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ゲーマー、世界に晒される




「あれ?始まってる?」


「誤配信?」


「おーい!」


「タイトルのゲストって誰だろ」


「ミヤち?」


「コラボかなぁ?」


「てかこれ本当に大丈夫か?」


「放送事故キタコレ」


『これで大丈夫かな……』


「あ」


「声入ってるよー」


「これであってるのか?」


『お、大丈夫そう。みんな〜対よろ。今は画面真っ暗だけどもうちょっとしたらゲームやると思うからよろしく!あと、今日はとんでもゲストが来る予定だからその予定でね!』


「はーい」


「お、なんだ?」


「対よろー」


「バーテックスかな?」


「この後はチーム練?」


『チーム練はちょっと後になるかもだけど、やるつもりだからよろ!じゃ、ちょっと待ってて』


「了解!」


「はーい」


「成長が著しいから見てて楽しいんだよなぁ」


「でも久しぶりにバーンナイトも見てみたい気持ち」


「上手くなってて嬉しいよ俺は(後方腕組み父親面)」


「てかこの時間帯も久しぶりだな」


 その放送は暗転した画面から始まっていた。

 Kaedeという名前で配信活動をしている彼女はこの界隈では特に有名な人でもある。

 というのも彼女が最近プレイして、大会にも参加することになっているバーテックス。

 この通称ベックスとも呼ばれている三人一組のバトロワゲーには、いわゆるランクシステムが導入されているのだ。

 一番下がブロンズから始まり、一番最高位のランクはエンペラーと呼ばれ、全世界で上位五百人しかなれないランクでもある。

 

 そして彼女、カエデはそのエンペラーランクに前々回のシーズンの時に到達したとして話題になったのだ。

 それも配信タイトルを「一か月でエンペラーランクを目指す配信」と称して。


 彼女自身、配信活動はおよそ一年前から始めているためこの時期には言うて、生配信をしても五百人や千人の同時視聴者数が関の山で、そこまで人気を博しているわけでもなかったのだ。

 しかし、この配信をきっかけに彼女は大いに注目されるようになり、そのエンペラーランクを目指す最後の配信。いわゆる昇格間近の生放送では、毎回のごとく二万人くらいの人を集め、フォロワー数も現在では30万人に届くという人気のチャンネルになっている。


 この活動は最初は彼女一人だけだったが、ベックスのチームを組んで以来、彼女の姉妹であるミヤビやアオイと一緒にやることも多く、最近ではカエデ一人の活動でもなくなっている。


 そんな彼女が唐突に始めたこの真っ暗な生放送。

 最近に至っては常時三千人を集めるカエデの配信では珍しく、「とんでもゲスト」と書かれたタイトルに惹かれてか、配信が始まったばかりなのにもかかわらずその倍、六千人の人を集めていた。


