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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十九章 想定外の未知の敵

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第86話 趣味の悪い『デモンストレーション』

「あの海の法術師、北川公平容疑者程度ならよかったんですけれど……神前曹長。これを見ていただける?」 


 そう言って茜は彼女の立っている足元を指差した。防水加工をされたコンクリートの天井の灰色の塗料が黒く染まっている部分が目に入ってくる。


「焦げてるな。炎熱系か?だが確かにあの感覚は空間制御系の力だったぜ。自爆テロならとっくにこのビルは吹き飛んでる。でもアタシ等は無事だ……どういうことだ?」 


 そう言いながらランは腕組みをして考え込んだ。以前司法局の研究者から炎熱系の法術は他の力との相性が悪いと言うことを聞かされていた。それを同時展開するには相当の精神力と法術発動経験が必要とされると誠は聞いていた。


「別系統の法術まで使いこなすとなるとかなり厄介ですわね。それに明らかに今回はまるで自分の存在を示すためだけにここに現れたみたいですし……一体何がしたかったのかしら『彼』は」 


 そう言いながら茜は首をひねっていた。確かに最初に誠が法術反応を感じた時からこの別系統の法術を同時並行で展開できる法術師の行動は理解できなかった。あれだけの力を持っているなら、この中で一番強いランに狙いを定めて不意打ちで倒すこともできるかもしれない。誠には今回の法術師の強さがそれほどの物だと思っていた。


「相手がアタシ等と知っててのデモンストレーションか。趣味のわりー奴だな。こんな法術師は初めてだ。最初から勝つ気満々だったんだ。でも勝てるのが分かりすぎていてただ力だけを示して消えた……そう考えると意味が分からねーよ。なんで奴は仕掛けなかった?勝てるのが分かってるからか?それとも勝つ必要が無かったからか?」 


 そう言いながらランはポーチから携帯端末を取り出し、現状の写真の撮影を開始した。


「でも話は変わりますけど本当は神前君とクラウゼ少佐は休暇だったんでしょ?これで皆さんの気遣いが無駄になってしまいましたわね。でも少々お付き合い願いますわね」 


 東和警察と同じ紺色の制服に黒い鞘のサーベルを差した姿の茜が襟元で切りそろえられた髪をなびかせながら下の騒ぎを眺めていた。誠はちらりとランの視線を浴びると頭を掻いた。すでにここを所轄する豊川署の警察官が到着して進入禁止のテープを引いていた。


「でも仕事が優先ですから」 


 誠の言葉に一瞬笑みを浮かべた茜は、端末を取り出して所轄の警察署に現状の報告を始めた。


「おい、この状況。オメーはどう思うんだ?」 


 屋上の焦げた塗装の写真を一通り撮り終えたランが誠を見上げる。その姿は何度見ても小学校に入るか入らないかと言う幼女のそれだった。


「狙いはやはり僕だったと思います。それも攻撃をする意図も無く、ただこちらに存在を知らしめることが目的のような気が……。そのために必要も無い炎熱系の法術を使用して自分の持つ力を誇示してみせた……」 


 そこまで誠が言ったところで呆れたような顔でランは首を振る。


「ちげーよ。オメーの言った事は士官候補生の答えじゃねーよ、それは。アタシが言いてーのはそこに立ってアタシ等に存在を誇示して見せた容疑者がどういう奴かってことだよ」 


 そう言うとランの視線が誠を射抜いた。誠はその目が別に誠を威圧しているわけではなく、ランの目つきがそう言うものなのだとようやくわかってきた。


「遼州同盟に反対するテロリストにしては何もしないで帰るというのが不思議ですし、国家規模の特殊部隊ならこのようなデモンストレーションは無意味でしか無い」 


 首をひねる誠にランは明らかにいらだっていた。


「それは分かってんだ……しかし狙いのオメーの隣にアタシが居たのはたぶん敵さんの計算には入って無かったみてーだな。炎熱系を展開して痕跡を残せば自分が別系統の法術を使える使い手だってことがバレちまう。そんな存在がアタシ等に興味を持っていることがバレることは奴も相当焦っていたんだろう……アタシと神前、それに茜の三人がかりで来られると不味い程度には弱い敵らしい。相手の強さを見定めろ。戦いはそこから始まる。これが戦場の原則だ。よく覚えとけ」


 ランは敵の行動と心理をそう分析して見せた。そして、百戦錬磨の彼女らしく戦場の厳しい現実を誠の頭に叩き込んだ。



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