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ゲーマー、ゲームに触れる


 あれから俺は失意にまみれた状態で彼女らの前に立っていた。


「よし、ネタバレも済んだところで!やろうか、バーテックス!」


「切り替えはやいね楓」


「こういうのはちゃっちゃと流しちゃうのが一番なんだよ、姉ちゃん」


「そんなもんなのかなぁ?」


 俺はそれに深くため息を、彼女に聞かせるくらいに大きく放った。

 はぁ、と一息ついてしまえば何かと整理してしまえる質だし、このくらいは許してくれるだろう。

 せっかくこれまで伝説であり続けた意味すらもないじゃないか、これじゃあ。


 まぁもう後の祭り。

 何を言っても仕方ない。

 過去の俺よ、この殺意は来るべき時までちゃんと覚えておくからな。


 俺はとりあえず後で楓がやってる放送を確認しておくことにして、今はこの現状を何とかしようと模索する。

 あの時、彼女らに正体がばれて、なし崩し的にこのバーテックスのコーチングをするように強制されたが、何を隠そうこの俺スカイは、バーテックスをやったことがない。

 この間、初めてプレイするところを見たくらいだ。

 それほどに俺はこのゲームをしてこなかった。


 たしかリリースされたのは去年の一月二月あたりだったか、そのくらいのころで話題になったっきりだ。俺の中でのバーテックスとは。


 とどのつまり、俺はスカイだからという理由でコーチングを受けられるゲームではないのだ、これは。

 この三人には申し訳ないが、何も助言することさえかなわないぞ。

 いや、別に申し訳ないとも思っていないが。


「じゃ、そろそろやろっか!」


「ちょっと待った!」


「ん?」


「一つお前らは重要なことを知らない」


「え、何」

 

「俺はバーテックスをやったことがないってことをな」


 ちょっとすまして言ってやった。

 さぁこれまでのすべてのやり取りに意味がなくなった瞬間だ。

 もう俺を解き放っていいんだぞ?


「え、ええぇぇ!?」


 一番に驚いたのは雅だ。

 ていうかそんな驚いた顔できたのかよお前。


「そ……じゃなくて、スカイ、バーテックスやったことないの!?世界最強のゲーマーなのに!?」


「そんな異名知らないし」


「でも事実そうじゃん」


「それはそれ、これはこれだ。そんな呼ばれ方をしてようとも、そんな何でもかんでもやってはないってこったな」


「嘘ぉ~~。楓、どうする?」


 これまで何かと考えていたかのように、思案顔をしていた楓に雅は言う。

 ちなみに葵はもうすでにゲームを起動してエイム練習してた。

 さすがマイペース。


「うーーん。そうだなぁ~。言っても大会まであと一か月切ってるんだよねぇ」


「やっぱり私たちだけでやる?」


「ん~~、ちょっと考えさせて」


 楓はそんな風に言うとまた何かと考え始めてしまった。


「結局俺は何に踊らされてたんだか」


 俺もそんな楓を見て思う。

 うん、脅され損だ。

 まだ葵の補佐をするときに脅された時のほうが建設的だったな。

 決して奴隷と認めているわけではないが。


「……そ、スカイ、ちょっと見て?」


 すると俺が葵のことを考えていたのがばれたかのようなタイミングで葵が言った。

 そんな葵の表情は今にもスマホで拡散してもいいんだぞっていう凄みのある顔だ。

 え、ごめんなさい。やっぱり奴隷になりますからそんな表情で見ないで……!


「あ、はい。なんでしょう」


「……そ、スカイはゲーム一杯やってきてると思う、けど、このゲームの特徴は総じて銃の反動が小さい」


「…ん?」


「……それに、画面を見ればわかるように、キャラの走る速度も速い」


「んん?」


「……だから基本動きながら打つのがこのゲームの特徴」


「ん、んん……?」


 もしかして、いやもしかしなくても、今葵は俺に教えてくれてるのか?このゲームのことを。

 ていうか。


「エイムいいな」


「……この武器はアサルトライフルの中でも一番反動が優しい。……ほとんどリコイルコントロールがいらない。……だから、慣れればこのくらいの距離でも余裕でダメージが出せる」


「いや、さすがにこの距離は慣れの範疇じゃないと思うけどな……」


 多分このマップは練習場のような場所なんだろうが、武器のある位置から一番遠くの的を狙うならまだしも、それより後ろから撃ってる上にあんなに的が小さいのに継続して当てている。