 そんな中、視聴者の中でなんだろうと、問答を交わしている間、唐突にそれは聞こえ始める。


『で、なんで楓だけなんだ?』


「!?」


「!!!???」


「男…!?」


『さぁ?』


「え、なに?どっきり?」


「え、彼氏?」


「なになになに!?」


「これがとんでもゲスト?」


「てかオンラインじゃないんかい」


「微妙に声が遠い……」



『遊ぶって一体何で?ジェンガでもするか?俺うまいぞ?』


「ジェンガ!?」


「彼氏さん……」


「目の前にいるのはエンペラーの女でっせ旦那」


「チョイスが古い!」


『ジェンガって……。センスが腐ってない?スカイくん』


「いやほんと」


「やるなら俺も混ぜろ!」


「なんでだ!ジェンガいいだろ!」


「ジェンガ擁護派がいて草」


「ジェンガよかトランプ派だなぁ」


「スカイ……?」


 視聴者は微妙に遠い声を聞き取ってはこの蚊帳の外の状況を彼らなりに楽しむ。

 普段から三姉妹のやり取りを傍目から保護者のごとく見ている彼らだからこそ、今のこの状態でも平然としていられているのかもしれない。


「てか彼氏くんいい声してんね」


「なんかもう彼氏くんで定まってるwww」


「てかホント誰やねん」


「まじで彼氏?」


「いや待て、これがとんでもゲストかもしれん」


「やっぱ彼氏がゲストなのか!?(泣)」


「この声……どっかで聞いたことあんな……」


 そんなとき、これまで暗転だった放送に映像が付き、音が乗り始める。


「ん?」


「お」


「キタ」


「バーンナイトだ!!!」


「久しぶりやん」


「一か月ぶりくらい!?」


『おぇ』


「wwwwww」


「なんかえずく音聞こえるwww」


「彼氏くん……w」


 そんな風に彼らなりに楽しんでいるが、次に放たれたカエデの一言によって、一瞬にして彼らは思考停止に陥る。

 陥らざるを得なかったのだ。

 それほどまでに衝撃的な事実をさも当然かのような、普通のトーンで彼女は言ってのけのだから。


『何でえずくのさ……。スカイが世界をとった伝説のゲームなのに』


「……」


「……」


「……」


「……ん?」


「んんんんんんん?」


「スカイが世界をとった……?」


「バーンナイトの世界……?」


「スカイ……ってsky????」


「は?あのskyなの!?まじで!?」


「いや、さすがにねぇ?なんのつながり……?」


「え?え?誰……?」


 カエデの視聴者はそのほとんどがゲーマーだ。

 なにせカエデ自身がゲームばっかり放送するんだから、そこに集まりフォローする人もたいていがゲーム好きになるのも必然で。


 ともなれば、それなりのゲーマーなら一度は聞いたことのある伝説的ゲーマーの名を聞いて驚かないはずもない。

 それほどまでにスカイという名はゲーマーにとって伝説的な存在なのだから。


「スカイはまじでバケモン。数々のタイトルを極めてる伝説のゲーマー」


「わかりやすい成績で言ったら、今映ってるこのバーンナイトっていうゲームの世界大会一位の覇者。つまりこのゲームの世界最強の人ってこと」


「ええぇぇ!なんでそんな人が!?」


「いや、もしかしたら早とちりなのかもしれない……」


「聞き間違いだよな?そうだよな?カエデちゃん!」


『いいでしょ!?私も最近までバーンナイトやってたんだから!スカイのプレイに憧れてたんだから!だから見せてって!』


『うわあぁぁぁ、やめろ!その名を口にするなぁ!絶対やらんぞ!やらんからな!』


「あれ、なんかやりたくなさげ?」


「てかスカイってこんなキャラだったんだ……クールなキャラかと思ってた」


「一位のインタビューの時とかもクールだったしな」


「やっぱり違うの、か?」


 視聴者も半信半疑といった様子でなぜか彼らも身構えるようにしてその画面を穴が開くように見つめる。

 なんでもこれから一戦、スカイがバーンナイトをプレイするというのだ。


 スカイのプレー映像は世界大会でのあのすさまじいプレーのみ。

 このインターネットのどこを探してもスカイのプレーはそれ以外にはないのだ。

 本人が大会でしか姿を現さなかったのと同じように。


「プレイヤーネームは……もちろんskyだよな」


「スキンは、やっぱり初期スキンか」


「キーコンフィグもスカイの設定だ……」


 それからは視聴者はディスプレイに張り付くように彼のプレーを眺めた。

 その中の多くが彼にあこがれているゲーマーの端くれでもあるから。

 一度感じてしまった彼のプレーを恋しいと思うのと同時に、その操作全てに感動さえ覚えてしまうほど。

 彼、スカイの操作する視点を一試合丸々見ることができる、しかも生で。

 そんな機会を逃すわけにもいかないというようだ。


 だからか必然的にコメントの数も減っていた。

 しかし、それと反比例するかのように視聴者はうなぎ上りで上がっていく。

 この数分で。


 もともと女性ゲーマーとして人気を博している絶賛活躍中の配信者なのだ、カエデは。

 だからか、そういう噂が広がるのも速い。


――伝説的ゲーマーskyが配信者kaedeのチャンネルに現れたんだって


 その文言が広まるのにそう時間がかからなかったから。


「す、すげ。スカイかもって疑惑だけで一万人行きそうじゃん」


「噂広がるの速すぎww」


「掲示板にURLがはられてきたんで来ました」


「あぁなるほどね」


「……今んとこは普通、か?」


 そんな土台が着々と出来上がっていく中、とうとう彼は動いていた。


『じゃ、そろそろやるか』


『やるって?』


『敵を、だよ』


「え、」


「えぇぇ……」


「嘘じゃん……」


「これ見たことある、プロのやつやん」


「やっばぁ」


「もしかしてのもしかして?」


「まじもん?これ……w」


「笑いが止まんないんだが」


「まじで歴史的瞬間を見れてんじゃん俺ら」


「やばい、まじやばいって!」


「じゃあなに?スカイはカエデと知り合いってこと?」


「どんな人脈……?」


「まじでとんでもゲストじゃん」


「そんなレベルじゃねぇぇぇ……。世界的にすげぇ映像だぞこれ」


「世界最強のプレー動画ってだけでやべぇのに、これまで一切正体を表してこなかったskyって名前が出るだけで伝説だわ……」


 試合中、彼らはもう誰一人として疑っていなかった。

 このプレイはskyだと、みんなが信じてしまうほどに彼のプレーは圧倒的で洗練されていたから。

 多分、敵が初心者かプロかなんて関係ないほどに圧倒的なのだ。

 なにせ、この試合中、彼が受けたダメージはゼロで。それなのに25キルもとってしまっているのだから。


『はい、終わり!』


「やっべぇぇぇ」


「これが世界最強かよ」


「まじでなんで勝ってるのかがわからんって」


「おかしいって……」


「エイムもそうだけど、何より駆け引きがばかうめぇ」


「いや、状況判断がとびぬけてるだろ」


「敵の位置把握が一番やばいって」


「いや、それ以上にこんなすげーやつがイケメンなのが許せねぇだろ」


「それは同意」


「まじあの顔で世界最強ってのが一番許せないわ」


「百里ある」


「あの伸ばしきった黒髪の下の凛々しい目を見た時のあの殺意は今でも忘れん」


「お前ら顔真っ赤すぎwww俺もだけど……」


 そうしてスカイの初めてのプレイ動画は最後の締めとしてこの断末魔とともに締めくくられて後ほど動画化された。

 スカイが自分の意志でやったわけではなく、カエデによって生放送されていることを知らされずにプレーしたことが発覚したあのシーンで。


『はあぁぁぁあああ?』



「よし、ざまぁねぇや」


「みってる~~?」


「スカイみってるぅぅ??」


「全世界にさらされたスカイくんでしたとさ」


 のちにこのコメントを見たスカイこと空は、無言でディスプレイを殴ったんだとか。

  

 

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