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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第二十二章 甲武国意思決定最高機関始まる

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第98話 殿上会の始まり

 響き渡る(しょう)の音が殿上会の始まりを告げた。


 『御鏡(みかがみ)の間』と呼ばれる殿上会の開かれる間に続くいくつもの広間には集まった貴族達がその音に合わせて首を垂れた。上座に置かれた遼帝国太宗遼薫(りょうくん)がこの国に送ったとされる『御鏡』が御簾越しに首を垂れる貴族達を見つめているように見える光景だった。


その甲武国の象徴である『御鏡』は御簾の裏に有り、四大公以外はその姿を見ることさえ禁じられている。誰もが触れてはならぬ禁秘のような存在だった。


 そんな『御鏡』の置かれた『公の間』に向けて四人の人影が静々と廊下を進んでいった。


 先頭を歩くのは十二単を身にまとった殿上貴族だった。彼女の名は九条響子と言った。年は28歳。静々と歩くその雰囲気はこの年にして左大臣と言う重責を担い、この場にいる最高位の貴族であることを示して見せる貫録をこの場にいる殿上貴族達に知らしめてみせた。


 それに続くのは武者装束の貴人、田安麗子だった。落ち着き払った九条響子とは違って、こちらはどこか間の抜けた表情で響子と同い年でその地位も右大臣であり、士族達を束ねる『征夷大将軍』の職にあると言うには誰が見ても頼りなく見える落ち着きの無さがそこにあった。その少し貫録の無い表情が前を歩く響子と比較されることにこの場にいる麗子を『征夷大将軍』として頂く武家貴族達に情けなさを味合わせていた。


 続く武者装束のかえでと公家装束の嵯峨惟基。こちらはと言えば場慣れしたほど良い緊張感をはらみながらそのまま鏡の間へと向かう廊下を歩いていた。


 殿上貴族達はその様子をかたずをのんで見守りながら四人が鏡の間に入るのを見守っていた。


 空位の最上位の太政大臣の席をはさんで左に響子、右に麗子が座り、その下座にかえでと嵯峨が控える。


「内府殿……」


 響子は嵯峨を呼ぶと静かに空いた太政大臣の席に目をやる。


「左府殿、そこはしばらく空位のままがよろしいかと。要子(ようし)は私は日常よりその行いのすべてを見ておりますが、まだ未熟につき官位を上げるにはまだ早いと存じまする」


 嵯峨は響子の視線の先を見て眉をひそめながら不在の姪の事をそう評した。


「そうですね、要子はまだ未熟と聞きます。ですがいつまでも宰相を任ずる太政大臣が不在ではこの国の体制が成り立ちません。私もこれ以上太政大臣の代わりを務めると言う訳にはいかないでしょう」


 響子の冷たい声に嵯峨は首を横に振った。響子のこの表情を見たら今のかなめなら手にしたスプリングフィールドXDM40を発砲していたところだろう。そう思うと嵯峨の顔に意図せぬ笑みが浮かんでしまった。


「全く、かなめさんと来たら……殿上会は甲武の(いしずえ)ですのに……」


 不服そうにつぶやく麗子だが、その感情的な口調に響子とかえでが責めるような視線を投げかけた。麗子はそれに気づくとすぐに手にした尺で口元を隠した。


「それにしても『内府殿』、嵯峨家を楓子(ふうし)にお譲りになることについては承服いたしますが、嵯峨家の地位を日野家に譲るとはいかがかと……日野家は永く絶家になっていた伯爵家。下々の物に入らぬ混乱を与えぬかと私は心配しております」


 響子は嵯峨に向けてかえでが日野の名字のままで四大公家となることで四大公家末席が嵯峨から日野に代わることを危惧している旨を伝えた。取るに足らないことのように聞こえるこのことも、伝統を重んじる甲武では重要な問題の一つだった。


「それを言うなら嵯峨家自身が三代で当主が死してのちは永く絶家になっていたことを考えれば、その例に習ったとすればよろしいかと。それに嵯峨家も日野家も同じ『藤原朝臣(ふじわらのあそん)』。名字が代わることなど特に取るに足らないことに存じます」


 いつものくだけた口調と違って、嵯峨の静かにして荘厳な口調に頭のおめでたい麗子は思わず吹き出しそうになるが、嵯峨の言葉に納得した響子は静かに頷いた。


「では嵯峨家の家格を日野家に譲る件。承服いたします」


 響子のひとことでかえでは名実ともに四大公家の末席となり、『従二位』と『大納言』の地位を得ることが確定した。



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