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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十八章 オタク女艦長の意外な顔

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第81話 宇宙の向こうで決まること

「そう言えば明日か?殿上会は」 


 かなめの言葉で全員が現実に引き戻された。


 遼州星系の最大の軍事力を誇る甲武国の最高意思決定機関である『殿上会』。庶民院と貴族院を通過した法案のうちの重要案件の許諾を行うその機関の動きは、誠達司法局実働部隊の隊員にとっては大きな意味を持つことだった。


 今回の『殿上会』の議題にも遼州同盟機構への協力の強化、特に西モスレムに用意される軍事組織への協力の是非がかけられることになっていた。


「しつこいようだけどあんたはいいの?出なくて。一応、四大公家の当主じゃないの。官位は『検非違使別当』かもしれないけど、四大公家筆頭西園寺家当主としては出る権利があることくらい私も調べて知ってるわよ」 


 そう言って情報通のアメリアは流し目を送る。妙に色気のある瞳にかなめはうろたえながら言葉を継いだ。


「何度も言わせるなよ馬鹿。あそこは四大公、平公爵、一代公爵、侯爵家までの出席だけが認められるからな。確かにアタシは名目上は西園寺公爵家当主だが、親父が中途半端に太政大臣の位をほっぽり出して殿上会で正式な家督相続を受けていないアタシはお呼びじゃないんだ。それに水干直垂とか十二単なんか着込むんだぜ。柄じゃねえよ。まあ正式な家督相続を受けていないことを出ない理由にしていることは事実だけどな」 


 そう言い切るかなめだが、アメリアはさらに相好を崩してかなめを見つめる。


「そう言えば今回は嵯峨隊長の隠居が議題になってるわね。かえでさんが嵯峨家の養子になって家督を継ぐことになるんだけど……」 


 かなめは『日野かえで』の名前が出たところでびくりと体を動かした。


「頼むわ。奴の名前を出すな。せっかくのコーヒーが不味くなる」 


 そう言ってかなめはうつむく。マスターは不思議そうな顔をしているが、全員はかなめの気持ちがわからないわけではなかった。


 時々まったく空気を読まないかなめ宛の大荷物を司法局に送りつけてくるかなめに心奪われた妹の存在は実働部隊では知られたものだった。生まれついてのサディスト西園寺かなめに尽くすことに喜びを感じていると言うアメリアの発言でその人物像が極めて怪しい人物であると誠は思っていた。


 さらに『マリア・テレジア』計画とやらで人妻24人を寝取って自分のクローンを孕ませた色仕掛けの天才ともなると、かなめとしても扱いが難しいのだろう。


 とりあえずかえでの名前を聞いてからこめかみをひくつかせているかなめに遠慮して全員が言葉を飲み込んだことは正解だった。


 そんな中、一人この状況を知らない人物がいた。


「おい、西園寺。かえでは今月中には司法局に配属になるんだぞ。近々オメー等とも正式な顔合わせをすることになる」 


 ぼそりとランがつぶやいた。誠は周りを見回すと彼と同じく係わり合いになることを避けたいと言う表情のカウラの姿がそこにあった。


 思わずかなめは立ち上がっていた。


「落ち着けよ、西園寺」 


 カウラの一言でそのままかなめは椅子に座った。誠はランの耳に口を寄せる。


『頼みますよ中佐。こんなところで西園寺さんが暴れたら大変でしょ?』 


 誠がそう言うとかなめの表情を見てすぐに合点が行ったというようにランは静かにコーヒーをすする。


「別に気にするなよ。アレは頭のネジが色恋方面にぶっ飛んでるだけだから。仕事の方はちゃんとできる……法術の方も神前よりは頼りになる……安心しろ」 


 言葉とは裏腹にかなめの低い声に殺意がこもっている。誠は思わず乾いた笑いを浮かべた。


「まあいいじゃないですか!コーヒーおいしいなあ!アメリアさん本当にありがとうございます!」 


 うつろな誠の世辞が店内に響いた。空気を察してかなめのテーブルに同席しているカウラは意味も無くカチカチとテーブルを突いた。



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