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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第二十一章 新たな時代を担う世代

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第93話 柄でもない兄との再会

 ひんやりとした空気が水干を着込んだ嵯峨の体を包む。建物の中庭には枯山水が見える。廊下の角に立っていたSPが嵯峨が室内に入ってきたのを確認すると崩れかけた直立不動の姿勢を正した。


 そのまま嵯峨は一人で金鵜殿の禁殿に向かう廊下を歩き始めた。雑音も無く沈黙した空気の中、こうして禁殿に向かうことは実は嵯峨は一度も経験したことが無かった。


 嵯峨家は本来年に一度のこの金鵄殿での殿上会に参加することが義務付けられている四大公家の当主である。だが、彼は当主になってすぐに軍務で東和共和国に向かい、そのまま地球軍の捕虜となった後は政治取引でアメリカ陸軍に引き渡された。三年後ネバダの砂漠の人体実験場から帰還した嵯峨は殿上会に所在の確認などを届け出ることもせず、三年の雌伏の後、一人娘の嵯峨茜を連れて東和に去ってしまった。


 そんな自分と無縁の晴れ舞台。嵯峨の視線の先にあるのは太刀持ちに副官である渡辺リンを引き連れて静々と歩いているのは彼の姪、日野かえでの凛々しい姿だった。


「さすがにかえでは堂に入ったもんだ。俺には柄じゃあないんだけどね。俺はああは出来ないよ。どこまでも貧乏人。その根性が染みついちまった」 


 誰に言うと言うわけでもなく、嵯峨の口から自然と漏れた言葉。そして嵯峨は自分の瞳から涙がこぼれていることに気がついた。


 一瞬、かえでの視線が嵯峨に注がれた。思わず嵯峨はうろたえ、自然と顔に赤みが差すのを自覚した。それでもすぐにかえでは視線をまっすぐと向けて静々と歩き続けた。


 狂気と暴力が支配したかつての甲武。その政治闘争の見せた武力的側面のテロが嵯峨から妻を奪った。その事実は変えられないことは嵯峨もわかっていた。そしてそんな世界でしか生きられない自分のことも。


 嵯峨はそのまましばらく目頭を抑えたまま、かえでに続いて歩いていた家裁の渡辺リンの後に続いて禁殿へと足を向けた。


 廊下は果てしなく続いた。


 嵯峨もこの建物の内部についてはほとんど知識が無かった。ただ姪を先導する女官についていくだけ。そして自分の目の前で彼から見ても凛々しく見える姪の姿に再び涙が出るのを堪えての歩みは重いものだった。幸い嵯峨の控え室に当たるである『茶臼の間』に至るまで誰一人として殿上会に出る公卿達とすれ違うことは無かった。


 静かに部屋の前に立っていた女官が正座をしてゆるゆると襖を開いた。部屋に入ろうとしたかえでが立ち止まったのを見て、嵯峨はそのまま部屋を覗き込んだ。


 五十畳はあろうと言う嵯峨家のためだけにあるはずの『茶臼の間』には先客がいた。


「遅いな、新三郎」 


 そう言って扇子で嵯峨を指していたのは宰相としての礼装を見に纏った兄、西園寺義基だった。


「ご無沙汰しております。父上」 


 そう言うとそのまま部屋の中央で座っている父の前へとかえでは歩み出た。嵯峨もその後をついて部屋に入って中の様子をうかがった。


 壁には金箔を豪勢に使った洛中図が描かれ、黒い柱は鈍い漆の輝きを放っている。正直、嵯峨はこのような場所にこれまで足を踏み入れなかった自分の決断が正しかったと思い、皮肉めいた笑みを浮かべながら西園寺義基の正面に座った。



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