はまだ夜でもない、夜ご飯の前の時間でやってるということもあって、終わりの時間に制限がある。
そうして夜ご飯のためにゲーム部屋からでた雅は、二階の空の部屋を一瞥してから階段を降りる。
あのとき何か勘に触るようなことを言ってしまったんだろうか、と思案しながら。
空がゲームをしたがらない理由にはやっぱり何かあるんだと思わされていた。
でも本人から聞けることはせいぜい「ゲームが嫌い」だという理由だけだ。
もし本当に大会に勝ちたいなら、空がゲームをしたがらない理由をどうにかしない限り、きっと私たちの実力じゃ勝ち上がれない。
どうしても格上の人の指導を受けなきゃ私たちじゃ勝てないのだ。
それだけの実力差が今はある。
だからきっとあんな脅しでも僅かな希望を見出すしかなかった。
でもスカイが空がなにを思っているかなんて、私たちにはわからない。
家族ならまだしも、私たちは義理の兄弟なんだから。
…………家族、なら?