 204って表記されてるってことは多分それだけのダメージを継続して出したってことなんだろう。

 多分これが普通ってわけじゃないんだろうなぁ。


 楓を挟んで反対の場所の雅に視線を送ってみれば首を振って目を伏せがちにもしている点を鑑みれば、葵のエイムが異常なんだろう。


「……基本的に武器はスナイパーライフル、ライトマシンガン、ショットガン、アサルトライフル、サブマシンガン、の五種類だけ。……ちなみにこの順番でADSした時の移動速度減少が少なくなってく」


「へぇ~」


 ちなみにさっきから出てくるリコイルコントロールやら、ADSやらという単語はFPS用語の一つでもあり、前者は銃を撃った時の反動を制御することを言い、後者は武器を主に右クリックをして標準を定める行為のことを言う。

 ゲーマーならではの共通言語だ。


 それにしても葵の操作するキャラを見ているだけでもわかる。

 確かにこれは結構キャラのスピードが速い。

 というか、こんなに速いと当てるのも難しいが逆に考えれば当てられにくくもある、か?


「てかこれキャラの体力どれくらいあるんだ?」


 さっき葵が出してたダメージ的には100くらいが無難だろう。


「……キャラの体力が100、それに加えてアーマーが五種類あってその最大値が125。……一番装備が整った状態で体力は225あるって考えるのが無難」


「体力多いな!?」


 となるとさっき葵が出したダメージと同じくらい。しかも葵がほとんど当てていたにもかかわらず、それで殺しきれないのか。

 また凄いゲームだな……バーテックス。


「マップってこの間三人がやってたやつが普通の大きさなんだよな」


「……二マップあるうちの広いほうがあのマップ」


「それで60人のだよな……?」


「……ん、そう」


「それ、漁夫の戦いが多くならないか?」


 漁夫の利。

 当事者同士が争っているうちに、第三者が何の苦労もなく利益をさらうことのたとえのことをさす言葉で、こういうバトルロイヤルのような生き残りを競うゲームでよく使われる言葉だ。

 この場合、二チームが戦っている時にほかのチームが戦闘に割り込んでくることをさし、結果的に利益を得るのが横から割り込んできたチームという構図が想定できる。

 なにせ一チームが三人いるのだ。

 三体三の総力戦に加え、もし装備が整っていればチームの合計の体力は600を超える。

 それすなわち、戦闘を始めれば倒し切るのは容易じゃないことをさす。

 ともなれば時間がかかればかかるほど、ほかのチームの介入も容易になってしまうだろう。


「……!その通り。このゲームの漁夫はかなり強い」


「スカイ、本当にこのゲームやったことないんだよね?」


「ん?あぁ。この間お前らが三人でやってるのを見たのが初めてだが?」


「……そ、スカイ。ちょっと操作してみて、ね?」


「え」


「……ね?」


 葵は椅子から立ち上がり、その小さな体躯で俺の背中を押す。

 それと、葵。スカイって呼び慣れてないからって最初にそら、って言いかけるの俺がひやひやするからやめてね。

 しかもなんでこういう時に限って楓みたいに脅すんじゃなくて、上目遣いでお願いするんですかねぇ。

 そっちのほうが弱いんですけど。


「操作すればいいのか?」


「ん」


「感度は変えても?」


「……いい」


「どうも」


 そういえばあの気怠げな私生活の葵がことゲームになるとここまで精力的になるとは思わなかった。

 今だって姉の二人より先にゲームを起動してはエイム練習をするあたり、確かにゲームに対する熱意を感じる。


「ん?あぁ、玉の種類がいくつかあるのか」


「……そう」


 俺はそれを確認すると使用感を確認しながら銃を撃った。

 確かに葵の言ったように反動は少ない。

 

 動きながら撃ってもほぼぶれない……どころか全然ぶれないな。

 というかADSしなくても玉の集団率は結構高いのか。

 接近戦だとADSしなくてもいいってなると余計当てにくくなりそうだ。

 しゃがみ、ジャンプはあって……PGUPっみたいなほふくはない感じか。

 まぁ一人称視点でほふくされても何も状況わからないし合理的ではある。

 

 ……!? 

 しかもジャンプ撃ちの精度まで高いのか……!

 こりゃあ強いやつはめっちゃ強いゲームだな。自由度が高い。


「すごいな。ってなるとこのゲーム、ほとんど近距離戦闘か?」


「よ、よくわかったね。遠距離戦だと敵を倒しきれないから、結局チームを壊滅させるためには近距離戦になっちゃうんだよね」


「……さすがスカイ。めちゃくちゃ上手い」


「というかやっぱりスカイってすごいんだね。本当にこのゲームやったことないの?ってくらい確信ついてくるしさすがだなって感じ。やっぱりセンスの違いなのかなぁ?」


 センス……か。



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