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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘  作者: 橋本 直
第十七章 鬼女ゲーマー現る

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第73話 二十世紀末を再現した国の『ゲーセン』

 マルヨを出たとたん、急にアメリアが誠を振り向いた。甘えるような先ほどまでとは違う趣味人としての表情がそこにあった。


「そう言えば……『アニクラ』は今日はなんか新作のフィギュアの限定版の発売日があったような……やっぱりやめましょう!今日はデートの日。一緒に楽しめないと意味ないわ」 

 

 アメリアが隣のアニメショップ『アニクラ』が入ったビルを凝視した後、そのままそのビルを通り過ぎて駅への一本道を誠を引っ張って歩く。だが明らかに未練があるようにちらちらとその看板を眺めるアメリアに誠は微笑を浮かべていた。道を行くOLは見てすぐわかるほどの美女のアメリアに好意的とは言いがたいような視線を送っている。誠にも仕事に疲れた新人サラリーマンと思しき人々からの痛々しい視線が突き刺さってくる。


「そっちじゃないわよ!誠ちゃん!こっちだって、こっち!」 


 そう言って駅に向かって直進しようとする誠を引っ張り大きなゲーセンのあるビルへとアメリアは誠を誘導した。パチンコ屋の前には路上に置かれた灰皿を囲んで談笑する原色のジャケットを着た若者がたむろしているのが見えた。その敵意を含んだ視線を誠は全身に浴びた。


 哀願するようにアメリアを見る誠だったが、そんな彼の心を知っていてあえて無視すると言うようにアメリアは胸を誠に押し付けてきた。


「ここね。来るのは久しぶりかしら」 


 そう言うとアメリアはそのままゲームセンターの自動ドアの前へと誠を引きずってきた。


 木曜日の午後まだ早い時間とあって、騒々しい機械音が響き渡るゲームセンターの中はほとんど人がいない状況だった。


 考えてみれば当然の話だった。もうすぐ期末試験の声が聞こえる高校生達の姿も無く、暇つぶしの営業マンが立ち寄るには時間が遅い。見受けられるのはどう見ても誠達より年上の男達が二次元格闘ゲームを占拠して対戦を続けている様子だけだった。


「誠ちゃん、あれはなあに?」 


 そう言ってアメリアが指差すのは東和陸軍のシミュレータをスケールダウンした大型筐体の戦闘機アクションシミュレータだった。アメリアがそれが何かを知らないわけは無いと思いながら誠はアメリアを見つめた。明らかにいつものいたずらを考えているときの顔である。


「あれやるんですか?いつも隊でもっと本格的なのを使ってるじゃないですか。劣化版で訓練……いや、これはデートでしたね、失礼しました」 


 誠の顔が少し引きつる。大型筐体のゲームは高い。しかもかつて誠もこれを一度プレーしたが、いつも部隊で05式のシミュレータを使用している誠には明らかに違和感のある設定がなされていた。そして誠にとってこれが気に食わないのは、このゲームを以前やったとき、彼がCPU相手にほぼ瞬殺されたと言う事実が頭をよぎったからだった。


「お金なら大丈夫よ。こう見えても佐官だからお給料は誠ちゃんの倍はもらってるんだから!」 


 そう言ってアメリアは誠をシミュレータの前に連れて行く。そのまま何もせずに乗り込もうとするアメリアを引き止めて誠はゲームの説明が書かれたプレートを指して見せた。


「一応、この説明が書きを読んで……」 


 前回は実物のシミュレータで慣れた自分なら簡単にクリアーできると言うような慢心が有ったので、今度はちゃんと説明書を読んできちんとしたプレイをしてアメリアに恥をかかせないようにしたいと言う誠の思いがあった。


「必要ないわよ。一応私も予備のパイロットなのよ!それに実はやったことあるのよ、これ。結構、コツがあるから実物のシミュレータで慣れてる誠ちゃんでも結構苦労するかもよ」 

 

 そう言ってアメリアは乗り込んだ。彼女は隣のマシンを誠に使えと指を指す。しかたなく誠も付き合うように乗り込んだ。すでにプリペイドカードでアメリアが入金を済ませたらしく設定画面が目の前にあった。


「最新式にバージョンアップしてるわね……って05式もあるじゃないの」 


 インターフォン越しにアメリアの声が響く。アメリアはそのまま05式を選択。誠もこれに習うことにする。誠ははじめて知ったが、このマシンは他の系列店のマシンと接続しているようで次々とエントリー者の情報が画面に流れていった。


「はあ、こんな時間にエントリーしているなんて世の中には暇な人もいるのね。まあ私達も言えた義理じゃ無いけど」 


 そう言いながらアメリアはパルス動力システムのチェックを行う。誠はこの時点でアメリアがこのゲームを相当やりこんでいることがわかってきた。05式の実機を操縦した経験を持つ誠だが、ゲームの設定と実際の性能にかなりの差があることはすぐに分かった。それ以上に実機と違うコンソールや操作レバーにいまひとつしっくりとしないと感じていた。


『今度は瞬殺だけは何とか回避したいな』


 そう願う誠に自信と言うものはまるで無かった。



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